第五章<水底の夢>第三場(2)
キャテルニーカとティーオの婚約が発表されたのは、里菜たちの帰還の翌々日の夕方、ユーリオンがイルベッザ城内で開いてくれた内輪の夕食会の席でのことだった。
里菜とアルファードは、結局、イルベッザへ帰還して以来、もう宿舎に帰ることを許されず、城内にそれぞれあてがわれた部屋に泊まるように言い渡されてしまった。そうすると友人たちと自由に会う事もできないと苦情を言うと、ユーリオンが、内輪のものを招いての夕食会を整えてくれたのだ。ずっと国賓扱いで、いやおうなしにほとんどの時間を公人として振る舞う他なかった里菜たちにとって、この夜は、親しいものと内輪で語り合える貴重なひとときだった。
普段、小宴会や食事付きの会議に使われる城内の小さな広間には、里菜とアルファードの他に、ユーリオンとローイとキャテルニーカ、それにティーオとフェルドリーンが集まって、なごやかに語りあった。
その時に、里菜とも顔見知りの女性治療師の結婚が決まったというリューリの報告をきっかけに女性陣一同が花嫁衣裳の話題で盛り上がっていたところ、小さなニーカもいっぱしに自分がどんなデザインの花嫁衣裳を着たいかを一生懸命主張しはじめた。
その微笑ましさ、愛らしさに、ユーリオンが、にこにこと目尻を下げて、
「しかし、君のような絶世の美少女をお嫁さんにするのは、どんな男だろうね。君の夫になる人は、きっと、国中の男たちから羨ましがられて、さぞ大変だろうね。夜道を歩く時には、背中に気を付けないといけなかったりするかもしれないぞ。まあ、そんなことはずっと先のことだろうが……」などとお愛想を言ったところ、キャテルニーカはいきなり、きっぱりと、こう宣言したのだ。
「そんなに先じゃないわ。あと、二、三年よ。あたし、初級学校を出たら、すぐ結婚するの」
ぶっ、と、ユーリオンがお茶にむせた。みんなも、ぽかんとキャテルニーカを見た。
気を取り直したユーリオンは、ハンカチで口元をぬぐいながら、取り繕うような猫なで声を出した。
「あ、ああ……、そう。そうだね、早くきれいな花嫁さんになりたいんだよね。し、しかしね、キャテルニーカ君、相手がいないと結婚式はできないんだよねえ。まあ、君ほどの美人なら、あと何年かすれば、お相手候補は、さぞかし殺到するだろうけどね……」と言いながら、ユーリオンは、はっと、それまでほとんど話さずに端っこの席でおとなしくしていたティーオに目を止めて、どういうわけか咎めるように叫んだ。
「ティーオ君。なんで君が赤くなってるんだね!」
全員の視線がいっせいに集まって、ティーオはますます真っ赤になった。
「ははあ……、そういうことか」と、ユーリオン。
「まあ、あんたたち、何よ、あたしに一言の相談もなしに! 前からあやしいとは思ってたんだけど、それにしても……」と、リューリ。
みんなが――アルファードでさえ――納得顔でふたりを見比べるのに、里菜は話の展開についていけず、
「えっ、なに、なに? そういうことって、どういうこと?」と、助けを求めてきょろきょろとみんなを見回して、リューリに呆れられた。
「リーナ。あんたって、前から、こういうことに関しちゃ、ちょっと鈍いんじゃないかと思ってたけど、もしかして、ちょっとどころか、途方もなく鈍いんじゃない? このふたり、ちびすけのくせに、いつのまにかデキてんのよ!」
「えっ……! ええーっ!? 嘘っ!」
「……あなた、驚くのが人よりワンテンポ遅いわよ」
そこへ、キャテルニーカが誇らしげに発表したのだ。
「あのね、あたしとティーオは、婚約したの! ねっ、ティーオ」
「う、うん、実は……」と、ティーオが小さくなって、消え入りそうな声で答えた。
「まだ、ふたりだけで約束したことなんだけど、ぼくの両親にも、近いうちに手紙を書いて、認めてもらうつもりで……。彼女なら絶対反対される筈ないし……」
そこでティーオは、ちょっと言葉を切って顔を上げ、小さいながらもきっぱりした声で付け加えた。
「それに、もし反対されても、ぼくは彼女をあきらめません」
「嘘ォ……。いつのまに……」
里菜がショックで呆然としている間に、ユーリオンが最初に驚きから立ち直った。
「……いや、いや、驚いた。それは素晴らしい。いや、おめでとう。ティーオ君、君は一見おとなしいが、どんな障害にも負けずに自分を貫ける強い意志の持ち主だというのを、私は知っているよ。いやぁ、結婚式が楽しみだ。本当に絵のように愛らしく初々しい新郎新婦が見られるだろうね。もちろん、結婚式には、私も呼んでくれるね? 結婚祝いは、何がいい?」
浮かれてはしゃいでいるユーリオンの隣で、リューリが笑った。
「リオン様、いくらなんでも気が早いわよ!」
里菜はもう、みんなのそんな大騒ぎなどほとんど耳に入らずに、なんだかとりのこされたような心境で、ひとりでぼうっとしていた。
(嘘よ、嘘……。信じらんない。だって、まだ、子供じゃない!)
考えてみれば、たしかに、キャテルニーカだって、小柄なのと普段の言動が幼いのとでまるっきり小さな子供のように錯覚しがちだったが、実際には、もう十二才。そろそろ恋の一つくらいしても当然かもしれない。そういえば、里菜がその位の年だった頃を思い出してみれば、オクテだった里菜自身はともかく、級友たちは、寄るとさわると好きな男の子の噂話や恋のおまじないの話にうつつを抜かしていたものだ。
(でも、だからって……。だからって、いきなり婚約とか結婚とか、そんなこと考えるのは早過ぎるんじゃない? あたしなんか、ついこのあいだまで、そんなの全然自分とは違う世界のお話だと思ってて……っていうか、そんなこと、まだ考えつきもしなかったのに。そりゃあ、あたしが他の人よりオクテなのはわかってたけど、でも、まさか、ニーカに先を越されるなんて……。だって、ついこのあいだ、あたしの膝の上で子守唄をせがんでいたのは誰? ほんっとに、ついこのあいだよ! はぁ~、子供ってすぐに大きくなっちゃうのね……)
そんなわけで、今も、里菜は、跳ね橋の前で手を取り合ってしばしの別れを惜しむふたりを眺めながら、何だか取り残されたようなさびしさを味わっていた。
「しっかし、あのティーオの坊やも、あんなおとなしそうな様子をして、なかなかやるよなあ。なんたってニーカちゃんは、今だってかわいいけど、あと数年すれば、間違いなく国一番の美女だぜ。それを、まだ引きあいの少ない今のうちに確保しておくとは、ちくしょう、うまいことやりやがって……」と、ローイが横でぶつぶつ言っている。
アルファードが笑って口を挟んだ。
「ローイ。彼らのことはともかく、お前のほうの首尾はどうなんだ。ちゃんと、ヴィーレに土産を買ったか?」
「お、おう! 買ったよ」
「なあに、なに買ったの?」と、里菜はローイの背負い袋にぶらさがるようにして、中を覗きこもうとした。
「よせよ、リーナちゃん、重いだろうが。あのさ、リボンとさ、砂糖菓子とさ……」
「えーっ、ローイってば、そんなものだけ?」
「いや、その……。あと、指輪も買ったよ」
「やったあ、ローイ、どんなの? 見せて、見せて!」
「あとでな。休憩の時に見せるよ。ほら、もう出発だ」
イルベッザの秋の早朝、馬に乗った一行は、見送りの人々に手を振って、跳ね橋を渡った。来るときは徒歩だったが、帰りは馬だ。ゆっくり行っても、秋分までには、なつかしいイルゼールに帰りつけるだろう。ローイは、そこで、ヴィーレにプロポーズする決心を固めているのだ。
ふたりがローイからその決心を聞かされたのは、あの夕食会の後だった。
皆が退出した後、ローイだけが、もうしばらく話がしたいと残って、アルファードと里菜と三人で食後のお茶を飲むことになった。みんな、今日集まった中でもローイだけが里菜たちと特別関わりが深い最初からの仲間なのを知っているし、何か訳ありなのだろうとも察していたから、「じゃあ私も、もうしばらく」などと言い出すものはなく、気を利かせて、彼らを三人きりにしてくれたのだ。
しばらく、それまでの続きの冗談を言っていたローイは、そのうちにふいに黙り込んで、ぽつりと呟いた。
「あのさあ……。あんたら、やっぱり、くっついちまったんだよな……?」
「く、くっつくって……。まあ……、そういうことかなあ……」と、里菜はあいまいに答えながら、アルファードの顔をちらりと伺った。今だに、もしかするとそう思っているのは自分だけかも知れないという気がして、ちょっと怖かったのだ。
何しろ、彼らがふたりきりで互いの気持ちを確かめあうことができたのは荒野でのあの短いひとときだけで、それからはずっとあわただしくて、ふたりでゆっくり語り合う機会などなかったし、しかもふたりは、自分たちがこの先、恋人同士として時を重ねて行くことなど出来ないのを、初めて想いを通わせあったその時から、あらかじめ知っているのである。
それでも里菜は、あの時の、たった一度のくちづけと、そして何より、あの時、確かに通いあった心のゆえに、たとえ将来の約束は許されなくても、これからふたりの想い出を積み重ねてゆくことは出来なくても、今、自分とアルファードは恋人同士なのだと信じている。でも、アルファードのほうは、どう考えているだろうか……。
里菜の不安気な視線に気付いたアルファードは、照れくさそうに、でも、きっぱりと答えてくれた。
「ああ。まあ、そういうことだ」
「そうか、やっぱりなあ…… 」と、ローイは呟いた。
「うん、見れば分かるよ。よかったな。……うん、今なら、よかったなって、言えるな。あんたらが以前のあんたらのままだったら、俺、リーナちゃんに、そんなやつ止めとけよって言うところだったけどな。いや、やきもちからだけじゃなくて、本当に、アルファードとくっついてもリーナちゃんは幸せにゃなれないだろうと思ってたからさ。でも、今は違う。……あんたらさあ、なんか変わったよな。二人とも」
そう言って、ローイはしばらく考え込むようにして、また、口を開いた。
「あのさあ……。俺、あんたらと一緒に村に帰って、ヴィーレに結婚を申し込もうと思うんだ……。いや、さ、何も、あんたらがくっついちまったからリーナちゃんを諦めて二番手のヴィーレで手を打とうとか、そういうんじゃないんだぜ。俺だって、あんたらがいない間に、いろいろ考えたんだ。……リーナ、俺、あんたには、俺のところにあんたの偽物が来たってこと、話しただろ? どういうことがあったのか、あの時、詳しくは話さなかったが、実は、あんたの偽物は、俺に、自分と一緒になろうって言ったんだよ。俺、その時、本当のことに気がついたんだ。俺のあんたへの気持ちは決して遊び半分のいいかげんなものじゃあなかったんだが、かといって、本気であんたと所帯を持ちたいとか、そういうのとは違うんだって。うまくいえないけど、リーナ、あんたは、俺にとって、空の虹みたいなものだ。とってもきれいだけど、自分のところに取ってこようなんて思えるはずのないものだったんだ。でも、ヴィーレは、さ……。ヴィーレは、足元に咲く花だ。踏まれないように守ってやらなきゃならない、小さな花だ。ヴィーレは、俺が幸せにしてやらなくちゃならないんだ。俺が守ってやらなくちゃならないんだよ。そして、そう出来て初めて、俺も幸せになれるんだと思う。俺さあ、前に、あんたに言ったことあるだろ? だれでもこの世にいるからには、何か、その人にしかできないことがあるはずだって。俺にとって、それは、ヴィーレを幸せにすることなんだ。そう、俺は、ヴィーレを幸せにするために、この世にいるんだよ!」
里菜は、恋人とふたりきりの時ならともかく、第三者の前で、よくもぬけぬけとそんな恥ずかしいセリフを口に出せるものだとあっけにとられて、
「……ローイ。あなたって……」と、言いかけ、『詩人ね』という続きの言葉を飲み込んだ。そういえばローイは本当に詩人なのだから、今さらひやかしてもしかたがない。
「ねえ、ローイ。それ……、あたしたちにじゃなくて、ヴィーレの前で、ちゃんとそう言ってあげれば? 女の子なら誰だって感激するわよ」と里菜が言うと、
「そ、それがさあ……。言えればいいけど、やっぱ、俺、たぶん、いざその時になるとさあ……」と、ローイは珍しく気弱な顔をし、アルファードが笑って思い出させた。
「ローイ、女の子にうまいことを言うのはお前の特技じゃなかったのか? どんな甘ったるいセリフでも絶対照れずに言えるって、俺によく自慢してたじゃないか」
「いや、そうだけどさ、そりゃあ、まあ、普段なら、口説き文句なんていくらでも、湯水のように沸いて出るんだけどさ……。でも、リーナちゃん、俺、あんたにプロポーズした時も、何にもうまいことなんか言えなかっただろ? すっげえ陳腐なセリフしかさ……」
「なんだ、ローイ、お前、やっぱりリーナにプロポーズしたんだったのか?」
「えっ、アルファード、あんた、知らなかったのか?」
「ああ、まあそんなところだろうとは思っていたが、ふたりとも俺にそのことを言わなかったからな」
「あのう、アルファード、あたし別に隠してたわけじゃないのよ……」と、里菜はあわてて言い訳したが、アルファードは笑っていた。
ローイはばつが悪そうに頭を掻いた。
「ちぇっ、何だ、俺、てっきりリーナちゃんがあんたに話したとばっかり思ってたよ。知らなかったんなら、黙ってりゃよかった……。ふたりとも、あのことは、なかったことにしてくれな。俺、あれはあれで本気だったんだけど、とにかく、これからあんたらの邪魔なんかする気はねえからさ。俺、これからはもう、ヴィーレ一筋だぜ! ……でも、俺、こっそり村を出てきちまって、ヴィーレ、怒ってないかなあ……。もう、別のやつと婚約なり結婚なりしちまってたら、どうしよう……。そしたら、俺、俺……。うわァ……」
「ローイ、そんな、今から弱気にならないで。大丈夫よ、ヴィーレは、きっと待ってるわ。もしかするとヴィーレはアルファードを待ってるつもりでいるかもしれないけど、もしヴィーレが自分で気がついていなくても、本当はアルファードをじゃなく、あなたを待ってるのよ。そういうこと、一番分からないのは本人なんだから。ねっ」
「そ、そうかなあ……。まあ、ヴィーレだって、あんたらがデキちまったのを知ったら、アルファードのことはあきらめるだろうしなあ……。あんたら、もちろん、村に帰ったら一緒になるんだろ? うまくいけば、婚礼があいついで二組だ。そうなったらすげえ目出度いよな!」
ローイの言葉に、里菜とアルファードは顔を見合わせ、里菜はそっと言った。
「あのね、ローイ……。あたしたちふたりとも、お祭りの後で、元いた世界に帰るの。みんなにも、後で話すつもりなんだけど……」
「えっ! 帰るって……。帰れるのか? 帰り方、分かったのか? 元いた世界って、ふたりとも同じところから来たのか? じゃあ、そっちに戻ってから、あんたら、そこで一緒になれるのか?」
「……ううん、同じ世界なんだけど、たぶん、あたしたち、別々になって、お互いのこと、忘れちゃうと思う。きっと、もう、会えないわ……」
里菜がうつむくと、ローイは強い調子でこう言った。
「いや、大丈夫だ! あんたらがそれぞれ違う世界に行っちまうってんならともかく、同じ世界にいれば、あんたらは絶対、また、巡り合えるさ。そして、巡り合えさえすれば、たとえその時、すべてを忘れていても、必ずもう一度、最初から愛し合えるのさ!」
「……ローイ。あなたって、やっぱり、詩人ね」
「あ、ああ、そうだよ。今さら何だよ。それは前から知ってたろ」
「うん……。ローイ、ありがとう」
湿っぽくなりかけた空気を変えるように、アルファードがローイに言った。
「ところで、ローイ。俺たちが報奨金を貰ったことは聞いてただろう?」
「ああ。しっかし、ひでェ話だよな。あんたら、よく、あの額で納得したよな。あのいけ好かないスカシた<長老>のおやじ、あんたらに欲がないのをいいことに……」
「いや、俺たちは本当にいいんだ。別の世界にファーリ金貨を持っていくわけにはいかないんだから」
「ああ、そうか、それもそうだな」
「それでだな、この報奨金と、俺たちがこれまで魔物退治で稼いだ金は、村に寄付するつもりなんだが、一部はお前とヴィーレの結婚祝いにやろうと思っているんだ。お前たちが一緒になるなら、あの家は増築したほうがよさそうだからな」
「そりゃあ、ありがとうよ。でもヴィーレが俺と一緒になってくれるかは、まだ、分からないぜ」
ちょっといじけたローイに、アルファードは当然のようにうけあってみせた。
「いや、お前たちは、結婚するんだ。これは、俺の――本物の魔法使いの予言だ」
その、自信に満ちた断定口調に、拗ね気味だったローイの表情が変わった。
「……アルファード、それ、本当か?」
「ああ。だから、結婚祝いの金の一部を、今、先に渡しとくから、これでヴィーレに土産を買っていってやれ」
ローイはたちまち勢いを取り戻して、現金そのものに叫んだ。
「そ、そうか? そりゃあ、ありがたいや! 実は俺さ、歌で稼いだ金、ほとんど使っちまって、残ってなかったんだ。助かるぜ!」
「お前のことだから、どうせそんなことだろうと思ってたんだ」
アルファードは当然のように答えたが、里菜はびっくりして問い質した。
「ローイ、結構稼いでたんじゃないの? 前にお店で歌ってるのを見た時、一曲歌っただけで、あんなにチップ貰ってたじゃない! あれ全部、何に使っちゃったの? 別にそんな、いい部屋に住んでもいなかったし、服も、派手だけどそんなに上等じゃなさそうだし……」
「いや、その、まあ、いろいろとさ……。えっと……、ばくちをしたりとか、女の子にメシを奢ったりとか……」と、ローイはばつが悪そうに笑い、里菜は、
「これじゃ、ヴィーレは苦労するわね!」と、呆れたのだった。
一行は、市門を出て、古いエレオドラ街道に立ち込める秋の朝霧の中に馬を進めた。
古い森は静まり返り、馬のたてがみを霧が濡らしている。
里菜はアルファードのほうに馬を寄せて小声で囁いた。
「ね、アルファード。そういえばあなた、ローイに予言がどうとか言ってたけど、予言の力なんて手に入れたの?」
「ああ、実は、予言というのはハッタリだ」と、アルファードは笑って答えた。「でも、彼らは絶対、結婚する。何を賭けてもいい」
「だめよ、アルファード。賭けにならないわ。あたしもあのふたり、絶対結婚すると思うもん」
ふたりはそっと笑いあった。
霧の向こうに朝日が昇ったらしく、行く手の森を浸す霧が、白くぼんやりと輝やきだした。