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やさしいところ  作者: 英金瓶
9/11

おばあちゃんのおともだち

~これまでのあらすじとこれから~


 ある夜、千成かずなりのもとに姉の冬美からLINEが入った。

それは、大好きなおばあちゃんの逝去を報せるLINEだった。


千成は次の日おばあちゃんちへと向かい、そこで懐かしい思い出とともに今までの自分の愚行を悔いた。


そして十数年ぶりに再会した従姉の亜妃に「わたしにも後悔していることはあるよ。」と告白され、千成はその後悔『おもうところ』を聞いて思ったのだ。


自分もあきねーのように『おもうところ』を抱えながらも笑いたい。

また、あきねーたちと一緒に笑いたいと・・・・・・。


そうして千成は翌日、おばあちゃんとの最後の別れを迎える。


そしてそこでは、千成の知らないおばあちゃんも存在していたことに改めて気付かされるのだった。




『カクヨム』様にて投稿させて頂いております短編小説“やさしいところ”の長編編集作第9話となります。

お読みいただけましたら幸いです。


英金瓶





 ご住職の荘厳しょうごんなる読経どきょうが奏でられる中、僕はずっとおばあちゃんを見ていた。


この厳粛な空気には似つかわしくないファンキーなおばあちゃんの遺影。


おそらく婦人会かなにかで行った旅行先での一枚なのだろうけど、遺影のおばあちゃんはアロハシャツに観音様が着けているような金ピカの髪飾りを頭に被って、とびきりの笑顔で写し出されていた。


「またずいぶんと派手な一枚を遺影にしたねー。」


僕がそう小声で呟き薄ら笑いを浮かべていると、後ろの席でnew千成君を膝に抱えた姉ちゃんが「でしょー。」と不満を露わに呟いた。


「父さん、なんの相談もなしに選んじゃってさー。仕上がってきたらあれだもん・・・・・・ったく。」


誰に言うでなく、ひそひそとぼやく姉ちゃん。


僕は、隣りに座るあきねーの様子で触れてはいけない話題に触れてしまったと気付き、静かに笑ってその場を誤魔化そうとした。


「はははははは・・・・・・父さんなんだ、選んだの。なら仕方ないねー・・・・・・。」


なにが?と思う下手な誤魔化し方で、実際そうは誤魔化されなかった姉ちゃん。


姉ちゃんは「当たり前でしょ!あたし達が選んでたら、もっとちゃんとしたの選ぶわよ!」と、さらに怒りに拍車をかけて静かに不満をこぼしはじめた。


「はははははは・・・・・・。」


僕は、まずい話題を切り出してしまったと苦笑いを浮かべ

「ま、でもあれだね。おばあちゃんもあんなお茶目な格好して、あんな笑顔で笑うんだね。」と、下手に話題をはぐらかそうとした。

が、やはり、一度機嫌を損ねた姉ちゃんにはそんな小手先通用するはずもなく

「そんなお茶目な格好の自分がさ、遺影として残されちゃうんだよ。おばあちゃんはさー・・・・・・永遠に。」と、辛辣なご意見を切り返してきた。


「ははは・・・・・・ん~・・・・・・。」


姉ちゃんの荒ぶる感情に押し負かされて、場の空気は一気にネガティブな負のサークルへ・・・・・・。


僕はもう、自分ではどうにもできないと諦めると、沈黙のまま静かに姿勢を整え再びファンキーなおばあちゃんの遺影に向き直り、憤る姉ちゃんを放置することに決めた。


するとそんな憤慨と後悔が混在する淀んだ雰囲気に、隣りに座るあきねーが救いの手を差し伸べてくれた。


成穂しげお叔父ちゃんはさ、みんなにもあんなおばあちゃん見てほしかったんだよ。きっと。」


あきねーがそう言うおばあちゃんは、孫の僕でも見たことのない楽しそうな笑顔をしていた。


「そうだね。僕ら孫で家族だけれど、あんなに楽しそうなおばあちゃん見たことないよね。」


僕がそう同意を求めて振り向くと、姉ちゃんは一言「あるよ。」と素気そっけなく返してきた。


「え?・・・・・・うそ・・・・・・。」

「いや、嘘でない。あるって。」

「うっそぉー・・・・・・。」

「ある!って。ねー、亜妃ちゃん。あんなのしょっちゅうだったよねー。」

「・・・・・・・・・・・・。」


僕がそうして姉ちゃんの言葉せりふにプチショックを受けていると、あきねーは申し訳なさそうに「うん」と小さく首を縦に振った。


「・・・・・・あ。」


その頷きはプチショックを衝撃へと変え、更には夢仁義兄さんの「俺もあるよ。」という一言で驚愕を伴い、僕に絶大なダメージを与えた。


「うそ・・・・・・じゃあなに?見たことないの僕だけってこと?」


絶望した僕がそう訊ねるも、三人はバツ悪そうに俯いたまま。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・くっくっくっく。」


だが姉ちゃんは、俯いたまま無慈悲に笑っていた。


「なんだそれ・・・・・・なぁ~んだそれ!・・・・・・。」


僕はそうして呟き、傷ついた心を抱え拗ねて正面に向き直ろうとすると、姉ちゃんは更に残酷な追い打ちをかけてきた。


「あんた、ずっと行方不明だったからね。」


僕はいま、この場で再び十数年の愚行を悔い、姉ちゃんに完膚無きまでに打ちのめされた。




やがてご住職の読経が終わり弔問客も疎らになった頃、通夜の最初から参列していて一番後ろに座っていた、おばあちゃんと同じ年ぐらいのご老人が付き添いの方に車椅子を押され御焼香に上がられたのが見えた。


「あ、倉持くらもち君のおばあちゃんだ。」


僕はそのおばあちゃんが最初からいたのに気付いてて、なんで御焼香に上がられないのか不思議に思っていたけど、この後の出来事でそれが合点いったのだ。


「え?くらもちさん?」

「うん。倉持君のおばあちゃん。おばあちゃんのお友達。」


あきねーが言う倉持君のおばあちゃんとは、おばあちゃんの無二の親友で孫同士も同級生らしい。


つまりはあきねーと、いま倉持さんの車椅子を押しているあのイケメンが同級生ということだ。


あきねーは倉持さんが焼香台に近づくと、深々とお辞儀をしてから笑顔で小さく手を振っていた。


倉持君も、おばあちゃんを気遣いながら僕達ぼくら親族にお辞儀して、その後あきねーに優しく微笑みかけていた。


「倉持君のおばあちゃんね、おばあちゃんが倒れてからずっと、ほぼ毎日おばあちゃんとこに遊びに来てくれてたの。ほんの二時間~三時間くらいだったけど。倉持君も、時々付き添いで来てくれてたりしてね。」

「へぇ~。」


あきねーがそう言うと、姉ちゃんも後を追って「足繫く通ってくれたよねぇ。」と倉持さんのおばあちゃんを見つめて感謝していた。


「有り難いねー。それだけでもおばあちゃん楽しみにしてたんじゃない?」

「うん。おばあちゃん、ほんと毎日楽しみにしてた。時々お昼とか一緒に食べたりしてね。その時なんだ。おばあちゃんがあーゆー表情かおして笑ってたの。」


あきねーはそう言うと、遺影のおばあちゃんを見上げた。


「すごいと思わない?あの歳まで親友でいられるのって。」


すると姉ちゃんが、倉持さんのおばあちゃんを憧れるように見つめてそう言うと、あきねーも再び倉持さんのおばあちゃんを見つめ「うん。」と小さく頷いた。


「ほんとだね。これこそ無二の親友ってやつだね。そりゃあおばあちゃんも、僕らには見せない笑顔になるよね。」


おばあちゃんは、倉持さんのおばあちゃんの前では“おばあちゃん”ではなく“坂本ウカ”に戻れたんだ。


それはきっと、倉持さんのおばあちゃんも一緒で、僕はおばあちゃんたちが凄く羨ましく思えた。


「倉持君のおばあちゃん、あんまり気落ちしないでくれるといいな・・・・・・。」


あきねーが静かにそう呟くと、僕と姉ちゃんも示し合わせたように静かに「うん」と頷いた。



やがて倉持さんのおばあちゃんは御焼香を済ませ、お孫さんも御焼香を済ませるのを見計らうと、おばあちゃんの遺影をジッと見上げ大きな声で話しかけた。


「ウカちゃん、おめでとう!」

「おっ!おばあちゃん!」


おばあちゃんのその一言に、僅かにいた弔問客は一瞬ざわつき、倉持君も焦りながらおばあちゃんを止めようとした。


しかしそれを父さんが「いいよ。いいよ。」と逆に倉持君を仕草で抑え、倉持君が父さんに申し訳なさそうに会釈をするとおばあちゃんは再びゆっくりと話しはじめた。


「ウカちゃん、お疲れさま。長かったね。よくがんばった。りっぱだよ。淋しくなるなんて言わない。やっとそっちにけたんだもの。わたしもね、もうすぐそっちに往くからね。そしたらさ、また餡子あんこいっぱい炊いて食べよ。ね。」


倉持さんのおばあちゃんは、感慨深い言葉を僕らに残し大粒の涙をぽろぽろと零しながらおばあちゃんを御見送りした。


それから前席に座る父さんたちに深々とお礼をして、お孫さんとこの家を後にした。




こうしておばあちゃんのお通夜は幕を閉じて、僕は倉持さんのおばあちゃんの想いを心に深く感じながらおばあちゃんとの最期の夜を過ごした。



明日はいよいよ、おばあちゃんの旅立つ時が訪れる。








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