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やさしいところ  作者: 英金瓶
8/11

きみの名は?

~これまでのあらすじとこれから~


 ある夜、千成かずなりのもとに姉の冬美からLINEが入った。

それは、大好きなおばあちゃんの逝去を報せるLINEだった。


千成は次の日おばあちゃんちへと向かい、そこで懐かしい思い出とともに今までの自分の愚行を悔いた。


そして十数年ぶりに再会した従姉の亜妃に「わたしにも後悔していることはあるよ。」と告白され、千成はその後悔『おもうところ』を聞いて思ったのだ。


自分もあきねーのように『おもうところ』を抱えながらも笑いたい。

また、あきねーたちと一緒に笑いたいと・・・・・・。


次の日千成は、不安を残した亜妃との約束通り、おばあちゃんちにやってきた。


千成はこの日、あきねーだけではなく他にも懐かしい面々、姉の冬美や亜妃の父親と母親。そして自分の父親と母親とも再会することとなり、自分がいなかった数年間の間に起きた、衝撃の事実を知ることとなった。




『カクヨム』様にて投稿させて頂いております短編小説“やさしいところ”の長編編集作第8話となります。

お読みいただけましたら幸いです。


英金瓶





おばあちゃんちに着くと、身内のほぼ全員が集まっていて、僕はバケツ二つのフライドチキンが納得できた。


あきねーの伯父ちゃんと伯母ちゃん。

僕の父さんと母さん。

姉ちゃんの冬美とその娘の美雨みうちゃん。


あと、会ったことのないよちよち歩きの小さな子と、そしてあきねー。


姉ちゃんの旦那さんの夢仁義兄ゆめじにいさんがまだ来ていないみたいだけど、みんなそれぞれ六畳の居間やらおばあちゃんの眠る大広間やらで思い思いにくつろいでいて、おばあちゃんちはあの頃の夏休みを思い起こさせるくらい賑わっていた。



「おかえり。ごめんねお昼買ってきてもらっちゃって。重かったでしょ。」


そうして賑わう風景にあの頃を透かして眺めていると、両脇に抱えた大量のケンタとおばあちゃんのお土産を受け取りに、あきねーが笑顔で出迎えてくれた。


「ただいま!あきねー。」


あきねーの「おかえり。」という言葉も手伝ってか、僕はなんだかあの頃に帰った気がして、なんの違和感もなく「ただいま!」と笑顔で返していた。


「おかえり、かず。」

「うん。ただいま。」


そう言って投げかけてくれたあきねーの笑顔に穏やかな心地良さを感じていると、背を向けていた六畳の居間から「おう!」と威勢よく姉ちゃんが声をかけてきた。


「久しぶりだな。かず。」


昔っから、男勝りな物言いの姉ちゃん。

姉ちゃんはまるで僕を品定めしているかのようにジロジロと見て、続けて僕にこう言ってきた。


「身体はデカくなってるけど、変わんないねーあんたは・・・・・・相変わらず・・・・・・。」


 相変わらず?・・・・・・で、なんだよ。


その後の言葉せりふを待ってはみたが、出てくる気配もなかったので、僕からも久しぶりの姉ちゃんに挨拶代わりに話しかけた。


「おー、姉ちゃん久しぶり。あれ?髪切った?あ、LINEありがとうね・・・・・・っつーか、その子は?」


何年ぶりかに顔を合わせた姉ちゃんは、長かった髪をバッサリと切って、年の頃では1歳から1歳半くらいのよちよち歩きの子のオムツを替えていた。


「あんたの甥っ子。」

「へ?・・・・・・へぇ~。」


世間は僕の知らないうちに、目まぐるしいほど変化していた。


「なんだー。言ってくれればお祝いくらい用意したのにぃ。」

「・・・・・・・・・・・・。」


姉ちゃんは、怒っていたわけでもないのになんでか無言のままだった。


 なんだ?なんで無言だ?。


僕は漂い始めた変な空気をかき消すように、再び姉ちゃんに話しかけた。


「あれだ。甥っ子ってことは男の子だ。佐々木家の後継ぎだね。」


僕がそう言って甥っ子の名を聞くと、姉ちゃんは眉間に皺を寄せ僕に向き直った。


「聞いちゃう?それ。」

「はい?・・・・・・。」


 オイオイちょっと待て。僕は一応の弟の礼儀として甥っ子の名前を聞いただけだぞ。

聞いちゃいけなかったのか?この数年間で、聞いちゃいけないなにかがあったのか?


僕は鋭い目つきでジッと見詰める姉ちゃんから、ゆっくりと視線を逸らして辺りに目を配った。

 

 これはあれか?いまここに夢仁義兄ゆめじにいさんの姿がないのとなにか深い関係があるってことなのか?


僕がそう密かに不安を抱いていると、姉ちゃんは俯き加減に深いため息を一つついて、絞り出すように声を発した。


「千成・・・・・・。」

「・・・・・・なに?」


なぜか予想だにしなかった緊張の間。

僕は次のリアクションで、極力姉ちゃんを傷付けまいと心の準備を整えた。


「違う。千成・・・・・・。」

「ん?・・・・・・違わないよ。なあに?」


姉ちゃんは珍しく気が動転しているみたいだった。


「違う!か・ず・な・り!」

「うん。だから違わないって。僕、千成だよ。どうした?姉ちゃん。ゆっくりでいいから、焦らずにひとつひとつ話してごらん。」


すると姉ちゃん、途端にキレだし大声で叫んだ。


「だから違うんだって!この子の名前も、か・ず・な・りだ!っつってんの!」

「・・・・・・・・・・・・。」


 え?


「え、姉ちゃんごめん。よく聞こえなかったな。いまなんて?」


僕は耳を疑った。


「だから、この子の名前も、か・ず・な・り!なのっ!!・・・・・・何度も言わすな!」


今度は僕の思考回路が火を噴き始めた。


「え?ちょっとまって。なんで?え?え?!どゆこと?‼・・・・・・。」


予想外の情報処理に僕の鼓動は激しく脈打ち、脳にしこたま酸素を送った。


「あ!あー・・・・・・そーゆーことなのねー・・・・・・。」


それでようやく、豹変した姉ちゃんの機嫌に納得をすると、僕は次に浮かんだイヤな予感を心に秘めて、どんな字書くのか念のため確認した。


「それはさ、あれ?『千と千尋』のの部分と、父さんの成穂しげおしげの字使う?」


すると姉ちゃんは、まだ小さなかずなり君の前だというのに、さっきよりもさらに大きく声を張り上げ弁解してきた。


「いや!わたしは反対したんだよ!お父さんもお母さんもドン引きしてたしさ・・・・・・。」


 だろうね・・・・・・え?じゃあ、誰が?・・・・・・その子の命名はいったい・・・・・・あ!


「うちのさ、脳みそ筋肉の旦那がさ・・・・・・。」


そう言って再び小さいかずなり君に向き直った姉ちゃんは、その時の夢仁義兄ゆめじにいさんの言葉せりふを代弁し始めた。


「この子の名前は『千成』がいいって。そうすれば、いつも傍にかず君がいるみたいでいいじゃん!って。」

「・・・・・・・・・・・・。」


 そっかぁ~・・・・・・あのひとかぁ~・・・・・・そっか、そっかぁ~・・・・・・。

ま、義兄にいさんと姉ちゃんが離婚わかれてたんじゃないから、それはそれで良しとするか・・・・・・。


僕がこうして言葉にできない思いだけで絶句していると、姉ちゃんは僕の気持ちも知らずにさらに追い打ちをかけてきた。


「かず。あんた亡き人になっちゃったね。」


「は、はははは。ははははははは~」


僕はこうして半分やけくそで空笑いして気持ちをごまかし、気分は故人のままおばあちゃんに顔を見せに大広間へと身体を運んだ。




大広間に行くと、そこには父さんとあきねーの伯父ちゃんが茶をすすりながら胡坐あぐらをかいて、男同士話をしていた。


「おー、かず君来てくれたんだ!久しぶりだねー。ずいぶんと逞しくなって―。」


僕が顔を出すと伯父ちゃんはすぐに気付いてくれて、男同士の談義を中断させて僕に振り向いてくれた。


「ご無沙汰してます。」


僕がそう言って伯父ちゃんの前に正座してお辞儀すると、背を向けて座っていた父さんも振り返り、後を追って声をかけてきた。


「よう、来たか。」

「よう、父さん。久しぶり。」


顔を上げ、笑顔を交わした父さんともまた久しぶりの再会。


こうして顔を合わすのは5年ぶりくらいだ。


「ははは、ほんと久しぶりだな。元気にしてたか。」 

「うん、父さんは?」

「ああ、俺も変わらず元気だ。」

「そう、それは良かった。ごめんね、なかなか顔見せに行かなくて。」

「ああ、気にすんな。お前も忙しいだろうよ。」

「・・・・・・ん、まあ・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」


元々会話の少ない父さんと僕。


決して仲が悪いわけではないのだが、なんか男同士の親子って照れくささがあって・・・・・・。


きっと世間の父と子もこんなもんなんだろうなーと、僕はこの時、父さんとの時間を持て余しながら考えていた。


「あ、おばあちゃんに顔を見せてこないと・・・・・・。」


僕は思い出したようにそう言って立ち上がると、父さんも「ああ、そうだそうだ。」と、僕を笑顔で見送った。


そして伯父ちゃんも、そんな僕と父さんを、あの頃の笑顔のまま、ニコニコとして見守っていた。



「おばあちゃん、ただいま・・・・・・あれ?」


気のせいか、昨日よりもなぜか血色が良くなっているように見えるおばあちゃんの寝顔。


僕がそのことを二人に言うと

「久しぶりにみんなが集まったんだ。きっと母さんも嬉しいんだな。ははは・・・・・・。」と、父さんが笑った。


「え?うそ!そんなことってある?」


僕がそう言って驚いてると「またお父さんたら、そんなこと言って。」と、台所おかってから母さんが顔を出してきた。


「それね、さっき冬美と亜妃ちゃんがお化粧してくれたのよ。」


そう言って母さんは、僕に一言「おかえり千成。」と笑顔を見せて「ほらほら男連中、葬儀屋さん来る前にお昼済ましといて。来てからじゃバタバタしてそれどころじゃなくなるわよ。」と手を二回パン!パン!と叩き、僕ら三人の腰を持ち上げた。


「は~い。」

「は~い。」

「は~い。」


僕らはそれを合図に立ち上がり、六畳の居間へと移動した。



遅いお昼を取り始めると程なくして葬儀屋さんがやってきて、僕ら男連中は母さんの予言通り有無を言わせず台所おかってへと追いやられた。


やってきた葬儀屋さんが大広間をおばあちゃんの祭壇へとセッティングし終わると、それから間もなくご住職が現れて、僕らはいよいよという気分に否応無しにさせられた。


やがて日も暮れ始め、夢仁義兄さんもなんとかギリギリ間に合うと、セッティングされた提灯に明かりが灯り、僕ら親族と数十人の参列者によっておばあちゃんのお別れの儀が静かに幕を開けたのだった。




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