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やさしいところ  作者: 英金瓶
6/11

亜妃の想い

~これまでのあらすじ~

 ある夜、千成かずなりのもとに姉の冬美からLINEが入った。

それは、大好きなおばあちゃんの逝去を報せるLINEだった。

思春期からおばあちゃんちに寄り付くことのなかった千成は次の日おばあちゃんちに向かった。

そこでは美しい女性へと変貌を遂げた従姉の亜妃とも十数年ぶりに再会し、千成は同時に亜妃との懐かしい記憶も思い出す。


やがて亜妃に導かれ、千成は安らかな眠りについたおばあちゃんとも対面した。

大好きだったおばあちゃんの安らかな寝顔を前に、千成はおばあちゃんのやさしさや温もりを思い返しながら自分の愚行を悔いたのだった。


そして千成は亜妃に夕飯をもて成され、懐かしくて思い出深いおばあちゃんのうどんを頂くこととなった。

一口、また一口と頬張るごとに甦る記憶。

千成はその記憶に温もりを感じ、そして再び自分に悔いた。

そんな千成を見ていた亜妃もやがて、自分にも悔いていることがあるのだと千成に告白する。


「わたしにも、後悔がないわけじゃないんだよ。」と・・・・・・。



『カクヨム』様にて投稿させて頂いております短編小説“やさしいところ”の長編編集作第6話となります。

お読みいただけましたら幸いです。


英金瓶

 あきねーは、こっちで高校を出てから都内の大学に進学し、そのまま都心に本社を置く大手商社に就職して一昨年まで東京で暮らしていた。


伯父ちゃん、つまりあきねーのお父さんが農業を営んでいたから、あきねーは流通の勉強をしたくて東京に出たらしい。


そうして大きな志を抱いてここを出たあきねーが帰ってきたのは一昨年。


おばあちゃんが倒れた時だった。



「わたし、今でもやっぱり思っちゃうんだよね・・・・・・。」


あきねーはそう言って、曇った表情かおを露わに見せた。


「あの時わたしが意地張らないで帰ってきてれば、おばあちゃんは倒れてなかったかもしれないって。少なくともおばあちゃん、寝たきりにはなっていなかったかもって・・・・・・。」


あきねーの言うあの時とは、ついさっきあきねーが話していた五~六年前のことだ。


あきねーは五~六年程前に、久々にここに里帰りしていた。


東京でいろいろあったあきねーは、おばあちゃんの温かい手料理とやさしさを前に涙してしまったんだ。


そしたらおばあちゃん、そんなあきねーを見て言ったそうだ。


「亜妃や、おばあちゃんのお願い、一つだけ聞いてくれんかね。今すぐにとは言わんから、この先いつか、おばあちゃんと暮らしてくれんかね。」と。


あきねーは、その言葉がとても嬉しかったそうだ。


そしてその言葉に元気を貰い、あきねーはもう一度東京で頑張って来れた。



しかしあきねーは、そのことを今はすごく後悔していた。


あの時すぐにこっちに戻って来ていればと・・・・・・。


何度も何度も、何度も何度もそう思ったと僕に話した。


だけど僕は、そうは思わなかった。


そうかなーと思ったところも少しはあったけど、結論としてはやっぱりそうは思わなくて、それをどう伝えたらよいか分からずに、ありのままを口にした。


「あきねー。それはさ、違うと思うよ。そうかもしれないけれど、やっぱりそれは違うよ・・・・・・。あー、なんて説明したらいいんだろう。ごめんねあきねー。僕、話すの下手で、僕、バカでさ・・・・・・。」


するとあきねーは、少しだけ笑顔を取り戻して僕に言った。


「ありがとう・・・・・・。わかるよ。かずが何を言いたいか。」


僕はあきねーのその笑顔に少しホッとして、気が付くと僕も笑顔になっていた。


「みんなもあの時そう言ってくれたし・・・・・・。」


あきねーはそう言い足して、思い浮かべるようにそらを見て再び話し始めた。


「お母ちゃんも、冬美ちゃんも。かずの叔父ちゃんも叔母ちゃんも・・・・・・。みんなあの時、かずと同じようにわたしを庇ってくれたよ。」


“みんなあの時”。このあの時は、きっとおばあちゃんが倒れた時だ。

僕はこの時、そこには居なかった。そしてその後もお見舞いに来ることはなかった。


おばあちゃんが倒れたことは知っていた。

姉ちゃんの冬美から電話貰っていたから。


だけど僕は、病院には駆け付けなかったんだ。


怖かったんだ。

あの時・・・・・・。


姉ちゃんに電話貰ってそれを聞いて、頭の中が真っ白になって・・・・・・。


あとで姉ちゃんにはもの凄く怒られたけど、それでも僕はもの凄く怖くてここへは来られなかった。


そうして益々来づらくなって今までに至った。



僕はそのことを思い出し、また心に痛みを感じていた。



「だけどね、お父ちゃんは違ったなー・・・・・・。」


僕のその心情とは裏腹に、そう言うあきねーの表情かおにはまだ笑顔が居残っていた。


「お父ちゃんはさ、『確かにそうかもしれないね。』って・・・・・・。」


あきねーはそう言うと、その時の情景を思い出してかクスッと一回だけ笑った。


そしてその時のことを笑い話でもするように話し始めた。


「お父ちゃんね、あの浅黒い顔に険しい表情ひょうじょう見せて言ったの。『確かにそうかもしれないね。』って。そしたらさ、叔父ちゃんも叔母ちゃんも慌てちゃってさ『お義兄さん!なんてこと言うの!そんなわけないでしょ!』って。『亜妃ちゃんは、なんにも悪くないんだよ!』って。冬美ちゃんなんてさ、目ぇ丸くして驚いてた。初めてだったよわたし。あんな冬美ちゃん見たの。」


あきねーはそうして思い出し、笑みを浮かべていた。


だけど実際その話を聞いて僕も驚いている。


あきねーの伯父ちゃんは、見た目色黒で言葉数が少ないけれど、いつもニコニコしているイメージがあって、僕にはとてもやさしい人の印象があった。


そんな伯父ちゃんがあきねーにそれほど厳しい事言うなんて、僕には正直想像できないでいた。


「そしたらお父ちゃんね、・・・・・・。」


あきねーは、そんな驚いている僕に向き直って再び話し始めた。


「そしたらお父ちゃん言うの。いまのかずみたいに驚いた顔したみんなの前で。『確かにそうかもしれないね。でも、どうだろう。それは亜妃だけに言えることかい?父さんもそうだし、ここにいるみんなも思うところはあるんじゃないかな。』って・・・・・・。わたしなんにも言えなかったな・・・・・・。みんなも黙って聞いてた。」


そう話すあきねーの表情かおには、今度は柔らかな笑みが浮かんできて、僕にはなんだかその笑みがとても暖かく感じられた。


「お父ちゃん言ったんだ。『それだけ思うところがあるというのは、それだけおばあちゃんを想っているということなんだよ。みんなそう。父さんも、母さんも。だけどね亜妃。おばあちゃんはどうだろうか。そんな思いを露わにして想われても、おばあちゃんは素直に喜べないんじゃないだろうか。どうだろう?』って。」


あきねーはそう話すと視線を逸らしその時を眺めた。


「確かにそうかもって思ったよ。目が覚めたらみんな居てさ、その一瞬ときは嬉しいかもしれないけれど、おばあちゃんのことだからきっとその後は『自分が倒れたせいでみんなに心配かけちゃった。』って思っちゃうなーって。そこへ来てわたしがさ『おばあちゃん、ごめんね。』なんて言ったら、おばあちゃん余計に哀しくなっちゃうんじゃないかな?って。だからね、わたし聞いたの。お父ちゃんに。『わたしはこれからどうしたらいい?』って。そしたらお父ちゃんさ『それは・・・・・・父さんにもわからんな。』だって。ひどいと思わない?散々問題提起しておいてさ!」


険しい表情かおで厳しいことを言い始めた伯父ちゃんは、いつもの笑顔でニコニコしながらあきねーにそう言ったそうだ。


あきねーは、少しだけ興奮気味に僕にそう話した。


「だけどね、それがある意味答えでもあったんだよね・・・・・・。」


しかしそう言うとすぐに落ち着きを取り戻して、再びその時を思い返し話し始めた。


「この答えはきっと、わたしとおばあちゃんにしか分からないんだなって。だからわたし、その時思ったんだ。まずはおばあちゃんのお願い叶えようって。おばあちゃんと一緒に暮らしてあの頃みたいに毎日笑って、そこからどれだけ時間かかってもいいから、ちゃんと答えを見つけようって。おばあちゃんのためにも。わたしのためにも。」


すべてを話し終えたあきねーの表情かおは、一点の陰りさえ見せず晴れ晴れとした青空のようだった。


僕はてっきりその表情から、あきねーはもう答えを見つけたのだと思った。


「それじゃああきねーはさ、答えを見つけられたんだね。」


僕はあきねーの『うん!』という返事を期待しながらそう聞くと、あきねーは首を傾げてこう言った。


「さぁー・・・・・・どうだろう。」


「えぇぇぇー?!」


そうしてあきねーは悪戯っぽく僕に微笑んだのだった。



そりゃそうだ。


思い返せばこの話はあきねーの「わたしだって、後悔がないわけじゃないんだよ。」という言葉せりふから始まったのだ。


だけど今のあきねーからはさっきほどのネガティブな気持ちは感じられず、僕は話した分、少しだけ気持ちが軽くなったのかな?と、なんだか嬉しかった。





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