あきねーのうどん
~前回までのあらすじ~
大好きだったおばあちゃんの訃報を聞いておばあちゃんちへと向かった千成。
そこでは十数年ぶりに従姉の亜妃(あきねー)とも再会をした。
安らかな眠りについたおばあちゃんを前に、後悔ばかりしている千成。
亜妃はそんな千成に夕飯を振舞うことにした。
あの頃みんなで食べた、思い出深いおばあちゃんのうどんを。
“やさしいところ”第3話となります。
お読みいただけましたら幸いです。
英金瓶
ひとの驚く顔を見て、こんなにも面白可笑しく笑えるものだろうか?と思うほど、あきねーは僕の驚いた顔を見てケラケラと笑い続けていた。
そんなあきねーにつられ、僕も一緒になって笑っていたのだが、あまりにも長く笑い続けるものだからいいかげん恥ずかしくなってきて「あきねー。ちょっと笑い過ぎじゃない?」と、僕はあきねーに苦言を呈した。
するとあきねーは、言われたことに気分を害するどころか、むしろ込み上げてくる笑いを堪え、涙を拭いながら「ごめんごめん。」と謝ってきた。。
そんな・・・・・・泣くほど可笑しかったのか?僕の驚いた顔はさ。
「ごめんね、かず。あんたの驚いた顔がさ、ちっちゃい頃のあんたとダブって可愛かったもんだからつい・・・・・・ごめんね、ほんと。」
かわいいって・・・・・・僕はもう、三十過ぎたオッサンだけども・・・・・・。
しかし僕は、あきねーに“かわいい”と言われて悪い気はせず、なんて言い返したらいいかわからずにいた。
「・・・・・・。」
「あー可笑しかった・・・・・・ごめんね、ほんと。さ!ご飯しよっか。」
そう言ってそのまま無言で俯く僕に、あきねーはお箸とうどんを持ってくるよう言いつけると、お汁を装った椀を二膳手に持って、そのまま居間へと向かっていった。
僕は言われたとおり懐かしのうどんとお箸を手にして、あきねーの後をくっついていった。
居間に来ると、ここもまたあの頃を彷彿とさせる、懐かしい景色を魅せつけてきた。
天井から吊り下がる、障子を模した和風の電気の傘。
お客様用の湯呑みやグラスが納められたサイドボードには、かわいい服を着せられておばあちゃんに大切にされてきた、セルロイド製の人形たち。
何もかもがあの頃のままで、僕はその懐かしい風景に包まれるように、あの頃座っていた僕の席に腰を下ろした。
「そんな端っこいかないで、もっと真ん中座ればいいのに。狭いでしょ?」
「うん。でも、今日はここがいい。」
あきねーは、そう言って狭そうにして座った僕を見て、もっと広いところに座るよう促したのだが、僕は敢えてこの席に身を置いた。
この席はテレビとお膳のほんの隙間で、大勢が集まった時は一番年下で小さい僕しか座れなかった場所で、みんなと一緒にテレビを観ながらのご飯は食べられなかったけれど、テレビを観ているみんなの笑顔を眺めながらご飯を食べられる場所だった。
だから僕は、この席がほんとうに大好きだった。
「本当にそこでいいの?」
「うん。ここがいい。」
「そう。じゃあ、はい。」
そう言って手渡されたお椀には、あの頃おばあちゃんがいちばん食べさせてくれた、キノコと豚肉の旨味たっぷりの肉汁のお汁が、お肉てんこ盛りになって装われていた。
「うわーすごい!」
僕はその盛りに驚いて、あきねーはいつもこうなのか?と、もうひとつのお椀をチラッと覗いた。
すると、そっちのお椀にはお肉とキノコが普通盛りになっていたので、なんでこっちのお椀はこんなにてんこ盛りなのか?とあきねーに聞いた。
するとあきねーは微笑んで「おばあちゃんもそうしてくれてたでしょ?」とあの頃の小さな記憶を思い出させてくれた。
そうだった。おばあちゃんもそうしてくれてたんだった。
おばあちゃんはいつも、僕にだけお肉をしこたま装ってくれて、僕はなんだかそれが特別扱いされてるみたいで嬉しくて毎度飛び跳ねて喜んでいたんだ。
あきねーは、そのこともちゃんと覚えていてくれた。
「ありがとう・・・・・・あきねー。」
僕は、自分でさえ忘れていたような記憶も覚えていてくれたことがとても嬉しかった。
「うん。・・・・・・うん?なにに?・・・・・・お肉に?」
「お肉に?って・・・・・・まあ、それもそうだけど・・・・・・。」
いまいちこの“ありがとう”にピンと来ていないあきねー。
なにに?と改めて聞かれると、なんだか恥ずかしくなってしまいうまく言えなかった僕は「うん・・・・・・まあ、とにかくありがとう、だよ。」とだけ伝えた。
「・・・・・・うん。あいわかった。」
それでわかってくれたのか、将又わかってくれていないのか、あきねーはただ笑顔でそう返してくれた。
「さ!食べよ食べよっ♪なんだかんだで遅くなっちゃったね。ごめんね。」
「うぅん。こちらこそ。突然来てこんな御馳走まで作ってくれて。ごめんね、なんか・・・・・・。」
「いいのいいの♪さっ!たんと召し上がれ。」
「うん!いっただきま~すっ♪」
そうして僕は手を合わせ、十数年ぶりの思い出の味を心から堪能した。




