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やさしいところ  作者: 英金瓶
2/11

おばあちゃんのうどん

“やさしいところ”第二話です。

おばあちゃんの訃報を聞いて、十数年ぶりにおばあちゃんちを訪れた千成かずなり

千成は従姉のあきねーとも十数年ぶりに再会し、懐かしいあの頃を思い出し始めた。

静かに眠る、大好きなおばあちゃんの傍で。


カクヨム様にて投稿させていただいた自身の短編小説を、再び余すところなく再編集させていただいた作品の第二話となります。


皆さまにお読みいただけたら、それだけで幸せに思います。


英金瓶

 あの頃、僕と姉ちゃんの冬美は、夏休みの半分をおばあちゃんちで過ごしていた。


おばあちゃんちのまわりには山や川、畑や田んぼが沢山あって、僕の住んでいた街では味わえない楽しみがいっぱいあったから、僕はここに来るとずっと、宿題そっちのけで遊びまくっていた。


そして、おばあちゃんちでの楽しみは山遊びや川遊びだけではなかった。


僕はおばあちゃんが出してくれる食べ物も、とても楽しみだった。


おばあちゃんちの畑で生ったトマトやキュウリ。

それをその場でもぎ取って食べたりとか、あとは、おばあちゃんが作った金平牛蒡や南瓜の煮物といった、所謂いわゆる故郷ふるさとの味”てきなものだったりとか。

僕は子供のくせに、そういった“田舎の味”っぽい、おばあちゃんの手料理が大好きだったんだ。


特に大好きだったのが、おばあちゃんのうどん。


おばあちゃんの食べさせてくれたうどんは、おばあちゃんが打ってくれた手打ちのうどんで、東京や他県などで食べるうどんとは違ってコシがゴリゴリに強く、噛み応えのあるうどんだった。


ここら辺では古くから食べられていたらしく

「昔はみーんな、こうして自分でうどんを打っていたんだよ。こうやって何度も足踏みしながら『おいしくなーれ。おいしくなーれ。』ってね。」と、あの頃おばあちゃんはいつも、うどんの生地を足で踏みしめながら、それをそばで見ている僕や姉ちゃんに教えてくれた。




「もっと食べたかったな・・・・・・おばあちゃんのうどん。」


僕は静かに眠るおばあちゃんを眺めながら、そんなことばかりを思い出していた。



「かずーっ!」


どれくらいの時間が過ぎていたのだろう。


僕がおばあちゃんの枕元で後悔ばかりをしている間、隣りにいたはずのあきねーはいつの間にか台所へと身を潜め、なにやらごそごそと始めていた。


「かずーっ‼」

「んー?」


そしてそこから、大きな声で呼ばれた僕は、うっすら濡れた頬を手でサッと拭い、何事もなかったようにその声に顔を上げた。

すると、同じようなタイミングで廊下からあきねーが顔を覗かせて僕にこう聞いてきた。


「かず、夕飯まだでしょ?」

「え?うん。」

「よかった♪食べていくでしょ?」

「えっ☆・・・・・・うーん。」


僕はそのとき嬉しかったはずなのに、何故かその意とは反して、あきねーには歯切れの悪い返事をしていた。


御馳走になりたい気持ちは山々だったのだ。


でもどうしてだろうか、急に訪れてしまったという負い目もあってか変に遠慮してしまう気持ちが湧いてきて、僕は答えに二の足を踏んでしまった。


するとあきねーは、そんな僕の迷いを察してくれてか、「いいじゃんか。食べていきなよ。ね!私ひとりのご飯も淋しいからさ。ね‼食べてこ!」と、煮え切らない僕を後押しするように夕飯に誘ってくれた。


「え?・・・・・・うん。じゃあ・・・・・・。」


僕は強引なあきねーのその言葉に自然と笑顔が零れ落ち、ズルい僕はあきねーのそのやさしさに甘えることにした。


「うん!じゃ、すぐ支度するね♪」


あきねーはそう言うと、ニコッと微笑みかけてくれて、再び台所へと姿を消した。


僕は、そんなあきねーの笑顔がなんだかとても嬉しくなって、懐かしいような、暖かな気持ちになっていた。


「あきねー、僕もなにか手伝う!」


僕はそう言うとすぐさま立ち上がり、おばあちゃんに「ちょっとあきねー手伝って来るね。」と言うと、あきねーのあとを追っかけた。


まるであの頃の僕のように。




勝手知ったるおばあちゃんち。


あきねーの後を追って台所に入ると、食欲そそる出汁の香りが、僕の嗅覚をいちばんに刺激した。


「うわー。なに?この美味しそうないい匂い。」

「ふふふっ。でしょー。」


あきねーはそう言うと、小皿に出汁を少し掬って、僕に「はい。」と差し出した。


「え?・・・・・・。」


僕は一瞬、なんのことか?と戸惑ったが、すぐさま味見だと気づき小皿を受け取って口元に運んだ。


「あ!熱いからね。」


まるで僕を子ども扱いしているようなあきねーのそんな忠告に、僕は「わかってるよー、そんなの。」と、もう子ども扱いしないでほしいなと言いたげに言い返しはしたが、やはり案の定「あちっ!」と舌を火傷した。


あきねーは、そんな僕を見て大笑いしていた。


僕は恥ずかしかったけど、なんでだか嬉しくもなった。


「あはははははっ・・・・・。だから言ったじゃん。貸してごらん。」


あきねーが小皿の出汁をふーっふーっと冷ましてくれている間、僕はふと台所あたりを見回した。



現在いまではテレビのバラエティーやドラマとかでしか見ることのない、緑色の冷蔵庫。


まるでマリメッコを模したような、大きな花柄のついた保温しかできないポット。


テーブルには花柄レース調のビニールクロスが敷かれていて、その上には高級中華料理店のテーブルのようにくるくる回る醬油立てや、網でできた傘みたいなやつが置かれていて、どれもこれもが、まるで時を止めて僕を待っていてくれたみたいで、僕は再び涙腺が緩んでしまいそうになった。


「はい。これでどうかな。」

「あ、・・・・・ありがと。」


そう言って再び目の前にグイッと差し出された小皿に、僕はノスタルジーの世界から一気に現実世界へと呼び戻され、おかげで涙腺もキュッと締められて、あきねーには涙を見せずに済んだ。



「ふーっ。ずずずっ・・・・・・うまっ!・・・・・あれ?・・・・・・ってか、これって・・・・・・。」


あきねーが差し出した出汁は、何故かとても懐かしかった。


僕はあきねーの手料理なんていままで口にしたことがない。

と言うことは、これはやはりついさっきまで僕が思い焦がれていたおばあちゃんの味。


 でも、なんで?


僕はその疑問をあきねーに訊ねた。


「あきねー、これってもしかして・・・・・・。」


するとあきねーは、何故か「ふっふっふっふっ。」と、なぞで不気味な笑みを浮かべて、明らかに聞こえていたはずの僕の質問をスルーして手伝いを命じてきた。


「じゃ、かずはお箸と、あとその蝿帳はいちょうの中のもの居間に運んで。私はおつゆとか持ってくから。大したもんないけどさ、ご飯しよ♪」

「え?あ、うん・・・・・。」


あきねーに答えを聞かされず、無視された感満載で意に沿ぐわなくても、ついついあきねーの命令に従ってしまう、小さい頃からの僕の習性。

その習性に加え、更に新たな疑問が覆い被されば、最初の疑問などそっちのけになってしまうのは言うまでもない。


「・・・・・・ってゆーか、あきねー。ハイチョウってなに?」

「え?あ、わからないか。私も最初わからなかったもんね。蝿帳ってそれ。その網でできた傘みたいなやつ。」

「え?あ!これ?へぇ~。これ、ハイチョウって言うんだ。知らなかった・・・・・。」


こうして僕は、まんまとあきねーに話しをたぶらかされていた。


いつもそうだ。

これがいつもの僕とあきねーさ。


そうして僕は言われた通り、何の気なしに中のものを取り出そうとハイチョウを上げた。

するとなんと!中からは、ついさっき思いを馳せていた思い出の逸品。

おばあちゃんのうどんが姿を現したのだ。


「あ!あきねー!こ、これって‼」


僕は驚き振り向くと、あきねーはおつゆを椀に装いながら、またも不敵に笑ってた。


 あきねーにしてやられた?!


そうして驚いた僕を見て、あきねーは無邪気に笑いだした。


僕も気が付くといつの間にか、そんなあきねーにつられて笑顔になっていた。



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