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やさしいところ  作者: 英金瓶
10/11

旅立ち

~これまでのあらすじとこれから~


 ある夜、千成かずなりのもとに姉の冬美からLINEが入った。

それは、大好きなおばあちゃんの逝去を報せるLINEだった。


千成は次の日おばあちゃんちへと向かい、そこで懐かしい思い出とともに今までの自分の愚行を悔いた。


そして十数年ぶりに再会した従姉の亜妃に「わたしにも後悔していることはあるよ。」と告白され、千成はその後悔『おもうところ』を聞いて思ったのだ。


自分もあきねーのように『おもうところ』を抱えながらも笑いたい。

また、あきねーたちと一緒に笑いたいと・・・・・・。


そうして千成はいよいよ、おばあちゃんとの別れを迎えた。


しかし千成は、おばあちゃんとの別れを拒んでしまうのだった。



『カクヨム』様にて投稿させて頂いております短編小説“やさしいところ”の長編編集作第10話となります。

お読みいただけましたら幸いです。


英金瓶





 まさしく虚無の境地にいた。


やさしかったおばあちゃんとの時間。

その温もりも、そして笑顔も。

それらすべての思い出が、もうこれ以上は決して刻まれることのない虚しさに、僕は心を引き裂かれるような想いでいた。


真っ白なお花たちにひつぎの中を飾られて、白妙しろたえに包まれて安らかに眠るおばあちゃんにみんな涙を流してお別れをしていた。


伯父ちゃんも伯母ちゃんも、あきねーも姉ちゃんも、夢仁義兄さんも美雨ちゃんも父さんも母さんも。


父さんなんていままで見たことないくらいにボロボロになって泣いて、何度も何度も「ありがとう。」とおばあちゃんにお別れ言っていた。


みんなおばあちゃんが大好きだったと、僕はそれを遠巻きに傍観していたんだ。

おばあちゃんに『さよなら』を言うのが怖かったから。


やがて葬儀屋さんがみんなに配って歩いていたお花たちが無くなろうとしている頃、ふいにあきねーが顔を上げて辺りをキョロキョロと見回した。


僕は咄嗟に隠れようと目立たないように参列者の陰に身を潜めたが、あきねーはすぐに僕を見つけて近寄ってきた。


「なにしてるの。こんなとこで。」

「いや・・・・・・。」


なんだかちょっと怒ってるふうなあきねー。


僕はそんなあきねーから目を背けたまま、咄嗟の言い訳が思い浮かばずにただ一言「いや。」と返し、再びゆっくりとその身を引いてあきねーから逃れようとした。


「ダメだよ!かず!」


しかしあきねーは、そんな僕の逃れようとする腕をギュッと掴み逃がさんとばかりにこう言った。


「ダメ!ちゃんとここでお別れしないと!」

「え?うん・・・・・・わかってるよ。」


僕はあさっての方を見て、そう答えてはみたものの、やっぱりおばあちゃんにお別れを言いたくなくて、のらりくらりと身体をくねらせ逃げようとしていた。


「かず!」


するとあきねーは、そんな僕を無理くりにでも引っ張って行こうとしたのだが、そこはやはり男性と女性。

力の差が歴然に現れてあきねーは思うように僕を連れて歩けないでいた。


「かず!ダメ!おばあちゃんにちゃんとお別れしないと!かずっ!!」


そうして駄々っ子のように見っとも無くあらが後退あとずさっていると、背中に「ドン!」と誰かがぶつかった。


「あ!すみません・・・・・・あれ?!。」


僕は参列者のどなたかにぶつかってしまったかと慌てて振り向き頭を下げると、そこにはイケメン倉持君が僕の退路を遮るように立っていた。


「こんにちわ。」

「こ・こんちわ・・・・・・。」

「あ!倉持君。」

「やあ。」


僕は、彼がここにいるということはおばあちゃんも一緒に来ているのかと思い、昨晩の不安もあったので辺りをキョロキョロと見回しておばあちゃんを捜した。


「おばあちゃんなら今日は来てないよ。」

「え?!・・・・・・。」

「え?!・・・・・・。」


倉持君のその言葉せりふから、やっぱりおばあちゃん気落ちしてしまったのかと心配になり、僕とあきねーはその心情が表情かおに出てしまった。


すると倉持君はそんな僕らを見て「大丈夫、心配しないで。」と爽やかな笑顔を返してくれた。


「大丈夫。おばあちゃんなら元気だからさ。心配してくれてありがと。」


僕とあきねーは、それを聞いて少しホッとした。


「今日の告別式もさ、来たいかなと思って誘ったんだけど、『私は昨日ちゃんとお別れできたから。』って。『今日は御家族がお別れする番だから、私は遠慮しておくよ。』ってさ。やんなっちゃうよね。僕はおばあちゃんのためにお休み取ったのに。だからさ、今日はおばあちゃんお留守番。僕だけで御見送りに来ちゃったよ。」


倉持君はそう言うと、再び爽やかな笑顔を作り替えて僕らに振りまいた。


僕とあきねーは、そう言っても全然悔しそうに見えない倉持君の笑顔に「それはそれは、ありがとうございます。」と揃って頭を下げていた。


「あははははは、いえいえ。」


すると倉持君はそんな僕とあきねーに「おばあちゃんはおばあちゃんでさ、きっと今頃はうちで亜妃ちゃんのおばあちゃんとお喋りでもしているんだろうけどね。」と、今度は作り笑顔ではない正真正銘の倉持君の笑顔で笑いながら言った。


そしてその後僕に「だからさ、うちのおばあちゃんの気持ちも無駄にしないであげてほしいな。ね、かずくん。」と親しみ深い笑顔を向けた。


まったくもってイケメンは、あざといというかなんというか・・・・・・。


僕はそんな倉持君に


 そんな人懐っこい笑顔で言われたらさー、行かないわけにはいかないでしょーよ・・・・・・。 


と思いながら「え?・・・・・・うん。そうだね。」と仏頂面で渋々返した。


 イケメンって、こーゆーところほんとズルいよなー・・・・・・。


僕はそうしてトボトボと、あきねーに手を引かれておばあちゃんに向かった。




おばあちゃんを真ん中にして集うみんなに近づくと、姉ちゃんに小声で「なにやってんのあんた。」と叱られた。


そして

「あんたがそんなんじゃ、おばあちゃんいつんなったって安心して往けないでしょ。」と言われ、僕は言い返すことなく黙ってそれを聞いていた。

姉ちゃんの言っていることはもっともだと思ったからだ。


「言っとくけど、おばあちゃんあんたのこと一番心配してたんだからね。わかってる?」

「・・・・・・・・・・・・。」


そうして僕が俯き黙ったままでいると

「冬美ちゃん、もう、その辺で・・・・・・。」とあきねーが僕を庇って姉ちゃんのあいだに入ってくれた。


姉ちゃんは「ふーっ」と深いため息を一つつくと「亜妃ちゃんに感謝しなさいね。」とあきねーに免じて説教を終わらせて、その後最後に「皆さんお待たせしてしまったのだから・・・・・・謝るよ。」と、僕と一緒に参列者の皆さんに頭を下げてくれた。


そうして僕は、伯父ちゃんと伯母ちゃんにも迷惑をかけてしまったからと振り返って、伯父ちゃんと伯母ちゃん、そして父さんと母さんにも謝った。


「いつまでも子供みたいなこと言っててごめんなさい。」


すると四人ともなぜかニコニコ、というかニヤニヤしていて、「いいよ、いいよ。」とか「しかたないんじゃない。いつまでも子供なんだから。」と笑い、父さんは

「いいはなむけになったんじゃないか。」と訳の分からないことを言ってみんなに笑った。


伯父ちゃんと伯母ちゃん、そして母さん。三人は一斉に笑ったが、僕はなにがおかしいのかいまいちピンと来なくて、あきねーと姉ちゃんと三人で顔を見合わせ、首を傾げながらつられて笑った。


そうして気が付けばみんなで笑顔になっていると、伯父ちゃんが「さ、かず君。」と僕に根本を切り出してきた。


「さ、かず君。おばあちゃんにお別れしないとね。」

「あ・・・・・・はい。」


そうして僕が眠るおばあちゃんに向くと、あきねーが「かず、これ。」と真っ白な花を差し出してくれた。


「おばあちゃんに御供えしてあげな。」


そう言って手渡してくれたのはおばあちゃんの好きだった真っ白な百合の花。


僕はお花をジッと見つめ「ありがとうね。あきねー。」と感謝を伝え、再び真っ白なひつぎに向き合った。


中に眠るおばあちゃんに最後のお別れを伝えるために。



いよいよ訪れたおばあちゃんとの今生の別れ。


僕は、おばあちゃんの眠る顔を見たらその場で泣き崩れてしまうのではないかと内心ビクビクしながら柩の中を覗き込んだ。


しかし覗き込んだ柩の中のおばあちゃんは、なぜかとても幸せそうに眠っていて、僕は逆になにを言えばいいかわからなくなった。


 おばあちゃん、なんだか笑ってる。


だから僕は、あきねーから手渡された百合の花をおばあちゃんに捧げて「ありがとうおばあちゃん。またね。」とだけ伝えて呆気なく身を引いた。


そんな僕に姉ちゃんやあきねーは拍子抜けしたみたいで


「え?それでおしまい?」とか「もう、いいの?ちゃんとお別れできた?」と聞いてきたが、僕は二人に大きく頷き笑顔を返せた。


眠ったおばあちゃんは本当に幸せそうで、だから僕はお別れからくる哀しみよりも幸せそうに笑って見えるおばあちゃんが嬉しくて、これまでの不安や恐怖といったものがすべて消え去ってしまったような、そんな気がしたんだ。


あれだけうだうだ手間かけさせて、そしてみんなに迷惑かけて、僕自身おばあちゃんとのお別れにどうなってしまうか分からなかったのに、おばあちゃんは安らかな寝顔を見せただけで、容易く僕をなんとなく安心させてしまうなんて。


僕は、おばあちゃんってやっぱりすごいなと思った。


そして思い出したのは昨晩の倉持さんのおばあちゃんの言葉。

おばあちゃんが言っていた「ウカちゃんおめでとう!」この言葉こそこういう事なのだろうなと僕は納得ができた。



そうして僕がおばあちゃんとのお別れを意外とあっさり済ますと、傍らでずっと待っててくださったご住職が「もう、よろしいのですか?・・・・・・ほんとに?」と、ちょっと腑に落ちてなさそうに、お経を読み始めてくださった。


ご住職の読経を合図におばあちゃんが眠る柩は静かに閉じられて、僕にはもう、今生でおばあちゃんに会うことは叶わなくなった。


おばあちゃんはその後、僕と夢仁義兄さん、そして父さんと伯父ちゃんの手で豪華なリムジンに乗せられて住み慣れたこの家から旅立っていった。


旅立ちの合図で「パァーン!」と鳴らされたクラクションを耳にしながら、僕は旅立つおばあちゃんを見送った。


いつまでも、いつまでも・・・・・・。


リムジンのその黒い車体が見えなくなるまで・・・・・・と、思っていたのだが、リムジンの後を追って出てきたミニバンから姉ちゃんが顔を出し「なにそんなとこでボサッと突っ立って見送ってんのよ!」と僕も斎場に向かわなければならないことを思い出させた。


「あ!そうだった。いっけね・・・・・・。」


僕は慌てて駐車所まで走り、会社から借りてきた『ミラクル産業(株)』の社名入りステーションワゴンを乗ってきて、伯父ちゃんと伯母ちゃん、そしてあきねーを拾って斎場へと向かった。



こうしておばあちゃんの告別式は幕を閉じた。






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