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天下一の向日葵  作者: 茶眼の竜
第一章 転生天下人
9/50

八日目 名づけ親

一五三九年(天文七年) 十二月 村近くの森林


  月日は流れ、暑さは消え極寒とは行かないものの、それほどの寒さを感じる季節になってきた頃。


  うう、寒い。

  寒いと動きずらいんだよな。


「せいっ、せいっ、せいっ」


  今は若虎(わかとら)と一緒に素振りをしている。

  素振りも立派な筋トレの一つだ。


「おーい、若虎ー」


  ん?あれは若虎の兄貴の虎丸(とらまる)さんと虎吉(とらきち)さん。


「兄ちゃん!どうしたの?」

「父さんが、雪が降るかもしれないから早く帰ってこいって」

「うん、わかった!...だって、どうする菊吉(きくよし)?」


  素振りしてるところだし、止めるにはキリは悪くないけど、もう少ししていたいな。

  そういえば、虎丸さんは前の戦に出てたよね。


「ねぇ、虎丸さんって強いの?」

「うーん、どうだろう。戦ってるところ見たことないからなー。気になる?」

「うん、少し」

「じゃあ、組手でもしたら?兄ちゃん、ちょっと待ってー!!」

「あ、おーい」


  まだ、誰もやるなんて言ってないんだが。

  若虎に口説かれた虎丸さんは、渋々といった顔で小枝を握ると型のない構えをした。


  あれ、もしかして。


「虎丸さん、戦では槍を使ってたんですか?」

「...よく分かったな」


  さすがに、戦場で使うなら誰か教えてくれるはず。

  だけど、あの構え方は初めて使う感じがするから。


「構え方が、以前の若虎に似てたので」

「ええ?!僕、あんなのだったの?!」


  最初はみんな変な構えをするものだ。

  俺も剣道を初めてした時、腰が引けてみっともない構えをしていた。


「いつでもいいですよ」

「はああぁぁー!!」


  森中に枝と枝がぶつかり合う音が鳴り響いた。


  くっ...重たすぎ!!

  返しきれない!


  初手を返して反撃しようと試みたが、一撃の重さが若虎と比較にならず、後退りを余儀なくされた。


  さすが、八つも上の男の打ちは違うな。

  返し技が使えないなら、払うか流すか....。


  その後、何度か応じ技を試してみるが、応じきれず防戦一方となった。

  そして、後ろの木まで追い込まれてしまった。


「若虎に一度も勝てないからと聞いて、どれほど強いのかと思ったら、守ってばかりじゃないか」


  その言葉に苛立ちの面を隠しきれなかった。


  当たり前じゃん!

  身長も筋力も差がありすぎる!


「トドメだっ!」


  虎丸さんの振りかざした枝は後ろの木に当たり、肩の寸前で止まった。

  こうなれば立ってるカカシも同然。

  隙だらけのお腹に蹴りを入れ、間合いをとった。


「ぐはっ...蹴るなんて卑きょ....!!」


  喉元に小枝を突きつけ、俺の勝利。


「卑怯?そんな事、戦場で言えるんですか?」

「.....!!」


  何か言い返そうとしていたが、虎丸さんの口からは参ったの一言だけだった。


「おおお!!すげー!虎丸兄ちゃんにも勝つなんて!!」


  殺伐とした空気を一色する言葉。

  こういう時、若虎の元気さは役に立つ。


  苛立っていたとはいえ、少し棘のある言い方をしてしまった...謝らないと。


「あの、さっきは生意気な事言ってすみません」

「いや、君の言っている事は正しかったよ。実際、戦に待ったは効かないから。それより、そんな事を言うなんて俺が戦に行っている間で随分大人びたんだね」


  俺はその言葉に冷や汗が止まらなかった。

  きっと、この人は以前の菊吉をよく知っている。

  そう思うと今すぐにでもこの場から逃げたいとまで思った...。


「あ、見て!雪だよ雪!!」

「おおー、父さんの言った通りだったな!強くなる前に帰ろう」

「ほら、菊吉行くよ?!」

「....う、うん」


  虎丸と少しばかりの痼を残しての帰宅であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



同刻 我が家


  次の日、降っていた雪は止むことなく、降り続いていた。

  目覚めた俺は、あまりの寒さに縮こまり、二度寝をしようとしていた。


  前世でもそうだったが、寒いと起きれないんだよ...。

  いくら屋内とはいえ、こんなボロ小屋だと外といるのと変わんないよ。

  それに...。


  起きることの気だるさと昨日の虎丸さんの事を払拭するかのようにため息をつくと、白くなり部屋に消えていった。


「菊吉ー、そろそろ起きなさーい」


  俺は厚手の服に頭をうずくめた。

  すると...


「いたい!いたたたたたた」


  俺は何事かと思い、服から飛び出た。

  声が聞こえた方を見るとそこにはお腹を押さえて膝を突いている母さんの姿があった。


「母さん、大丈夫っ?!」

「もう無理、産まれる!」


  え?!ええっ?!

  産まれる?産まれるって?!

  赤ちゃんが?

  どうしよ?!どうしよっ?!!


「と、とと、父さんは?!」

「今日は朝から森に、うぅぅ。」

「も、森に行ったんだね?!急いで呼んでくるよ!!」


  母さんは首を縦に振った。

  俺はすぐに家を飛び出したが、一度足を止めた。


  呼びに行くのはいいけど、その間あの状態の母さんを一人にするのは心配だ。

  そうだ!!


  俺はふと若虎の母、(ゆき)さんを思い出し、隣の家の戸を叩いていた。


「ごめんください!ごめんください!!」

「はーい!あら、菊吉そんなに慌ててどうしたの?」

「か、母さんがもう産まれるって!」

「ええっ!こーしちゃいられない。他に人を呼ばなきゃ!」

「俺は父さんを呼んでくる!」

菊次郎(きくじろう)さんならうちの旦那とあっちへ行ったよ!そっちは任せるわね!」

「わかったーー!!」


  俺は走りながら返事をして、森へ急いだ。


  きっと枯れ木を取るか、山菜を採るかをしてるはず....。

  だとすれば多分こっちの方!


  最近はずっと森へ通いずめだったので、行く道は疎かその中さえも、ほぼほぼ覚えることが出来た。

  そのため父さんたちをすぐに見つける事ができ、母さんの容態を伝えることが出来た。


「と、父さん、母さんがもう産まれるって!」

「な、なにっ?!黄助(きすけ)、すまないが一度帰らせてもらう!!菊吉、いくぞっ!」


  そこには父さんの他に若虎と若虎の兄達、その父の黄助さんがいた。

  やはり何か山菜のようなものを取っていた。

  父さんは荷物を全て預け、一目散に走り出して行った。


「は、早いよ、父さん!」

「菊吉!男なら追うだけじゃなくて引っ張ることも大事だぞっ!そうすることで俺は鈴という可愛い嫁さんを貰うことが出来たんだ!」


  ...急に何言い出してんだよ、こんな時に。


  俺は呆れながらも必死に父さんを追い続けた。

  そして、家に着くと雪さんを含め五人ほど女性がいた。


「ちょっと!!男は入ってくるんじゃないよっ!!」

「「ーーっ!!...すいません。」」


  これが女の人の強さなのだろうか、威圧に圧倒されて萎縮してしまった父子。

  父さんは(らん)を手渡され、家の前で待つように言われた。

  俺たちはこの寒さの中、ひたすら待ち続けていた。

  父さんは蘭が凍えないように、厚着に厚着を重ね、めちゃくちゃ暖かそうだった。


  いーなー、俺も厚着で包んでくれないかなー。

  それにしても、暇だな。

  小枝があれば素振りをして時間を潰せるのに...。


  などと思っている時、父さんが口を開き出した。


「菊吉、お前が産まれた時は日が明ける少し前だった。出産なんて初めてでな、どうしていいか分からなかったよ。だから、ひたすらみんなの家を訪ねて起こして回ったのを覚えている」


  俺もそうだ。

  頭が真っ白になった。

  隣に雪さんがいてくれて、ほんと良かったよ。


「お前が産まれた後、扉を開けると日が昇ってきてな。あぁ、この子は俺達に吉を運んでくれるってその時思ったんだ」


  なるほどそれで菊吉か。

  名前って結構意味が深いんだな。

  俺は名前を付けるってことをしたことが無いから分からないや。

  前世で子供は居なかったし。


「ねぇ父さん、次産まれてくる子の名前は何にするの?」

「まだ決めてないなぁ。男だったら"菊"の字は入れてやりたいし、女だったら何か花の名が良いな」

「俺が決めてもいい?」

「んー。まだ五つのお前に良い名が浮かべばいいがな!あっはっは!」


  バカにしやがって!


  そう思いつつも話を聞いて、とても温かい気持ちになっていた。

  きっと父さんは人の心を温かくできる人だ。

  そんな父の元に産まれた事が嬉しくなった。


とっと(父さん)、蘭はー?」

「おお、蘭はなー...。」


  蘭が父さんに自分の名前の由来を聞いたその時だったーー。


「おぎゃーおぎゃー!!」

「「わああぁ、頑張ったねええ!」」


  家から赤子の泣き声と母さんを褒めているだろう言葉が飛んできた。

  その瞬間、父さんはバッと振り向き扉を開けた。

  そこには肌がとても白くほんのりと頬が赤い、キラキラした赤ちゃんがいた。

  母さんの腕の中であやされてとても落ち着いた顔をしている。


「綺麗だ」


  俺は率直にそう思った。


「男か女か?!」

「ちょっと菊次郎さんはしゃぎすぎですよ!」

「だって気になるじゃないかっ!」

「もう、どっちが赤子なのか分からなくなりますね!元気な男の子ですよ!」

「男か!!菊吉、弟だぞ!!」


  俺は母さんの方へ近寄り間近でその子を目にした。


  可愛い。

  これが俺の弟かー。

  白くて、モチモチしてて、まるで雪見だいふくみたいだな。

  そう言えばちょうど雪も降ってるし...。


「この子の名前"菊雪(きくゆき)"なんてどうかな」


  つい口に出してしまった。

  特に意味は無く、ただ雪見だいふくを思い出してしまったために。


「菊雪...。いいなそれ!!雪のように白く誠実で、そして菊のように逞しく育ってってくれよ、菊雪!」


  父さんは赤子に向かって何度も菊雪と呼び聞かせていた。


  すまぬ、弟よ。

  不純な動機で雪なんて付けてしまって...。

  でも、父さんがそれらしい意味を付けてくれたから許して!


「この子が大きくなったら、お兄ちゃんが名づけ親なんだよって教えてあげなきゃね」


  母さんは菊雪を抱いている反対の手で俺の頭を撫でてくれた。

  俺達は寒さをとうに忘れ、新しい家族の誕生を祝っていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも面白いと思ってくださった方や気になった方はブックマーク追加と評価をよろしくお願い致します!!

また、些細なことでも構いませんので、感想がありましたらそちらもよろしくお願い致します。

次回もお楽しみに

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