七日目 家族揃って
一五三九年(天文七年) 八月 我が家
俺が特訓をし始めてから数日後。
日が暮れて、就寝しようという時に父、菊次郎が帰ってきた。
父さんはとても筋肉があり、農民というより格闘家に見えた。
切り傷が複数あったが、幸いにも大きな怪我はなく元気な声で言った。
「今帰ったぞっ!!」
「ご苦労様でした、菊次郎さん」
「おおっ!鈴、今日も可愛ええのぉ!腹もだいぶ大きくなって!」
そう言って父さんは母さんのお腹に頬擦りをした。
母さんは照れていた。
「もぉ、まだ子供が起きてるでしょ!」
それを聞いた父さんは俺の方に振り向いた。
「おお!菊吉と蘭、元気だったかー?!父さんはずっとお前たちの事を思っておったぞっ!それに隣村のやつにもお前たちの可愛さを伝えてきた!」
おいおい、まじかよ。
戦の中ずっと言いふらされる子供たちの気持ちになってみろ。
想像しただけで恥ずかしくなる!
「おかえりなさい」
「んん?元気がないなー。せっかく遊んでやろうと思っていたのに」
いや、元気すぎでしょ!
とても戦から帰ってきた人とは思えんぞ。
「さぁさぁ、もう寝る時間よ!遊ぶのは明日にしましょ!」
こうして俺が菊吉となって初めて家族全員が揃った。
次の日、朝食の時に父さんは口を閉じることなく永遠と話し続けていた。
「菊吉、俺のいない間、母さんと蘭を守ってくれてありがとう!今日からは俺が母さんの手伝いをするから、ゆっくりしてるといい」
「うん」
やったー!
これで特訓に集中出来る!
でも父さんは仕事ないのかな?
「父さん、仕事はどうするの?」
「今は灌漑してる所だが、俺が一人居なくたって大丈夫さ!それに手伝いが終われば行くと伝えてある。まぁ、なんとかなるだろう!!」
そう言って父さんは口を開け、大きな声で笑っていた。
さて、俺は食べ終わったし、また森にでも行くか。
「ご馳走様、それじゃ、行ってきます!!」
母さんの手伝いは父さんがやると言っていたので、すぐさま家を出ようとしたが....
「待って!父さんが帰ってきたからって水汲みはサボっちゃだめよ!」
母さん、そこは見逃してくれよ...。
そう思いつつもちゃんと水を汲みに行った。
その日はいつもより、村が活気に満ちていた。
女性陣の顔も普段に比べて明るい気がする。
「あれ、菊吉じゃないか?」
「本当だ。おーい、久しぶりだな!」
井戸の前に知らない男が二人いた。
ん?もしかしてこの顔、若虎の兄貴と親父さんか?
にしても....
「なんで、ふんどし一丁?!」
「おお、今から水浴びをしようと思ってな!」
「菊吉もやるか?」
暑いし、汗でベタベタだけど、この小袖脱ぐとフルチンなんですけど。
いや、五歳児だから別になんとも思われないだろうけど、中身は高校生なんだ!
まぁ、村だし、高校生でもフルチン許されそうだけど...恥ずかしいじゃん!!
こちとら、現代の思春期なんだわ!
「いや、俺は遠慮して....」
「おーい、菊吉ー!」
げ、この声は...
「父さん?!」
「久しぶりに、一緒に水浴びをしようと思ってな!母さんに拭いてもらうのも飽きただろう」
そう、昨日までは汲んできた水で母さんが体を拭いてくれていた。
その時は家の中だったから見られるのは母さんと蘭だけだった。
最初は恥ずかしかったけど、まぁ、母親と妹だし?いいかなって。
「菊次郎、いいところに来た!ちょうどオラ達も水浴びしようと思ってたところさ!」
「親子揃って仲がいいな!俺たちも黄助達に負けてられんな!なっ、菊吉?!」
なっ、て言われても困るんだが。
「さぁさぁ、脱いだ脱いだ!」
抵抗する余地もなく、俺はフルチンとなった。
恥ずかしいのはそれだけじゃない。
水を浴びた父さん達は張り合うように声を上げていた。
「かあぁぁああっ、気持ちいいぃっ!!」
「きいぃぃいいっ、最高だっ!!」
「くうぅぅううっ、たまんねぇなっ!!」
「けえぇぇええっ、まだまだっ!!」
「こおぉぉおおっ、もういっちょっ!!」
井戸の周りではこれを見て村人全員が笑っていた。
きっとこれはこの村の名物になっているに違いない。
「ほら、菊吉も!」
「....」
うん。
たしかに冷たくて気持ちいいよ。
残暑にはピッタリだよ。
でもね、恥ずかしくて死にそうだよ。
そろそろ終わってくれないかな。
「こらっ!菊吉に馬鹿な事、教えるんじゃないよ!」
ここで来たのが救世主の幸さんだ。
ナイスっ!幸さん!!
「ほら菊吉、とっととこれ持って帰って、遊びに行ってきな!」
そう言って、幸さんは水入り桶を渡してくれた。
「ありがとう!」
俺はそれを受け取って、すぐさまその場から立ち去った。
「ああ、菊吉ー!!」
せっかく早く森に行けるんだ。
こんなところで時間を無駄にしたくない!
すまない、父さん!!
「菊次郎さん...」
「ん、どうした、虎丸」
「あの子何かあったんですか?」
「何かって?特に何も無いと思うが」
「いや、少し変わったと言うか」
「そうか?まぁ、元気になった事はいい事だ!」
「そう...ですね」
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