十九日目 初陣
一五四七年(天文十六年) 八月 二日 仲村
夏真っ只中と言うのに現代に比べてそんなに暑くない。
早朝ということもあるだろうが...。
俺は現代を生きる高校二年生だったが、謎の死を遂げこの村の五歳児に転生した。
初めは戸惑いもしたが、なんだかんだ言って楽しい幼少期をおくっていた。
八年の月日が流れ十三となった俺は戦に出ることを許され、今日めでたく初陣を迎える。
日が昇るとともに昨日の甲冑姿の男が馬に乗ってたくさんの農兵を連れて、ここ仲村まで来た。
あれは...土佐駒だ!!
まさか見られるとは...。
土佐駒は土佐に生息していた馬。
またの名を六本肢の軍馬と呼ばれている。
この馬は小柄で、武士が跨いでも足が着くか着かないかくらい。
体高が百二十センチくらいかな。
その為、馬の足四本と武士の足二本でまるで六本足に見える為、そう言われている。
生息していた、とあって現代では絶滅していた。
「備後守様、お久しゅうございます」
「おお、菊次郎久しいな!少しばかり早く着いてしもうた。許せよ」
「問題ありませぬ。我ら仲村一同揃っております」
「流石、菊次郎の村じゃな!では参ろうか!」
ここ仲村から五日ほどかけて岡豊城へと向かう。
仲村は土佐郡の土佐坂本と言うところにあり、現代で言う高知県中部辺りのことだ。
この場所は高知県と言っても北側に位置するため海は見えず、森と水田に囲まれている。
俺たちは途中にある村々の農兵とも合流し、岡豊城に入城した。
「菊吉、準備できたか?」
城の中で話しかけてきたのは、この時代の幼馴染の若虎だ。
こいつも俺と同い歳のため、今日が初陣である。
「できたよ...。それより、俺の名は菊吉じゃなくて、菊之助な!」
「ああ、そうだった。ねぇ、俺、槍使うの初めてなんだけど」
「...俺だって初めてだよ」
農兵の武器、装備は全て持参物だ。
うちの家には槍が二本と刀が一本しかなかった。
父さんは槍と刀を、俺には槍のみ渡された。
「なんで、父さんだけ...」
「俺の家にはそもそも槍しか置いてなかったよ」
「「はぁ...」」
「おいおい、元気ないじゃないか!」
そう言ってきたのは父さんと歩いてきた黄助さんだった。
「父ちゃん、なんで刀持ってないの?!」
「農兵は基本、槍のみなんだ。だから家に置いてないし、必要ない」
確かに黄助さんの言う通り、周りを見渡しても槍しか持ってない人ばかりだ。
「じゃあなんで、父さんだけ刀も持ってるんだよ。それにそのハチマキだって他の人と違うじゃん」
「ああ、実は俺は足軽大将なんだ!」
「「ええっ?!」」
「そんなこと聞いてないよ!」
「と言っても農兵をまとめる大将だからそこまで偉くないのだがな!」
「ええっ?!!」
「がはは!驚いたか!!」
父さんは大きな声で笑っていた。
確かに木刀を交えた時、農兵にしては強すぎると思っていた。
出世してたなんて...。
「...っていうか、木刀でしか練習してなかったから、俺たち槍の扱い方分からないんですけど!!」
俺も若虎も槍を握るのは初めてだ。
どう扱っていいのかも分からない。
「簡単だよ!突けばいいのさ!俺も戦場で使うから見ているといいぞ!」
「突くだけって...。槍使うなら刀貸してよ!」
「いや、だめだ!帯刀を許されている農兵はそれなりの階級じゃないとだめなんだ。」
ちぇっと悪態をついた。
「まぁこれから少しずつ活躍して上様に認めてもらうんだな!がはははは!ちなみに俺が今の階級になるまで十年はかかったぞ!」
「へん!すぐ追いついてやるさ!」
そんなこんなで親子喧嘩をしているとーー。
「わっはっは!菊次郎は今日も元気じゃな!」
「こ、これは備後守様!お見苦しいところを...」
「よいよい。お主は元気でなくてはな!」
父さんと黄助さんはすぐさま膝を着いた。
この男は募兵のため、村にやってきた甲冑男だ。
「して菊次郎、その童は誰じゃ?」
「は!我が息子、菊之助にございます。ほら、挨拶せい!」
「菊次郎が一子、菊之助でございます。以後お見知り置きを」
男は俺の足先から頭まで、すーっと目線を動かし目に焼き付けるようにしていた。
「ふむ、ちゃんと躾ておるようだな。儂は吉田備後守重俊と申す。お主の顔、しかと覚えたぞ」
「ありがとうございます」
「戦は初めてか?」
「はい、今回が初陣にございます」
「そうか。此度は儂が農兵の指揮を執ることになっておる。お主ら親子揃っての活躍を期待しているぞ」
「「ははっ!」」
そう言って重俊は去っていった。
「ねぇ、父さん。今回どれくらいの兵で戦うの?」
「今回、うちは四千ぐらいだろうな。敵は前に聞いた通り五千程だろう。」
四千?と思った俺は再び質問をする。
「農兵だけなの?ここには足軽はいないの?」
「おるにはおるぞ。九百ほどいると聞く。だが、今回はもしものための籠城兵として城に残るそうだ」
「じゃあ今回は農兵だけ?」
「そうなるな。指揮は長宗我部家臣団が執るからそこまで心配はいらんだろう。総大将はお館様だしな」
「心配だよ...」
向こうは足軽を集めて攻めてきてるかもしれないのに。
と言っても父さんは聞く気もしない。
「俺たちの村の衆はあそこに集まっている。遅れないようにな」
そう言って父さんと黄助さんは村の皆のところに歩いて行った。
「菊吉の父ちゃんって凄かったんだな...」
「ああ、俺も知らなかったよ。...って俺の名は菊之助な」
まさか、刀じゃなく槍で戦うなんて...。
「「はぁ...」」
俺たちはため息をしながら父さん達を追った。
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次回もお楽しみに




