十二日目 チャンス?
一五四五年(天文十三年) 八月 村近くの森林
俺は三人の山賊を縛るため、縄を村に取りに行ってきた。
「今戻った。見張りありがとう。起きなかった?」
「おお、菊吉。早かったな!大丈夫、ピクリともしなかった!」
「よかった。早速縛っていこう。あれ、弥三郎様は?」
「あそこで蘭の介抱してるよ」
二人は山賊から少し離れた木の下にいた。
弥三郎様が長宗我部国親のご子息と知ってか、蘭がとても畏まっている。
「とりあえず、縛ろうか。手伝ってもらっていい?」
「おうっ、任せろ!」
そうして、俺たちは山賊の手足を縛り草陰に隠した。
「こいつらこの後どうするの?」
「弥三郎様を城へ送る時に連れて行くよ」
「手伝おうか?」
そうだな...。
二人がいればちょうど一人ずつ連れれるからその方がいいかも。
お言葉に甘えてお願いすることにした。
さて、後は弥三郎様を送るだけだな。
「弥三郎様、山賊の捕縛が完了しました。城までお送りします」
「ご苦労。じゃが、城へ帰る前にお主らの家に寄る」
「え?」
え?なんて?
家による?
「まずは、蘭殿のご両親にこの傷の事を我から謝らせてくれ」
たしかに、ここから城までは少し遠い。
まずは蘭を村まで送るのは賛成だが、弥三郎様が謝る?
蘭の傷は俺のせいで付いたものなのに。
「しかし、一国の大名になろうというお方が頭を下げるなど...」
「この子一人守れず何が大名か。謝ると言ったら謝る。良いな?」
「わ、分かりました。」
逞しすぎる....。
何が姫若子だよ!
俺なんかよりよっぽど大人じゃないか!
山賊は若虎と虎吉さんに任せ、俺たち三人は家に向かって歩き始めた。
まさか、こんなことになるなんて。
こんなことなら、さっき村に戻った時に、父さんと母さんに言っとくべきだった。
村のみんなも、弥三郎様の姿見て驚かなければいいけど...。
「菊吉、最初に我が問うたことを答えよ。山賊のせいで聞きそびれた」
ん?なんの事?
最初に問うた事...?
あの時はたしか、自己紹介されて....あ。
「俺が武士かどうかと言うことですか?」
「そうじゃ」
「いえ、私はただの農民の子でごさいます」
「の、農民とな!ではどこでそんな技を教わったのだ?」
「技とは?」
「あのー、刀を蹴って飛ばしたりするやつじゃ」
「あ、あれは、特に技とかではなく...。ただ思いついた事をしただけです」
まぁ思いついたのは、前世で試合中たまに使っていたからな。
「なんと、思いつきであそこまで。農民でありながら、素晴らしい才じゃ。お主、我に仕える気はないか?」
俺は迷った。
仕えた時のメリットとデメリット。
メリットは確実に家臣に上がるチャンスがある事。
このままいけば、戦に出て武功を上げなければ家臣になれない。
後は、仕えれば多少なりとも給料は貰えるだろうし、生活は良くなると思う。
それに、他の武士に混じって特訓も出来るかもしれない。
メリットだけ見れば断る理由がない。
対してデメリットは、森での特訓が出来なくなること。
正直、今の筋力は前世に比べるとまだまだ劣っている。
今のままで、あの森を手放すのは勿体ない気がする、中途半端な身体で仕えて、失敗して、この方を危険に晒しては本末転倒。
もう一つは周りからどう思われるか。
昨日まで農民だったやつがいきなり弥三郎様の側仕えなんてよく思われないだろう。
ここはとても惜しいが...。
「申し訳ありません。私はまだ子供の身。大きくなり戦に出て、武功を上げて、ちゃんと正規の道を歩んで家臣に迎えて頂きたいと思っています。その時、もう一度お声がかかれば躊躇なくお仕え致します」
「そうか、残念じゃ。...ならば我の友になってくれ!」
「....はいっ?!」
「我には友と呼べる存在が居らぬ。其方となら楽しく過ごせそうだ!どうだ?」
「ですが、私は農民です。いずれ大名となられる方と友になど」
「嫌と申すのか?」
「嫌ではありませんが...」
「ならば良いでは無いか!」
「わ、わかりました....」
そんな涙目で言われては断れない。
「では弥三郎様、よろしくお願いいたします。」
「おい、友とはそんな堅苦しい言葉遣いではないはずじゃ!我の事は弥三郎と呼び捨てで呼べ!」
「そ、そんな恐れ多い...!」
「これは命令じゃ!」
め、命令って時点で友達って感じしないけど...。
「よ、よろしく弥三郎...」
「うむ、よろしく頼む」
という訳で後の長宗我部元親と友達になった。
いいのかこれで?
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