零日目 柔剣道
以前に書いていた作品のリメイクとなっています。
流れは変わりませんが、内容を濃くしています。
今まで読んでくださっていた方々も、是非一から読んでいただけると幸いです!
よろしくお願い致します!
「柔剣道は知っているか?」
中学に上がったばかりの俺に父さんは聞いてきた。
「なに?その柔剣道って」
俺の家系はみんな幼い頃から剣道をしている。
俺も小学三年生の時に妹と共に始めさせられた。
その為、剣道の事で知らないことは無いと自負してたが、聞いたこと無い単語に少し戸惑っていた。
そして父さんは柔剣道についてこう語る。
一般的には柔道と剣道の総称で、中高生の体育でよく使われる。
しかし、もう一つ意味があり、それはあまり表舞台で聞くことはない。
剣道界で一部の間で知られている"スポーツのようなもの"である。
その名の通り柔道と剣道を合わせたような種目。
黒い道着に黒い袴を身に付け、竹刀を片手に闘う。
普通の剣道と違うところは、防具を身に付けないという所。
そして、"競う"ではなく"闘う"だ。
"スポーツのようなもの"と言ったが厳密言えばスポーツでは無い。
スポーツは走る速さを競う、技の美しさを競うもの。
また、競うためにさまざまな厳しいルールがある。
それに対して柔剣道のルールは簡単。
相手を場外に出すか、相手を行動不能にすれば勝ち。
竹刀での攻撃はもちろんのこと、殴る蹴るなど、素手の攻撃もありなのだ。
要するに基本なんでもありだ。
その為、試合の中で死人が出ることを時々ある。
それが表舞台で知られていない理由だ。
俺はこれを聞いて言葉を失った。
楽しそう....。
俺の心は恐怖ではなく、好奇心で満たされていた。
「怖いか?」
「ううん。俺、やってみたい!」
「よしっ!では早速、道場に行って稽古しよう」
「はい!」
「だが、お前誰かに呼ばれているぞ」
悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、、、、。
え?
「、、、、あの、天久さん?」
「すいません、寝てました!」
運営委員のお姉さんは眉をピクピクさせながら、笑い返してくれた。
「それより、入場の時間です!こちらへ!」
「ありがとうございまーす」
暗い入口で並んでいた俺は、二千人が観戦している体育館へと足を踏み入れた。
『四国地方代表、高知県立坂本高等学校ニ年、天久 日向君。同じく、香川県立...』
パチパチパチ...。
「おい、見ろよ。あいつが前回の優勝者だ」
「え、あの子が噂の?」
どこかの学校の顧問だろうか、中年の男が二人、ヒソヒソと話している。
多分、去年の事だよな。
俺は一年前にもこの全日本高等学校柔剣道大会に出場した。
そして、優勝した。
はぁ...。
これからまたあの長い開会式が始まるのか。
うちの高校は名の知れた強豪校だが、過疎化に伴い部員数が激減。
俺を含めてようやく三人、なんとか一チーム作っている状態である。
朝は剣道の方出て、夜は柔剣道の方か。
つまらなすぎてあくびが止まらないよ。
「あくびなんて前回優勝者は余裕だな」
「言うてやるなって、だってあいつは...」
「そこ!静粛に!」
ふっ、怒られてやんの。
全く観客からも選手からも野次を飛ばされるなんて、視線が痛いよ。
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『これにて開会式を終わります。間もなく、一回戦を始めますので選手の皆様は所定の位置でお待ちください』
ふぅ、やっと終わったよ。
にしても、所定の位置ってどこだろう。
体育館の中には十箇所の試合場があり、それぞれすぐ後ろの壁にトーナメント表が貼られていた。
そこにはそれぞれ、学校名と氏名が書かれていた。
「坂高、天久はーっと...。あ、あったあった。げ、一回戦の中でも一試合目じゃん!」
ま、とっとと終わらせて二回戦までゆっくりするか。
「天久さん、一会場の一試合目ですよね?こちらの方でお待ちください」
「あ、はい」
さっき入口でいたお姉さんじゃん。
もしかして寝てたから顔覚えられちゃったかな....。
それにしても、ちょっとこの会場だけ人多くないか?
「裕二、お前終わったな」
ふと聞こえた背後からの声に耳を傾けた。
「誰っすかこの人」
「お前は一年だから知らんだろうが、こいつは前回の優勝者だ」
「ええ?!やばいじゃないっすか!先輩助けてくださいよ!」
「無理言うな!精々死なねえ事を祈っといてやるよ」
「そんなぁぁ....」
やった!すぐ終わりそうじゃん!
『間もなく、一回戦一試合目を開始します』
「さぁ、始めますかー」
白いテープで描かれた正方形の中心にバッテンがあり、そこを向かい合うように貼られた肩幅ほどの白テープまでとりあえず歩く。
お互いに一礼してからそれぞれ構える。
ま、ここら辺は剣道と一緒だね。
さて、どうしようか。
「はじめっ!!」
一瞬だった。
「やめっ!!」
審判員が相手に近寄り、試合を続けられるかを確認した。
「行動不能により、天久の勝利!!」
ザワザワザワ...。
「な、何が起こったんだ...?」
「よく分からないが...始まりの合図の瞬間、気がつけばあいつの竹刀の先が相手の首を突いていた...」
「い、一撃...」
「は、早すぎだろ」
「あんなの勝てるわけがねぇ」
その場にいる誰もが口を開け、唖然とした顔をしている。
なるほど、やけにここだけ人が多いと思ったら、俺の事を見に来ていたのか。
なら、あの技で丁度良かった。
好意に手の内を見せるほど甘くないからね。
「とりあえず、二回戦まで時間あるし....寝よ!」
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二回戦が始まるも一回戦と同じ技で瞬殺。
その後三回戦は相手が棄権し、不戦勝となった。
続く準々決勝、準決勝も一撃で決めた。
そして、決勝戦。
『選手の紹介をします。審判向かって左側、四国地方代表 高知県立坂本高等学校ニ年 天久 日向君。対して右側、北海道東北地方代表 北海道立旭川学園三年 北川 轟君。それでは審判の合図の下、試合を開始して下さい』
試合が始まる前に俺はコイツに話かけられた。
「天久。俺の事覚えているか?」
俺には見覚えが無かったため、丁重に謝ろうとしたが。
「すみません、人違いではないですかね」
轟の目は真っ直ぐ俺を見ていた。
「そうか、覚えていないか。俺は北川 轟、次の決勝戦で対戦する者だ」
「これはご丁寧に。俺の名前は....って知ってるのか。こちらこそよろしくお願いします」
「これまでの試合、見させてもらった。変わらずに居てくれてよかった」
「それはどういう...」
「なーに、相変わらず化け物じみた強さだと思っただけだ」
「あ、ありがとうございます」
「ふん、褒めたわけでは無いのだがな。まぁ精々抗わせてもらう」
轟はそのまま振り返り、会場の方へと歩いていった。
「去年のようには...」
「え?何か言いました?」
何も答えずにそのまま去っていった。
ああ言う奴はまれに見てきた。
余っ程、自分の力に自信があるのか。
しかし、そういう奴に限って瞬殺だった。
でも、あいつは今までの奴とは何か違う気がする。
去り際に見た轟のオーラがそう物語っていた。
「どっちが勝つかな」
「どーせ天久の瞬殺だろ。あいつに勝てるやつなんていないって」
「いやいや、北川もすごかったって」
「去年のようにならないといいんだがなぁ」
体育館の真ん中に設置された決勝戦の舞台。
その周りは選手に加え、身近で見ようと上の席から降りてきた観客で囲われていた。
俺と轟は舞台へ上がり、一礼した。
さて、どれほどのものかな。
ん?この構え...
「はじめっ!!」
勝負はまた一瞬で終わるかに思えたが、そういかなかった。
轟は始まりの合図とともに突きを流す姿勢を取った。
流石にバレてるか。
初手の突きを防いだが、その後は防戦一方となる轟。
俺の竹刀はレイピアの如く、速く鋭く轟の急所を狙っていた。
くそ、どれも上手く流すな。
だが、もぉ後ろには下がれんだろ。
この一突きで場が、いっ!
俺が突こうとした瞬間、轟の足が顔の前を横切った。
思わず間合いを開けてしまった。
これで仕切り直しか。
「ふふ、ふはははははっっ!!見えるっ!見えるぞ、天久っ!!!俺の三年間は無駄ではなかった!!」
「す、すげー!すげーぞ北川のやつ!」
「おお!これはワンチャンあるんじゃないか?!」
「行けー!北川っ!!」
「俺の仇を討ってくれっ!」
「やっちまえっ!!」
舞台の周りは北川への歓声で溢れかえっていた。
「チッ...」
うるせぇ。
刹那、歓声よりも大きく竹刀が交差する音が鳴り響いた。
轟の腕は衝撃波で震えているように見えた。
守るので精一杯のようだ、なっ!!
「くっ....」
「あーあ、そのまま落ちてたら楽だったのに」
「そう簡単には負けんぞ」
「なら、耐えて見せろよ」
そこからはタダの茶番だ。
まるで鞭のような縦横無尽の攻撃をただ必死に守り続ける轟。
どこを狙っても防いでくる。
こいつ、何か狙ってんな。
試してみるか。
「ふぅ、疲れた...」
「今だっ!うおおおぉぉぉぉぉおおっっ!!!」
轟は勢いよく立ち上がり、横一文字に竹刀を振ってきた。
だが、俺には当たらない。
俺は昔から跳躍力には自信があった。
小学生の頃、よくバク宙をしてカッコ付けたりしていた。
中学に上がり、柔剣道を始め、その才能は開花した。
宙を舞い、頭上を飛び越え、俺の竹刀は轟の後頭部を叩いていた。
轟は何が起こったのか理解する暇もなく、気を失った。
「やめっ!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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次回もお楽しみに