試練
試練は明日に実施されることとなった。
なので、今日はどこかの家に泊めてもらわないといけない。
俺はミーシャの婚約者という設定だが、族長は、
『ワシの家には泊めてやらん!』
と、うるさいので俺とアレクシアは今日は族長の家まで案内してくれたセインさんの家に泊めてもらえることになった。
族長が俺を頑なに家に泊めようとしないのはミーシャと二人の時間を過ごしたいからだろうと思った。
族長はミーシャの祖父で、家族だから一緒にいたくなるのは当然のことだ。
ミーシャは嫌がっているようにみえたが、なんとなく嬉しそうにしている気もした。
家族水入らずの時間を邪魔するのは無粋だろう。
それからファフニールは、森の中で寝る、と言って森の方へ飛んで行った。
フェンリルもそれについて行き、ファフニールは『なんで貴様も来るのだっ!?』と叫んでいた。
◇
『よーし着いた。ここが我が家だぜ』
セインさんの家に到着した。
家の扉は大樹の幹についていた。
どうやら大樹の中を掘りぬいて、家を作ったらしい。
『ただいまー』
セインさんはそう言って、扉を開けた。
家の中では、台所で長い金髪で女性のエルフが料理をしていた。
俺達に気付いた彼女は、こちらを向いて微笑んだ。
『あら、おかえりなさい。そちらがさっき話していたミーシャの婚約者さん?』
『ああ、そうだ。今日は我が家で泊めることになった』
『賑やかで良いわね』
『ノア、紹介するよ。妻のヘレナだ』
『初めまして、ノアと申します。今日1日お世話になります』
『ふふ、よろしく。それにしてもノアは本当にエルフ語を話せるのね。ウチでよければゆっくりしていくといいわ』
『ありがとうございます』
俺はそう言って、お辞儀をした。
頭を上げると、俺の背中をトントンとアレクシアがつついた。
「ありがとうってエルフ語でなんて言うの?」
アレクシアはそう質問をしてきた。
きっと泊めてもらう礼が言いたいのだろう。
俺はアレクシアの耳元に口を持っていき、
「『ありがとうございます』って言うといいよ」
小さな声で囁いた。
「わかった」
アレクシアは頷いてから、
『……ありがとうございます』
先ほどの俺と同じようにお辞儀をした。
それを見たセインさんとヘレナさんは微笑んで、お辞儀を返してくれた。
◇
翌日。
試練を行うのは大きな湖だ。
奥には滝があって、浅瀬には水草や麦が生えている。
この場所に族長と何人ものエルフが集まっていた。
子供から大人まで幅広く、試練の結果に興味を持っているようだった。
『これよりエルフ族の伝統試練を始める。この試練はエルフが一人の戦士として認めるための者でもある』
『一人の戦士とは?』
俺は族長に問いかけた。
これは単純な興味からくるものだった。
昔から本をよく読んでいた俺にとって、このような異種族の文化にじかに触れることにかなり喜びがある。
だからエルフ族の風習や伝統をもっと知りたいと思ったのだ。
『成人した男のエルフは里を守るために、一人一人が戦士でなければならない。この試練は一人前の戦士であるか、見極めるためのものじゃ』
『なるほど、つまり婚約関係を認めてもらうには一人前の戦士であることを証明しなきゃいけないってことですね』
『……うむ。そういうことじゃ』
族長は微妙な反応をした。
特にそういうわけでもないかのように。
まあ気のせいだろう。
『しかし、ノアの妹も試練を受けるのか……?』
族長は俺の横に並ぶアレクシアに困惑したような視線を送る。
『なんか受けたいそうです』
『まあ別に止めはせんが、それなりの実力を示してもらわねば困るぞ。冷やかしでこの試練を受けたとなれば、代々続くこの試練の侮辱となる』
……これアレクシアの結果が振るわなかったら、かなりまずいことになるんじゃないだろうか。
『大丈夫よ。二人の実力は私が知ってるもの』
ミーシャは自信満々な様子で言った。
『そうか。では早速試練を始めよう。弓と矢を受け取るのじゃ』
二人のエルフが俺とアレクシアに弓と矢を持ってきてくれた。
俺達は黙ってそれを受け取る。
そして、族長はゴホンと咳払いをしてから、
『これからお前達には湖の真ん中にある赤い塗料が塗られた小さな岩に矢を当ててもらう。それが試練の内容じゃ』
試練の内容を告げた。
それを聞いたエルフが『あれ?』と声をあげた。
『いつもより的が遠いような……』
『あ、ほんとだ。多分倍ぐらいの距離になってるよな』
族長の額から脂汗が垂れる。
『……み、見間違えじゃろう。いつもと同じ的じゃよ。ほら、さっさと試練を始めるぞい』
あ、これは倍ぐらいの距離になってるやつだ。
「まあ大丈夫でしょ。ノア達なら」
ミーシャが言う。
信頼してくれることは嬉しいが、大丈夫の根拠があまりないのではないだろうか。
「これの使い方教えて」
アレクシアは弓を持って、頭を傾げていた。
「そういうことだな。ミーシャ、俺達に弓の使い方をレクチャーしてもらえる?」
かく言う俺も弓を使ったことなどない。
これが初めてだ。
それであの的に当てるなんて可能だろうか……。
「え、ええ。もちろんよ!」
ミーシャは少しだけ不安そうな表情を浮かべて、そう言った。
いざレクチャーしてもらうと、他のエルフ達はみんな笑い出した。
バカにするような感じだ。
『はははっ! そんな状態で的に当てられるわけねえ!』
『そもそも風の精霊の寵愛を受けていない人間族があの距離の射撃は無理があるだろう』
『違いない。里でもあの的に当てられる者はセインぐらいなもんだ』
エルフ達の会話を聞いた感じだと、今回の試練は難易度はかなり高めらしい。
そしてセインは里でもかなりの実力者のようだな。
「ノアとアレクシア! 絶対に的に矢を当てて、みんなをギャフンっと言わせなさいよ! 見せてやりなさい! アナタ達の実力を!」
エルフ達の会話にムカついたのか、ミーシャは声を張り上げていた。
「任せて」
ミーシャのレクチャーを受けたアレクシアは弓を構えながらそう言った。
だが、弓の弦に羽根の部分ではなく、矢尻をひっかけていた。
そうはならんでしょう、と言いたくなるぐらいに逆のことを行っていた。
『ハハハハッ! ありゃダメだ!』
それを見たエルフ達は大爆笑。
「アレクシア! それ逆!」
「分かった」
ミーシャが直してあげて、ようやくアレクシアは正しい弓の構え方を習得したのだった。
……大丈夫か?




