婚約者なら
族長の家の一室に連れて行かれた。
ここには木の長机と椅子があり、会議室のようなつくりになっていた。
家の中は全体的に木で造られている。
木の床、木の窓、木の階段。
建物の中に大樹の幹が見えたりと、自然との調和が感じられた。
『……ふん』
族長は機嫌が悪そうに俺の正面の椅子に座っている。
睨みつけるようにして俺を見ている。
『まったく、人間が相手ではワシの言葉も伝わらんではないか』
『……一応、エルフ語は喋れます。申し遅れましたが、ノアと言います。しばらくの間、お世話になります』
『なぬ!? お主、人間のくせにエルフ語を話せるのか!? なぜじゃ!?」
『大体の言語はすぐにマスターしちゃう体質でして……』
『気味が悪い奴じゃのぉ……』
族長に引かれてしまった。
まずい、頑張って族長に気に入られるようにしなければ!
風の精霊と会話をするためにも気合を入れて行こう。
俺は椅子から静かに立ち上がり、すーっと深呼吸をした。
『お爺さん』
そう言って、俺は族長の目をまっすぐに見つめる。
『俺は真剣に娘さんを愛しています! 娘さんを俺にください!』
俺は深々とお辞儀をした。
『ちょ、ちょっと!? ノア!?』
ミーシャは頬を赤らめて、動揺している様子だった。
『むぅ……そこまで言うならワシの前でキスをしてみせるのじゃ。二人が愛し合ってる証拠を見せてくれ』
『キ、キキキキスっ!? 何言ってんのよ! このクソジジイ!』
『婚約者なのじゃろう? そんなことも出来んのか? ミーシャは本当に初々しい子じゃのぉ』
族長はミーシャを見て、にんまりを頬を緩めた。
しかし、すぐに引き締めなおす。
『だが、ワシはキスしてる場面を見ないと納得できん。早くするのじゃ』
族長は意思を曲げるつもりがないようだ。
キスか……。
俺は一度しかしたことがないな。
夢幻亀を倒したときにアレクシアと……。
思い出すと少し恥ずかしいな。
「ノア、今どんな話をしてるの?」
アレクシアが不思議そうに聞いた。
「ミーシャとキスをしろって族長が言っている状況だな……」
「キス? どうして?」
「愛し合っている証拠を見せてほしいそうだ」
「……なるほど」
アレクシアは納得した様子だった。
『ほれ、何を話しておる。二人のキスを早く見せてくれんか?』
族長は机をトントンと人差し指で叩いて急かしている。
「ノア、どうしよう……」
ミーシャは困った顔をして、ラスデア語で話しかけてきた。
「キスをするしかないんじゃないかな」
「……そうよね。私、協力するって言っちゃったものね。しましょう、キス」
ミーシャは覚悟を決めたようだ。
「大丈夫。俺に任せといて」
そう言うと、
「た、頼りにしてるわよ!」
ミーシャは顔を赤くした。
俺はミーシャの唇に自分の唇を近づけていく。
ミーシャは瞳を閉じて、身体を震わせる。
さて、俺には一応考えがあった。
ミーシャの反応を見るに、本当はキスなどしたくないのだろう。
当たり前のことだ。
だから族長に俺達が本当にキスをしているように見せかければいい。
やり方は簡単だ。
唇が近づけていく途中に無詠唱で《魔力障壁》を発動する。
結界は唇サイズに小さくする。
そうすることで、本当にキスをしているかのような距離まで唇を接近させることが出来る。
しかし、《魔力障壁》があるから、唇は触れない。
ミーシャは違和感に気付いたのか、瞳を開けた。
目と目が合う。
頬を赤くして、再び瞳を閉じた。
『ええい! もういいわい! その辺にしときなさい!』
族長はそう言って、俺とミーシャの肩を掴んで、離れさせた。
『ちょ、なによ! お爺ちゃんがやれって言ったんでしょ!』
『もう十分じゃ。満足した。これ以上見たくない』
『このクソジジイ……』
ミーシャは拳を握りしめて、怒りを堪えていた。
『しかしこれで俺をミーシャの婚約者と認めてくれましたか?』
『いや、まだじゃ』
『はあ!? じゃあなんで私達にキスさせたのよ!』
『それは愛し合っているか、確認しただけじゃ。認めるかどうかとは別問題』
『そこはもう認めなさいよ!』
『ダメじゃ! ノアをミーシャの婚約者と認めるにはエルフ族に代々伝わる試練を受けてもらわねばならん!』
族長は断固拒否、といった様子だ。
『ふーん、あの試練を突破しちゃえば認めてくれるんだ』
ミーシャは試練の内容を知っているみたいだ。
『認めよう。ただし突破できたらじゃがな。もしかすると試練の途中で命を落とすこともありえるじゃろう』
『い、命を落とす……』
物騒な試練だな……。
「あー大丈夫大丈夫。嘘だから」
ラスデア語でミーシャはそう言った。
表情はすごく余裕そうだ。
しかも嘘なのか。
「……それならいいんだけどな」
「そもそもノアで突破できなかったら誰にも突破できないから、安心して」
「……さすがにそれは過大評価な気がするけど」
「ある。私が言うんだから間違いないでしょ」
「あ、ああ」
「試練、私も受ける。そうすれば私もミーシャと婚約者」
アレクシアは言った。
なぜかすごいやる気に満ち溢れているように見える。
「……まあ、アレクシアも受けたいなら受けてみればいいんじゃないかしら。どうせ突破できるだろうし」
「わーい」
アレクシアは両手を小さく万歳して、喜んだ。
「ノア、頑張ろう」
「そうだな」
……しかし、なんだかすごい展開になってるな。
面白かったらポイント評価お願いします!
ポイント評価は下の【☆☆☆☆☆】から出来ます。
応援コメントもぜひお待ちしております!




