海竜《リヴァイアサン》
「これなら任せられるかな?」
「は、はい! ギルドとしてもS級冒険者の方になら安心してお任せすることができます……!」
ギルド職員は頭を深々と下げていた。
……そんなに畏まらなくても大丈夫なんだけどな。
やっぱりこのギルドカードはなるべく見せたくないものだ。
「……それでも私も行くわ。誰も犠牲は出したくないもの」
ミーシャは引き下がらない様子だ。
責任感が強いのだろう。
「ミーシャ、このヘクイルテイマーズカップは1年に1回の貴重なイベントだ。これを台無しにするなんて楽しみにしていた人達が可哀想だよ。だからここは俺に任せて、ミーシャは準決勝戦に臨んでくれ」
「で、でもノア一人だけでは、万が一があるかもしれない。実力を信用していないって訳じゃないけど万全を期すためには私が……」
「なら一人じゃなければ良いんだな?」
「えっ?」
俺はアレクシアに目配せをした。
すると、アレクシアは懐から緋色のギルドカードを取り出した。
「大丈夫。私も一緒に戦う」
「な、なんと……!?」
ギルド職員は目を丸くして驚いた。
「ア、アレクシアもS級冒険者だったの!?」
「そういうこと。これで安心して任せられるかな?」
「……ええ、もう驚きすぎて理解が追いつかないけど……S級二人に任せれば怖いものないわね」
ミーシャは少し呆れたような笑みを浮かべて言った。
『ファフニールはここで待機してもらってていいかな? 決勝戦を万全な状態で挑んでほしいから』
『分かったぞ。……しかし、リヴァイアサンも我と同じS級なのだな』
『そうみたいだけど、どうしたの?』
『いや、リヴァイアサンとは何度か戦った経験があるが、アイツら我よりも圧倒的に弱いのだ。だから同じ評価なのが違和感でな』
『……S級に指定されている魔物の中でも実力差は結構あるのかもね』
『まったく、困ったものだな』
そんな風にファフニールは不満を漏らすのだった。
◇
その頃、港ではリヴァイアサンの出現で大混乱に陥っていた。
「貿易船の荷物を早く船外に運び出せ!」
「早くしろ! ちんたらしてると、全部海の藻屑になっちまうぞ!」
大急ぎで船員達は荷物を運び出していた。
その様子を傍目でドイルが見ていた。
(これ……俺のせい……だよな)
ドイルは責任を感じていた。
自分が魔法を放っていたせいで、こうして大勢の人に迷惑が及んでいる。
その状況を目の当たりにしたドイルは顔を青くしていた。
「フオオオオオオオオオオオン」
「おい見ろ! 港に近づいてきた船がリヴァイアサンに襲われてるぞ!」
「しかし……どうしてこんなところにリヴァイアサンが……」
港にいる人々の会話を聞いて、ドイルは顔を青くしていた。
(俺がリヴァイアサンに魔法を当てたから……すまねえ……)
後悔し、反省するドイルだが、リヴァイアサンを倒す力も、立ち向かう勇気もなかった。
港からリヴァイアサンが大きな被害を出さないように祈ることしか出来なかった。
「海で暴れてるアイツがリヴァイアサンか」
「ノア、あれは何?」
「あれは船っていう海を渡る乗り物だよ」
「船……」
後方から聞いたことのある声がした。
振り向くと、そこにはドイルを予選敗退にした憎きノアの姿があった。
「おい、お前こんなところで何してんだよ!」
「ん? ああ、俺達はリヴァイアサンを倒しに来たんだ」
「はあ? お前のとこの従魔はどうしたんだよ」
「ファフニールは待機してもらっているよ。決勝戦を控えてるからね」
「ファフニールもいねえのに倒せる訳ねえだろ! アイツはリヴァイアサンって言ってな、S級モンスターなんだよ! ったく、これだから素人は……」
「言いたいことは分かるよ。心配してくれてありがとう」
「は? 心配なんかしてねえよ。お前らの馬鹿さ加減をだな……」
「まあ見ててよ。被害を出さないためにも早くリヴァイアサンを落ち着けないといけないから」
「落ち着けるって言っても第一どうやってアイツに近付く……って、はあ!?」
ドイルが返事をしている間に、ノアは既に《空歩》を使い、リヴァイアサンに近付いていた。
「と、飛んでやがる……」
それを見たドイルは驚いて、口を開けっ放しにしていた。
「おお! すごい! 空を飛んだぞ!?」
「なんだあの二人は!?」
港にいる人達はノア達の登場に大きな反応を示した。
二人ならリヴァイアサンをなんとかしてくれるかもしれない、と期待していたのだった。
◇
俺とアレクシアは《空歩》でリヴァイアサンに近付いていく。
リヴァイアサンは現在、船の進行方向に姿を見せ、威嚇している。
船員達はリヴァイアサンに攻撃する気配はない。
海上で戦っても勝ち目がないことを悟っているのだろう。
「ノア、どうする? 攻撃する?」
「一旦待ってもらってもいいかな? 試したいことがある」
「分かった」
今までの経験から等級の高いモンスターとは会話することが出来ていた。
もしかすると、リヴァイアサンとも会話ができるんじゃないだろうか。
説得できれば、誰も傷つかずに解決できるはずだ。
……と思っていたら、リヴァイアサンは大きな口を開けて船に攻撃を仕掛けた。
「「「ぎゃあああああああ!! おしまいだあああぁ!」」」
船員の叫び声が聞こえた。
俺とアレクシアはすぐさまリヴァイアサンの前に移動する。
「「《魔力障壁》」」
俺達は結界を展開し、リヴァイアサンの攻撃を防いだ。
リヴァイアサンの大きな目が俺をギョロっと睨んだ。
『なんだこの結界! びくともしないぞ!』
リヴァイアサンは結界を破ろうと躍起になっている様子だった。
やはり言葉を話せるようだな。
丁度いい。
このタイミングで話しかけよう。
『リヴァイアサン、聞こえるか?』
『む。なんだお前! まさか魔物の言葉が喋れるのか!?』
『そうだよ。君を此処から離れてもらうように説得しに来たんだ』
『なに!? 先に攻撃してきたのはお前らだろう! この辺で寝ているところを起こしおって!』
『それは本当に申し訳ない。この通りだ。許してもらえないだろうか』
『何も関係ないお前が謝るのか。魔物の言葉も喋れるし、変わった人間だな……』
リヴァイアサンは俺から離れ、殺気が薄れた。
どうやら少しは話を聞いてくれるのかもしれない。




