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 日が落ちて、晩餐の時間になってもグリードは姿を現さなかった。

「エリアナ様。料理が冷めてしまいます。早くお召し上がりになってください」

 王族が使っていたという長い長いテーブルに、座っているのは私とシェリーの二人きり。シェリーは大人二人掛かりで運ばれてきた生肉をむしゃむしゃと食べている。一方で、いつまで待っても主たる竜は姿を見せないのであった。

「あの、グリード様は? お忙しいのかしら?」

 イルに尋ねると、彼女は少し考えるように首を傾げた後、言った。

「グリード様は事情があり城を空けておいでです。お気になさらずどうぞお食べください」

「え!?」

 驚いた。

 グリードがこの城にいないだなんて、全くの初耳だったからだ。

「それは、どちらに行かれたの? まさか危険があるような場所に行かれたのでは……?」

 私は不安でたまらなくなった。

 一応平定されたとはいえ、グリード竜王国内にも未だ内乱の芽が燻っているはずだ。そんな中でも、彼はわざわざスレンヴェールまで私を助けに来てくれた。

 主人の行動に口を出す権利がないことなど分かっている。それでも本音を言えばどこにどんな理由で出かけるのか城を出る前に言ってほしかったし、イルはそれを知らされているのだという想いがより一層重くのしかかった。

(きっとあの時ね……)

 私が城に戻った時、グリードが外に出て待っていた。私には中に入るよう言って、彼は連絡事項としてイルに出発のことを知らせたに違いないのだ。

 そのあと戻ってきたイルは、夕食の時間までずっと私の目の届く場所にいた。

 当たり前のことだが、自分は全く頼りにされていないのだと分かって少し泣きたくなった。

 自分に力がないのは分かっている。非力な私には単なる一兵卒の剣から彼を守る力すらない。

 それでも、せめて一言いい置いて行ってほしかった。そう思う自分が堪らなくわがままだと分かっていながら、私はその思いを止めることができなかった。

「……だから言ったのに」

 イルが小さく呟く。それがどういう意味なのか私にはわからなかったが。

「ごめんなさい。気分がすぐれないから部屋に戻るわね」

 私はなんとかそれだけ言うと、そっと椅子を立ち上がった。ついさっきまでは空腹を感じていたはずだが、とても何かを口にする気分にはなれない。

「エリアナ様。体調がすぐれないのでしたら侍医を呼びますが」

「いいわ。本当にお腹が空いていないだけなの」

 イルのいたわるような言葉が、自己嫌悪を更にチクリチクリと刺激する。

 シェリーが心配そうに私の服の袖を掴んだ。その縋るような目にずきずきと胸が痛んで、けれどやっぱり食事をする気にはなれないのだった。

「ごめんね。シェリー」

 私はそっとシェリーの手を解くと、優しく彼女の頭を撫でた。そうするとシェリーは、まるで懐いた猫のように柔らかくなって、それまで何をしていたかなんて忘れてしまう。

「部屋にお戻りになるのでしたら、私もご一緒に―――」

「ごめんなさい。一人になりたいの」

 ついて来ようとするイルを、やんわりと拒否した。

 分かっている。これは愚かしい嫉妬だ。イルが自分よりもグリードに頼られていることへの。

 頭で考えればわかることなのに。ドライアドの彼女と、人間である自分。どちらがグリードの役に立つかなど考える余地もない。

 けれど部屋を後にしてから感じたのは、ただひたすらに虚しさだけだった。

 贅沢な部屋と、恵まれた生活を与えられ。それでも満足できない私は、心のどこかが欠けているのかもしれない。

 まるで割れた器のように、いつも満たされることなくグリードの存在を求めてしまうのだ。

「なんて、あさましい……」

 自分がひどく強欲に思えてならなかった。人のいないがらんとした城を歩きながら、私はせめてグリードが早く戻ってきてくれればいいのにと願った。


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