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 こうと決めたら、グリードの行動は早かった。


「二三日ここを空ける。お前らはエリアナを守れ」


「か、かしこまりました!」


 そうして私が止める暇もなく、グリードはその背に羽を生やし空へと飛び立ってしまった。

 呼び止める隙もない。


「……ねえジル」


 私は、傍らにいたジルに問いかけた。


「今、グリード様はなんておっしゃったかしら……?」


「はい。争う人の国を〝もらう〟と言っていらっしゃいました」


「も、もらうというのは?」


「おそらく、国を制圧してその国の王族から召し上げるということではないでしょうか?」


 できれば自分の予想が外れていてほしいと思ったが、ジルの解釈は私のそれとほぼ変わらなかった。


「そ、そんなことが、可能なのかしら」


 私が疑っているのはグリードの力量ではなく、自分の常識の方だった。

 アデルマイトはスレンヴェールと比べれば確かに小国だが、大陸全体を見れば中堅程度の国家である。

 内紛で争っているのは国王軍と革命軍で、双方が数万単位の軍隊を擁していたはずだ。

 まあ、その規模の大きさから内紛が泥沼化したともいえるのだが。

 我が国スレンヴェールですら、そこに介入するどころか戦争の影響を受けないようにすることで精いっぱいだった。


「まあ、可能と言えば可能でしょう。ただ、グリード様のお力をもってしても、おそらくは数日の時間でしょう。エリアナ様はここでゆっくりとお待ちくださいませ」


「ええと、でもその」


 やんわりと私を神殿の中へ戻そうとするジルに逆らい、ぽかんとグリードの飛び去った方角を見上げる人々を見た。

 私より彼らの方が、おそらく何が起こっているのか分からないだろう。

 グリードの暴挙に多少慣れている私と違って、彼らは今日ここに来たばかりなのだから。


「あの、皆さん!」


 勇気を出して声を張ると、彼らは呆然とした顔のままでこちらを見た。

 見開かれた沢山の目に見つめられると、思わずたじろいてしまいそうになる。

 けれど、私より彼らの方がよっぽど不安なはずだと思い、頑張って胸を張った。


「グリード様は、決して無慈悲な方ではありません! きっと良きようにしてくださいますから、懸念は分かりますが、わたくしと一緒にこちらでお待ちくださいませ」


 もし彼らの中の誰かが、慌てて国に戻ったりでもしたら身体を損ねる可能性がある。

 せめてそれだけは防ごうと、私は彼らに声をかけた。

 しばらく反応はなかったが、少し待っているとゆっくりと彼らの目に理性の色が戻る。


「エリアナ様、ご安心なさいませ。クリス様に命じられた以上、我々は何があってもここから動きません」


 先ほどの男性が答える。

 私は彼らの言葉を信じ、ジルに促されるままに神殿の中に入った。


 

  ***



 そしてグリードは、本当に三日の内にアデルマイトを平定してしまった。

 平定―――という言葉を使っていいのだろうか。

 彼はすべての軍を最初の二日で再起不能に陥れ、三日目に民衆の前で前国王の首を落とした。

 実際に見たわけではないが、木を通して遠くの様子を知ることができるというジルに教えてもらったことである。

 そして四日目、はたしてグリードは神殿に戻ってきた。


「エリアナ。俺たちの国ができた。今すぐそこへ行くぞ。そこな者たちは、主に物資は不要になったと伝えよ。いいな」


 グリードはまたしても呆然とする使者たちにそう告げると、すぐにその背に乗るよう私をせかした。


「まだ荒れてはいるが、俺のそばにいれば当面の危険はないだろう。エリアナはもう、人間ごときに傷つけられる体ではないしな」


 それは、涎を浴びて怪我をしにくくなったことを言っているらしい。

 確かに、あの日以来ちょっとした擦り傷などもすぐに塞がるので、私としては自分がどういう生き物になったのかちょっと不安を持ってはいた。


「では、行くぞ」


 結局、私は着の身着のままでグリードの背に乗ることになった。ジルと共に。

 そしてグリードが飛び立つ先にいったい何が待っているのか、その時の私にはちっとも想像できないのだった。

 

 


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