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「小さき者共が寄り集まって、何をしている」


 転寝をしていたのか、グリードはその牙を見せてふわあと緊張感のない欠伸をしてみせた。


「竜の方がおいでになった!」


 使者たちが慌てて、グリードの前に駆け出し平伏した。

 人の形をしていても、グリードには独特の威圧感と一目で人でないと分かる目の鋭さがある。


「我々は、クリス・トワイニング魔術師伯の命を受け、こちらであなた様とエリアナ様の世話に従事するよう、申しつかってまいりました」


 代表格らしい年配の男が、平伏したままで言う。

 普通は顔を上げるのを許されてから声を上げるものだが、随分慌てているのだろう。


「クリス・トワイニング……?」


 グリードが首をかしげているので、私が助け舟を出した。


「先日の、煉瓦の家の魔術師様です」


「ああ」


 思い当たったらしいグリードは、気のない返事をした。


「それで、俺はやつに物資を運ぶよう命じたが、それがどうしてこんな騒ぎになる? 荷物を置いたらさっさと帰ればよかろう」


「グリード様、さすがにそれは……」


 私も同じことを考えていたが、さすがにそれを口にするのは恐怖をおしてやってきた人々に申し訳ないと思い、黙っていたことだった。

 やってきた使用人たちは、話が違うとでも言いたげに顔を見合わせている。

 その騒ぎをなだめようと、先ほどの年配の男が手で仲間たちを制した。


「クリス様は、あなた様との折衝のためこちらに居を構えるとおっしゃいました。我々はその先遣隊も兼ねているのです」


「え!?」


 思わず、驚きの悲鳴が漏れた。

 私は思わず口をおさえる。


「あいつがここに住むと? 一体どういうつもりだ……」


 この騒がしさはいっときのものではないのかと、グリードが天を仰いで呻いた。


「なにか、行き違いがあるのかもしれません。クリス様がいらしたら私が話を―――」


 そもそも、クリスと主に話をしたのは私だ。

 彼との会話にこうなるような切欠が含まれていただろうかと、薄れかけた記憶をたどる。

 クリスがグリードの不興を買って害されでもしたら大変だと、自然言葉に熱がこもった。

 彼はおそらく私に同情して、これらの潤沢な物資を運んでくれたに違いないのだから。


「いい。クリスとやらがきたら俺が話をする。エリアナは中に入っていろ」


「しかし、グリード様のお手を煩わせるわけにはっ」


「もう十分煩わされているから気にするな。ジル、クリスとやらが訪ねてきたら何があってもエリアナより先に俺に知らせろ」


「かしこまりました」


 どよめく人々の中でジルだけが、ゆったりと笑みを浮かべたままグリードの命令を受託する。


「まあいい。エリアナの世話をする人間が必要なのはわかった。我が土地に居を構えるを許す」


「はは! ありがとうございます」


 代表格の男に倣い、全員が再びその場に平伏した。

 こうして改めてみると、先遣隊とやらの中には女性や子供も含まれている。


「それにしても、命令とはいえよくこんな場所までやってきたものだ。クリスとやらはそんなに人望がある男なのか?」


 グリードの問いに、さきほどの男一人が顔を上げた。


「はい。我々はクリス様によって救っていただいた者たちなのです。クリス様のご下知ならば、我々は地獄であろうとも赴く所存」


「ほう。それほどまでに恩義を感じるような出来事というのは、いったいなんだ?」


「クリス様は、平民でありながら若くして宮廷魔術師長にまで上り詰められたお方。王都の民が憧れる立身出世を成し遂げられました。そして隣国から逃げてきた我々を、雇った上に身分を保証してくださったのです」


「では、あなた方はアデルマイトのご出身なのですか?」


 スレンヴェールの隣国、アデルマイトは近年内紛が絶えず、その難民がスレンヴェールの王都にやってきて治安を悪化させているという話は聞いたことがあった。

 まさかクリスが、その人々を雇い入れていたとは。

 彼の立派な行いに、私は自分のことが恥ずかしくなった。

 私は自分の不幸を嘆くばかりで、彼らのような人々に目を向けることもなかったからだ。

 しかし、私がそんな感傷に浸る一方で、グリードは男から隣国から逃げることになったあらましを聞き、とんでもないことを言い出した。


「ふむ。近くに争う国があるのなら、そこをもらうか」


 グリードの何気ない一言に、私たちはジルを除いた全員が呆気にとられた。



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