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「グリード様は、わたくしの命を救ってくださった素晴らしい方です。だからそんな……そんなひどいことをおっしゃらないでください!」


 言い始めたら、止まらなくなった。

 話に割り込んで、大声を上げるなんてはしたない。そう分かっているのに。

 グリード様もドライアドの王も、唖然とした顔でこちらを見つめて黙り込んだ。

 人ならざる四つの目に見つめられると、この上なく居心地が悪い。


「も、申し訳ありません。出過ぎたことを申しました……」


 いっそ神殿の中に逃げ込んでしまいたくなったが、グリードの許しもなくそんなことをするわけにはいかない。

 仕方なくというかなんというか、私はその場で俯いて、この気まずい時間が過ぎるのをじっと堪えるより他ないのだった。


「はっはは! グリードめが人に懐かれるとは。これは愉快」


 ジルの体を借りたドライアドの王は、高らかな笑い声を響かせて私を驚かせた。


「黙れ棒きれが」


「ふふふ。儂が棒きれならお主は腐ったトカゲだな」


「減らず口の爺が」


「その言葉、そっくりそのままお主に返す」


 結局、またしても悪口の応酬が始まってしまう。

 人の身で口をはさむなんて出過ぎた真似だったのだと、私はあきらめて事の成り行きを見守ることにした。

 しばらくして暴言が尽きたのか、双方が自然に黙り込む。

 一体どうなるのだろうかと怯えていると、ドライアドの王が私を見てにっこりと笑った。


「そこな娘に免じて、今日はこれぐらいにしてやろう」


「は?」


 グリードが訝しげな声を出す。

 声に出さないだけで、私だって同じ気持ちだ。

 すると王は、そのほっそりとした緑色の指で王都とは違う方向を指さした。


「あちらに、腕のいい薬師がおる。人の街に入るのなら世話になるがよかろう」


 薬師ということは、人間なのだろうか。

 指が指し示す方向に目を凝らすと、うっすらと細い煙がたなびいているのが見えた。


「王様……」


「ではまたな」


 そう言って、王はそのまま消えてしまった。

 残されたのは、不思議そうな顔をしているジルだけだ。


「あら、お二人とも、なにかございましたか?」


 私とグリードは顔を見合わせて、とにかく馬車に乗り王が指し示した方向へ向かうことにした。



  ***



 馬車は私が御者をすることになった。

 召使である私がするのは当然だし、同時にドラゴンであるグリードでは、馬が怯えて動かなくなってしまうのだ。

 御者をしたことはなかったが、乗馬の経験ならばあるのでなんとかなった。女性は馬に横乗りしなければならないので、むしろ乗馬よりも楽なぐらいだ。

 グリードは拗ねたように荷台で横になっている。自分では馬が動かなかったことに、どうやら気分を害しているらしい。財宝はグリード様が出したときと同じようにどこかへ消してしまった。

 ちなみに、ジルは神殿で留守番だ。


「グリード様。もうすぐですよ」


 木々の隙間から、煙が立ち上る煙突が見えてきた。

 こんな昼間から薪を使っているなんて、その薬師というのはよほど裕福なのかもしれない。

 それとも、ドライアドから紹介されたことを考えると、その薬師というのもまた人ではないのだろうか?


「そうか」


 グリードはまだ不機嫌な様子だった。

 どうにか機嫌を取りたいが、私ごときが何をしても彼の心をくすぐることができるとは思えない。

 どうしようか悩んでいる間に、私たちは薬師の家に到着した。

 レンガ造りの、少し古びた家だ。

 壁には蔦が絡まり、森の中にあることが少しちぐはぐのようにも思える。


「先に行って、家主が在宅かどうか確認してまいりますね」


 馬を手ごろな木につなぎ、荷台に声をかける。

 するとグリードは身を起こし、不機嫌そうな顔のままで荷台から出てきた。


「俺も行く」


「しかし……」


 召使としては止めるべきなのだろうが、確かに見知らぬ人の家を一人で尋ねるのは抵抗がある。

 どうするべきか悩んでいると、その間に馬車を降りたグリードはすたすたと家に向かって歩き始めていた。

 結局私は、慌ててその後を追う。

 木でできた扉を、グリードはノックもせずに開いた。

 ガチャリと重い音。

 どうやら、掛かっていた閂が壊れたらしい。

 私は青くなった。

 中にいた人間は驚いただろうし、閂が壊れたと知れば怒るに違いないと思ったからだ。


「誰かいるか」


 しかしグリードは意に介さず、ずんずんと家の中に踏み込んでしまう。

 仕方ないと覚悟を決め、私も彼に続いた。

 もし薬師が怒ったならば、今度こそ二人の仲裁に入らねばならないだろうと覚悟を決めて。




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