のんちゃんのプリン
阿部のん。この小学生は、地球の推理小説に嵌っていた。
「ありがとうございます、ララさん」
「構わないわよ。私の本達も棚に収められているだけでは退屈でしたからね。ちゃんとした読み手が現れた事に喜んでいるものよ」
知人の異世界人、ラスト・ララチェールから推理小説をいくつか薦めてもらう。
歳は大人と子供の差があれど互いに同じ境遇で地球に留まっているため、すぐに仲良くなれた。ララチェールも、のんが読書好きという事もあって、自分しか読んでいない本を貸せる事には良いと思っていた。
お子様向けの謎解きから、大人向けの本格推理物。
「やっぱり、探偵さんが犯人さんのギミックに迫り、そこでの心理描写、葛藤、緊張感。刑事さん達の調査や容疑者達の人間模様がしっかりとした作品は面白いですね」
「トリックより人間模様の方が好きなのね」
「はい!!」
「それなら恋愛物とかにしないの?」
「のんちゃん。仮想の恋愛に興味ないです!」
言うて、ララチェールも。恋愛小説は興味で読む程度であり、好きか嫌いか言われると普通であった。
「それじゃあ、1週間後に返しますねー」
◇ ◇
シリーズ物の推理小説を持って、居候している沖ミムラの家に帰って来た、のんちゃん。
「ただいまで~す」
いつもなら、ここの主であるミムラが返事をすると思っていたが……。まだ、学校が終わっていないのか。帰ってきていない。しょうがなく、居候という身でありながら夕飯の支度をする、のんちゃん。テキパキとご飯を砥いで、みそ汁を作り始める。
そして、みそ汁の具となるお豆腐を取り出そうと冷蔵庫を開けた時、
「ん?」
【ごめん!おやつのプリン食べちゃった!byミムラ】
謎の置手紙。ミムラが書いたと思われる、謝罪文。とても乱雑な字でそう書かれていた。
のんちゃんは豆腐と一緒にその紙を取り出しながら、
「なんで冷蔵庫に置手紙をいれるんでしょう?」
まったく怒る気もなく、その手紙をテーブルの上に置く。そして気にせず調理を続ける。
たぶん、プリンとは。昨日、ミムラが買って来た高級プリンの事だろう。ミムラはその日に1個食べ、自分は今日のお昼に食べようと思っていた。
ところがミムラは、うっかり食べてしまったんだろう。きっと朝。のんちゃんが学校に行った時の見送りの時、凄い寝癖をしていたところから、寝ぼけて食べたんだろう。パンとサラダ、牛乳とバランスの良い食事にデザートが欲しいと思ってとったに違いない。
そして、食べた後に気付いて、慌てて謝罪文を書き残した。
「つまらない犯人です」
推理する価値がない事件。
でも、事件が起こった後というのはもうそんなところでしょうか。
そして、犯人はやってくる。
「た、ただいまーー!ごめん!のんちゃん!」
「ミムラさん。今、夕飯作ってますから、もうちょっと待ってください」
「プリンの件!プリンの件だよー!!ごめんねぇー!あの後、二度寝しちゃってさー!朝食摂る時間なくて、手頃で食べられるランチパックとプリン持って出ちゃったんだー!」
犯人は推理よりも斜め上に行っていた。この人、やっぱりバカだ。大学生でいいんでしょうか?
「バスに運良く座れたから、ランチパックとプリン食べちゃったよ」
たまに、そーいう人いるけどさ。
「朝食はちゃんと、座って落ち着いて、ゆっくりと摂ってください」
「はーい……で、謝罪だけじゃなくて。代わりのプリンを買って来たから!機嫌直してね?」
「別に機嫌悪いわけじゃないですけど……」
心配の言葉を出しただけであった、のんちゃん。
そして、一緒に夕飯を頂く。ご飯、みそ汁、お漬物、サラダ。そして、プリン。スーパーで買って来たプリン、ミムラは蓋を開けてひっくり返しながら、皿の上に置き。
プチンッ
「!えっ」
のんちゃんは目を丸くしながら、そのプリンが皿の上にゆっくりと落ちていくところを見た。
プリンは美味しい。その美味しいプリンが綺麗に容器から落ちていき、皿に乗る。
「ふっふー。お詫びのプッチンプリン!どう?今の凄いでしょ」
「はへぇ~~。そんな仕掛けのあるプリンがあったんですか!?」
「もっちろん!」
空になった容器をミムラからもらい、より詳しく見るのんちゃん。
こんな工夫。食欲のみならず、興味を持たせるアイデアには感嘆としてしまう。つまみ部分を見て、その仕掛けは小学生ののんちゃんにも理解できたが、それを食品に活かしてしまうのには凄い発想力。些細な事ではあるが、自分のような子供にはこんな仕掛けのあるお菓子には興味が惹かれる。
もっとも……
「いや~、プッチンプリンってホント楽しい!プッチン楽しい!」
「……あの、ミムラさん」
「なーに?」
「なんでお皿に3つもプリンを出してるんです?2つで十分じゃ?」
「あ」
この人は自分より子供だと思っている。のんちゃんであった。