第7話
「さて、ご挨拶といきますか」
私は空の榊立を降ろして中を覗き込んだ。······埃まみれ。
「うわぁ、これは随分と長い間触ってないみたいだね」
同じ神に仕える身として思う所があったのか、麿呂は悲惨そうな表情で榊立を見た。
私は何も言えず、持参したマイクロファイバーのタオルで外も中もピカピカに磨いて、ウチの神社の裏手で汲める湧水と榊を入れて、再び神棚にお供えする。
麿呂が低く唸り、仏間全体に退魔結界を施す。
場が綺麗になったのを確認してから二度深く頭を下げて八度柏手を打ち、気を引き締めてから目を瞑り神酒祝詞を奏上していく。
「荒稲を 持清まはり 和稲を 持斎はりて 造る御酒 宇邇の······」
「何じゃ。久し振りに骨のある参拝をする者がいると思ったが、家人ではないではないか」
誰とも知れぬしわがれた声が室内に響いた。
ゆっくり目を開くと、神棚の真下に白く美しい毛並みを持つ狐が四つの尻尾を揺らして鎮座しているのが見える。
「······それも獅子を携えて。娘、この私に何の用じゃ?」
私は其の場に正座をし、白狐よりも低い位置に頭を持っていく様に心掛けながら身分を明かす。
「私は穂秋津宮高麻神の社に間借りしています、愛染菊と申します。此れは見習いの麿呂。本日は御目文字叶い光栄に存じます」
深々と頭を下げてから「失礼致します」と一声掛け、座卓の上に置いていた日本酒を私と白狐の間に置く。それに続いて麿呂も私の隣で頭を下げて白狐を敬った。
「美しい白銀の衣を纏う貴方様はさぞかし名のある先輩神使様だと推察を致します。どうぞ、こちらをお納め下さい」
「我は天の位を持つ晃狐と言う。二方共、なかなか礼儀を分かっておるようじゃな、気に入った。娘、獅子、我に神酒を注げ」