第5話
「朽木さんの。こんなに若い方とは思わなかったので、驚いてしまって······申し訳ありません」
口元を手で隠して、小さく頭を下げる彼女は密かに私を上から下まで眺めている。どうやら値踏みされているらしい。
それもその筈、私の格好はダンガリーシャツにブラックデニム。霊能力者や祓い人と名乗るには少々ラフな格好と言える。
服装の事を依頼人に取り繕ってもしょうがないが、もしもの場合、この位の服装でないと動けないので致し方ない選択なのだ。
「初めての方は皆さん驚かれる事も多いですよ。この度は宜しくお願い致します」
他意のない笑みを意識すると、彼女は警戒心を解いたのか「どうぞ御上がり下さい」と来客用のスリッパを用意してくれたので、有り難く其れを履いて彼女の後に着く。
玄関を上がって直ぐ右手にある洋室の応接間に通される。壁に掛かっている鹿の首の剥製や緑色に張られたカーペットがこの家屋の歴史を表していた。
促されるまま二人掛けのソファーに腰を下ろすと、私の後ろを何食わぬ顔で着いてきていた麿呂もソファーに飛び乗りチョコンと腰を落ち着ける。
「主人を呼んで参りますので、少々お待ち下さい」
彼女は一礼して出て行き、暫くしてお盆に急須と湯飲み、隣に右足を包帯で巻いた同年代の男性を携えて帰ってきた。
私はソファーから立ち上がると彼に一礼をして名を名乗ると、広がっている額をハンカチで撫でながら着席を促してくれる。お言葉に甘えて麿呂を避けながら再び腰を落ち着けると、二人は向かいのソファー腰掛けた。
「家主の今中昭一と申します、こちらは家内の昌枝です。この度はお世話になります」
昌枝夫人が急須からお茶を注ぎ、私に差し出すのを皮切りに昭一氏は口を開く。
先ずは依頼内容の詳細を開示して頂こう、と私はお茶を啜り口を挟まない事にした。
「ご相談した通りなのですが、ここ最近の家人の怪我が頻発しております。その怪我が少々不可解でして······」
額に脂汗を滲ませ、しどろもどろに口を濁して話す昭一氏を咎める様に昌枝夫人は声を掛ける。
「貴方······、愛染さんは専門家ですよ。包み隠さず仰った方が良いのではありませんか?」
「あ、あぁ。分かってる。すみません、手前共はこういった事に不慣れでして······、その怪我というのが獣の爪痕の様な形をしているんです。ウチでは動物は飼育してないですし、勿論怪我をする様な事があったら分かります。ですが、打ち身の様な怪我にも爪痕があるので、悪い者に憑かれているのではないかと不安で······」