9 アマイモを食べる
「アマイモというのは、この蔓の下に成っているものなんですけど、王国本土だと食べないんですかね? わたしたちもあまり積極的には食べませんが」
「蔓の下ということは、地中にあるんだな? あまり、地中のものは食べるべきではないと、経典にも記述があるし……」
第十五章の七節に「土中のものをあまり口にしないように。土中のものは死者の国の所有物である」という記述がある。
民間伝承でも墓場の近くに埋まっている木の根を薬にしたところ、精神に悪影響が出たといったものがあったりもする。
地面より下のものは恐れられていて、国教が許可を出したような一部例外を除くと、食用にすることは奨励されていない。私もあまり食べたいとは思わなかった。
だが――
「何事も見てみることが大切だしな。レスタ、よかったら、アマイモとやらを見せてくれないか?」
「承知いたしました! では、小型のスコップで掘っていきますね」
道具を 布の袋から出すと、レスタはすぐに蔓の近くの土を削っていく。
その手際は洗練されていて、神官の弟子というより山に住むドワーフの娘みたいだった。
「むむむっ、なかなか深いですね……。まあ、よいでしょう。掘って、掘って、掘りまくります! てやっ! てやっ!」
「レスタ、キャラが変わってないか……?」
いつも以上にアグレッシブな気がする。やっぱり土と戯れるほうがあっているのかもしれない……。
「よし、これだけ掘ればあとは引っ張ればいけます」
蔓の根をぐいぐい引いていくと、ずぼっと何かが抜けた。
それは肥大した根っこのようなものだった。ボール状のものがついているといった感じだ。植物特有の病気のようにも見えるが……。
「ふう……。お師匠様、これがアマイモです!」
レスタが肥大した根を私に見せてきた。
「ううん……。こんなの、とうてい食べられるとは思えないのだが……。たしかに、飢えてしまうと雑草でもかじってしのがないというが……」
「あっ、いくらなんでもそのままでは食べられません。葉っぱの中に入れて、蒸し焼きにするのが一般的ですね。あるいは蒸し器で長時間蒸すかどちらかでしょうか」
「なるほど……。やはりこの島は南方なだけあって、なにかと独特だな……」
神官としては、土中のものを食べるべきではないが、その土地にあった説法をしろというようなことも経典には書いてあった。ケースバイケースだから、これを食べたっていいだろう。
「わかった。これも持って帰ろう。毒見……いや、味見をしてみる」
そのあとも、木の実など何種類かの植物を調達することができた。
それと、私は拒否したのだが、動物の類も……。
レスタは平然と地面を這っていたヘビのノド元をつかんだ。
「よっと。なかなか元気がいいシマヘビですね~」
「きゃっ!」
思わず私は悲鳴をあげてしまった。
ヘビはあまり得意ではない。勇者パーティーに所属していた時もヘビ系のモンスターは嫌だった……。
「このシマヘビも焼くとおいしいんですよ~。味はニワトリに近いです」
「えっ……それも食材なのか……?」
「そうですよ。開きにして食べます」
レスタは平気でヘビをつかんだまま微笑む。
「シマヘビは毒もないので安全です。噛まれると、ちょっと痛いですけど、こういうふうにつかむと、噛めません」
私はヘビを食べていいという宗教会議が過去にあったか記憶をあさった。
ない。
原則として、ヘビは食べてはいけない。少なくとも神官は食べることを奨励されてはない。あまり好きこのんで食べる者もいないだろうが……。
「レスタ、今回は動物は考えないことにしよ――」
「おっと、オオウシガエルですね!」
今度は左手で巨大なカエルをレスタはつかんだ。
「ひっ! なんでカエルなんて……。あまり変なものを触るな……」
「いえいえ。カエルもおいしいですよ。ニワトリのような味がします」
全部、ニワトリのような味がするんだな……。
「これだけのオオウシガエルがとれるなんてついてますね~。森の中に入っていかないと見つからないんで、効率が悪いんですよ」
「レスタ、ヘビモカエルも放してやりなさい……」
「じゃあ、せめてお酒に入れてヘビ酒を作りませんか?」
「作ってもいいけど、私は飲まないぞ……。神官は飲酒は控えないといけないんだ……。」
いきなり、ヘビやカエルというのはハードルが高い。
この世界にはまだまだ自分の知らない文化があるのだと思った。
「レスタ、もう、帰ることにしよう……。私はいささか疲れた……」
「えっ!? でも、魔王討伐にも参加したお師匠様がこれぐらいで疲労するわけないと思うんですが」
うん、体力的な意味ではまだまだ大丈夫だけど、精神的に驚くことが多かった……。
●
家に帰ると、私はレスタにくだんのアマイモというやつを調理してもらうことにした。
調理といっても野外でやる。
枯れ草や枯れ葉を集める。それを石で囲ったところにかける。石窟のような石の中にはアマイモが入っているので、蒸されることになる。直接、火をつけると、当然、アマイモは燃えてしまうだろうから、間接的にやる必要がある。
庭にはもくもくと煙が立ち上っている。その様子を見ていると、おなかが減ってきたように感じた。
「さて、これぐらいでよいですかね」
レスタがアマイモをかき出した。まだ、食べ物のようには見えない。
「まだあつあつですが、ほくほく言いながら食べるのもいいですよ」
レスタが小さなボールのようなアマイモを半分に折った。
その中身はきれいな黄色で、わずかに甘い芳香がした。
この色合いは食欲をそそる気がする。私の拒否反応もいくぶん弱まった。
「では、いただくとしようかな……。弟子が作ってくれたものだし……」
私は一口、アマイモをかじった。
「あっ、これはおいしいな……」
口の中にほんのりと甘味が広がる。
もう、拒否反応はなくなって、私は二口目、三口目とどんどん食べていった。
「いいじゃないか。思った以上においしかった」
「でしょう? そうですよね!」
レスタも自分が育てた野菜の感想を聞いたようにうれしそうだ。土地のものを褒められたからだろうか。
だが、ふと疑問に思うこともあった。
「こんなにおいしいなら、飢えをしのぐためと言わず、毎年食べればいい気がするのだが」
少なくとも、島のわずかな畑地で育てている野菜よりおいしい。
「それはですね……このアマイモ、あまり大きくならないんですよ……」
レスタは嘆息した。