1 実質的に島流し
新作発表しました! よろしくお願いいたします!
わずか十八歳で教区長にまで出世し、さらに魔王討伐の勇者パーティーにも抜擢された天才的な大賢者がいる。
そう、私、女賢者のハルーカ・ドル・トールです。
足掛け四年ほどかかった魔王討伐はピンチの連続だったけど、無事に封印に成功!
私は伝説の勇者一行の一人として、王都でも華々しく迎えられた。凱旋パレードには、王都中の人が出てきたんじゃないかというぐらいの聴衆が集まった。
でも、パレード用の屋根のない馬車に乗っている間、私はもう次のことを考えていた。
それは――宗教改革だ。
魔王討伐の際、私は勇者パーティーとして各地の土地をまわった。
そこで目にしたのは、目を覆いたくなるような神官たちの腐敗だった。
ある者は経典もろくに覚えていないのに司教となっていた。
ある者は税を払わない民は皆、地獄に落ちるなどと経典上の根拠がない脅しを交えて、農民を駆り立てていた。
ある者は僧職を売買の対象にしていた。
ある者はハーレムを作って、淫欲の限りを尽くしていた。
内憂外患のうち、魔王という外患のほうは解決した。
次は内憂のほうだ。今、宗教界は悲しいほどに乱れている。このままでは、いずれ誰もが信仰を捨ててしまうだろう。
経典にも書いてある。人間の正義の心が弱まりし時に魔王は復活すると。
そもそも今回の魔王復活の原因が宗教界の堕落かもしれないのだ。
まして、こんな状況が続けば、再び魔王が復活するという危険すらある。
教区長という宗教界でも重役の一つに就いていたからこそ、私はパレードの最中、まったくほっとなどしていなかった。むしろ、私の仕事はこれからが本番だ。
私は早速、国教のトップである大僧正に宗教界の刷新についての諌言の書をしたためた。
いかに宗教界が危機的な事態にあり、予断を許さないかということを、率直に伝えた。
王国中を勇者パーティーとしてめぐり歩いて、見聞を広めた私の言葉だ。ただの空理空論ではないと理解もしてもらえるだろう。
まして、当代一の碩学と言われてる大賢者ハルーカ・ドル・トールの文章だ。きっと伝わる!
だが、それが甘かった。
否、甘すぎた。
私は教区長という地位にはいたが、別に権力基盤を築いていたわけでもなんでもなかった。むしろ、勇者パーティーとして自分の担当教区にほとんどいなかった分、地元での地盤すら不十分だった。
私は国教の総本山にあたる王国大聖堂に呼び出された。
その時はまだ、大僧正から激励の言葉でもいただけるものと信じていたのだ。
命じられた部屋に入ると、長いテーブルに大僧正だけなく、多数の僧正、司教といった国教の幹部が並んで座っていた。
私と同格である各地の教区長も軒並み、揃っている。
よほど重大な事態と受け止めてくれている証拠だ。
「ここまで真剣に私の言葉に耳を傾けていただけるとは思っていませんでした! ありがとうございます!」
私は思わず一同に礼を言った。
これなら腐敗ぐらい簡単に取り除ける。国教は人々を救う支柱になれる。
「おぬしは何を勘違いしておる?」
大僧正がしわがれた、冷たい声で言った。
様子がおかしいと私も気づいた。
「おぬしからの手紙は何度も読んだ。まったくもって、ここまで国教を非難するとは。魔族の悪魔神官すら、これほどの激烈な言葉は吐けぬだろうよ」
「いえ、それは非難ではなく……非難かもしれませんが、今のあり方を憂えただけで……」
「国教の非難は、つまり我々が信奉する神々への非難も同じだ。当代一の大賢者などと言われて、思い上がった結果であるな」
大僧正は何を言っているんだ……?
ほかの席からも「けしからんことですな」「教区長など任せておけん」「厳罰に処すべきだ」などといった声が続く。
さすがに私も悟っていた。
これは私への弾劾だ。
私の言葉には間違いはない。だからこそ、それを認めるわけにはいかなかったのだ。私の提言どおりに宗教改革をやれば、利益を得ている層に大打撃となる。
「では、判決だ」
大僧正が言った。
「第八教区長のハルーカ・ドル・トールは島流し――――ではなかったな、南海の離島、マホラ島の筆頭神官に降格とする。筆頭神官といっても、おぬし以外に僧職の者などおらんがな」
嘲笑の声が広い議場に響く。
体制に盾突く面倒な輩はこうやって排除するというわけか。
「実のところ、勇者パーティーの一員であるお前が民衆の煽動などして、のし上がろうとしてくると厄介だなと恐れておったのだよ」
大僧正は最高神の絵画の前に座ったまま、平然とうそぶいた。
「だが、ここまでわかりやすく刃向かってくれれば、いくらでも芽を摘んでおくことができる。まったく、どこが大賢者だ。政治力のカケラもない若いだけの女ではないか」
私は勇者パーティーの中で攻撃魔法の担当もしていた。
この場の外道たちを魔法で皆殺しにすることはたやすい。
しかし、それでは何も解決しない。私は極悪人として処罰されるだけだ。
そして、同じような腐敗は繰り返される。
悪は特定の一人ではなく、今の国教のシステムそのものなのだ。葉を取り除いても、根があれば、また悪は栄えることになる。
だからこそ、時間がかかってもシステムを変えなければならないのに――
焦って、失敗をしてしまった。
私はうなだれて、その部屋を出た。
大賢者ハルーカ・ドル・トール、二十三歳。
これから先はものすごく長い余生が待っているようです……。
ものすごく久しぶりの新作ですが、よろしくお願いいたします! 5話ぐらいまでまとめて投稿予定です!