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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

砂塵の誓い

作者: 稲穂みうか

砂塵が舞い上がる。高く、高く広がる空に向かって。

「前方五百メートル先、目的地を確認!」

防砂眼鏡を掛けなおし斥候の男は言う。人数は四人。歳若い少年や少女も居る。

「目的の遺物を確認。…こりゃまた大物だな。」

少年が自分達が乗って来た蒸気駆動式モービルを降りながら感嘆する。

彼らは旧世界時代の遺物を砂の海から持ち帰る事を仕事としていた。

今回発見した遺物は普段持ち帰る物とは一風変わっていた。

「この遺物、中に入れるぞ!」

土塊の壁に僅かに入り口があり、階段を下りられるようになっている。

黒髪の少年が奥の様子を伺いながら降りていく。

「おい!イノリ!勝手な行動するな!」

「俺とセツが様子を見て来る。お前達は本部に連絡を」

「おい!」

イノリと呼ばれた黒髪の少年は階段を下りていく。

おずおずとセツがイノリに聞く。

「隊長の言う事聞かなくて良いのか?後が怖いぞ?」

「知るか」

急く様にイノリは奥へ進む。この遺物には今までとは違う何かがある。

そう確信めいた何かを感じていた。

やがて広い階層にでると中央に青白く光る人間が入れる程の箱があった。

引き寄せられるように箱に触れると自動的に蓋が開いた。

室内に花の香りが広がる。

箱の中には小さな草花が敷き詰められ、中央には少女…或いは少年が眠っていた。

「遺物の中に人間が居る…」

怯えるセツを余所にイノリは眠る人物に触れてみる。すると瞳とその唇が開いた。


「ーー」



その言葉は俺達には理解出来ない音で。女の様なそいつを連れて俺達は遺物を出て拠点に戻った。

遺物探索は他所者と貧民の仕事。この閉塞的な社会で俺のできる仕事は選べやしなかった。いつかこの最悪な狭い世界から逃げ出してやると息巻いて。

隊長が遺物から連れて来た奴を報告しに行こうとする。俺は少し思考しそれを止めた。

「もしかしたらそいつは旧世界の知識を持っているかもしれない。それがあればこんな貧困街から皆でおさらばできる……! 」

皆全員の同意は得られなかったが、そいつをこの街に置く事となった。

「……なんで世話係が俺なんだ?」

「言い出したのはイノリだろー?お前が責任持って頑張れよ」

おそらく上層部に何か言われたら俺が暴走したとカタをつけるつもりだろうと一人納得する。

「……ー?」

遺物から来た奴が閉じていた青みがかった瞳を開ける。ここに来てからこいつはほとんど眠っていて会話ができていない。

「おい、喋れるか?おい?」

「……ー言語検索を終了。変換成功。喋れ、る」

呆けていた瞳に生気が宿る。どうやら意思疎通はできるらしい。群青色の前髪をかきあげてそいつはたどたどしく話す。声音からするに男だった様だ。

「いまは、西暦何年です?」

「西暦?なんだそれは。……今は機上歴300年だぞ。俺はイノリ。お前の名前は?」

「ライ、カです」

聞いた事のない発音だったがおそらく「ライカ」と名乗ったそいつは不安げに尋ねる。

「僕はどうなるのですか?」

あまりに心細い声に後ろめたさを覚えつつもライカから過去の知識を乞う事、俺達の街に置く事を説明する。一通り説明が終わると俺に敵意がないのに安心したのかまたすやすやと眠り始めた。

なんとなく。本当になんとなくライカの手を握ってやる。同じ年頃の男子なのか疑いたくなるほどか細い指先と手首にぎょっとしながら冷たい掌を包んでやった。

「……一人は寂しかっただろうな」

俺は所詮他所からやってきた孤児。この街の奴らはとても良くしてくれる。それでも寂しさは拭えない。過去を生きていたライカにそんな自分を重ねて自嘲気味に笑って隣で眠った。



ライカは朝早くから起きる。こいつを遺物から発見して数ヶ月。特に大きな事変もなく過ごしている。遺物探索から帰ってライカから過去の事柄を聞いて紙に纏めるのが日課になった。俺が居ない日中は主に年寄りや子供たちの手伝いをしたり、家の掃除や雑事をしてくれている。

ライカから知り得た知識は膨大な量になった。大雑把にまとめると、ライカは三百年の間あの遺物で眠っていたという。今の地表は大きな飛行機という物で空を飛んでいるという。ライカは「地表が砂漠化したからですかね」なんてとぼけていたが、とにかくあいつの話に興味が尽きない。

それだけではない。ライカが「おかえりなさい」と家で待っていてくれるのが何より嬉しい。なんだか胸のあたりが暖かくなる。それをライカに話すと嬉しそうに「僕もですよ」と返されて顔が熱くなった。


ライカは時折、遠くを見る様な目をする。問うと、何でもないと言われるが先日訳を零していた。

「大切な……大切だった人が居たんです」

聞いた俺が悲しくなるほど切ない声だ。俺はそいつに嫉妬する。

「俺ならライカを残して行かない。絶対に」

「……ありがとう、イノリ」

そう答えたライカは泣いてた。


「イノリ!大変だ、軍隊だ!」

セツが明け方飛び込んできた。ライカの姿がない。広場の方から大きな悲鳴が聞こえる。嫌な予感がして大急ぎで向かった。街の至る所で街の人々が倒れていた。もう手の施しようがなく、歯をくいしばる。

広場の中央でライカが部隊長に捕まっている。俺は渾身の力で捕まえている手に体当たりをしたが逆に弾き飛ばされて地面に叩きつけられた。瞬間、部隊長の付けていた仮面が外れる。ライカの息を飲む声が聞こえた。

「ギル!?どうして!?」

「待っていた。ずっと、ライカ。お前が息を吹き返すのを」

ライカが捕まりながら目線を合わせた。俺は、地面に這い蹲りあいつを信じて辺りに倒れていた街人の剣を取った。

ギル、と呼ばれた部隊長は続ける。

「ライカが寿命だったのはわかっていた。でも俺は諦められなかった。何度も何人も命を捧げさせて、データを組んで!俺と一緒に生き直そう……?」

「……ごめんなさい。こんなにも沢山の人の幸せを奪ってまで僕は望まない。だから、イノリ!」

地面を蹴る。後はもう一直線に部隊長の背中を刺す。

「……ッ……!ライカ……」

剣はライカ部隊長を貫通してライカまで届く。

遠くで正規軍が駆けつける音がする。俺はただ立ち尽くしてた。

「イノリ……ありがとう」

ライカが微笑む。泣き噦る俺を宥めるように。


広場の事件から1カ月後、ギルバート部隊長は軍を勝手に率いて殺戮を行った事で正規軍により処断。政府から追放。

そうライカに伝えると悲しげに「今度こそ穏やかに人生を送れると良いね」と呟いた。ライカの心にはギルバートが居る。だとしても俺はこいつを支えたい。

「俺は部隊長の様にはなれない。ライカの為だけに皆を犠牲には出来ないしその度胸もない。でも、側に居たい。……居させてくれ」

「……僕はきっとイノリより先に逝く。その時、静かに見送ってくれるなら。ずっと、側に居よう」

ライカは俺の手を取り、そう誓い合った。












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