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森の宝玉と黄金の魔女  作者: シン2
3/8

一章 2話 山賊砦の攻防


「何が…あったの?」


ついて来ていたのか少女は後ろからそう声をかけてきた。

俺はそれに応えず小屋のわきににある小道から大きな道に出る。

その道には真新しい車輪と蹄のあとが付いていた。


「まだ、追いつける距離だな」


俺は独りで呟き立ち上がる。


「ねぇ、あなたこれは一体…」


まだついて来ていた少女を無視して走り出す。


「ガキどもを攫うとは、ただじゃおかねぇ!」


姿見えぬ誘拐犯への憎悪を高めながら走る。


「だから、何がおきてるの!」

「なんで付いてきてんだ!」


何故かさっきから俺の後ろをついて来ている少女に大声で叫ぶ。


「あなたに用があるからです!」

「さっきの話か?だとしたら答えは無理だ俺にそんな力はない!」


この少女が俺に何を望んでいるのかは知らないが、俺に協力出来ることなどたかが知れている。


「なんでよ!あなたはあの()()でしょ!」

「魔女?なんだそれは俺はただの職人だ!」


俺は腕の中で冷たくなっていったアイツを思い出す。

その名はもう…聞きたくない。


「嘘…ようやく見つけたと思ったのに…それじゃ…あの魔女を…」


少女は落胆で走るスピードが落ちてゆく。俺はそれを横目にわき道から森の中へと入り高台へと登る。


「見つけた…」


馬車は思った通りの道を通っていた。

山賊の砦へと続く道を。


「あそこに…ハァ…子どもを連れて…ハァ…行こうとしている…ハァ…のですか」


後ろから声がした。

そこには先程まで絶望していたはずの少女が肩で息をしながらたっていた。


「…なんでまだついてきている?」


俺は驚きを表に出さないように静かな口調で聞いた。


「あなたが…ハァ…あの魔女じゃ…ハァハァ…なかったとしても…ハァ…わたしが今、子どもたちを助けない…ハァ…理由にはならない…からです」


少女は先程より息を切らしながら。しかし、真っ直ぐに俺を見据えてそう言った。最初と同じように。


「……ッ!」


今までこの少女に対して抱いていた警戒心が少しとけた。

この少女は自分の目的があるというのにそれよりも見ず知らずのガキを助けると言うのだ。自分の事より他人の事を心配する。他人を助けてしまう。この少女はそんな人間だと俺は何故かそう思ってしまった。何故なら俺はそんな人間をよく知っている。


「似てるんだな…アイツに…」


目の前の少女は不思議そうな顔をしている。

俺は一体どんな顔をしているのだろうか。


「どうしたの?急にそんな哀しそうな顔をして」


そう少女は言った。

そうか、俺は今哀しそうな顔をしているのか…。


「別になんでもない。そういうことならあいつらを助けるのを手伝ってくれ」

「さっきのは助けるのを手伝うという意味だったのですが」


こいつはとっくに手伝う気でいたらしい。


「そうか、ありがとう」


礼を言ってから道の方へと向き直る。

ちょうど馬車が道へと入ってくる。


「じゃあ、行くぞ」


俺は少しだけ助走距離を確保して高台から飛び降りる。


「ちょ、えぇー!」


少女は上で叫んでいるようだが落下中の俺には全く聞こえない。


「あぁー、もう!」


少女も覚悟を決めたらしい。

俺はそろそろ地面が近くなってきた。

重力に逆らいながら左手を前に出す。

約15mほどの落下が終わる。

俺の左手が地面へと触れる、その瞬間落下の勢いが消滅する、そして全体重が左手にかかり折れそうになる前に態勢を崩し背中から着地する。

馬車の音が近づいてくる。

急いで立ち上がり馬車の前に立ちふさがる。

馬車が急停止する。


「なんだ!兄ちゃん、急に落ちてきたら危ねぇだろ!」


馬の手綱を引いていた男が降りてくる。


「ガキどもを返せ!」


俺は右手を降りてきた男の胸に当てる。

次の瞬間男は真後ろに吹っ飛ぶ。それはまさに落下していた俺の勢いがその男に乗り移ったかのようだった。

男はそのまま後ろにあった馬車に突っ込む。

そのまま馬車に乗り込もうとすると、中から先程の男ともう1人別の男が突風にあったかのように勢いよく飛び出してくる。

ギリギリでそれを避ける。

男達はそのまま砦の門にぶつかり動かなくなった。

馬車に目をやると中にはガキどもを背にして立つさっきの少女がいた。


「危ないですよ、子供たちに当たったらどうする気ですか!」


さっきとは違うその堂々とした言い方がまたアイツを彷彿とさせた。


「あんたこそ、俺に当たるとは考えなかったのか」

「自業自得です」


そう言われると引き下がざる得ない。


「おう、なんだこいつら」

「誰だ?てめぇら」

「お頭!門のところに変なやつらが!」


少女と問答している間に後ろには20人は越える山賊たちが砦から出てきていた。少女はガキ達と共に馬車の中に隠れた。


「これはどういうことか説明してくれるかな?」


お頭と呼ばれた男が敵意剥き出しでこちらに質問してきた。


「お前らに答える義理はない」


そう答え、顔を見られないようにフードを深めにかぶる。

敵意を向けてきた相手には敵意で返す。


「そうか、答えないなら……」


山賊たちは臨戦態勢に入った。

まずいな、これは明らかに人数の差が激しい、勝てる気がしない。

俺は寝床に置き忘れてここまで持ってきていた塗り掛けの鞘を構える。

そして、一気に山賊達の元へと駆け出す。


「ふぅぅ、ハァッ!」


山賊たちの反応は早かった、だが、一瞬俺の方が速かった。

山賊たちの先頭にいたお頭と呼ばれていた男の鳩尾(みぞおち)に鞘を突き刺す。


「ぐっ、かぁ…」

「シッ!」


お頭と呼ばれた男は咄嗟のことで反応鈍った、他の山賊たちも一瞬固まる、この瞬間を逃さず顎に一発叩き込む。

お頭の男はそのまま後ろに倒れた。


「お、お頭ー!」


頭が倒れて動揺している山賊たちの顔面にも順番に鞘を叩き込む。


「ぶっ!」

「ぼっ!」

「ばっ!」


立て続けに三人を倒して一度離脱する。


「てめぇ!よくもお頭たちを!」


怒りに声を張り上げる山賊たち。


「騒がしいわね」


そんな山賊たちを諌めるような静かな声が響いた。


「せ、先生!」


声の出処を見ると、砦の中から茶色のローブを着てフードで顔を隠した恐らく俺と同じぐらいの背丈の人物が山賊たちの間をゆっくりと歩いて俺と対面する位置まで来た。

山賊たちがその人物に道を開けていた所や、『先生』と呼ばれていたことからこいつらよりは上の立場の人間だろう。


「お客さんかな?」

「違いますよ先生、こいつが急に喧嘩をふっかけてきたんです」


山賊の一人が先生とやらに状況を説明する。


「ふーん、なるほどねぇ」


先生と呼ばれたローブの人物は辺りの有様を見てから俺を興味ありげに眺める。


「君はどんな用でここに来たのかな?」

「ガキどもを取り返しに来た」


ローブの人物は俺の答えにしばし考え込んだで、


「つまり、君はそこの馬車に乗っている子供たちの保護者ということかな?」

「そういうことだ」


正確には違うがそういうことにしておく。


「返さないと言ったら?」

「お前らを叩き潰して連れて帰る」


俺は両手で鞘を構える。

ローブの人物はフードの奥の瞳で俺を一瞥し、


「じゃあ、君は私の敵ってことでいいんだね」


全身に悪寒が走る。

ローブの人物が動いた。


「いくよ」


ローブは腕を振りかぶって真っ直ぐに振り下ろす。

その軌道にそうように俺に衝撃波が飛んできた。


「ッ!」

「でたっ!先生の超能力!」


山賊の中から歓声が上がる。

俺は鞘でそれを受け止める。しかし、触れた瞬間鞘が粉々になり、俺は咄嗟に横に転がり事なきを得る。

起き上がってローブに向き直る、俺がいた場所は衝撃波によって抉られていた。

次にローブは腕を横薙ぎふって来る。


(避けたらガキどもに当たる)


俺は衝撃波を右手で掴んだ。すると衝撃波は俺の右手に吸収されたかのように消える。


「…ッ!?」


ローブの人物が一瞬動揺したように見えた。しかし、すぐに次の攻撃に移った。

今度は両手を振り衝撃波を出して左右で挟み撃ちにするように繰り出す。


(チッ、今度は両手か)


俺はさっき()()した衝撃波を左手から放出し、空いた右手も構える。

両側から迫る衝撃波を左側のは左手の衝撃波で相殺し、右側のは右手で掴み吸収する。

間一髪で間に合った。

ローブは攻撃を防がれたのを見ると一瞬で距離を詰めてきた。

目の前まで来ると右手で掌底を繰り出してきた。

それを紙一重で躱し腕を固め、そのままローブの人物を地面に押さえつける。

しかし、ローブはすぐに身をひねりうつむきから仰向けに体位を変え、左腕で俺の右頬に掌底を叩き込む。


「ぐっ」


腕を固める力が緩む。


「フッ!」


ローブはその隙を見逃さず腕を抜き覆いかぶさっている俺の鳩尾に掌底を入れる。


「ごぼっ!」


息が詰まる。


「ふぅ、こんなもんかな」


ローブは立ち上がりながら腹を抱えて伏せている俺を見下ろしそう口にした。


「……え」


伏せているためローブの人物を見上げる形になり今までフードで見えなかったその人物の顔がハッキリと見えた。

その顔には見覚えがあった。


「なんで…お前が…?」

「やあ、久しぶりかな?」


その人物はフードを外しながらニヤリと微笑んだ。


「えーと、どういうことですか?」


驚きのあまり固まっていると後ろの馬車に隠れていた少女が展開に付いていけないといった顔をして立っていた。その後ろからガキたちも覗き込んでいた。


「まぁ、ここじゃなんだし中に入ってゆっくり話そうか」


()()()は山賊たちの砦を指さしながらそう言った。

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