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森の宝玉と黄金の魔女  作者: シン2
2/8

一章 1話 出会い


ずいぶん久しぶりに昔の夢を見た。

目から涙も出ていた。


「あの時、アイツはなんて言ったんだっけ……」

「何わけわかんねぇこと言ってんだよ」


自分以外の声がした。

声のした方を向くと目つきの悪い少年が呆れ顔で立っていた。髪はボサボサで服もボロボロ、袖から見える腕はひどく痩せている。


「あぁ、悪い。少し昔のことを思い出していただけだ」


軽く返事をして布団から起き上がる。

少年はつまらなそうな顔をして、


「お前の過去なんて興味無いし、どうでもいいけど、泣くほどのことか?」


情けないものを見る目で俺を見ていた。


「泣いてない、欠伸しただけだ」


俺は目元の涙を拭い、仕事行ってくると告げ村へ向かう。

俺が住んでいる場所は『カルナ村』という村の近くの森の中だ。訳あって村ではなく森の中で暮らしている。仕事は村の変人の手伝いだ。


「おう、おはよう」


村の入口で顔なじみのパン屋のオジサンに声をかけられる。


「おはようございます」


挨拶を返すとオジサンは袋に詰めたパンを渡してくれた。


「ほい、昨日の廃棄パン」

「ありがとうございます」


お礼を言い、しばし世間話をしてからオジサンと別れ仕事場に向かう。

入口のパン屋から仕事場まではとても長い。何せ俺の仕事場は村の最奥の山の頂上付近に住んでる変人のところだ。

山道を登り仕事場に到着する。


「おはようございます」


いつも通り息を切らしながら挨拶をし、中へ入る。挨拶の返事は無い、いつもの事だ。

中には木で作られた鞘が並べられており、奥の部屋では今も一心不乱に鞘を作っている人がいる。

俺はそちらを一瞥してから自分の作業台に向かう。作業台に座り今日の作業を確認する。今日は四体の鞘の着色だ。


「さぁて、仕事しますか」


俺はいつも通り筆に色を付け時に丁寧に、時に大雑把に色を入れていく。

一時間程かけてようやく一体仕上がり、次の鞘に取り掛かる。


日が暮れてきてやっと今日の目標を達成する。


「お疲れさん……」


後ろから急に声をかけられ驚きのあまり作業台に膝をぶつける。


「……ちゃんとやってんな、まだムラがあるがな」

「そりゃ、もう三年もやってますから」

「まだ、三年だろうが……。今日はもういいぞ」


俺は言われた通り帰ることにした。


「じゃあ、お疲れ様でした」


これからまた村を横断して寝床に帰る。

これが最初の頃は疲れたが今はもう慣れた。


「さてと、ガキどもの尻拭いしますか」


村の商店が立ち並ぶ通りに入る。


「こんにちは、ガキたち今日なんかやりましたか?」


全ての店でこれを聞いた。

この日は計六件で支払いをした。


「毎度毎度、すいません」

「ははっ、気にすんな代金はもらってるしな。それにあのガキたちに保護者がいてくれて俺らも安心してるんだからな」


魚屋のオヤジがそんなことを言ってくれるとは思わなかったので反応に困ってしまう。

なんて答えようか迷っていると、


「やめて!離して!私は違う!」


女の叫び声が聞こえる。

少し先の広場の方から聞こえてくるようだ。


「うるさい、黙って来い!この醜い()()が!」


広場に目をやると軍の兵士らしき人物が二人で女を連行している。


「ひでぇな、ありゃ少し前から酒場で働いている姉ちゃんじゃねぇか?」

「彼女、 魔女だったのか?」

「さぁな、軍の連中は気に食わないやつは全員魔女にするからな」

「……そうか」


渇いた返事をして魚屋を離れる。

そして、広場に足を踏み入れるそこにはもう兵士も女もいなかった。

静かな怒りを覚えながらその場をあとにする。



「はぁ、はぁ、はぁ、なんで俺がこんな目に……」


追いかけていた男が諦めたようにそんなことを言っている。

次の瞬間、男の首が綺麗に飛び、残った胴体も崩れ落ちた。

いつはねたのか分からないが目の前の男は首をはねられて死んでいる。


「クックックッ、キャハッハハハハハハハハハハハハハハハハ」


どこかで聞いたような狂った笑い声だった。

そういや、俺はどこにいるんだ?

この狂った笑い声の主は誰だ?

男を殺したのは誰だ?

そこで目が覚める。


今日の目覚めは昨日と違って最悪だった。全身汗だくで気持ちが悪い。


「……全くなんて悪夢だ」


悪夢のせいでもう一度寝る気になれず気晴らしに外に出ることにする。

汗だくの服を着替え外に出る。

外はまだ夜で空は満天の星空だった。

星空の下での散歩は快適だった。

今の時期は夜は冷えるが俺は暑いのが苦手なのでこれくらいが丁度いい。

しかし、快適な散歩ができたのもここまでだった。道の途中に馬車が止まっていたからだ。しかも軍の。


「そこの君、少しいいかな?」


見つからないように引き返そうとしたら後ろから声をかけられた。


「先程この近くで我々の仲間が何者かに襲撃された、なにか知らないか?」


軍の兵士らしき男は俺の返事も待たずに質問をしてきた。


「…さぁ、俺はたまたまここを散歩しているだけなので…」

「そうか、ならいい」


兵士はそれ以上追求することなく馬車の方へと帰っていく。ふと、さっきの夢を思い出したが、所詮夢だ関係ないだろう。

その場を後にしてある場所に向かう。

寝床についた時にはもう日が昇っていた。

ぼちぼちガキたちが起きる時間だなと思いつつ中に入ろうとすると、中から一つの影が俺に突撃してきた。


「…ッ!いってぇな!ってお前、どこ行ってたんだよ!」


中から出てきたのはここにいるガキ達の中で一番年長者のジルだった。


「ちょっと散歩してただけだ」

「一言ぐらい声掛けてけよ!」


ジルは俺を心配してくれていたのか不機嫌だった。


「ジル落ち着いて」


中からさらにもう一人出てきた。ジルより一つ年下のサクだ。


「でも、こいつが勝手に出ていくから…」

「ジルは本当にシンのこと好きだね」

「んなっわけねぇだろ!?」


この二人は歳が近いこともありいつもケンカしているが口ではジルが、腕っぷしではサクが負ける。

俺は言い合っている二人をそのままにして中へ入る。

中では残りの二人のガキがスヤスヤ寝ている。


「でも、ジルの言い分一理あるね」

「だろ、せめて一言ぐらいさぁ」


ケンカを終えた二人が中に入ってくる。


「それについては謝る。起きたのが夜中だ二人とも寝てた」

「はぁ!一晩中散歩してたのか!?」

「野暮用があってな」


そう言って二人をなだめると、しぶしぶといった感じで二人は怒りをおさめた。


「仕事に行ってくる」


俺は昨日もらったパンをひとつ取り仕事に向かう。

外は頭が痛くなるくらい、いい天気だった。


その日は塗り掛けの鞘を一つ仕上げるために持って帰り、ガキどもの万引きの代金を払うために商店街によった。しかし、今日はどこの店にもガキどもは来ていないという。代わりに奇妙な話を聞いた。

俺はその話を詳しく聞くために広場の近くの酒場に向かった。


「いらっしゃい」


中に入るとマスターが声をあげた。決して狭くはない店内でさらにこの時間は仕事終わりの人たちでうるさいのにその声はよく聞こえた。

俺はカウンターの端の席に座る。


「珍しいなお前がここに来るなんて」


俺が座ったのを見てマスターが話しかけてきた。


「今日はちょっと妙な話を聞いたからな…」


そう言って、今も料理や酒を忙しなく運んでいるウェイトレスを横目で見る。


「あぁ、あの軍人たちの話か」

「それの事だ、お前なら詳しく知ってると思ってな」

「そんなに詳しくは知らんがな、知ってること話してやるよ、で注文は?」

「じゃあ、コーヒー。ミルクと砂糖多めで」

「酒じゃなくていいのか」

「酒は苦手なんだ、前にも言ったはずだが?」


マスターがコーヒーを作っている間にウェイトレスを観察する。客の注文を正確に捌き他のウェイトレスともしっかりと連携できている。

ここの酒場は商店街の中心にある広場からほど近く村で唯一の酒場でこの時間には結構繁盛している。

そして、昨日魔女として連れ去られた女はこのウェイトレスだ。


「はい、お待ちどう」



マスターはソーサーに乗せたカップを差し出してくる。

ここは酒は美味いらしいがコーヒーはあまり美味しくないがたまに飲みに来ている。

カップを受け取りながら話を切り出す。


「それで俺の聞いた話というのは森で兵士が死んだって話だけど…」

「あぁ、昨日の軍人たちだとよ」


昨日のウェイトレスを魔女と偽って連れ去った奴らだ。


「そうか、やっぱりあいつらだったのか」

「らしいな、今朝オレの所に軍人たちが来たよ。ま、別にオレは何も知らないから昨日の夜の行動を聞かれただけで軍人たちは帰っていったけどな」

「それは災難だったな」

「ま、おかげでうちのウェイトレスが戻ってきたがアイツもどうやって戻ってきたか覚えてないらしい」

「それで犯人は見つかったのか?」

「それが見つかってないらしい。なんでも死に方から魔女がやったんじゃないかって軍人たちが話してたぞ」


見つかってないのか…。


「まぁ、オレ個人の意見だが軍人を狙った犯行だろうから見つからなくてもいいけどな……おっと、こんなの軍のやつに聞かれたら大変だな」


マスターはそう戯けるように言い残して店の奥へと引っ込んでいった。

俺はもうぬるくなってしまったコーヒーに口をつける。


「……苦っ!」


マスターが店の奥で肩を震わせて笑っていた。

俺はそんなマスターを睨みながらコーヒーを飲み切る。

そして、お代をカウンターに叩きつけて出口へと歩き出す。


「まいど、ところで話していて気になったんだがお前なんで軍人のことを〈兵士〉って言うんだ?」


マスターはそんなことを問いかけてきた。


「……別に特に理由はないが、強いて言うならアイツらを〈人〉だとは思わないからだ」


俺はそれだけ言って酒場を後にする。


「あと、今思い出したが軍人たちは今日の作戦がどうとか言ってたぞ」


最後にマスターがそんなことを俺に言ってきた。


酒場で得た情報を元に今回の件について考えながら寝床へと帰る。

殺された兵士は昨日のヤツらで俺の夢に出てきた兵士も昨日のヤツらだった。ただの偶然だと思いたいが。


「まさか、俺が殺した…」

「何ぶつくさ言ってんだよ」


声がした方を向くとジルが立っていた。


「何、外で独り言呟いてんだ、気持ちわりぃ」


相変わらず口の悪い。


「独り言は癖みたいなものなんだ勘弁してくれ。ところでお前は今日、何をやってたんだ?」


商店街で何もしてなかったとなるとこいつらは今日何をやっていたんだ。


「それは、あれを見れば分かるよ」


ジルが指さした方を見るとそこには一人の少女が立っていた。しかも、俺たちの寝床の前で辺りをキョロキョロしたり、ウロウロしたりと挙動不審で見れば見るほど怪しい。


「あの、女何してるんだ?」

「さぁ、夕方ぐらいから居てな、俺とサクで交代で見張ってるが何してるかは全くわかんねぇ」


少なくともまともな用じゃないようだな。


「仕方ない、俺が行ってくる。大人しくここで待ってろ」

「ちょ…」


俺はジルにそう告げ返事も聞かず音を立てないように少女に近づく。


「…何か用ですか?」


そして、後ろから静かに声を掛ける。


「ひゃっ!?」


少女はビクッと肩を揺らして驚き、その勢いのまま振り向いた。

予想通りいい反応だなぁと思っていると少女はおもむろに口を開く。


「あ、あなたがここの主ですか?」


警戒心丸出しの声音で聞いてきた。


「そうだとも言えるが違うとも言える」


俺も警戒しながら質問に答える。

一応ガキどもの保護者らしく振舞ってはいるがここはあくまでジルとサクの家だ。


「ど、どういうこと?」


流石に今のでは理解が出来ないらしい。


「…俺もここに住んではいるし、ここに住んでいる住人の中では年長者だが家の主は他にいる」


なるべく丁寧に説明する。


「要はこの小屋?の主ではないのですね?」

「住んではいるけどな」


適当に相づちを打つ。


「じゃあ、この家の主を呼んできてもらえますか」

「別に良いがガキだぞ」


怪しいがここで嘘を言っても意味は無い。


「子ども?…えっ、どういうこと…ということは、あなたが!」


急に俺を驚いたような顔で見て大声を上げる。

確かにボロボロのローブで見るからに怪しい身なりをしているが怖がるのも驚くのも遅いだろう。

俺がそんなことを考えていると少女は真っ直ぐに俺を見据えて。


「お願いします。わたしに力を貸してください!」


少女は一歩近づきそう懇願してきた。

…話が見えない。


「……ちょっと待て、なんの話…」

「うわっ!やめろ!離せ!」


俺が少女から詳しく話を聞こうとしていると森の中から叫び声が聞こえた。


「トラ!」


俺は声がした方へと向かう。しかし、もうそこには誰もいなく、サクがいつも持ち歩いていた護身用のナイフが抜き身で落ちていた。

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