開幕
―――――――――文字。それは果たしてどれだけの意味を持っているのだろうか。
例えば「喜怒哀楽」「春夏秋冬」
僕の心は哀と秋、その二つに、魅かれた。
哀しみは秋なのかもしれない。
伊都乃桜牙〈幼少期〉
ここは俺の部屋だ。
ようやく〈聖夜高校〉での仕事も終わり、気が付くと帰宅時間だったので、帰らせてもらえた。
今日が入学してから、三日だとは思えるわけがない。
というか三日目で出張って、急な気がしてならなかった。
でもようやくその三日目が終わる。
俺は東京ながらの嫌いじゃない夜景を見ながら、ベッドに入る。
疲れているせいか、俺の意識は遠のいていく。
意識の奥から子守歌が聞こえてくる。
睡眠のお知らせだ。
その遠のいていく意識とともに俺は静かに目を瞑る。
至福のひとときだ。
鳴り響く。
部屋中に殺したくなるような嫌な音が響き渡る。
その名は、〈目覚まし〉。
静寂な部屋のムードを壊している。
俺には金切り声にさえ聞こえる。
そんなことを思い、俺は起床する。
そして軽食、歯磨き、着替え、エトセトラ…
それらをすます。
そして俺は向かう。
黒髪会長のもとへ。
相変わらず、いい景色だ。
心の中からそう思う。
俺が一番好きな瞬間、〈癒し〉が起こる。
なんとも神心地。
そんな道を通り、今日も生徒会長室の扉前に着いた。
俺は迷いもなくノックする。
「失礼します。」
ドアを開ける。
するともちろんの如くいた。
相変わらず朝から、美貌の会長だ。
「今日も、始まりますよ。
あなたとのモーニングコーヒータイム。」
入学から四日目の、朝が始まる。
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入学から二週間がたった。
正確には15日。
今日は、大会だ。
あれから、出張の仕事はしていないが、いろんなことをした。
会長の仕事の手伝いはもちろんのこと、一番大変だったのは、会長の時々見せる誘惑だ。
でもそんな会長も、特訓の時間を作ってくれたりする。
そこがとてもうれしかった。
そのおかげで強くもなれた。
俺も、しばらくは目立っていないので、みんな俺のことは忘れている。
なので大会で変に目立つこともない。
安心感は半端じゃなかった。
現在は、男臭漂う控室にいる。
なかなか細マッチョがいない割に、ゴリマッチョがめちゃくちゃいる。
俺は、意外と久しぶりでもない昴の隣で着替えている。
「今は俺の事みんな忘れてるよな。」
「ああ。実は会長を個人的な写真に写しちゃいけないんだよ。
だから、みんな警戒して写真も撮らない。
だからお前も忘れられているだろうから安心しろ。」
(良かった、影薄くて。)
俺は昔から、影が薄かった。
たまには役に立つようだ。
ちなみに戦闘の時の服は、開始2時間前からきておかないといけない。
なので服に関して作戦を立てても、あまり意味がない。
みんな見るからだ。
俺は、ものを隠せるような、大き目の服を選んでいる。
色はもちろん地味な黒だ。
若干紺よりではある。
武器は、転生の記憶からのだけでなく、持参もありらしい。
相手を倒すのはダメで、場外か相手の気絶などの戦闘不能を起こせば勝ちだ。
その倒した数で、強さが決まるらしい。
だから均等に分けるように、入念にトーナメント票をチェックしていたのか。
さすが会長。
俺は少し時間が空いているので、会長がいるVIPルームに向かう。
そこには会長と、見覚えのあるメイド服を着た二人がいた。
俺は服装でもう察した。
聖夜高校でスカウトしたメイドだ。
二人とも低身長で可愛い。
今すぐにホールドしたいぐらい。
「今日が、メイドの初仕事って感じですか?」
「あら、桜牙君。
ずいぶん服装は黒がお好きね。
ようやくメイドをつけれたわ。
もうスッキリスッキリ。」
「よろしくですぅ。
執事さん。」
「勘違いしないでよね!
ただの挨拶なんだから。」
1人目は弱々しそうだ。
2人目はあからさますぎるツンデレだ。
「よろしくね。
挨拶も済んだので、控室で作戦でも考えてきますね。」
「頑張ってくださいね。
勝ったらご褒美ですわ。」
「が、頑張ってください!」
「まあ、頑張りなよ…」
「うん。ありがとう。」
3人からの声援は意外とうれしい。
この大会は、毎年三年生を除く学年がやる。
実力テストの様な物だ。
学年ごとに優勝者を決め、戦いの記録と成績で強さを測る。
それがランキングとなって出される。
そのようなシステムだ。
一年生も強者はかなりいる。
俺が見た限りは、俺が楽勝に勝てるということはないだろう。
でも俺は勝つ。
本気を出すのは少し嫌いだが、手を抜くのはさらに嫌いだ。
その思いをひしひしと持つ。
後30秒後に開幕される。
トーナメント票は全生徒に知らされていない。
俺もそのトーナメント資料を見ないように、と言われたので仕分けの時は大変だった。
相手が分からないというのは非常に怖い。
でもそれに立ち向かえてこそ英傑。
俺は心の中で闘志を燃やす。
始まりの戦線に。
カウントダウンは残り僅か。
始まった。