最初の詠唱
「呪文の確認の仕方は、他のものに比べて難しいわ。
一番無難なのは、自分の皮膚に傷をつけることだわ。
そうすると、呪文の世界で使っていた、回復呪文が甦るはずよ。
甦れば、魔法文字の予習はばっちり。」
俺自身に傷をつけるのは抵抗があったが…
やることにした。
生徒会長から渡された、ナイフで自分の出血量がなるべく少ないところを切ることにする。
俺は、歯を食いしばりながら腕の皮を切った。
もちろん、流血した。
なんだか不思議な感覚だった。
すると、頭の中にある呪文が浮かんできた。
俺は、ふと記憶を思い出し、皮に自分の指を置いて、ある文字を詠唱とともに、綴った。
療治の女神よ 傷跡をなぞっておくれ 〈傷口の癒〉
その文字を、流血した血を使い、傷口の周りになぞった。
すると、その血は癒しの黄緑色に光り出した。
傷口はその光とともに、閉じた。
「よし。成功だわ。
これで、何かきっかけとなる出来事が起きれば呪文を甦らせ、頭にインプットできるようになるわ。」
「これは…とても役に立ちますね。」
「そうでしょう。
ちなみに、呪文を詠唱するには、自分の血を使うしかありません。
指をかんだりして、血を出してください。」
「そこらへんは適当なんですね…」
「そんなことはありませんよ。」
「そうですね。」
これ以上反論するのは、まずいと思ったので抑えた。
「次の修行をする前に、あるものを渡します。」
「あるもの?」
少し、好奇心を抱いた。
「まあ今頃、他の生徒も渡せれていると思いますが。
これです。」
そういって、彼女の手の平に置かれていたのは、スマートフォンだった。
「なぜ、スマートフォン?」
貧乏な俺からは、なかなか手に入れがたいものだった。
「一つの理由は連絡手段を作ること。
どうせ、持ってないでしょう。」
なぜ知っていたんだ…
「私の番号は既に登録してあるので。
これでもう心配ありません。(ニコ)」
お、恐ろしい…
「二つ目の理由は、あなたの自分自身のステータス確認の為です。」
「ステータス確認?」
「はい。この機能を使えば、スマホから、ゲームに出てくるような液晶パネルが映し出されます。
液晶パネルには、異世界での持ち物が映し出されます。
つまり、異世界にいるときの自分の持ち物が確認できるのです。」
「よくこんなものが生み出せましたね…」
「研究グループが作ったらしいわよ。」
「やっぱり適当じゃないですか。」
「何でしょう。」
やはり、これ以上反論するのはまずいと思いやめた。
「そして、一番役に立つのは、持ち物をこの世界に呼び出せることよ。」
「ということはつまり、異世界で使っていたものをこの世界でも使えるということですか?」
「ええ、そうよ。
液晶から、取り出すっていうことではないけれど、その異世界での持ち物が分かっていれば、この液晶が無くても、元から持ち物を取り出すことができたの。
つまり、この元からの、転生でのマニュアルをうまく利用したようなものね。」
「なるほど。」
難しいことと思いつつ、しっかり理解した。
「確認するのは、修行の後にしてね。
そっちに熱中してもらったら困りますわ。」
「了解でーす。」
俺は、渡されたスマホを、ポケットの中に入れた。
そして、気の修行を始める。