2020年勝利生誕祭小話:退行×対抗
2020年の勝利誕生日は、こんなお話になりました。
時間軸としては……多分、5幕前です。多分ね。(自信がないらしい)
人間が自在に成長したり退行したりするエンコサイヨウでございますが……彼らの受難をお楽しみください!!
■登場人物:勝利、政宗、ユカ、統治
とある夏の日、学生さんは夏休みで、仙台もジワジワ気温が上がり、最高気温が30度を超えるらしい日の午後2時過ぎ。
お盆休みまでカレンダー通りの勤務を続けるユカと統治は、到着したエレベーターから我先に飛び降りると、廊下を疾走して『仙台支局』へ向かった。
ことの発端は20分ほど前。2人が仙台市内の一角で『遺痕』対策を終えて、地下鉄を使って『仙台支局』へと戻ろうかと、駅へ向かう歩道を歩き始めたときのことだ。
「あづがー……ねー統治、東北の夏って涼しいんじゃなかとー……?」
「……根拠のない情報を信じないでくれ。行くぞ」
照りつける太陽が、容赦なく2人の体力を奪っていく。二人はそれ以上会話をすることもなく、涼しい『仙台支局』に戻りたい一心で足を動かして――
「――ん?」
「統治?」
不意に立ち止まった統治が、チノパンのポケットからスマートフォンを取り出した。どうやら着信だったらしく、その場で電話を取る。
日陰もない歩道のど真ん中で待たされることになったユカは、少し不機嫌な表情で彼を見上げた。そして、すぐに終わらない電話であれば先に駅に向かおうかとも思案し始めた、次の瞬間。
「――は? 佐藤、おい、佐藤!? 大丈夫か!?」
珍しく統治の動揺した声が、真夏の歩道に響き渡る。ユカが何事かと思って目を見開くと、統治がチラリと目線をユカに向けて、視線で漠然と訴えた。
佐藤がなんかヤバイ、と。
勿論、目線のみでユカにはそこまで伝わらないが、統治が政宗からなんかヤバイ電話を受けていることは分かった。
「……分かった、とにかくすぐに戻る、何とか持ち堪えてくれ」
そう言って電話を切った統治は、状況を飲み込めないユカに、端的な指示を出した。
「佐藤がなんかヤバイ。『仙台支局』に戻るぞ」
この言葉に、ユカも真顔で返答する。
「全然分からんけど政宗がなんかヤバいことは分かった。電車の中で説明してよね」
その後、地下鉄の車内の中で詳細を聞いたユカは、絶句するしかなかった。
「統治……それ、本当なん? 政宗、熱中症なんじゃなかと?」
ユカの問いかけに首を横に振る統治から、現状がちっとも笑えないことが伝わってくる。
「とにかく……戻らんと確かなことはわからんってことやね。にしても……そげなこと、本当に……?」
一人で思案しても答えが出ないまま、『仙台支局』の最寄り駅・仙台駅に到着した。我先にと電車を降りた2人は、史上最高の早歩きで『仙台支局』を目指す。
そして、ようやくエレベーターが『仙台支局』のある階に到着し……居ても立ってもいられない2人が走り出した、というわけ。
まさかそんなこと、あるわけがないけれど。
でも、統治は前例をよく知っているので焦りしかない。ちなみにユカは半信半疑だが、統治がめっちゃ焦っているので一緒に焦っている。
すぐに扉の前にたどり着いた2人は、統治が開くと同時に部屋の中へ飛び込んだ。
「佐藤、無事か!?」
「政宗、一体何が――ってえええええっ!?」
そして、『惨劇』を目の当たりにして――驚愕する他ない。
普段は唐突な来客にも対応出来るように、衝立の手前を応接スペースとして、すぐに目につく部分は小ざっぱりしている『仙台支局』。
しかし、今はその様子をすぐに思い出せないほど……辺り一面に、真っ白なコピー用紙が散らばっている。
本来であれば奥の戸棚に片付けられているはずの紙コップが机の上で乱雑に積み重ねられており、一部へしゃげて使い物にならないものもある。なんかマジックで落書きされているものもある。そして、衝立の向こうからは……。
「うわっ!? ちょっと勝利君、そのコードは抜いちゃダメだってさっきも言ったよね!?」
「えー? どうしてですかー政宗さーん。沢山あるんだし、一本くらい抜いたって大丈夫ですよね!!」
「だからそれはサーバーだからやめなさい!!」
男性と男の子、まるで親子のようなやり取りが聞こえてくるではないか。
統治はとりあえず目の前のコピー用紙を無言で拾い続け、自分の通る道を確保した。そして、恐る恐る衝立の向こう側をチラ見した瞬間……ビクリ、と、目に見えて両肩が震える。
「統治……?」
ユカが彼の後ろから恐る恐る顔を出して……顔をしかめるしかない。
衝立の向こう側もまた、どこかしらに白いコピー用紙が散らばっていた。そして、衝立近くにある統治の席周辺で、床の上に腰を下ろし、近くにある電源コードを奪い合っている親子が一組。
1人は政宗だ。間違いない。
しかし、もう1人……政宗の隣に座る5~6の少年は、ユカに見覚えがあるようで……見たことのない、とにかく元気が有り余っている少年だった。
『仙台支局』には子持ちのスタッフなどいない。そもそも妻帯者すらいない。今日の来客予定は事前に聞いていたが……彼は中学生のはずだ。こんな小さな子どもだなんて聞いていない。
いやでも先ほど、政宗は彼のことを「勝利君」と呼んでいた。そして「勝利君」という名前の彼は、確かに今日、定期的な面談としてココに来ることになっていたはずだ。
改めてユカは、政宗とコードの取り合いを続けている少年を見つめる。
……いやぁ、まさか。
面影はあるし、消去法で考えると彼であることに間違いないのかもしれないけど……こんな非現実的なこと、ありえるのだろうか?
無言で顔をしかめるユカをその場に残し、統治が無言で2人に近づいた。政宗は統治に気付いて声をかけようとするが彼の顔を見て口をつぐみ、少年は政宗との戦いに必死で、背後から迫る脅威には気付いていない様子。
気配を消した統治は少年の真後ろに立ち……普段よりも低い声で、上から話しかける。
「――おい」
「ひっ!?」
ここでようやく気づいた少年が、ギギギ、と、錆びついた音を立てそうなぎこちなさで、自分の背後にそびえ立っている統治を見上げた。
統治はそんな彼を見下ろしつつ、それはもう低く静かに、一般的な注意喚起をする。
「電源コードで、遊ぶな」
「うわぁぁぁ政宗さぁぁぁぁん!!」
次の瞬間、少年は光のような速さで政宗の背中にしがみついた。そして、政宗の肩越しに統治を伺いつつ……視線が合いそうになると顔を隠してしまう。
政宗はそんな少年をなだめつつ……仁王立ちしている統治と、衝立付近からコチラを伺うユカに、苦笑いを向けた。
「統治、ケッカ……お、おかえり」
「佐藤……随分と派手にやれらたな」
「そうなんだよな……まさか、こんなことになるとは……」
疲れた表情でため息をつく政宗に、ユカがビクビクしながら問いかける。
「あのさ、政宗……その、後ろにいる男の子って、まさか……」
状況を考えると結論は出ている。ただ、その結論に一切の確信が持てない。
そんな迷えるユカの背中を、政宗の言葉が強引に突き飛ばしてくれるのだ。
「ああ、彼は……島田勝利君だ」
島田勝利
中学2年生で、元気が服を着て歩いているような、そんな存在だ。
そう、彼は中学2年生。少なくとも……ユカの知る彼は、こんなに小さな少年ではない。
「ま、政宗……なしてこげなことになったと?」
半信半疑のまま質問を続けるユカに、政宗はどこか遠くを見つめながら……自分のシャツを引っ張ってよじ登ろうとする勝利を諌めつつ、ここまでの経緯を説明した。
島田勝利、彼はかつて、中途覚醒者として、一時的に『縁』が見えるようになってしまったことがある。
校内におけるあぶり出しで発見された彼の対応を、当時、実績が欲しかった&彼と年齢が近い政宗が担当することになった。
通常であれば、『縁』が見えることを説明して、『縁故』になりませんかとスカウトすることもある。しかし、勝利の話を聞いた政宗は、彼と話し合った上で、彼からこの能力を奪い取る結論に至った。
彼は、この能力と生きていくには正直すぎて……とても、息苦しそうだったから。
この辺は今秋公開の『隙間語⑥』で、より詳しく語ってますのでお待ちくださいませ!!
それはさておき。
「……そっか、そこまで気付いて……島田くんは本当に真っ直ぐなんだね。そんな君には、この能力は足かせにしかならないと思う。大丈夫、心配しないで。俺が何とかするから」
「政宗さん……!!」
という若き日の2人のやり取りがあり、勝利は普通の少年に戻った。
しかし、一度中途覚醒した人間は、何らかの影響で再び覚醒してしまう可能性がある。だから、少なくとも3年間は定期的に面談をして、状況に変化がないかどうかを確認するのが一般的な流れになっていた。
普段は彼の学校が終わってから、政宗が学校近くまで出向いて、近くのファミレスで話をしてから別れる、という流れなのだが、今は夏休み中であり、お盆前の立て込んだ時期ということもあって、政宗も統治もあまり事務所をあけられない。そこで、今日は勝利からここに出向いてもらい、面談をすることになっていたのだ。
異常はその、面談の途中に発生する。
一通り話を終えた政宗が、飲み物のおかわりを持ってこようと立ち上がった瞬間――机を挟んで反対側に座っていた勝利が、背中を丸めて苦しみだしたのだ。
「勝利くん!?」
慌ててコップを置いた政宗が勝利に近づき、彼に触れた瞬間――強烈な目眩と共に、一瞬、気を失ってしまう。
そして、次に気づいたときには……。
「まっさむっねさーーーーーーーーーーん!!」
「ぐはっ!?」
やんちゃな少年の姿になってしまった勝利が、それはもう楽しそうな表情で、床で伸びていた政宗の背中に馬乗りになっていた、というわけ。
政宗の話を最後まで聞いたユカは、思わず大声て突っ込んだ。
「意味がわからん!!」
「と、いわれてもこれが事実……ちょっと勝利くん、首の後ろに乗るのはやめよう重たい」
「政宗さん、抱っこ抱っこー!! 高い高いしてー!!」
「……ヘイヘイ」
勝利を肩に担いだまま、政宗は諦め顔で立ち上がった。
そして、ユカの斜め前でことの成り行きを見守っていた統治が、静かに視え方を切り替えて、勝利の『縁』を確認する。
「やはり『因縁』の変質か……いや、あの『関係縁』もおかしいな……」
「ちょ、ちょっと統治、ようこげな状態で冷静でいられるね……もしかして、初めてじゃなかと?」
「あ、いや……まぁ……極稀に発生することだ」
「そうなん!? あたし、こげな事象初めてなんやけど!?」
改めて仙台はどーなってるんだと底知れぬ恐ろしさを感じつつ……ユカも気持ちを切り替えて、勝利の『縁』を確認する。
2本ある『因縁』の片方と、政宗と繋がっている『関係縁』に、普段はないはずのささくれを感じ取った。 まさかのダブルコンボに、ユカの頭が痛くなる。
「統治……これ、どげんすっと?」
「理想なのは、2つとも同時に処理をすることだ。片方ずつだと残ったほうが新たな弊害となる可能性があるからな」
「だよねぇ……でも……」
ユカはそう呟いて、政宗と勝利を見やる。
政宗に抱っこされている勝利は、無邪気かつ容赦なく彼の頬を餅のように引っ張って、それはもう楽しそうに笑っていた。
「ふべっ……いだい、痛いよ勝利君……」
なすがままの政宗は怒ることも出来ないまま、痛みをこらえるしかない状況である。
こうして政宗が彼を押さえていれば、何とかなるかもしれない。
ユカと統治は顔を見合わせ、小声で対応を確認する。
「統治、どっちを処理する?」
「俺が『因縁』をやる。山本は『関係縁』を頼む」
「分かった。でも、いきなり処理して大丈夫なんだろうか……彼、ちゃんと元に戻ると?」
「正直、やってみなければ分からないんだが……恐らく本編ではないから、そこまでシリアスな展開にはならないはずだ」
「そういうこと堂々と言わんでよかよ……とにかく、あたしと統治が何とかするしかないってことやね」
「そういうことだ」
2人で顔を見合わせて、握った手を軽くぶつけ合う。そして、改めて勝利を見つめると……その視線を感じた彼が、政宗の頬から手を離して、表情を硬直させた。
自分がロックオンされていることを、本能で察知してしまったようだ。
勝利の動きが止まったことに、頬を赤くした政宗が違和感を抱く。
「勝利君……?」
「ま、政宗さん……あの人達、怖い……!!」
「え? ああ、大丈夫だよ勝利君、あの人達は俺の――」
「――うわぁぁぁ!! やーらーれーるー!!」
次の瞬間、勝利の絶叫が室内に響き、それに驚いた政宗が彼から手を離してしまった。
勝利はコピー用紙が一面に広がる床へとダイブすると、周囲にあるそれらをメチャクチャに放り投げながら、必死の抵抗を示す。
「くるな帝国軍の犬め!! ぼ、僕は勇者だぞ!! 負けないんだからな!!」
「ちょっ、勝利君、どこでそんな言葉を……!?」
舞い散るコピー用紙をかいくぐりながら、政宗が彼を捕まえるために手を伸ばした。しかしその手は空を切る。なぜなら、彼が移動を始めたからだ。
「あれ、勝利君!?」
「政宗こっち!! ちょっと早く!!」
衝立の向こうから、ユカの叫び声が聞こえた。慌てて政宗が合流すると、応接用の机の上に仁王立ちしていた勝利が、ドヤ顔で3人を見つめている。(机の上に立っているので、目線は政宗よりちょっと低いくらい)
「はっはっはー!! 僕はこの世界の魔王だぞ!! ひれ伏せー!!」
「魔王!? 勇者じゃなかったとね!?」
「勇者であり魔王なのだー!! 要するに強いんだー!!」
子どもの言うことに理屈は通用しない。ユカはささくれた『関係縁』を見失わないように注意しながら、自分の机から持ってきたハサミを右手に隠し持ちつつ……左隣に立つ政宗にジト目を向けた。
「政宗……ちゃんと抑えとってよね。でないと手元が狂うかもしれんけんね」
「そんなこと分かってるよ。ただなぁ……俺一人で何とかなるかどうか……」
既に疲れた表情で肩をすくめる政宗。
そんな彼の背中を、ユカの手が軽く叩く。
「何とかせんといかんやろうもん。本気見せてよね、支局長さん」
そう言ったユカは目線を向けて、ニヤリと笑みを浮かべる。気づくとユカの向こう側にいる統治も、政宗へ向けて含みのある笑みを浮かべていた。
こう言われると、流石に頑張らなければならない。政宗は思考を切り替えて、再び勝利を見据える。そして……。
「……ケッカ、統治、俺に考えがある」
小声で端的に告げた政宗の作戦に、ユカと統治はそれぞれ一度だけ頷いた。
「――勝利君、俺と勝負しょう」
勝利から少し距離を取ったところに立った政宗が、彼を真正面に見据え、よく通る声で刺激する。
「どっちが真の魔王なのか、決着をつけようじゃないか。勇者」
こう言って勝利を煽るようにニヤリと笑みを浮かべると、勝利の瞳がキラキラと輝き、両手を握りしめて負けじと声を張った。
「おおっ!! のぞむところだーっ!! いくぞー!! とうっ!!」
その掛け声と共にテーブルから飛び降りた勝利は、奇麗にシュタッと着地してから政宗へ向けて、足を踏み出した。
「――残念だったな、勇者」
次の瞬間――後ろから、統治が彼を羽交い締めにする。予想外の展開に抵抗しようとする勝利だが、統治は彼をガッチリ離さないまま、低い声でこう言った。
「テーブルの上に、立つな」
「うわぁぁぁごめんなさいぃぃっ!!」
先ほどのトラウマが蘇り、勝利がビシリと硬直する。
3人が狙っていたのは、この一瞬。
統治の声に勝利が固まった、この瞬間だ。
「さっき統治に怒られた時、勝利君の動きが大人しくなったんだ。統治が彼を咎めている間に、俺とケッカが対処する」
先ほど、数秒で終わった作戦会議。
しかし、今の3人であれば……これだけで十分だ。
ユカは勝利の右側、政宗は勝利の目の前に移動し、ささくれている『縁』をそれぞれ掴む。
そして、目線を合わせてタイミングをはかり――同時に処理を完了させた。
「……終わったみたいだな。2人とも、大丈夫か?」
約15分後、意識を取り戻した政宗が、ほぼ同時に起き上がったユカと統治に、苦笑いを向ける。
あの後――処理が終わった直後に気を失った4人は、床に広がるコピー用紙の中で倒れていたのだ。
そして、政宗の隣では……いつも通りの勝利が、昼寝でもしているような幸せな表情で、寝転がっている。
政宗は軽く目を閉じて視え方を切り替え、勝利の『縁』を確認した。そして、異常がないことを自分の目で確認してから、再び世界を切り替える。
「あたしは大丈夫。統治は?」
「俺も問題ない。しかし……」
統治は言いよどみ、目の前に広がる惨状にため息1つ。
「……片付けが大変だな、佐藤」
「そうやね政宗。頑張ってね」
「ちょっと待ってくれよ!? どうして俺だけなんだ!? ここは3人で和気あいあいと頑張るところだろ!?」
「俺はこれから別件の仕事だ」
「あたしはおやつ食べてこんといかんけんねー」
「ちょっとまてケッカ、お前の理由はどう考えても許されないだろうが!!」
政宗の大声に、勝利の体がピクリと動く。そして、意識を取り戻した彼が、ゆっくり起き上がった。
「あ、あれ……政宗さん? それに、名杙先生に妹さんまで……僕、寝てたんですか……って……!?」
起き上がった勝利が、目の前に広がる惨劇に目を見開く。
「い、一体何があったんですか政宗さん!! まさか、妹さんと喧嘩でもしたんですか!?」
「なんであたしが!? あと、妹じゃないって何度言えば分かってもらえると!?」
ユカの反論を受けた勝利は、満面の笑みで言葉を返すのだ。
「妹みたいなものですよね!!」
「あぁっ!!違うけどあまり詳しく説明出来んのが、ほんなこつせからしかーっ!!」
叫びながら頭を抱えるユカを、統治がジト目で見つめて。
そんな様子を眺める政宗は……グシャグシャで使えなくなったコピー用紙の再利用方法を考え始めるのだった。




