2020年仁義生誕祭小話:知らなくていいオハナシ
2020年の仁義誕生日は……里穂との合間を描写したショートストーリーです。
彼も色々、思うことがあるんですよ!! モテモテのイケメンが本命のためにちょこっと頑張ってます。ゆるゆるとお楽しみください!!
■登場人物:仁義、里穂
「むー……」
9月下旬、土曜日の仙台市内。
部活終わりの里穂と待ち合わせた柳井仁義は、疲れたっすという里穂に押し切られ、仙台駅地下にあるカフェのテーブルに向かい合って座っていた。
2人の目の前には、苺とバナナをふんだんにあしらったパフェと、マンゴーパフェが1つずつ。仁義は自分の目の前にある苺をつつきながら里穂を見つめると、彼女はどこか憮然とした表情で仁義を見つめており……口をとがらせて最初のセリフに繋がるのである。
「里穂、どうかしたの?」
「ジン……どうして制服の高校にしなかったっすか?」
「え? どういうこと?」
里穂が言っている意味が分からず、仁義が首をかしげる。彼女は自分のスプーンでマンゴーをすくい上げて口に含むと、もしゃもしゃと咀嚼した後、その理由を説明した。
「制服デートが出来ないっすよ!!」
「……」
彼女らしいといえばらしい理由に、仁義は苦笑いで苺を口に含み、コメントを差し控える。
そんな彼へ向けて、里穂は持論を展開するのだ。
「ジンが仙台の高校に通うって聞いてから……やっと放課後の制服デートが出来ると思ってたっす」
「制服だったら、中学生の頃に制服で一緒に帰ってたよね?」
「それとコレとは価値が違うっすよー。やっぱり、制服の放課後ゲーセンデートはアオハルの基本っす」
そう言ってチラリと仁義の方を見やる里穂に、仁義は自分のスプーンで掬った苺を、彼女の口の中へ放り込んだ。
そして、空になったスプーンで里穂のマンゴーパフェを一口すくい上げ、自分の口に運ぶ。季節感を先取りしたような甘さが、口に残った苺の甘酸っぱさと混ざりあった。
「里穂、いきなりそんなこと言い出して……何かあったの?」
彼女が何の意味もなく、こんなことを言い出すとは思えない。仁義の問いかけに、里穂は手元のパフェを崩しながら首肯した。
「あったっすよー。ジンのこと大学生だと思ってる3年生から、紹介してくれってしつこく言われたっす」
「そうだったんだ……」
「ジンは高校生で年下ですよって説明したら、年下は嫌だってあっさり引き下がってくれたっすけど……だからもしも、周囲で嫌なことがあったら、私に教えてほしいっす」
里穂はこう言って、仁義を真っ直ぐに見据えた。
彼女がこんな話をするのは、仁義が異性に好かれるが故の嫉妬ではない。
情報を共有して、彼が嫌な思いを1人で抱えることがないよう、予防線を張ることが目的なのだから。
そういうところは素直に尊敬出来るけれど……でも、彼個人としては、もう少しだけ……。
「ジン、聞いてるっすか?」
「あ、うん、ちゃんと聞いてたよ」
仁義は着ていたハイネックの襟元を正し、里穂の言葉に何度と無く頷いておいた。
そう、いつもならば、ここで聞き分けの良いフリをして次の話にうつるけれど。
でも、今日はちょっと思うところがあるから……あと少しだけ、踏み込んだことを聞いてもいいだろうか。
「里穂は……その先輩に、僕たちが付き合ってるってこと、言わなかったの?」
「へ?」
仁義の問いかけに、里穂は軽く目を見開いて、当たり前にこう返答した。
「そんなの、一番最初に伝えてるっすよ。それをすぐに信じてもらえなかったのも悔しいっす」
「そうなんだ」
「そうっすよ。当たり前じゃないっすか。そういえばその後、少し先輩方からの視線が強かった気がするっすけど……最近はそうでもないっすね」
そう言ってパフェを食べる里穂に、仁義は少し目を細めた後……少し心配そうな表情で口を開いた。
「里穂こそ、何か嫌なことはされてない? 僕に出来ることがあれば教えてね」
「分かってるっすよー」
「本当かなぁ……」
里穂の返事があまりにも軽かったため、仁義は思わず脱力して苦笑いを浮かべた。そんな彼に対して、里穂は元気にドヤ顔を向けるのである。
「だって、ジンと私は、政さんが嫉妬するのを諦めるくらいのラブラブ最強カップルっす!! だから、困ったことも、楽しかったことも、ちゃんと言えるっすよ」
里穂が当たり前にそう言って、とても嬉しそうに笑ってくれるから。
仁義は、自分の中に浮かんだ感情を改めて自覚してとても恥ずかしくなり……手元の水を飲んで息をついた。
自分が他の女性の興味の対象になることに対して、もう少し嫉妬してくれてもいいのに……なんて。
そんなこと、望んだどころで意味がない。
里穂は仁義のことを心から思って、心配して……それらが至極当たり前だと思っているのだから。
そう、里穂が仁義に抱いている感情は、どこまでも純粋で、真っ直ぐだ。
だからこそ……隣に並び立った時、恥ずかしくない自分で居続けられるよう、これからも共に歩んでいきたい。
「……そうなんだよね」
「ジン、どうかしたっすか?」
仁義の独り言に首を傾げる里穂へ、仁義はもう一度、自分のパフェをすくって彼女の口に入れた。そして、里穂へ笑顔を向ける。
「里穂は相変わらず頼もしいなぁ、って、改めて思ってたんだ」
「んぐ……そうっすか? でも、ジンにそう思ってもらえるのは嬉しいっす」
里穂は満足そうな表情で頷いた後、自分のパフェをすくって、仁義の口の前に運ぶ。
「と、いうわけで、これからも宜しくっすよ!!」
答える代わりに口を開けて、彼女からのパフェを口に入れると……マンゴーの香りと味だけが口の中に広がった。
仁義は決して、里穂に言わなかったけれど。
先程里穂が口にしていた女子学生と、仁義は恐らく、面識がある。
一時期、里穂の周囲をウロウロしていて、時折陰口を叩いていた……仁義との関係に嫉妬して里穂を貶める、そんな生徒がいたけれど。
彼は誰よりも、彼女たちが里穂に構わなくなった理由を知っている。
――もう、こんなことはやめてください。里穂に何かあったら……僕も、黙っていられませんので。
1週間ほど前、彼女らに直談判して黙らせたのだから。
でもそれは……里穂は知らない話。
知る必要のない話だ。
「そういえば……次の練習試合、勝てるといいね」
「頑張るっすー!!」
彼女との他愛もない会話を、かけがえのない日常を続けるためならば、仁義はいつだって、彼女の知らない顔になれるのだから。




