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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
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2019年セレナ生誕祭小話:福岡友情物語~旅立ち編

 2019年のセレナ生誕祭小話は、ユカが福岡から仙台へ赴任する直前のことを綴ってみました。

 ……え? 駆との話じゃない? そうなんですよ、ちょっとここまで書いておかないと、セレナと駆を動かすわけにいかんとですたい!!

 と、いうわけで、女子高生にもてあそばれる大学生を笑ってやってください。


■主な登場人物:セレナ、ユカ、政宗

 ユカが仙台へ応援に行くことになった。

 橋下セレナがその事実を聞いたのは、彼女が旅立つ2日前だった。


「えぇっ!? トーチ君がおらんくなった!?」

「しーっ!! レナ、声が大きかよ!!」

 4月上旬、福岡では桜も散り始め、新年度の始まりに世間がソワソワしている頃。

 時刻は間もなく18時、ユカが一人暮らしをしている部屋に夕食と一緒におしかけた橋本セレナは、ユカの口をついて出た衝撃の事実に、よく通る声で盛大に驚いた。

 週間予定表で見たユカの予定が、ある日を境に真っ白になっていることに気付いたセレナが、事務所で瑠璃子に尋ねたところ……ユカが急遽、仙台へ応援職員として駆けつけることになった、という事案を聞いて。

 その用意のために午後休をとっていたユカの部屋におしかけた……というわけである。

 目を丸くして呆けているセレナへ、ユカが苦笑いで釘を刺す。

「レナは大丈夫だと思うけど、絶対に誰にも言わんでよね……一切公にはなっとらんけんが……」

「う、うん、勿論言わんけど……な、何があったと? トーチ君、名杙直系やんね……?」

 セレナの言葉に、ユカも神妙な顔で一度だけ頷いた。

 名杙は、日本の東部を統括する『東日本良縁協会』を統べる一族だ。統治はその中でも本家の中の本家、現当主の長男という立場の男性である。能力も群を抜いて強く、セレナやユカのような中途覚醒の『縁故』が束になっても敵わないほどだ。

 そんな彼が、理由なく失踪した。『失踪』ということは、誰も彼の『関係縁』を追えていないということだ。

 仙台で一体、何が起こっているのだろう。不安ばかりが募っていくセレナの表情に気付き、ユカはダンボールに冬服を詰める手を止めて口を開く。

「詳しいこと、本当に何も分からんけど……仙台で前代未聞の大トラブルが発生しとるのは分かるけんね。あたしやったら統治との『関係縁』もそれなりに長い期間繋がっとるし、何よりも、麻里子様が行けって」

「麻里子さんが……なんでやろうね。福岡は西やけんが、今までそげなこと……」

 ここに来て、更に分からないことが増えた。西側の麻里子が「行け」と言ったということは、名杙から要請が来たのだろうか。

 これまで、東のことは東で、西のことは西で解決するのが慣習だったのに……。

「詳しいことは本当に何も分からん。けど、行っていいってお墨付きもらっとるけんね。しっかり働いて、パパっと戻ってくるよ」

「ムネリンとは、連絡とっとる?」

「うん、流石にね。牛タンも用意してもらわんと」

 こう言ってどこか嬉しそうに笑うユカに、セレナはふと、数日前の出来事を思い返していた。


 数日前、事務所から盛大に飛び出していったユカと、出先から戻ってきたセレナがすれ違っていて。

「ちょっ……ユカ? ユーカっ!! そげん急いでどこ行くとー!?」

 基本的に冷静な彼女が、セレナの呼びかけにも応じずにあそこまで取り乱すのは珍しい。地下鉄の駅の方へ走り去る背中を見つめながら……何があったのかと首をかしげることしか出来なかったのだ。


「もしかして、この間、ユカが支局から血相変えて出ていったのって……」

「うん、あの時に麻里子様から聞いてね。まさか統治がおらんくなるとか思わんかったけんが……ちゃんと話もせんでごめんね、レナ」

「よ、よかよよかよ!! これは流石に、言えんことやけんね……!!」

 セレナは慌てて釈明すると、ようやく繋がったピースに、心の中で安堵していた。

 もしかしたら……ユカ自身に何か良くないことがあったのではないかと、勘ぐってしまっていたから。

「ムネリンも大変やろうけん、助けてあげんねよ。2年前は福岡が助けてもらったし」

「2年前……」

 意識して明るい声を出したセレナは、2年前の冬、政宗と初めて会ったときのことを思い出していた。


 2年前の冬、セレナが高校生だった頃。

 熊本支局の危機に福岡だけでは対応出来ず、助っ人として彼が呼ばれて、一緒に仕事をした。

 そこで――彼のことを、好きになった。


 あの時のことは『縁故』として仕事をしている今でも経験として役に立っているし、政宗とは不定期にメールのやり取りもしている。とはいえ、彼が自分になびく様子は一向に見られないまま……前進も後進もしないままで、時間ばかりが経過してしまった。


 政宗が好きなのは、ユカだ。

 自分ではないことくらい、2年前に彼を好きになった瞬間から気付いてる。


 セレナ自身もこのままでいいのか、たまに考えることもあった。セレナは高校卒業後、福岡市内の女子大に通いながら福岡支局でアルバイト『縁故』を続けていた。一方のユカは通信制の高校を卒業後、『縁故』一本で働き続けている。

 家庭環境も、生きてきた世界も、何もかもが違う。ましてや彼女は政宗の想い人だ。でも、セレナはユカ自身を嫌いにはなっていいないし、政宗と連絡を取ることを辞める予定も特にない。

 その理由は……。

 

「仙台はまだ寒そうやね。風邪にも気をつけんといかんよ?」

「あ、う、うん……」

「ほら、とりあえずこれ飲も。トーチ君の件が解決したら戻ってくるっちゃろ? それまでは私も、福岡で頑張るけんね」

 謎も解けて一息ついたところで、セレナは自身が買ってきたコンビニの袋の中から、ストローをさして飲むタイプのアイスコーヒーを2つ取り出した。そして1つをユカの前に出すと、もう一つにストローをさす。

 ユカもまた、素直にそれを受け取ると……取り出したストローをさして、一口すすった。そして、ストローから口を離すと……セレナの方をチラリとみやり、オズオズと問いかける。

「あ、あのさ、レナ……こげな時に余計なお世話だと思うっちゃけど……」

「ユカ?」

 彼女の端切れが悪くなるのは珍しい。コーヒーをすすったセレナが首を傾げて彼女を見ると、ユカは視線を泳がせつつ……躊躇いがちに口を開いた。

「そ、その……政宗に何か言伝とか、ある?」

「ムネリンに? なして?」

「いや、だって……レナ、ほら……」

「私がムネリンに告白したけど何も変わらんけん、気を遣ってくれとるってこと?」

「うっ……ま、まぁ……余計なお世話だって、分かっとるけどね……」

 セレナが意図的に言葉を選ばず指摘すると、ユカは視線を泳がせ、逃げるようにストローをすする。こういうところは本当に分かりやすい。


 セレナは2年前、あの仕事が終わった直後、政宗に告白をしている。

 熊本から福岡に戻ってきた直後、『福岡支局』で報告を済ませた後、彼らの労をねぎらう宴会への時間を、事務所内で潰していた時のことだ。

「ムネリン、ちょっといいですか?」

「セレナちゃん?」

 応接用のソファに座ってペットボトルのお茶を飲んでいた政宗が、セレナの呼びかけに顔を上げた。ちなみにユカは席を外しており、しばらく姿を見ていない。

 彼女は彼の隣に立ったまま、大きな目でじぃっと見下ろした後……満面の笑みを浮かべて言葉を続ける。


「一目惚れしたから付き合ってください」

「………………」


 政宗はたっぷり20秒ほど無言になって彼女を見上げた後、顔を下から綺麗なグラデーションで赤く染め上げながら……しめようとしていたペットボトルの蓋をポトリと落とした。そして、それを拾うこともなく……目を剥いて恐る恐る自分を指差した。

「せ、セレナ、ちゃん? あの、その……えぇっと……」

 そして、言いにくそうに言葉を選び始めるから……セレナはとても愉快な気分で、彼へ攻勢をかけるのだ。

「あ、勿論ユカのことを好きなことには気付いてま――」

「――セレナちゃん!!」

 刹那、セレナの言葉を政宗の大きな声が遮った。そして、余裕のない眼差しで周囲を見渡して……本人(ユカ)が戻ってくる気配がないことに、盛大に安堵する。

 そんな、まるでコントのような彼の姿を見ていたら……声を出して笑うしかなかった。

「アハハッ……!! ムネリン、そ、そげん動揺せんでも大丈夫ですって。ユカは今、コンビニに買い物ですから」

「へ……? え? あ、そ、そう、なの?」

 ユカが出ていったことに気付いてすらいなかった政宗が、目を丸くしてセレナに問いかける。そんな彼に一度頷いたセレナは、机を挟んで彼の正面にあるソファに腰を下ろした。

「そうなんです。私がムネリンに告白したいけんが、これでコンビニでコーヒーとおやつでも食べて来てって……500円で請け負ってもらいました」

「そ、そうだったんだ……」

「そうなんです。流石に……ユカがいるところで告白するほど、意地悪するつもりはありませんよ」

 セレナはこう言って、政宗の前にある飲みかけのペットボトルを手に取ると、中身を一口すすった。そして、笑顔で彼の前に戻すと……言葉を選んでいる彼に、さらなる牽制をかけることにした。

「私が諦めるのは、ムネリンがユカに告白して、その結果が出た時です。だから、今すぐにムネリンが告白してくれれば……すっぱり諦めますっ!!」

「セレナちゃん……!?」

「だから、それまで勝手に思って、勝手にアプローチするくらい……大目に見てくれませんか? 私が一目惚れするような場所に連れて行ったのは、ムネリンなんですからね」

「それは……」

 セレナが何のことを言っているのか、すぐに分かった。

 熊本で大きな仕事を終えた後、頑張ってくれた彼女を労いたくて、地元でも評判の、星が綺麗に見える場所まで2人で出かけたのだ。

 勿論、政宗に下心はなかった。けれど、それも今は全て言い訳になってしまう。

 そんな彼の困惑も、セレナには全てお見通しだけど。

「分かってます、ムネリンにそげな気はなかった。でも、そう思っちゃった女の子がここにいるんです。人を好きになるキッカケなんて、どこにでも転がってるんですよ、ムネリン」

 セレナはこう言って、政宗が落としたペットボトルのキャップを拾い上げた。そしてそれをスカートのポケットから取り出したハンカチで軽く拭いた後、ペットボトルの横に置く。

 そして……改めて彼を見つめた後、ユカへ「終わったよ」というメッセージを送ったのだ。


 あれから2年、セレナ自身はマイナスな感情を表に出さないようにしているから……そんな彼女を近くで見ているユカも、ついつい関わりたくなってしまうのだ。

「レナは凄かね……政宗のこと、そげんずっと思っとるげな……」

 しみじみと呟くユカを、セレナは盛大に笑い飛ばした。

「そう? 2年なんてあっという間だったよー」

「だって、大学の外とかで告白されることもあるっちゃろ? レナやったら政宗じゃなくても……」

 ユカはここまで言った後、「ゴメン」と言って首を横に振った。そして、彼女を見つめた後……苦笑いで肩をすくめる。

「……レナは、政宗がいいっちゃもんね」


 セレナがユカを嫌いになれない理由は、こうしてしっかり、相手の気持ちを尊重してくれるから。

 出会った当初は、心を閉ざしている印象が強かったけれど……ある程度の年数を共に過ごしてみると、彼女がとても優しい人であることに気付く。


 そして――ある一定のラインを、決して越えさせないことも。

 『山本結果』になる前の彼女を悟らせるようなことを、ユカは決してしないから。


 ――だって……ユカちゃんは生きるために、命を繋げるために、今、必死になっとる。なのに私、可哀想だなんて……そんなの、ユカちゃんに失礼だよ。


 初めて会った時から、彼女は強い女性だった。

 孤独しか知らない、そんな世界で傷を隠し、前を見据えて生きている彼女を――どうして、嫌いになれるだろうか。

 ただ……もしも、もしもいつか、彼女の設定したボーダーラインを最初に越える人物が現れるとすれば……それは彼であって欲しいとも願ってしまう。要するに、乙女心は欲張りなのだ。

 だからこそ。


 ――ねぇねぇユカちゃん、政宗さんと統治さんって、誰のこと? もしかして彼氏!? 嘘、2人もおると!?

 ――なっ……ち、違っ……!?


 初対面で取り付く島もなさそうだったユカに隙が生まれたのは、この2人に関する話題だった。

 しかし、ユカは生まれ持った性格なのか、彼女なりに気を遣っているのか……2人と積極的に連絡を取ることもないし、仙台へ遊びに行く気配もない。

 だから、セレナが政宗と連絡を取って、ユカにそれを話題として提供すれば……彼女の張り詰めた気持ちを解すことが出来る、そう思っているから。


 そんなユカが、仙台へ出向する。しかも、仙台の非常事態に対する助っ人として。

 遊びに行くのとは訳が違うのだ。心配が先行してしまうのは人として当たり前。

 だけど……。


「……ありがと、ユカ。私のことよりも、仙台では自分のことば大切にせんといかんよ」

「レナ……」

「ユカも一人で突っ走ることがあるけんね。忙しかと思うっちゃけど、ちゃんとコーヒーとか飲んで、一呼吸置いてから行動せんといかんよー?」

 セレナはそう言って、目の前にあるアイスコーヒーをストローですすった。そして、未知の環境へ足を踏み入れる親友へ、今の自分に出来る最大限のエールを送る。

「東だと環境も違うけんが、戸惑うこともあると思う。そこはムネリンともちゃんと連携とって、五体満足で福岡に帰ってくること。そしたら……また、コーヒーおごっちゃるけんね」

 こう言って笑顔を向けるセレナに、ユカもまた、両肩の力を抜いて……口元に笑みを浮かべた。

「……了解。ちゃちゃっと解決して、コーヒーに合いそうなお土産、いっぱい買ってくるけんね」


 この時は……ユカは少なくとも、1ヶ月もすれば戻ってくるだろう、そう思っていた。

 いくら失踪したとはいえ、統治は名杙本家の人間だ。東日本良縁協会を統括している旧家が、この事態を見守るだけだとは思えない。ユカが呼ばれたのも、事務と実働の人員補填だろう……そう、思っていたから。


 まさかこの数ヶ月後、セレナがユカに会いに仙台へ行くことになるなんて、思ってもみなかった。

 セレナは、小説第5幕で掘り下げたキャラクターなんですけど、登場は第1幕。ユカと政宗の福岡旅行(24時間)が、初登場でした。

 そこで書いてしまったんですよ、セレナが政宗に告白していて、それをユカも知ってるって。それは別にいいんです、そういう設定なんで。

 問題は……第5幕本編で、セレナと政宗の出会いと、彼女が彼を好きになったキッカケまでは書いたのに、その後、「一度告白している」という事実までを描写しなかったことなんです!! そうです霧原さん忘れてたんだ!!(威張れないよ)

 と、いうわけで今回の外伝で書いてみました。可憐なJKからド直球な告白をされて、狼狽してなすがままにされる政宗は何なの本当に。バカなの?(そう思います)

 この辺は第1幕の小悪魔セレナを思い出して書きました。政宗がヘタレだということがよーーーく分かりました!!

 これで、政宗とのエピソードは書き尽くした感があるので……来年以降は駆が出てくるんじゃないかな!! 頑張れ駆っち!!


 セレナ、誕生日おめでとう。これからもとびっきりキュートで優しい君でいてくれ!!

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