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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
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2019年環生誕祭小話:走る

 2019年の環誕生日は、彼が陸上部にいる様子を少し書いてみました。環って短距離走の印象はなかったですね。色々なことに首を突っ込む少年、そんな彼の心境やいかに!!

 ……瑞希は、出ません!!


■主な登場人物:環、勝利

 森環(もり・たまき)は、パソコン部と陸上部を掛け持ちしている。

 もともと彼は、幼少期から――石巻市に住んでいる頃からパソコンが好きだった。それこそ食事や睡眠を犠牲にしてでも、無心で向かい合いたいほどに。

 とはいえ、彼がパソコンにのめり込むことを、彼の母親が全て許容しているわけでない。宿題を忘れたりして勉強を疎かにしていると感じたら電源コードを引き抜かれたり、視力が少しでも低下すれば「パソコンなんてものに夢中になるから……」と、家で顔を合わせる度に言われ続けた。

 その度に「母さんの仕事が忙しくて家に誰もいないから、パソコンに相手してもらってるんだけど」と言い返せば、仕事人間で多少の後ろめたさのある母親を黙らせることは出来たけれど。


 そんな彼が、両親の離婚に伴って石巻市を離れ、仙台市に引っ越しをすることになった。

 そして、転校した先の学校では……陸上クラブに所属したのだ。

 環からその話を聞いた母親は、それはもう驚いた。パソコン部に入ると信じて疑わなかったからだ。

 驚くと同時に彼が自分から運動を始めようとしたことを評価して、パソコンに対する自宅での制約を少しだけ緩めてくれたこともある。

 視力が低下して、メガネをかけなければならなくなったら、パソコンを禁止する――新たな条件もなし崩し的に追加されたけれど。


 ただ、この頃の彼は……パソコンに対して、あまり積極的ではなかった。

 ポータルサイトを開けば、災害の悲惨な現状を伝える見出しばかりが目についてしまう。

 つい先日まで住んでいた町が、場所が――ほんの一瞬で全て消えてしまったのだから。


 自分は何も、失っていないはずなのに。

 ほんのり感じる消失感を意識しないように、彼は静かに、走り続けていた。


 その後、片親に対する補助制度がある私立中学校に入学した環は、パソコン部と陸上部を掛け持ちすることに決めた。

 中学ともなれば部活の専門性も高くなるので、自分と同じパソコン好きの知り合いを作りたかった。その一方、陸上を続ければ、母親のパソコンに対する態度を軟化させ続けることが出来ると思ったからだ。

 幸いにも部活の掛け持ちは禁止されていなかったので、環は持ち前ののらりくらりとした性格で、両方をそれなりに楽しんでいた。

 環は主に、1500メートル走の選手として練習を続けていた。短い距離を全力で走るよりも、自分のペース配分で、ある程度の距離を走るほうが性に合っていると思ったからだ。

 目標タイムを設定して、その時間内で走るにはどうすればいいのかを考える。トライアンドエラーの繰り返しは、パソコンにも通じる何かがあるような……そんな気がした。

「お疲れさまー。森君って、なんだかんだタイムが縮んでるんだよねー」

 8月下旬、夏休み明けの放課後。秋季大会に出場する選手を決める参考とする記録を取るために、環は他の部員に混ざってトラック内を走っていた。

 走り始めて数分後、無事に完走したところで……陸上部のマネージャーを務める2年生が近づいてきて、手元のストップウォッチを見せる。

「規定タイムクリア、おめでとー」

「……どうも」

 環は両肩で呼吸を整えながら右手で汗をぬぐい、表示されている数字を横目で確認した。

 今回の目標は4分40秒以内。環の記録は4分35秒だった。ノルマは達成したものの……競技大会で上位に入れるような記録とは言い難い。

 更に上を目指すのであれば、もっと集中してスタミナをつけたり、走ることに集中する必要があるだろう。とはいえ、仮にそんなことをすれば、パソコン部に顔を出せないどころか……生徒会も、仙台での『研修』も、疲れて嫌になってしまうかもしれない。それは彼の本意ではないのだ。

 淡々と呼吸を整える環の隣で、マネージャーは記録を手元の用紙に記載しながら……彼をみやり、肩をすくめた。

「森君さぁ、もうちょい日数増やして練習すれば、絶対もっと速くなると思うよ。生徒会とか忙しいと思うけど3年生も引退したし……もーちょっとこっちに顔出せない?」

 こう言って「どう?」と目線で訴える彼女に、環は真顔で首を横に振った。

「いや、無理っすね」

「ですよねー。本当、そういうとこはっきりしてるなー。じゃ、今から15分は休憩でいいよ。お疲れー」

 そう言ってどこか楽しそうに笑う彼女は、他の選手に記録を伝えるために、環の側から離れていった。

 彼女の背中をぼんやりと見送りつつ……正面の校舎上部に埋め込まれた時計を確認して、その場を離れる。

 校舎の裏手、運動部の部室があつまる建物の一角に整備された水道をひねって水を飲みながら……ついでに顔を洗い、蛇口を止めた。

 顔や前髪から雫が滴り落ちてくるが、それを拭くタオルがない。若干失敗したと思いつつ、1人、静かに呼吸を整える。

 

 走るのは楽しい。ただ、誰かより速く走ってやろうとは思えない。

 要するに、自分には競争心がないので……競技には向いていないと思うのだ。


 ――じゃ、じゃあ、陸上とか水泳とか、個人で記録を更新することをやってみればいいんじゃないかな。そしたら自分との勝負だよね。


 元々、陸上を始めたのだって……人に言われたからだ。最近まで誰に言われたのかも忘れていたくらい、そんな、些細なキッカケ。

 結果として陸上を始めたことで、体力もアップしたし、母親からの心象も良くなった。だからこそ、今のままで問題なくて、全てに対して広く浅く関わっていく……今はそれでいいと思う。


「……暑い」

 環がボソリと呟いて、さて、部活に戻ろうかと一歩踏み出した次の瞬間――


「――あ、森君!!」


 周囲に響く声に、環は思わず足を止めて、反射的に数歩後ずさりした。

 部活棟の影からひょいっと顔を出したのは、生徒会副会長の島田勝利。夏服のブラウスと規定のスラックスパンツ、快活を絵に描いたような風貌で、環を真っ直ぐに見つめている。

「……」

 彼が出てきたことで、周囲の温度が2度上がったような、そんな気がした。

 環が立ち尽くして何も語らないのを良いことに、勝利は大股でズンズンと近づいてくる。

「いやー奇遇だね!! あ、そっか、今日は陸上部だっけ。僕? 僕はね、文化祭でパフォーマンスをする部活に書類を配っていたところなんだよ!! あ、陸上部の部長さんってどこにいるか知ってる?」

「はぁ……多分、グランドのどっかにいると思うっすけど……」

「グランドだね!! ありがとう!!」

 勝利は満面の笑みでこう言うと、踵を返してその場を後にした。

 こんな断片的な情報で良かったのだろうか……まぁいいかと結論づけて、環もまた、来た道を引き返す。


 勝利と出会ったのは、環が1年生の時。

 パソコン部の備品を申請するための書類を、生徒会に届けたのがキッカケだった。


 ――そうなんだよ、実は今、生徒会って僕と阿部会長しかいなくてさ。でも、少数精鋭で頑張って、この活動が素敵だって知ってもらうんだ!!


 根拠もなくそう言った彼が、少し暑苦しくて印象に残った。


 その後、生徒会が拠点にしている空き教室へと注文していた備品を取りに行った時、彼が運ぶのを手伝ってくれたのだ。

 階段を何往復もして、誰よりも率先して動いている。その姿が実に暑苦しくて印象に残った。


 ――森君って、字が綺麗なんだね!! しかも書くの早いんだ!!


 備品に貼る管理番号などを書いていると、勝利が手元を覗き込んで、そんなことを言っていた。

 そうだろうかと環が無言で自分が書いたものを見下ろしていると、勝利は少し躊躇った後で……こんなことを口にしたのだ。

「あのさ、森君……生徒会って、どう?」

 曖昧に問いかける彼へ、環は思ったことを正直に口にする。

「何してるのかよく分かんないっすね」

「だよね……僕も実際に活動するまで、何をしてるのかよく分からなかったんだけど、でもね――!!」

「――俺、陸上部とパソコン部掛け持ちしてるんで、無理っす」

 

 こうして、最初の勧誘はバッサリ切り捨てたのだが……その後色々あって、関わることになった。


 あれからまだ、数ヶ月しか経過していないけれど……更に色々なことがあり、今は4足のわらじを履いている。人の足は2本しかないのに、倍のことにそれぞれ片足を突っ込んでいるのだ。

 グランドに戻る道すがら、環は今日これからと明日の予定を脳内で思い描いて……どこでゲームの続きをしようかと、思案を巡らせる。

 これ以上はもう、自分では何も出来ない……そう思うこともあったけれど。


 ――環君は何でもやってみたほうがいいよ。諦めちゃうのは、勿体無いと思うよ。


 過去に言われた言葉が、脳裏をかすめる。

 これと同じようなことを、実はつい半年ほど前にも言われたような気がするのだが――すぐに思い出せなかったので、とりあえず今は諦めた。

 大切なことであれば、きっと……記憶から消えたりしない。必要な時に思い出せるから。

 自分のペースで走り続けていれば、いつか、きっと。


「……ん」

 自分の中でスイッチを切り替えた環は、体を再び暖めるために、小走りでその場から離脱する。

 メニューを増やさなくても、時間を伸ばさなくても、タイムを縮めるために出来ることがあるかもしれない。

 今の自分に出来ることを諦めずに続けること、それが……生かされた彼の役割だと思うから。


 その後、グランドに戻ってきた環を見つけた勝利が、顔に憤慨を貼りつけたまま、大股で彼に近づいてきた。

「ちょっと森くん!! 部長さんいないんだけどどこ行ったの!?」

「そっすか。どこっすかね」

「森くーーん!!」

 勝利の叫び声に背を向けて、環はさっさとランニングに出発する。

 だって、陸上部の部長に用があるのは……環ではないのだから。

 彼のペースで話をすすめていると、あっさり終わりました。(笑)

 生徒会加入まで書くと更に長くなりそうだったので、その話はいずれまたどこかで!!(まだちゃんと考えていないらしい)←

 縁故としての実績はまだない彼ですが、メイン3人が福岡へ行っている間の居残り組に名を連ねていますし、これから益々頭角を現して欲しいですね。


 環、誕生日おめでとう!! 島田先輩にはもう少し優しくてもいいよ!?(笑)

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