2019年蓮華蓮生誕祭小話:Stand Up Girls!!
今年の蓮華蓮生誕祭は、なんと、華蓮のみをピックアップ!!
彼女が縁の下の力持ちになる様を御覧くださいませ!!
■主な登場人物:華蓮、里穂、心愛、仁義
それは、仙台七夕まつりも終わり、お盆休みに入る直前のとある平日のこと。
「片倉さん……折り入って頼みがあるっすよ」
部活終わりに『仙台支局』へ顔を出した名倉里穂が、神妙な面持ちで近づいてきて。
「私を女の子にして欲しいっす!!」
「……はい?」
自分に向けて、稲穂よりも低く頭を垂れる里穂に、彼女――片倉華蓮は、真顔で首を傾げることしか出来なかった。
平日午後、時刻は間もなく17時30分。
夏休みも勤労に勤しむ女装男子・片倉華蓮は、かれこれ2時間ほど、引き継ぎの資料を作り続けていた。
今日の華蓮は肩の上で揺れる長さのショートヘアのウィッグに、レース素材の半袖ブラウスと青いスキニージーンズ。その上から膝丈の長さほどあるライトベージュのロングカーディガンを羽織っており、足元はくるぶし丈のソックスにデッキシューズという出で立ち。体のラインを隠しつつ、クーラーの寒さにも耐えられるお手本のような格好で、眼鏡の奥の瞳で画面を追いながら手を動かしている。
お盆明けに入社する予定の新入社員・支倉瑞希。彼女へ引き継ぐ業務があることから作り始めた資料作りも間もなく佳境だ。本日中に終わらせることが出来そうだと安堵していたところに里穂がやってきて、先程の発言である。
里穂の言葉を聞いていた山本結果、佐藤政宗、名杙統治の3名が、それぞれの席から華蓮を凝視している。そんな視線はとりあえず無視して、華蓮は里穂にことの真相を問いかけた。
「まず、顔を上げてください。それで、何事ですか?」
里穂はポニーテールが綺麗な弧を描く勢いで顔をあげると、華蓮を凝視して距離を詰める。
そして、「いいから本題を言ってくれ」と目線で訴える華蓮の願いを、豪快に無視するのだ。
「だから、私を女の子にして欲しいっすよ!!」
「あの、大変申し訳ないんですけど意味が分かりません。そもそも名倉さんは女性ですよね?」
「そうなんっすけど!! 要するに私を可愛くして欲しいっすよ!!」
「はぁ……はぁ?」
どこまでも要領を得ない里穂に、無駄な時間ばかりが過ぎていく。
華蓮は一度だけため息をつくと、チラリと時計を見やり……こんな妥協案を提示した。
「お話をゆっくり伺いたいところなのですが、今はまだ仕事があるので……終わってからでも構いませんか?」
この言葉に里穂は「分かったっす!!」と頷いた後、仕事の邪魔をしてはいけないと一度退散。衝立の向こうへと引っ込んで行く。
揺れるポニーテールを見ながら、華蓮が首を傾げていると……隣の席のユカが、待ってましたと言わんばかりの勢いで華蓮の机を叩いた。
「ねぇねぇ片倉さん、里穂ちゃんと何かあったと?」
「さぁ……少なくとも私には心当たりがありませんので、名倉さんの話を伺いたいと思います。山本さんはあと20分で先日の実績をまとめてくださいね」
「えぇっ!! 18時までじゃダメなん!?」
「本来は今日の午前中までです」
華蓮からにべもなく言い返されたユカが、口をとがらせながらパソコンに向き直って。
間に合わなかったらシラネと思いつつ、華蓮は自分の仕事を再開して……一体里穂は何を言いたいのかと考えてみたが、特に何も浮かばなかった。
そして、華蓮が華麗に定時退社をした18時過ぎ。
2人は仙台駅東口にあるファーストフード店で、軽食と共に向かい合って座っていた。
店内は放課後の夕方ということもあり、2人以外にも多くの学生で賑わっている。とりあえずアップルパイと烏龍茶を頼んだ華蓮がそれを口に運んでいると、ポテトを注文した里穂がそれをつまみながら、先程の話の続きを始めた。
「それでっすね、私が可愛くなるためのアドバイスが欲しいっすけど――」
「――ちょっと待ってください。話が読めません。そもそも……どうしてそんなことになっているんですか?」
里穂が「可愛くなりたい」と言い出した理由も分からなければ、それで自分を頼る理由も分からない。要するに何も分からないのだ。
説明を求める華蓮に、里穂はコーラをすすった後……視線を下に向けながら、ようやく詳細を語る。
「ジン……今、仙台に住んでるじゃないっすか」
「そうですね。引っ越しを終えたばかりだったかと。そういえば、編入試験に合格したんですよね」
里穂の恋人である柳井仁義は、7月に色々あって、石巻から仙台に引っ越しをしてきた。そして今、蓮が通う高校の編入試験を受けており、つい先日、『合格』の通知を受け取ったばかりだ。
華蓮の言葉に里穂は「そうっす」と頷いた後……周囲をぐるりと見渡して、ため息をつく。
「仙台は……可愛い子が多いっす」
「そうですか?」
「そうっすよ!! だから私も可愛くなりたいので片倉さんに協力して欲しいっす!!」
「だからそこで話を飛躍させないでください。名倉さんはどうして可愛くなりたいんですか? 柳井君に何か言われたんですか?」
仁義が里穂の容姿や外見に関して何か口を出すとは思えないし、そもそも里穂の顔のパーツだって十分優秀な働きをしていると思う。これまでの里穂とは明らかに違う物言いに華蓮が首を傾げいると……里穂はポテトをもう数本口の中へ放り込み、噛み砕きながらため息をついた。
「……釣り合わないって、言われたっす」
「釣り合わない……柳井君と名倉さんがですか?」
「そうっす。今までも言われたことはあったっすけど、ジンと一緒に仙台を歩く機会が前よりも多くなって、目撃者も増えて……」
里穂は再度ため息をついて、それ以上語らながったが、察しの良い華蓮にはそれだけで十分想像出来る。
仁義はとても目立つ外見をしていて、それが全てプラスに作用している稀有な存在だ。
里穂は確かに可愛いけれど、彼女が50人に1人の人材だとすれば、仁義は50万人に1人の逸材と言っていいほどのレアキャラである。
今までは二人とも石巻で暮らしており、仁義の学校も単位制の高校だったため、里穂とのデートの彼らの地元ばかりだったけれど……仁義が仙台に引っ越しをしてきて、里穂も仙台市の高校に通っているので、自然と、会う場所が仙台市内になり。
それらの要因が重なった結果……里穂が僻みの対象になってしまったらしい。
女子は面倒くさいなぁと思いながらストローで烏龍茶をすする華蓮に、里穂は改めて懇願した。
「部活でずっと太陽の下にいるので、どうしても日焼けしちゃうっすよ。例えば、そういうのを上手く隠せるようになりたいっす!! そんなテクニックを教えてほしいっすよ!!」
「目的は分かりましたが……どうして私なんですか?」
「だって片倉さん、ヒゲとかファンデーションで隠してるっすよね?」
「隠してません」
「えぇっ!!」
刹那、盛大に驚く里穂を華蓮はジト目で睨み……ため息を1つ。
そして、改めて里穂を見つめた後、念のために釘を差しておく。
「一応、私も多少は化粧品を使っていますが……それらは全て自己流です。名倉さんの期待に添える結果になるかどうかの保証は出来ません」
「そんなこと分かってるっす。まずは色々な方法を知って、自分にあったものを見つけたいっす」
「そうですか……」
華蓮の言葉に揺るがない決意を見せる里穂に、とりあえず残りのアップルパイを食べてから……華蓮は静かに首肯した。
1回くらい付き合っておけば、次に断る口実が出来る。そう思ったからである。
「分かりました。私でよければ……」
華蓮の了承を聞いた瞬間、里穂の目にキラキラした光が宿る。
「本当っすか!! ありがとうっす!!」
「ただ……どこでやりますか? こういった店内で化粧をするのは、個人的にあまり好きではないんですけど……」
問題は場所だ。華蓮の本体は蓮なので、例えばメイクをせずに一緒に歩き回って、噂の尾ひれを提供したくはない。仮に華蓮のままで講習会を開きたいと思っても、道具を広げてじっくりメイク出来るような場所がない。そもそもメイク道具を持ち運ぶのも若干面倒なのが本音だった。
華蓮の問いかけに、里穂は「大丈夫っすよ」と頷いた後、笑顔で言葉を紡ぐ。
「私が片倉さんの家に行くっす!!」
「それはダメです」
「えぇー!!」
間髪入れずに拒絶する華蓮に、里穂が再び大きな声を出して。
「当たり前じゃないか」と思いつつそんな彼女を横目で見ながら、華蓮は静かに烏龍茶を飲み干した。
そして、その翌日。時刻は朝の9時過ぎ。
13時からアルバイトの華蓮は、仙台駅で里穂達と待ち合わせをしていた。
複数形にしたのは、これからやってくるのが里穂だけではないからである。
今日の華蓮はボブヘアのウィッグを着用し、グレーのフード付きワンピースとレギンスというシンプルな出で立ち。その上からは昨日も着用していたロングカーディガンを羽織っており、手にはいつもより荷物が詰まっている気配のトートバックを携えていた。
グラウンドの使用順と連日の猛暑が考慮されて、里穂の部活は休み。仁義のデートが始まるのは10時30分からと聞いている。それまでに彼女を『可愛く』仕上げなければならない。
とはいえ……華蓮が1人で思案していると、JRの改札口から元気な声が届いた。
「片倉さん、お待たせっすー!!」
ポニーテールを揺らして近づいてくる里穂は、ユニク◯のTシャツに濃い青のスキニーパンツという出で立ち。足元はハイカットのスニーカーだ。
良くも悪くも彼女「らしい」格好に、華蓮が「ふむ……」と思案していると、里穂の後ろからついてきた彼女が、里穂に追いついて息を切らせる。
「ちょっ……ちょっとりっぴー、足が早いわよ……」
ツインテールを揺らして登場したのは、名杙心愛だった。今日は襟付きのワンピースに透け感のあるハイソックス、足元がミュースのため、どうしても足が遅くなる。
実は心愛は、華蓮が呼んだ助っ人だった。そんなこんなで追いついた心愛が華蓮に近づき、改めて彼女に会釈をする。
「おはようございます。今日はりっぴーのためにわざわざ……本当にありがとうございます!!」
「いえ、こっちこそ……急にお呼びして申し訳ありません。私では持っていないので、助かります」
2人の間で進む会話に、里穂がほえーっと首を傾げる。
そんな里穂を華蓮と心愛はそれぞれに見つめ、各々の決意を告げた。
「やるからには全力で事に当たらせていただきます」
「よーしっ!! りっぴーを可愛くしちゃうんだから!!」
「心強いっす!! よろしくお願いしますっす!!」
と、いうわけで。
24時間営業のカラオケボックスに移動した3人は、当然、特に歌うこともなく……照明を明るくすると、広いテーブルの上に道具を並べ始めた。
まず、華蓮は基礎化粧品とスキンケアのアイテム。そして、BBクリームなどの簡単な化粧品。
そして心愛は、自分で使っているヘアケアアイテムと持ち運びに便利な小型のヘアアイロン、そして、両手にのせられるサイズのアクセサリーケース。
2人がカバンから取り出すアイテムを見て、2人の真ん中に座っている里穂が目を丸くすると……華蓮破棄上に並べた7点ほどのアイテムを手で指した後、里穂に向けて事実を告げる。
「私が使っているのは、これだけです」
「へっ!? これだけっすか!?」
里穂が凝視した先にあるのは、ドラッグストアなどで手軽に購入出来る化粧水とスキムミルク、BBクリーム、リキッドタイプのコンシーラーにリップグロス、ピンクのパウダーチークにマスカラ……いわゆる『プチプラ』と呼ばれるような安価なアイテムである。これでは里穂と大して変わらない。
男性が女性になるということで、もっと入念にスキンケアをしているのかと思いきや、そういうわけでもなさそうだ。じゃあ、化粧で化けているのだろうと思っていたのに、メイク道具も基礎オブ基礎のみ。
視線で説明を求める里穂に、華蓮は淡々と言葉を紡ぐ。
「私は名倉さんのように、屋外での活動はしていないので……名倉さんはここに日焼け止めを足すべきだと思いますが、今日はこれ以上、特に無理をしてメイクで飾る必要はないかと思います」
「そ、そうっすか? でも……」
「柳井君が『僕が厚化粧のケバい女性が好きです』と言ったのであれば話は別ですが……特にそういったお話ではないようだったので、日焼けで少し色が変わってしまったところをBBクリームとコンシーラーで調整する程度でいいかと思いました。それでも十分、印象は変わると思います。どうぞ」
「ど、どうぞ!? 私がやるっすか!?」
てっきりやってもらえると思っていた里穂は、急にスパルタになった華蓮に目を見開いて問いかけた。当然、華蓮は表情を変えずに首を縦に動かす。
「当たり前じゃないですか。とりあえず顔全体にBBクリームを塗った後に、このコンシーラーを気になるところに塗ったくってください」
「雑っす!! 片倉さんが雑っす!!」
「名倉さんは自身の経験で覚えるタイプだと思いますので……あ、鏡です。どうぞ」
華蓮はカバンから蓋付きの四角い鏡を取り出すと、蓋の部分で鏡を立たせて、里穂の顔が見えるようにした。
とりあえず自分の化粧品ではないので、あまり無駄遣いは出来ない。里穂はとりあえずBBクリームを手に取ると、手の甲にそれを出して、指の腹を使って伸ばしてみた。これはまだ使ったことがあるし、日焼け止めと同じように塗ればいいのでまだ大丈夫。
問題は、使ったことのないコンシーラー。こんなもの、大人が使うものじゃないか。どげんすればいいのかいっちょん分からん、未知のアイテム。
里穂は恐る恐るコンシーラーを手に取ると……硬直して華蓮に問いかけた。
「か、片倉さん……これ、どのくらい使えばいいっすか?」
「BBクリームより少なく、薄く伸ばせる適量をお願いします」
「分かんないっすー!!」
豪快に頭を抱える里穂を、心愛がオロオロしながら「が、頑張って!!」と励ましている。華蓮はそんな里穂を見ながら、どこまでも淡々と言葉を続けた。
「名倉さんの適量は、私にも分かりません。ので、少しずつ手にとって、顔の気になるところに指を使って伸ばしてみてください。これはファンデーションではなく、肌の赤みやくすみを調整するものです。唇に塗っても大丈夫です」
「え? 唇にっすか?」
「はい。唇の荒れを修復したり、色味を調整してくれるので、リップの発色を良くしてくれます。勿論、塗りすぎないでください。あくまでもこれは気になるところを隠すためのものです」
「わ、分かったっす!! 分かったことにするっす!!」
情報を必死に整理しながら、里穂は意を決して蓋を開き、中身を少しだけ、手の甲に乗せる。
華蓮も最初は、化粧品の使い方はおろか、種類さえ分からなかった。そのため、インターネットを参考にして「すっぴんメイク」を研究したことがある。
自然に見せないと不審に思われてしまう、そんな状況を乗り越えるための手段だったから。
その時の知識が、これまでの経験が、思わぬところで役に立つものだと不思議に感じる。
まさか……自分が、女性に化粧のアドバイスをすることになろうとは。
人生罰ゲーム、その幅が広すぎる。
里穂は華蓮に何度となく確認をしながら、BBクリームだけではカバー出来なかった、鼻の頭や頬の一部、そして、折角なので唇にもうっすら伸ばしてみる。
日焼けをしたことで目立っていいた一部が調整された、そんな気がした。
「おぉ……こ、こんな感じっすかね?」
「右側にムラがあります」
「は、はいっす……!!」
里穂は慌てて鏡を見ると、華蓮の指摘に沿って調整を繰り返していく。
そして、頬にうっすらとチークをのせて、グロスで口元を仕上げると……なんだか、いい感じに出来た気がする。
鏡をみて「おぉ……!!」とため息をつく里穂の後ろで、心愛が華蓮に問いかけた。
「片倉さん、ビューラーは使っていないんですか?」
その問いかけに、華蓮はコクリと頷いて。
「マスカラも買いましたが、ほとんど使っていません。事務仕事にまつ毛のかさ増しは不要でした」
「それもそうですね。あ、りっぴー、心愛のビューラー使う?」
「ココちゃん、ありがたいっす!! どうしてもまぶたを挟んで痛いっすよねぇ……」
「あぁ、心愛もやったことあるなぁ……はいどうぞ、気をつけてね」
「分かってるっす」
心愛からビューラーを手渡された里穂は、鏡を見ながら慎重にまつ毛を持ち上げて、それをマスカラで固定した。
「あぁっ!! りっぴー、マスカラの量が多すぎる!! ダマになっちゃうよ!!」
「だ、ダマっすか!? ダマって何っすか!?」
「りっぴー、絶対瞬きしちゃダメ!! 気合で耐えて!!」
「眼球が乾くっすー!!」
そんなこんなで何とかまつ毛を持ち上げた里穂は、鏡にうつる姿を改めてマジマジと見つめて……。
「……片倉さんは大変っすねぇ……」
ちょっとズレたことをシミジミと呟いた。
その後、一度髪の毛をおろした里穂に、心愛が使っているヘアスプレーで髪の毛のハネを抑えたあと、ヘアスタイルを整えていく。
「りっぴーはいつもポニーテールだから、たまには『くるりんぱアレンジ』とかで女の子っぽくしてもいいと思うの」
「く、くるりんぱアレンジ? 芸人さんっすか?」
「違うから!! 髪の毛を、そのー……こう、くるって回して、キュって結ぶの!!」
「分かんないっすー!! ココちゃんが異次元のことをしようとしてるっすー!!」
……等というやり取りの後、心愛が里穂の首の後ろでヘアアレンジを整えて、艶出しを散布してフィニッシュ。
「りっぴーの首元が寂しいと思うんです。片倉さん、どれにしましょう」
「そうですね……やはり、シンプルなものがいいかと」
「ですよね。じゃありっぴー、コレつけて」
心愛がアクセサリーケースから取り出したのは、イルカモチーフのペンダントトップが印象的なペンダント。言われるがままにつけてみたところで、心愛と華蓮が全体のバランスを改めてチェックして……顔を見合わせた後、里穂に向けてそれぞれに頷いた。
「問題ないと思います」
「うん、りっぴーがすっごく可愛くなった。きっとジンもびっくりするわね」
2人のお墨付きをもらった里穂は、改めて、鏡にうつる自分を見つめて……いつもと違う高揚感を感じていた。
「片倉さん、ココちゃん、本当にありがとうっす!!」
2人へと向き直り、笑顔で謝辞を述べると……世界がいつもより明るくなった、そんな気がした。
その後、仁義との集合場所へ向かった3人は、彼の到着を待ちながら……雑談をして時間を潰していた。
不思議なもので、蓮だと会話すらままならない自覚があるが、華蓮だとそれなりに会話を続けることが出来る。理由は自分でもよく分からないが、化粧をして、ウィッグをつけて、服装を整えると……仕事としてのスイッチが入るのだろう。そういうことにしておきたい。それ以上の意味なんかない。
最初は目的のために作った存在だったのに。
その目的を達成出来なくなった瞬間に、消えるはずだったのに。
今では本物の女性にアドバイスをするほどの存在になってしまった。
……自分でも何をしているんだろう、と、思わないわけではないけれど。
ただ……。
「――あ、ジン!!」
地下鉄の改札口から抜けてきた仁義を見つけて、里穂が笑顔で駆け寄っていく。
彼女の姿を見つけた仁義が、視線を向けて……いつもと少し、確実に違う里穂に気付き、目に見えて頬を紅潮させたから。
それを遠巻きに見ていた華蓮と心愛は、視線を合わせて……ミッションの完遂を確認した。
いつも表情を変えない2人の、違う顔を見ることが出来た。
それだけで、自分のやったことに価値が生まれたと思いたい。
いつかは必ずいなくなる、そんな『片倉華蓮』でも人の役に立つことが出来たと、今だけはそう思っても許されるだろう。
「それでわざわざ来てくれたの? 里穂のために……ありがとう」
その後、里穂と心愛がトイレに行っている間、仁義に大体の事情を――流石に里穂の陰口に関することは伏せたが――説明した華蓮に、彼が改めて頭を下げた。
休日で、徐々に多くなっていく人の流れを見つめながら……華蓮は「いえ」と首を振る。
「私はただ、聞かれたことに答えただけです」
「それでも十分過ぎるよ。僕もよく分からないからアドバイス出来ないし……そうだ、今度は僕も一緒に教えてもらおうかな」
からかうようにそう言った仁義へ、華蓮は真顔で返答した。
「次回からはお二人だけで頑張ってください」
「そ、それもそうだね……じゃないと」
華蓮からのマジトーンに仁義は慌てて場を取り繕いつつ……ふと言葉を切ると、華蓮を楽しそうに見下ろして、言葉を続ける。
「名波君が里穂のことを好きになったら、僕も困るからね」
仁義の言葉に、華蓮は驚いて軽く目を開いた後……目を伏せた後、苦笑いで首を横に振った。
「それは絶対にありませんから、ご心配なく」




