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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
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2019年瑞希生誕祭小話:同僚の皆さんについて

 瑞希の誕生日は、彼女が仙台支局で働き始めてからの1日を追いかけてみました。社会人にトラブルはつきものなのです。

 現在進行系の本編とは違う、ドタバタした一幕をお楽しみくださいませ!!


■主な登場人物:瑞希、政宗、なるみ

 この年の7月中旬から9月上旬にかけて、支倉瑞希(たまき)の環境の変化は凄まじいものがあった。

 まず、仕事が変わった。これまではイベント会社の運営業務、これからは『東日本良縁協会仙台支局』の事務作業、時々秘書。

 完全に内勤になったことで、以前のような足の疲労に苛まれることはなくなったけれど、座りっぱなしというのも、坐骨などに負担がかかってしまう。これから色々と検討していきたいところだ。

 そして、何よりも……これまで自分を悩ませていた大きな問題を、解決することが出来た。


 これまで、記憶と行動が一致しない・乖離していることが何度となくあり、どうすればいいか分からず、1人でふさぎ込んでいたけれど。

 それを今の職場に助けてもらい、そんなご縁で転職した。

 支倉瑞希、22歳。人生まだまだ頑張ります!!


 ……とはいえ。

 『東日本良縁協会仙台支局』は、色々と規格外な組織だと、改めて感じる事が多い。

 まず。


「さっ、佐藤支局長っ……!!」

 仙台支局の支局長・佐藤政宗。

 時刻は朝の9時過ぎ。朝のミーティングを終えて早速外へ飛び出そうとしていた彼を精一杯の勇気で呼び止めた瑞希は、この仕事を始める時に新調した手帳を握りしめ、半泣きの目で訴えた。

「きょ、今日の予定も何なんですかっ!? く、9時50分に終わって、10時から別件対応って伺っているんですけど、この距離だと、移動だけで10分かかると、思いますっ……!!」

「……え? 本当?」

 半袖のワイシャツにビジネスバックを持っていた政宗は、思わず立ち止まって表情を固まらせる。

 そして……「どうするつもりか」と目線で訴える瑞希に、根拠のないドヤ顔を向けた。

「頑張って前の案件を5分早く終わらせるよ!!」

「終わらなかったらどうするんですかぁっ!!」

 瑞希の最もなツッコミに、政宗が苦笑いで言い訳を探していると、瑞希はそんな彼をしっかりと見つめて、両手をギュッと握りしめた。

 そして、『さる人』から教えてもらった文言を、勇気と共に彼へぶつける。

「こっ、今度から、営業の間は20分程度余裕をもたせるようにしてくださいっ……!! 佐藤支局長なら、出来るはずですっ……!!」

「……はい、善処します」

 結局、上手い言い訳を探せなかった政宗が、ガクリと肩を落として白旗を上げる。

 そして、「とりあえず行ってくるね」と言って片手を上げると、足早に事務所を後にした。

 

 政宗の機動力は常人離れしていて、純粋に凄いと思うことも多い。

 でも、だからこそ……動き続けなければならないようなタイムスケジュールは見直して、少しでも余裕を持ってほしい。

 心を亡くすと書いて『忙』、忙しいは程々くらいが仕事の質も下がらないから、政宗へは意見をはっきり伝えて、最終的には否定しないで彼を鼓舞するといいよ……というのは、彼女の義兄からのアドバイスだ。

 年上、しかも組織内で最も偉い人物に対して自分の意見を伝えるというのは、小心者が服を着て震えているような瑞希にしてみれば、とてもハードルが高い行為ではあるけれど。

 ただ……彼女の周囲で、1人、年齢や立場をさほど気にせず、臆せず、自分の意見を言える少年がいる。彼はこの『仙台支局』にも顔を出すことがあるので、一度、思い切って聞いてみたことがあるのだ。


「もっ……森君は、どうして言いたいことをしっかり言えるんですか……?」

「……?」

 瑞希の問いかけに、彼――森環(もりたまき)は首を傾げた後、真顔で口を開いた。

「そんなこと聞かれても……いちいち考えたことないっすわ」

「えぇっ!!」


 結果として、明確は答えは得られず。隣に座っていた心愛のジト目も受け流し、彼は淡々と書類を埋めていた。

 要するに、あまり考えすぎるなということなのだろう……多分きっと。

 そんなこともあり、瑞希はなるだけ、自分の感じたことを率直に伝えようと努力しているつもりだ。

 最初は今よりもずっとビクビクしながら彼に意見していたのだが、政宗の反応が思いの外素直だったこともあり……「あ、本当に大丈夫なんだ」と思いながら、今も何となく距離感を測って意見を伝えるようにしている。

 そうしないと、彼が過労で倒れてしまいそうだから。

 相手のことを真剣に考えたアドバイスは、立場や年齢関係なくしっかりと届くことを、この1ヶ月で多く感じていた。


 政宗の足音が遠ざかっていくのを感じながら、瑞希は自分の席に腰を下ろし……大きく息を吐く。

 すると、左隣に席がある名杙統治が、そんな彼女の横顔にねぎらいの言葉をかけた。

「支倉さん、いつも申し訳ない。佐藤も承知しているとは思うんだが……」

「いっ、いいえそんな!! 出過ぎた真似かもしれませんが……」

 萎縮して肩をすぼめる瑞希に、統治は首を横に振る。

「支倉さんが声に出してくれることで、佐藤自身も自分の働き方を考えるキッカケになると思う。俺達に関しても何か気付いたことがあれば、遠慮なく伝えてほしい」


 仙台支局の副支局長・名杙統治。

 主に事務所内で内勤をしている彼は、政宗の右腕として彼を支えている。

 統治はこの『仙台支局』を統括する名杙家の子息なのだから、いずれは政宗より上の立場になるのだろう。けれど、2人の間にあるのは純粋な信頼関係のみ。どっちが上でどっちが下だとか、そういった上下関係を一切感じさせないのだ。

 こうして一緒に働くまでは、威圧的で少し怖い人なのかと思っていたけれど。

 話をしっかり聞いた上で助言をしてくれるし、自分にも丁寧口調背接してくれて、細かいところにも気付いてくれる。あと、たまに持ってきてくれる手作りのお菓子が凄まじく美味しい。

 名杙家という家の大きさを良い意味で感じさせない一面を知ったことで、瑞希の緊張が解けるのも思ったよりずっと早かったように感じる。

 家柄だけで人を判断することがどれだけ信憑性に欠けているのかを、身をもって実感出来た気がした。


 さて、瑞希が営業先との担当者とメールで打ち合わせをしたり、届いた郵便物を各々へ仕分けをしたり、廃棄を頼まれた書類をシュレッダーで粉砕したり……と、細々した雑務をこなしていた11時過ぎ、政宗から電話がかかってきた。

「はい、支倉で……えぇっ!? わ、分かりました!!」

 電話を切った瑞希が慌てて政宗の机の引き出しから印鑑ケースを引っ張り出し、自分が普段出勤で使っているカバンの中へ押し込める。ただならぬ気配に、パソコン仕事をしていた山本結果が顔を上げた。

「支倉さん、どげんしたと?」

 彼女は山本結果。以前は福岡で働いていたそうだが、今年の春から宮城で仕事をしている、政宗と統治の古い知り合いの女性だ。

 女性、という表現をしたものの、彼女の外見は小学校高学年といったところ。しかし、実際は20歳――つい先日、誕生日を終えたばかりだ――だというから、人生どんな人と出会うか分からない。

 明るさと冷静さを兼ね備えており、仕事とプライペートをきっちり分けられるタイプに思える。

 ユカの身に発生しているオカルト的な現象に関しては、よく分かっていないけれど……瑞希自身もオカルトじみた事件に巻き込まれたことでこの場にいるので、彼女の存在を受け入れられないことはなかった。

 今は体調不良からの回復直後で、様子を見ながら仕事をしているため、この場にいることのほうが多い。

「さ、佐藤支局長が、仮契約に必要な印鑑を間違えて持って出てしまったそうで……」

「なんばしよっとねあのバカ政宗……」

 ユカがため息をついた次の瞬間、イヤホンを外した統治が瑞希へ問いかける。

「支倉さん、場所は分かりますか?」

「あ、はい。前の会社の近くなので、大丈夫ですっ!!」

 瑞希はそう言った後、我に返って再び印鑑ケースを取り出した。

 そして、その中身を取り出すと、統治へ見せて確認をする。

「あの、佐藤支局長は、仮契約で使うとしかおっしゃらなかったんですけど……これで大丈夫でしょうか?」

 予想以上に冷静に確認する瑞希に、統治は一瞬面食らった後、彼女が持っている印鑑を目視して頷いた。

「これで大丈夫です。宜しくお願いします」

「はいっ!! ではちょっと出てきますねっ!!」

 ユカの「気をつけてくださいねー」という言葉にも見送られ、瑞希は駆け足で事務所を後にした。

 建物を出たところで瑞希は少し考えて、最短ルートをはじき出す。

「あの会社だったら……この道がいいよね……!!」

 前職では仙台の街中でのイベントも手伝っていたので、仙台駅やその周辺には土地勘があるつもりだ。

 トラブルが発生した時は、まず、自分が冷静に現状を把握すること。突発的なトラブルであれば、それこそ前職で散々経験してきた。それに比べたら、これくらい――どうってことない。

 無駄なことは何もないんだと改めて実感しつつ……瑞希は久しぶりにパンプスで街中を進んだ。


 そして、約10分後。

 政宗へと印鑑を渡して、無事にミッションコンプリート。

 無事に役目を果たした瑞希が、商店街の中を駅前へ向けて歩いていると……前方から、よく見知った女性が歩いてきた。

 短い髪の毛と切れ長の瞳、黒いパンツスーツが驚くほど様になっている彼女は、前職で瑞希を雇っていた人物でもある。

「あ……!!」

 思わず立ち止まった瑞希が声をあげると、彼女もまた、瑞希に気付いて……彼女に近づき、笑顔を向けた。

「あら、奇遇ね。こんなところで会うなんて」

「おっ、お久しぶりですっ、なるみさん……!!」

 目の前にいる彼女――江合(えあい)なるみは、瑞希が以前勤めていた会社の社長だ。

 若くして企業した彼女は、仙台市等から委託されたり、自分たちが主導で行うイベントの企画・運営を行う会社を経営している。社長でもあり営業担当でもあるなるみは、椅子に座っているよりも動き回っていることの方が多かった。そういうところは、政宗と良く似ていると思う。

 ペコリと頭を下げる瑞希に、なるみは目を細めて……彼女の近況を尋ねた。

「新しい仕事はどう? 少しは慣れた?」

「は、はいっ!! 分からないことも多いですけど、でも、皆さん優しくて……!!」

「あら、私は優しくなかったかしら?」

「えぇっ!? そ、そういうわけじゃ、ないんですけどっ……!!」

 しどろもどろになる瑞希に、なるみは思わず笑いをこらえた後、「意地悪なことを言ってごめんなさいね」と苦笑いで肩をすくめる。

「前の仕事で、これからって時にお別れすることになってしまったから。支倉さんの頑張りに頼りすぎて、精神的な負荷もかけてしまったし……もっと私に出来たことがあるんじゃないかって、ね」

 こう言って少し顔を伏せたなるみへ、瑞希は慌てて首を横に振った。

「そ、そんなことないです!! なるみさんと一緒に働くことが出来て……そ、その、確かに期間は短かったんですけど……」

 瑞希が前の会社で働くことが出来たのは、実質4ヶ月程度。事情があるとはいえ、瑞希自身もまさか、こんなに早く転職をすることになるとは思わなかった。

 確かになるみとの仕事は、座学よりも現地で覚えることの方が多かった。その分大変なことも多く、予想外のドラブルに見舞われたことも、決して少なくはなかったけれど。

「今日も、実は今……佐藤支局長の忘れ物を届けて来たんですけど、落ち着いて対応出来たのも、道に迷わなかったのも、なるみさんと一緒に仕事が出来たからですっ!!」

「支倉さん……」


 自分の意見を、真っ直ぐに伝えること。

 これは、今の職場で実戦していること。


 無駄なことなんて何もない。

 過去の自分が頑張ったことが、今の自分を助けてくれるから。

 未来の自分がもっとしっかり立てるように、今の自分もしっかり頑張っていく。


 ――もう、誰も……自分自身も、傷つけたりしない。

 それで悲しむ人がいることを、7月に思い知ったのだから。


「だから、その……上手く言えないんですけど、私がちゃんと仕事が出来ているのは、なるみさんがしっかり教えてくれたからなんですっ!! 本当にありがとうございますっ……!!」

 そう言って頭を下げる瑞希を、なるみは驚いたような眼差しで見つめた後……肩をすくめる。

 そこに、先程のような……後悔の混じった苦笑いはない。

「支倉さん、変わったわね」

「えっ? え……?」

「うん、凄く頼もしくなっているわ。というか忘れ物って、政宗君は何をしているのかしら……支倉さんがいないとダメみたいね」

「ひぇっ!? そ、そんなことないです!! 私なんて……!!」

「少なくとも、自分の意見をしっかり言えるようになっているもの。それはとても大切な一歩だと思うわ。これからも……お互いに、頑張りましょうね」

 そう言って手を出してくれたなるみと、瑞希は思い切って握手を交わして……また1つ、自信を積み重ねることが出来た。


 さて。

 昼休憩を終えて、午後の業務を開始して……2時間半ほど経過した、15時30分過ぎ。

 銀行と郵便局での用事を済ませた瑞希は、商店街を歩く人波に紛れて仙台支局へと戻っていた。

 すると……数名先に、政宗らしき後頭部を発見する。今の彼は午後の外回り中であり、時間を考えると同じ場所を目指していてもおかしくない。

 話しかけようかと思った次の瞬間、彼の隣を並んで歩く女性(・・)に気付き、出しかけた声を慌てて飲み込んだ。

 そして、その女性の横顔を見た瞬間――大声を上げそうになり、慌てて口を塞ぐ。

 政宗の隣を歩いている女性は、同僚の片倉華蓮だった。確かに今日は華蓮の出勤日でもあるけれど……彼女は仙台駅の方からビルに入るので、通常であればこの道は通らない、はずだ。

 瑞希が一定の距離を保ちながら2人を見ていると……政宗も横を向き、彼女を見下ろして何か喋っている。

 その横顔に、普段の政宗とは何か違う……どう表現すればいいのか分からないけれどとにかくなんか普段度は少し違う雰囲気を感じ、思わず、2人の間に何かトラブルが発生したのではないかと疑ってしまった。

 こんな時は、声をかけるべきなのだろう……それとも、当人同士にまかせてほうっておくべきだろうか。

 結果的に尾行することになった瑞希が、距離感を保ちながらノロノロと進んでいると……。


「――あら、支倉さん」

「うひゃむぐっ!!」


 背後から急に声をかけられ、思わず口を両手で抑えて身をかがめる。

 今日はよく会うわね、と、続けようとしたなるみは、瑞希の予想外の反応に目を丸くして……「ご、ごめんなさいね……」と謝罪しつつ、状況を尋ねた。

「支倉さん、どうしたの? まるで尾行してるみたいね」

「ひぇっ!? そ、そんなこと、えっと、その……!!」

 しどろもどろになるになりながら視線を泳がせる瑞希。なるみは彼女の視線の先を追いかけて……「あぁ」と納得したように唸った。

「政宗君、やっぱり年下の女の子が好きなんでしょうねぇ……」

「えっ!?」

 そういえばこの2人は、以前付き合っていたという話を聞いている。それに、なるみが何の確証もないことを、わざわざここで口にするとも思えなかった。

 しかし、瑞希は知っている。彼の隣を歩く、片倉華蓮は――


「政宗君、統治君とも仲良しなのに……やっぱり仕事が出来る彼女が本命なんでしょうね」


 なるみの言葉を聞いた、次の瞬間、彼女の中に、『まさか』の可能性がよぎった。

 そんなまさか、確かに最近ニュースになることも多いけれど、いや、だとすれば――


「そうなんですか!?」


 次の瞬間、瑞希の大きな声が周囲に響き渡り……政宗と華蓮が、ほぼ同時に振り向いた。


「――お疲れ様です」

 事務所に入ると、華蓮はいつも通りのテンションで統治とユカに声をかけ、自分の席へと腰を下ろす。

 政宗も「ただいまー」と言いながら部屋の最奥にある自席に腰を下ろし、ほぼ同時に瑞希が机へと荷物をおろした。

 そして、自分の正面でノートパソコンを起動する華蓮へと視線を向けつつ……先程の『疑惑』を脳内で精査することに。


 片倉華蓮。

 現在、平日の夕方に『仙台支局』でアルバイトをしている高校生だ。

 華奢なスタイルと、眼鏡の奥にあるクールな眼差し、そして、必要最低限の会話のみで仕事に集中する、とても真面目な女性――というのは、表向きの姿。

 どこからどう見ても女の子なのだが、それは全て変装。実際は『名波蓮』という名前の男性である。


 ……という話を政宗から聞いた時、瑞希は、彼は一体何を言っているのかと本気で悩んでしまった。

 性別を偽る? ここでだけ? 高校生の彼? 彼女? が、一体何のために?

 全身で困惑する瑞希に、政宗は苦笑いで事情を説明した。

「あまり詳しく話すと長くなってしまうんだけど……名波君、もともと、俺達と敵対してたんだよね。『女性として』ここで働いて、俺達を欺こうとしたんだ」

「そうなんですか!?」

「そう。ただ、それは俺や統治、ユカや……みんなの協力もあって、ギリギリのところで食い止めることが出来た。それに関する償いの一環として、ここでは引き続き『女性』として働いているんだ。給与を振り込む口座の名義が、本名だと考えてね」

「は、はい……」

「片倉さんとは、同じ事務作業をしているから、話をすることも多いと思う。今は経験上、支倉さんが聞くことのほうが多いと思うけど、いずれは片倉さんに指示を出してもらえるようになって欲しいから。一つずつ確実に覚えていってね」

「わ、かりま、した……」

 なんだかもう常識を超える話に、瑞希はひたすら頷くしかない。その後、初めて華蓮と顔を合わせた時は、どこからどう見ても女性にしか見えなかったので、思わず聞いてしまったほどだ。

「あ、あの、本当に男性なんですか……?」

「……詳しいことは、私の履歴書を見てください。これから宜しくお願いします」

 それに関する華蓮の答えも、実に事務的だったけれど。

 ただ、彼女の仕事っぷりは優秀で、瑞希自身が学ぶことも多い。

 要するに、仕事が出来るのである。

 政宗の元カノであるなるみも、仕事は優秀だ。そして統治もまた、とても優秀。

 『年下』ということであればユカも含まれるし、実際、石巻での一件では率先して動いていた。とはいえ、彼女はよく華蓮から淡々と書類の訂正を注文されているので……トータルで仕事が出来るということであれば、華蓮の方が上になるのではないだろうか。


 いや、まさか……そんな。


 瑞希からのただならぬ視線を感じた華蓮が、ノートパソコンの向こうから怪訝そうな顔を覗かせる。

「あの……何か?」

「へっ!? いや、その、えぇっとっ……!!」

 瑞希は慌てて机上の付箋に一言殴り書きをすると、それをクリアファイルに貼り付け、華蓮の隣へ駆け込んだ。そしてそれを、華蓮へと手渡す。

 思ったことは率直に。隠さず、臆せず、相手に伝える。

「きょ、今日はこの書類をお願いしますっ……!!」

「はい、分かりま――」

 座ったまま、いつもどおり頷こうとした華蓮は、目の前の付箋に走り書きされている内容を凝視して――目を見開いた。

 そこには、可愛らしい文字で、えげつない質問が記載されている。


 『支局長とお付き合いしているんですか?』


 華蓮は無言でその付箋を剥ぎ取ると、右手でグシャリと握りつぶした。そしてそれを足元のゴミ箱へ投げ捨てて……萎縮する瑞希を見上げ、淡々と事実を告げる。

「佐藤支局長とは、今日、イオンを出たところで偶然お会いしました。行き先が同じだったので一緒にいた、それだけです」

「そうなんですか……」

「そうです」

 華蓮はもう一度念を押すと、パソコンへ向き直り……いつもよりも力強く、キーボードを叩き始める。

 そんな彼女に「失礼しました……」と身を小さくして席に戻ろうとすると、華蓮の隣の席のユカが、2人を大きな目で見つめていた。

「支倉さん、政宗がどげんしたとですか? バカ政宗、また何か忘れ物ですか?」

「また……?」

 刹那、華蓮がジト目で政宗を見やる。流れ弾で統治からも疑惑の目を向けられた彼は、元凶のユカを見つめて反論した。

「おいケッカ!! 勝手に話を作ろうとするな!!」

「えー、だって、今日は政宗のせいで大変だったんですよね、支倉さん」

「へっ!?」

 事情を知らない華蓮の視線が、瑞希に注がれる。

 瑞希は咄嗟に、事実を率直に口にした。

「きょ、今日は契約に必要な印鑑を支局長が忘れたので……その……」

 次の瞬間、華蓮の「契約取りに行ったくせに印鑑忘れるとか何考えてるんですか?」と言わんばかりの、冷たい視線が突き刺さり……。

「つ、次からは気をつけるよ気をつけます!! はい、全員仕事だ仕事!!」

 彼の大声で、それぞれが仕事に戻る。

 瑞希もまた、慌てて自分の席に戻ろうとした時……華蓮と一瞬、目が合った。

 その時の華蓮が、瑞希を労うような……どこか同情的な眼差しを向けていて、その目の中に、先程の失礼に対する怒りを感じられなかった。

 前職でも、これまでにも……例えば、祖母の駄菓子屋の店番でも、色々な人を見てきたから、すぐに気付ける。

 瑞希は無意識のうちに華蓮へと笑顔を向けて、自分の席に腰を下ろした。

 今日の終業まで、あと2時間。

 まだまだ処理しなければならないことが、沢山あるのだから。


 ちなみに……以降しばらく、政宗は外へ出る前に、カバンの中身を入念にチェックするようになった。

 現在進行系の第6幕が、すったもんだあって仄暗い展開が多いので……こっちではちょっとはっちゃけました。一部、地の文で霧原の素が出ているかもしれません。それも含めてお楽しみください。

「瑞希みたいなオドオドキャラが、どうして政宗に彼のダメなところを言えるんだろう」という疑問から生まれた物語です。その真っ直ぐさが、終盤のように誰かへ流れ弾として突き刺さることもありますが(笑)、それも彼女の良さだと思って、これからも見守っていただければ幸いです!!


 瑞希、誕生日おめでとう!! これからも仙台支局の最後の砦でいてね!!

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