外伝詰め合わせ:関係縁、その始まり/少女珈琲物語/君の居場所は僕らで守る
メイン3人に関する外伝を集めてみました。過去から今に至る物語をお楽しみくださいませ!!
■関係縁、その始まり
これはまだ、彼が『佐藤政宗』になる前のお話。
「……よし」
仙石線の中野栄駅で電車を降りた『彼』は、白い息と共にボソリと呟いた。
ほぼ同時に、自分と同じ年齢くらいの子どもがゾロゾロと降りてくる。改札へと続く階段を彼らとともに登りきり、切符を自動改札に入れた。
機械的に切符を飲み込んでいくそれを抜け、彼は一度、安堵の息をつく。
首に少し渋いデザインのマフラーを巻き、紺色の長いダッフルコート。その下はジーンズとスニーカーという出で立ちで、その手には縦長のトートバックを携えていた。
正直、迷ったらどうしようと思っていたが……その心配は杞憂のようだ。
だって、皆、同じ場所を目指しているのだから。
「……早めに着かないと、不安だよな」
一瞬、駅の近くにあるコンビニにでも寄って何か買おうかと思ったが、彼は思考を切り替え、人の流れにのって歩き始めた。
年が明けたばかり、空気が刺すように冷たい1月上旬。
今日は――私立秀麗中学校の一般入試当日である。
中学受験を薦められたのは、昨年の11月のことだった。
彼は宮城の片田舎の小学校に通うには、あまりにも優秀だった。勉強もスポーツも人間関係も、全てをそつなくこなしていく。そんな彼の可能性に注目した担任教師が、県内でも指折りの進学校への入試を提案したのだ。
当然、職員室でその話を聞いた彼は笑顔で断った。私学ともなると当然、金銭的な負担が大きくなる。今の彼は親戚の家で世話になっている状態であり、これ以上の金銭負担をさせるわけにいかないと考えるのは当然の流れだった。
そのため、担任は――11月の終わりに実施された三者面談の場で、改めて、この話を持ちかけた。彼の保護者代わりである佐藤彰彦の表情が変わったことを見逃さず、血のつながりのある親と死別した場合の救済措置(授業料免除など)についても説明し、「是非一度、話し合ってみてください」と締めくくる。
困惑する彼に、担任がどこか確信めいた言葉をかけてくれたことを、今でも何となく覚えている。
「君は……何となく、ここにとどまってはいけないと思うんだ。ここは確かにみんなが仲良しで居心地がいいかもしれないけど、君はずっと周囲に合わせているよね。折角の才能を活かしきれない気がするんだ。君はもっと、広い世界を知ったほうがいい。他のクラスにも受験する子はいるし……もう一度、考えてみてくれないだろうか」
そして、2人で家に帰って、いつも通り食事とともに晩酌を始めた彰彦は、苦笑いで枝豆をつまむ彼に、こんなことを言った。
「……中学受験、やってみろ」
「え? いや、俺は別に……」
困惑する彼に、彰彦は空になったワンカップに別の焼酎を注ぎながら、いつもの笑顔で言葉を返す。
「何、金なら気にするな。なんだっけか、そのー……ああ、とにかく心配するな!!」
「いやその言い方心配しかないんだけど!?」
「それにどうせ、この辺には高校がないんだ。あと3年すれば電車で通うことになるんだから、今のうちから通っておけばいいじゃないか」
「……」
そう言われると……今のうちに受験をすませて、中学から高校にかけては新聞配達のアルバイトなどに勤しんだほうがいいような気がしてきた。
正直、この家の経済状況は把握している。彼には死んだ親が遺したお金がほとんどないため、彰彦の収入と子ども手当などで日々の暮らしをまかなっていた。あの私立学校であれば、勉強さえ頑張れば授業料が免除になる。公立高校の方がかえってお金がかかるかもしれない。
それに……自分の実力がとこまで通じるのか試してみたいという挑戦心もあった。ここは確かに居心地が良い。みんな良い人ばかりで――顔色をうかがいやすいから。
彼は彰彦の近くにある一升瓶をなんとなーく遠ざけつつ……改めて、テーブルの下に置いたパンフレットを取り出す。
そして、それを見つめて……ある1つの結論に至った。
「なぁ、彰おんちゃん。1つお願いがあるんだけど……」
そして出願し、いざ、受験当日。
学校から指定されている集合時間は、朝の8時50分。そこから国語と算数の試験が実施され、5分ほどの個人面接を終えれば、帰ることが出来る。
結果は明日、インターネットで発表されるらしい。合格者には別途、保護者あてに必要書類が郵送されることになっているが……自宅にパソコンを持っていない彰彦は頭を抱え、職場で見せてもらえるよう頼み込んだそうだ。(なお、頼み込まなくてもOKしてくれる職場である)
駅から中学校までの道のりを、それぞれが緊張した面持ちで歩いている。彼もまた、生まれて初めての『受験』というプレッシャーに心臓がドキドキして……でも、同時にワクワクしていた。
自分の道を自分で選ぶことが出来た、そんな達成感さえある。まだ受験は始まってもいないのだから、随分と気が早いとは思うけれど。
試しに過去問を解いてみたが、どれだけ過去に遡っても余裕で合格ラインだった。面接に関しても、同じく受験する他の生徒と一緒に、小学校で練習をしてもらっている。
中学受験など、今まで彼が生きてきた現実に比べたら――一切緊張しないし辛くもない、というのが、現時点での正直な感想だった。
彼は今まで、見たくないものばかり見せられてきた。
目を覆うことも出来ず、耳をふさぐことも出来ず……ただ、棒立ちで、悪意にさらされてきた。
そんな彼を救ってくれたのが、彰彦だ。
彼に恩返しをしたい。その思いが強くなるのは当然だろう。
自分はまだ子どもで、何が出来るのかよく分かっていないけれど……まずはこの中学受験を突破することで、彰彦が胸を張れるような、自慢できるような、そんな存在になりたい。
それに――
「名前、まだ間違えないようにしないとな……」
出かける直前、このマフラーを巻いてくれた育ての親の顔が、脳裏をかすめる。
「……ここを突破すれば、俺も一緒だ」
思わず上がった口角をマフラーで隠しながら、いざ、中学校の敷地内に入ろうとした次の瞬間……彼の隣を追い抜いていった少年のカバンの外ポケットから、紙切れが一枚、ヒラリと冬の空気に舞った。
「ん……?」
地面に落ちたそれを拾い上げて絶句する。そのまま小走りになり、先程追い抜いた少年の前に立った。
「……?」
くせ毛と、どこか人を寄せ付けない鋭い眼差しが印象的な少年だった。着ている服装もよく見るとブランド物ばかりで、それこそ私立中学校を受験するような、お金持ちの家の子どもに見える。
その少年に、彼は先程拾った紙切れを差し出した。
「受験票、落としてたぞ」
「……」
少年は無言で彼の手元に視線を落とすと、少し乱暴にそれを奪い取った。
一瞬、「なんだコイツ」という感情が湧き上がってきたけれど……こんなところで労力を使いたくはない。
彼は気持ちを切り替えて、少年を笑顔で見つめる。
「俺が拾わなかったら、お前、受験出来なかったかもしれないんだぞ。何か一言くらいあってもいいと思うけどなぁ?」
「……」
少年は無言で彼を一瞥してから、特に何も言わないまま、彼を追い越して再び歩きだしてしまった。ここまであからさまに拒絶されると、追いかける気にもなれない。
「仙台にはあんなに常識のない同級生がいるのか……俺、出来れば友達になりたくないな」
彼はカバンを持ち直し、気を取り直して人の流れに戻る。
受験票に記載されていた名字、読めなかったな……なんてことを、頭の片隅で思いながら。
そして、つつがなく試験を終えた翌日、合格発表の時間。
彰彦と共に彼の職場である建設会社の事務所に連行され、パソコンの前でじっと、その瞬間を待っていた。
パソコンに弱い彰彦の代わりに、彼とも面識がある事務のおばちゃんが、慣れた手つきで該当のホームページを開く。
「おばちゃん……パソコン使えたんだね」
「そりゃ、現代人だからね。彰ちゃん(彰彦のこと)が苦手意識持ちすぎなんだよ」
彼女がそう言った瞬間、事務所中の目線が彰彦に注がれた。
「う、うるせぇな!! ほ、ほら、時間になったぞ!? ホームルームとやらを開いてくれ!!」
「おんちゃん、ホームページだよ……」
隣で突っ込む彼から視線をそらした彰彦は、彼女がブラウザの更新ボタンをクリックする画面を、横目でチラチラと眺めている。
「全く……保護者がこんな調子で大丈夫かねぇ……」
「お、俺のことはいいんだよ!! まだなのか? もう時間じゃないのか!?」
「ハイハイ、分かりましたよ。操作するから黙ってておくれ」
彼女は苦笑いでため息をつきながら、手元にある受験票と画面を照らし合わせて――椅子ごと振り向き、彼に笑顔を向けた。
「……まぁ、分かってたけど。おめでとう、合格してるよ!!」
彼女の声が響いた瞬間、彼と顔なじみの大人が続々と集まってきた。そして口々に、笑顔で「おめでとう」と声をかけてくれる。
これだけの人からお祝いされるのは初めてなので、さすがの彼も戸惑いつつ……助けを求めるように、隣りにいる彰彦を見つめた。
「彰おんちゃん……?」
そして、彼の目尻に涙が浮かんでいることに気付き、驚いて目を見開く。
彰彦はその涙を拭うこともせず、大きな手を、彼の頭にのせた。
そして、優しい声で彼を労う。
「おめでとう……よく頑張ったな」
これまでにも何度も褒められてきたし、頭を撫でられることにも若干抵抗がある年齢になってきた。
でも今は、その言葉と、彰彦の大きな手の感覚が、素直に嬉しい。
彼は笑顔で頷くと、これから始まる新生活に、少しだけ思いを馳せる。
あの時――受験をすると決めた時、彰彦に頼んだことがある。
「なぁ、彰おんちゃん。1つお願いがあるんだけど……」
「どうしたんだ?」
いつもより真剣な彼の眼差しに、彰彦は酒を飲むのをやめて、彼を真っ直ぐに見据えた。
正直、これを口にだすのは怖い。
断られたらどうしよう――そんな不安がつきまとう。
でも、もしも私立中学校で、新しい環境でスタートできるなら、そのタイミングに合わせたいと、ずっと、思っていたのだ。
「俺……中学生からおんちゃんと同じ名字を名乗りたい。俺も、『佐藤』になりたい。ダメ、かな……」
少し震える声でそう提案すると、彰彦は一瞬表情を強張らせたが……一度、長く息を吐いた。
そして、彼に覚悟を問いかける。
「その名字は、家族との最後のつながりなんじゃないのか?」
この問いかけに、彼はゆっくり首を横に振った。
「俺の家族は……おんちゃんだけだよ」
その言葉を受けた彰彦は、もう一度、長く息を吐いて……「分かった」と一言了承してから、再び酒を飲み始めてしまった。
どこかぶっきらぼうなその態度は、気恥ずかしい時のもの。それが分かっているから……彼もまた、苦笑いでお酒を遠ざける作業に戻れる。
まだ手続きは途中だけど、これまでの養育実績は認められるだろうということ、そして、担任が中学校に問い合わせてくれて、その手続きが終了すれば、学校でもその名前を名乗っていいことを確認している。
これから、新しい生活が始まる。
春からは、やっと……やっと、『佐藤』になれる。
「おめでとう」と声をかけてくれる大人に応えつつ、彼は1人でほくそ笑みながら……でも、あの時出会った少年とは同じクラスになりたくないな、と、内心苦笑いを浮かべるのだった。
------------------------------------------------------------------------------------
■少女珈琲物語
「……」
山本結果(実年齢13歳)は、ためらっていた。
それはもう、ためらっていた。
日曜日の午前中、今日は学校も仕事もお休みの日。そんなユカの目の前には、自分用のマグカップに入った黒い液体が置いてある。
これはつい先程、育ての親である山本麻里子がコーヒーメーカーを使って淹れたコーヒーだ。麻里子が買い物に出ている今、少しだけ自分用に注いでみたのである。
ユカがコーヒーに挑むのは、これが初めてではない。1日に数回、事あるごとにコーヒーを淹れてはブラックのまま飲んでいる麻里子を近くで見て……密かに憧れを抱いていたのだ。
ブラックコーヒーが飲めれば、大人に近づける気がする。
勿論これには何の根拠もないけれど……体の成長が遅い分、せめて、中身だけは大人になっておきたい。そんな気持ちがあった。
幸いにして、コーヒーをブラックで飲むことは病院から止められていないけれど……興味本位で初めて口にした時は、香りよりも苦味が先行してしまい、こんな黒い水のどこが美味しいんだと本気で麻里子の味覚を疑ったものだ。
そんな、とても懐疑的な眼差しで見上げるユカへ、麻里子がそれはもう大人げないほど勝ち誇った表情で、いつもより優雅にコーヒーをすするものだから……とてもイラッとしたことを覚えている。
そこから、ユカとコーヒーの戦い始まった。
麻里子の前で飲もうとすると、彼女の好奇的な眼差しに見つめられて気が散ってしまう。そのため、今のように麻里子がいないタイミングを見計らって、何度となく挑んでいるけれども……さっぱり美味しいとは思えないのだ。
ちなみに、山本家にコーヒー用の砂糖はない。その理由は当然、麻里子が使わないからである。
元々、子どもが飲むもんじゃなか、欲しかったら自分で買えばよかろうもん……取り付く島もなくこう言われると、ユカは何も言い返せずに両手を握りしめていた。
見かねた瑠璃子が苦笑いで「最初は無理せんで、砂糖もミルクも入れればよかやんね」と言って、スティックシュガーやミルクなどを渡してくれたこともあるが……これを入れると、負けのような気がするから。ユカはお守りのようにポケットにいれたそれを握って、ブラックコーヒーを飲んでみるけれど……当然ながらポケットにいれたままで、コーヒーの味が変わるはずもない。
そんな挑戦を繰り返すこと数ヶ月……たまに、どうして自分はこんなことをしているのかと、自問自答することもあるけれど。
でも……例えば今後、政宗や統治と会うことがあった時に、したり顔でブラックコーヒーを飲むことが出来れば、ちょっとカッコいい気がする。
心身ともに大人になっていく彼らに、少しでもおいていかれないように。
次に会った時に、変わった自分を分かりやすく見せることが出来るように。
「よ、よしっ……今日こそはっ……!!」
ユカは呼吸を整えて、黒い水面にうつる自分の顔を見下ろし……コップの取っ手を握った。
そして、コップを持ち上げると、それを恐る恐る自分の口に近づけて――
「……にがか~!!」
ユカは顔を極限までしかめてからコップを机上に置くと、冷蔵庫の中にあるチョコレートを取りに向かったのだった。
そして、月日は流れて……東日本良縁協会仙台支局。
始業前のミーティングを終えた3人は、コーヒーメーカーの前にマイカップを持って集合していた。
事務所内にはコーヒーの香りが広がり、コーヒーが抽出される度にコポコポと小気味良い音を響かせている。
「そういえば……ケッカ、コーヒーはブラック派なんだな」
ユカの隣に立つ政宗がそう言って、彼女を意外そうな表情で見下ろした。ユカは反射的に口をとがらせ、空のコップを持ったまま彼を見上げる。
「なんね政宗。あたしがブラックで飲んじゃいかんと?」
「誰もそんなこと言ってないだろうが。そうじゃなくてだな……」
ユカの反応に苦笑いを浮かべた政宗は、彼女の向こう側でコーヒーの抽出具合を確認している統治に視線を向けて……肩の力を抜いた。
「こうして3人で同じものを飲んで、一緒に仕事を始められるのが……いいなって思っただけだ」
そう言ってどこか満足そうに目を細める政宗の言葉には、今回ばかりは全面的に同意せざるを得ない。
「……うん、そうやね」
彼の言葉にユカが首肯した次の瞬間、統治が耐熱ガラス製のサーバーをコーヒーメーカーから外して、2人に向けて声をかける。
「コーヒーが入ったぞ。どっちでもいいからカップを貸してくれ」
まだ、体は大人になりきれていないけれど……精神的には、2人に引けを取るつもりなどない。
ジャンケンの結果、真っ先にコーヒーを注いでもらったユカは、自席に座ってそれを一口すする。そして、口の中に広がる香りと酸味を楽しみながら……パソコンの電源を入れて、業務を開始した。
-----------------------------------------------------------------------------------
■君の居場所は僕らで守る
楽しいこと、嬉しい事ばかりだったわけじゃない。
正直これまで、そうでないことの方が多かったと思うけれど。
でも――1人じゃなかったから。
いつも近くに、君がいたから。
「政宗、この書類なんやけ、ど……?」
平日の19時過ぎ、正規雇用メンバーが各自で残業をしていた頃。
ユカはコピー機兼プリンターから出力した書類を持って、自席にいる彼に近付こうとして……おや、と、あることに気付いて足を止めた。
そして、書類を持ったまま恐る恐る彼に近づき……あることを確信する。
「あらら……これはまた……」
ユカが対応をどうしたものかと苦笑いで立ち尽くしていると、彼女の様子に気付いた統治が、イヤホンを外して立ち上がった。
「山本、どうかしたのか?」
「あぁ統治、ちょっとちょっと」
「……?」
心なしか小声の彼女に首を傾げながら、ユカの反対側から政宗の隣に立ち……彼が自席に座って頬杖をついたまま、不安定に船を漕いでいる――居眠りをしていることに気がつく。
それに気付いた統治の表情に、心なしか、優しい光がさした。
「全く……だから今日は先に帰れと言ったんだ」
「そうやね。最近何かと走り回っとって、疲れとることくらい知っとるけんが……あたし達のことげな気にせんで、今日くらいさっさと帰れば良かったんにね」
2人でそんなことを言いながら、彼を挟んで目を合わせ、苦笑いを交換した。
責任感が強い彼だから、2人に自分の仕事を一部手伝わせていることに、少しだけ……いや、大分罪悪感があるのだろう。
だから、営業先から帰ってきて、自分でも頑張ろうとして……結果、椅子に座ったまま眠ってしまったのだ。
統治は椅子の背もたれにかかっている政宗の上着をそっと手に取ると、それを彼の背中にかけた。一方のユカは、コーヒーが残る飲みかけのカップを3人分持って、一度部屋の外へ出る。フロア共用の給湯スペースで水洗いをするためである。
そして、キレイになったコップを持ってユカが再び戻ってくると、統治がキャビネットに鍵をかけている最中だった。
「統治、コップはいつもの場所に戻しとくけんね」
「ああ」
統治の返事を確認して、棚の一部にあるコップ置き場に3人分のコップを伏せて置いたユカは……その足で統治に近づくと、彼を見上げて尋ねる。
「あたしは何を手伝えばよか?」
その問いかけに、統治は持っていた鍵を半分手渡した。
「反対側の施錠を頼む」
「了解。全部閉めるけんねー」
こうやって2人で分担して閉所作業を進め、キャビネットの鍵を局長席の引き出しにそっと片付けてから……2人は自然と、政宗の後ろに立っていた。
「政宗……起きんね」
「そうだな」
「どげんして起こす? 頭の上から何かかける?」
「何故そんな発想になるんだ……」
統治のジト目に「冗談に決まっとるやんね!!」と慌てて発言を撤回したユカは……政宗の背中を見つめて、肩をすくめた。
「本当、政宗も……もう少し、あたし達に仕事を割り振ってくれてよかとにね」
ユカの呟きに、政宗のパソコンの電源を切った統治もまた、肩をすくめて苦笑いを浮かべた。
「そうだな。ただ……それが出来ないのが、佐藤だ」
「それもそうやね」
2人してすんなり納得して、思わず笑ってしまう。
彼が背負っている責任を、全て背負うことは出来ないけれど。
1人よりも2人、2人よりも3人で。
辛いこと、苦しいこと、何でもいい。彼が1人で抱えているものを、2人がそれぞれに少しずつでも持つことが出来れば……きっと、彼はもっと、素直に生きることが出来るはず。
でも、それが出来ない彼に変化を期待するよりも、自分たちで出来ることは率先してやっていこうと決めていた。
そうすればきっと、この場所を守り続けることが出来る。
3人の居場所、そして今は、心強い味方が増えた――東日本良縁協会仙台支局を。
次の瞬間、支えにしていた腕がガクリとずれて、政宗の体が大きく傾いた。
「――っ!? あ、あれ……俺……」
状況を理解出来ない寝ぼけ眼の支局長へ、2人は後ろから、いつも通り声をかける。
「ほら政宗、寝ぼけとらんで帰るよー」
「佐藤、早く支度をしてくれ。施錠するぞ」
この場所が、君の夢だと言うならば。
その夢が覚めないように……一緒に、守り続けよう。




