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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
55/121

2018年華生誕祭小話:迷い猫

 今年の華の誕生日は……ちょっと趣向を変えてみました。何気にオールスター大集合みたいなことになってますので、肩の力を抜いてお楽しみくださいだにゃん!!


 主な登場人物:華、勝利、桂樹、政宗

 島田勝利には、この時期に――秋の学園祭シーズンになると、思い出すことがあった。

 それはまだ、自分が小学校低学年の頃。仙台市内にある大学の学園祭に、家族で遊びに行った時のことだ。


「島田先輩、ここの引き継ぎのことなんですけど……島田先輩?」

 平日の放課後、外の木々が赤や黄色に色づき始め、朝晩の気温差が大きくなってくる秋の1日。いつもの空き教室で、後輩の名杙心愛に呼ばれた勝利は……彼女の声で我に返り、頬杖をついていた手を慌てて引っ込めた。

「こ、こんにちは名杙さん!! 今日は早いね!! 森君は?」

「森君はパソコン部です。ったく、さっきから呼んでたのに……心愛の話、全然聞いてなかったんですね」

 眼の前に立って腰に両手をあて、ツインテールを揺らしてため息をついた後輩に、勝利は乾いた笑いで何とか場をもたせようとして……この場には自分をフォローしてくれる人が誰もいないことを悟り、徐々に声のトーンを落としていく。

「ハハハ……阿部会長、まだかなー」

「阿部会長は千葉さんや前田君に、下の印刷機の使い方をレクチャーしてます。しばらく戻ってこないと思いますよ」

「あ、そうだったね!!」

 不自然に誤魔化す勝利に、心愛はさらなるジト目を向けた後……。

「何かあったんですか? 島田先輩が考え事なんて……ちょっと珍しいですね」

「うーん、ちょっとね。この時期になると、何となく思い出すことがあるんだ」

「思い出すこと、ですか?」

「そう。名杙さんが大学の学園祭って行ったことある? 名杙先生の大学とか」

「お兄様の大学は……心愛、結局行けなかったんです。佐藤支局長が実行委員長とかやってたから、ちょっと気になってたんですけどね」

「政宗さんが!? 流石だなぁ……」

 心愛の言葉に感嘆の声を漏らした勝利は、そうじゃないと慌てて思考を切り替える。

 勝利の胸の奥にある思い出、それは……。

「僕が小学校低学年の時、テレビで見てたお笑い芸人が、仙台の大学の学園祭に来るって話を聞いて……親に頼んで連れて行ってもらったことがあってさ」


 それは、今から6年ほど前のこと。

 勝利は生まれて初めて、『大学』という場所に足を踏み入れた。

「うわぁ……!!」

 学園祭という、1年で最も外部から人の出入りが激しくなる1日。正面にあるゲートをくぐると左右の道沿いに露店が軒を連ね、あちこちで客の気を引く声が聞こえてくる。遠くからは楽器の演奏音も聞こえてきて……広い敷地内の全てが、お祭り騒ぎになっていた。

 キョロキョロとせわしなく周囲を見渡す彼に、母親が苦笑いで忠告する。

「勝利は気になることがあると、すぐにそっちに気を取られちゃうから……勝手にどこかへ行っちゃ駄目よ。迷子になったら大変だわ」

「分かってるよ!! 僕ももう小学生だから大丈夫!!」

 こう言ってドヤ顔で胸をはる勝利に、両親は顔を見合わせて笑い合って。

 目当てのステージの入場整理券を受け取った勝利と両親は、時間になるまで周囲を見て回ろうということになった。

 たこ焼き、焼きそば等の食べ物から、校舎内を使った展示・アトラクションまで、様々な出し物が勝利の目を奪っていく。

「大学って……同じ学校なのに、小学校と全然違うんだなぁ……」

 勝利の身内に大学生はいない。だからこそ、全てが新鮮に見えて……徐々に、テンションが上っていく。

 そして――


「――あ、れ……? お父さん……? おかあ、さん……?」


 それは、ほんの少しだけ……そんな些細な気の緩みだった。

 少し離れた場所で、うさぎの着ぐるみが風船を配っているのが見えた。周囲には子どもが群がり、うさぎが持っている風船の数も、どんどん少なくなっていく。

 青く揺れるその風船が欲しくて……勝利は、母親の制止を振り切って走り出してしまった。

 そして、目当ての風船をもらって、満足して後ろを振り返ってみると……先程まで見上げていた2人の顔が、姿が、どこにもいない。


 風船を持つ手が、足が……震えた。


「お、お父さん……? おかあ、さん……?」

 か細い声で呼びかけても、周囲の喧騒に紛れて消えてしまう。とりあえず来た道を戻ろうと思っても、勝利の小さな体では、人の流れに逆らえず……むしろ、意図しない方向に流されてしまった。

「おっ……お父さん、お母さん、どこ……どこ……!?」

 どこに進むかも分からないまま流されるだけ。初めて来た場所なので、自分がどこに向かっているのかもわからない。

 見上げる皆は楽しそうで、みんな笑っているのに。

 この笑顔の中に……勝利が逢いたい2人は、見当たらない。


 このまま出会えず、家に帰れなかったらどうしよう。

 僕のせいだ。

 僕があの時、風船めがけて走ってしまったから。

 お母さんの言うことを、聞かなかったから。

 見上げるその目に、涙が滲んだ。


 次の瞬間……手元が緩み、握っていた紐が歪む。

「あ――!!」

 彼の手から離れた風船は、人並みに紛れて飛んでいきそうになった――次の瞬間。


「――これ、君の風船かな?」


 上から聞こえた声に勝利が顔をあげると、『眼鏡をかけた男の人』が、勝利が手放した風船を握って、彼を見下ろしていた。

 勝利が無言で何度も頷くことを確認した彼は、周囲をキョロキョロと見渡した後……「ちょっとこっち、いいかな」と、勝利の手を引いて、人の波から一度離れる。2人で歩くこと数十秒、大きな建物の脇に勝利を誘導した彼は、困惑する勝利と目線を合わせるためにしゃがみこんだ。

「驚かせてごめんね。あそこは人が多かったから」

「あ、えっと……うん……」

 困惑しながらも頷く勝利に、彼は笑顔で風船を手渡して……優しく問いかける。

「ここまで1人で来たの?」

「……ううん、お父さんと、お母さんと」

「そっか。お父さんとお母さんは?」

「えっと……それは……」

 勝利が半泣きで風船を握りしめたことで、迷子だと確信を得た彼は……泣くのを我慢している勝利の頭に手を添えると、力強く頷いた。

「迷子になっちゃったんだな。でも、もう大丈夫。とりあえず……お兄さんと一緒に、迷子センターに行ってみようか」

「迷子せんたー……?」

「そ。とっても楽しそうな場所だったよ。きっと、君のお父さんとお母さんも、そこに来てくれると思う。どうかな?」

 まるでその場所を知っているかのような口ぶりに、勝利は反射的に頷いて……彼と共に歩き始める。

 彼は勝利と歩調を合わせて、彼らが背にしていた大きな建物の2階へと階段を登った。彼が勝利を守るように歩いてくれたから、前から人が来ても流されることもなく歩みを進め……建物の2階にある一室へと、足を踏み入れる。

 すると――


「――あら、また君なの? まるでいぬのおまわりさんね」


 2人の姿に気付いた長い髪の毛の女性が、苦笑いを浮かべて近づいてきた。

 白いTシャツとジーンズという服装で、大きく名前が記載されているネームプレートをぶら下げている。そして……その頭には、なぜか、猫の耳が装着されていた。

 凛とした立ち姿に似合わない猫耳に、風船を持ったまま勝利があっけにとられていると……ここまで連れてきてくれた彼は、猫耳の女性に向かって軽く頭を下げた後、苦笑いを浮かべる。

「どうにも俺は、迷子を引き寄せるみたいで……スイマセン、お願いします」

「勿論よ、むしろありがとう。君、高校生かな? 折角来てくれたのに、ココと入り口の往復なんじゃないの?」

 からかうように告げた彼女の言葉に、彼は「そうかもしれません」と話を合わせた後、勝利を見下ろして軽く手を上げた。

「ここが迷子センターだよ。後はこのお姉さんの言うことを聞けば大丈夫だからね」

「あ……」

 勝利が口を開こうとした次の瞬間、彼は踵を返して部屋から出ていってしまった。

 あっという間に居なくなってしまった彼の出ていった方を、しばし呆けて見つめていると……先程の彼女が、不意に、勝利の頭に何かをのせる。

「――よーしっ、これで君も、この猫王国の仲間入りだにゃー」

「にゃ、にゃ……?」

 訳が分からないまま、風船を持っていない左手で頭をまさぐってみると……いつの間にか、自分の頭にも猫耳が装着されていた。

 そして、改めて室内を見渡してみると……部屋の一角には絵本が並ぶ本棚と、その本を読むための椅子とテーブルが。もう一方にはウレタン製のマットが敷かれており、4~5名の子どもが積み木やミニカーなどで遊んでいる。そして、それを見守るのは7~8名程度の大学生なのだが……子どもも学生も、全員が猫耳を装着しているのだ。

 一体何が起こっているんだろうと目を丸くしていると、先程の彼女が、何やらバインダーとボールペンを持っていることに気がつく。

 彼女はそれを持ったまま勝利に目線を合わせるようにしゃがみ込むと、首からぶら下げていた名札を掲げ、優しい笑顔でこう言った。

「こんにちは、迷子の子猫ちゃん。私は、この猫王国の『はにゃ』。今から君が人間の世界に戻れるように協力するから……お名前から教えてくれるかにゃ?」


「――佐藤、こんなところにいたのか」

 建物を出たところで声をかけられた彼は、キョロキョロと周囲を見渡して――自分の連れの姿を確認する。

「統治、親戚の人の展示はあったのか?」

 統治と呼ばれたくせ毛の彼はコクリと頷くと、眼鏡の彼を見つめ……顔をしかめる。

「……やはり見慣れないな。様子はどうだ?」

「今の所、特に体に異常はないよ。ただ……なんかやたらと迷子に会うかな。さっきの子で4人目だ。この眼鏡、伊達先生に呪われてないよな?」

「そこまでは俺も知らない」

「否定してくれよ統治……でもまぁ、伊達先生からバイト代が出るから、俺は今日も1日頑張って眼鏡男子になるぜ!!」

 こう言ってドヤ顔で胸をはる彼――政宗に、統治が「何言ってんだコイツ」という目線を向ける。

 伊達聖人が開発した、『縁』の見え方を抑制する眼鏡。当時、その効果を検証する実験に協力していた政宗は、人が多い場所を選んで出かけていたのだ。ちなみに、一度かけた眼鏡は、1日が終わるまで外さないで欲しいと言われている。疲労感のデータも取るためだ。

 この学園祭を選んだのも、たまたま。特に深い理由はない。

 だけど……困っている人を助けるのは、気持ちがスッキリするから。

「本当は、眼鏡を外して『縁』をたどればいいんだけどな……まぁ、後はこの大学の人に任せますか」

 先程の少年が無事に両親と会えるよう、心の中で願いながら……政宗は統治と連れ立って足を進め、人波に紛れた。


 一方その頃、自分の名前と住んでいる地域、年齢を告げた勝利は、目の前でふんふんと頷きながら書き込んでいく彼女――『はにゃ』と名乗った女性を見つめていた。

 『はにゃ』は書いた情報を確認した後立ち上がり、部屋の隅で子どもが散らかした絵本を片付けていた男性の背中をロックオン。彼の頭にも猫耳が装着されている。

「桂ちゃーん、ちょっと桂ちゃーん」

 彼女に『桂ちゃん』と呼ばれた彼は、若干面倒臭そうに立ち上がった。華と同じくTシャツとジーンズという出で立ちで、その眼差しは、先程ここに勝利を連れてきてくれた彼よりもずっと大人びていて、少し冷たい印象すら受ける。

 勝利が『桂ちゃん』に萎縮していることに気付いたはにゃが、「大丈夫よ」と頷いてウインク1つ。

「桂ちゃんは、私のお友達なの。今から君の……勝利くんのお父さんとお母さんを、ここに連れてきてくれるのよ」

「えっ!? 本当に!?」

 困惑する勝利に、はにゃは「そうよ」と頷いて、やって来た彼にバインダーを手渡す。

「はいコレ、またお願いね」

「華さん、別に俺じゃなくても……」

「ハイハイ桂ちゃん、今は『はにゃ』さんね。いいじゃない、桂ちゃんを見つけて頼りたくなっちゃったの。猫耳、似合ってるから大丈夫よ」

「……」

 彼は憮然とした表情でバインダーを受け取ると、無言で部屋から出ていった。

 猫耳をつけたまま。


 この部屋は、華や桂樹が所属しているサークルが、毎年実施している『迷子センター』だった。

 2人が所属するサークルは、普段、仙台市内やその近隣にある児童福祉施設を訪問し、入所者の子どもとコミュニケーションをとったり、クリスマスなどのイベントでは出し物を企画したり、サークルの卒業生で立ち上げた子どもに関するNPO法人の活動を手伝ったり……とにかく、学外で子どもに関わることが多い。

 県内外から多くの人が訪れる大学祭。この大学は周囲の病院や保育園などとも密接に関係しているので、毎年それらにもチラシを配布したりして、多くの子どもが親と一緒に遊びに来る。

 そして……お祭り騒ぎの中、親とはぐれてしまう子どもも、決して少なくないのだ。

 そのために、施設の慰問やボランティアで子どもとの触れ合いに慣れているこのサークルが、毎年、『迷子センター』の運営を実行委員会から委託されていた。

 これを受けることで、来年分の予算は確約されたようなもの。サークルの存続のために、そして何よりも、心細い子どもが少しでも笑っていられるように、毎年実施してきたことなのである。

「と、いうわけで……今年のスタッフの目印は、猫耳にすることにしたわ」

 事前の打ち合わせで、サークル代表の華が告げた言葉に、女性陣は笑顔になり……男性陣は神妙な顔になった。

 2年生になった名杙桂樹が、釈然としない表情で手を上げて理由を問う。

「華さん、どうして猫耳なんですか……?」

「可愛いじゃない。桂ちゃん、子どもにはそういうのがうけるのよ。それに、去年演劇サークルでミュージカルをした時、大量に購入したものが余ってるんですって。それを借りられそうだから、手出しもゼロってわけ」

 ドヤ顔で言ってのける華に対して、桂樹を含めた男性陣は代替案を出すことが出来ず……このサークルの一員として過ごす間は、猫耳をつけていることになったのだった。


 何が何だか分からない勝利が、事の成り行きを見守っていると……「さて」と声を出したはにゃ――華が、勝利を見下ろして再び笑顔を向ける。

「今、お父さんとお母さんに、ここに来てもらうよう伝えに行ってもらってるから。お迎えがくるまで、ここで遊んでよっか」

「遊んでて……いいの? でも僕、ステージを見たくて……」

「ステージ? あぁ……整理券はもらった?」

 華の問いかけに勝利はコクンと頷くと、不安を隠せない表情で彼女を見つめる。

 ステージも見れないまま、親と出会えなかったら……いくらここにいる人が優しくても、とても悲しいと思ったから。

 そんな勝利の不安を察した華が、風船を持っている彼の手を両手で包んだ。そして、力強く頷いてみせる。

「大丈夫よ勝利くん。お父さんとお母さんは、絶対ここに来てくれるわ」

「……本当に?」

「えぇ、本当よ。さっきのお兄さんと一緒に、絶対何とかしてあげる。だから今は、ここで遊んで待ってましょ」

 そう言って華はそのまま彼の手を引くと、積み木などのおもちゃが並ぶコーナーへと勝利を誘った。間仕切り代わりに敷いてあるウレタンマットの前で靴を脱いで、先客のいる場所に割って入る。

 そこにいたのは、絵を描いていた勝利と同じ年齢くらいの少年1人と、彼を見守っていた、華と同じく首から名札をぶら下げている大学生。華は軽く手を上げると、顔を上げた彼女に向けて話しかけた。

「スズちゃん、私と勝利くんも一緒に遊んでいい?」

「あ、はな……はにゃさん、どうぞ」

 スズと呼ばれた女性は、柔らかい物腰で会釈をした後、戸惑う勝利にミニカーと新幹線のおもちゃを見せた。

 服装は華と同じ。肩につくくらいの髪の長さで、表情や雰囲気が優しい女性だった。名札にはカタカナで『スズ』と記載されている。そして頭には猫耳をつけていた。

 華とは違う雰囲気の女性に萎縮していると、スズは両手に持ったおもちゃを彼の前に掲げて、優しい笑顔を向けてくれる。

「勝利くんは、何が好きかな?」

「えっと、僕は……僕は新幹線が好き!! 利府の車両基地にも行ったことあるよ!!」

「そうなんだ、カッコいいもんね」

 そう言って、スズは勝利に新幹線のおもちゃを手渡した。そして、丸くレールが設置されている方へ彼を誘う。

「勝利くん、その風船は、ここで預かっておいてあげるわね」

「……うん!! ありがとう、はにゃさん!!」

 華の言葉に元気に頷いた勝利は、持っていた風船を彼女に手渡した。

 少し肩の力を抜いて、スズ――涼子についていった勝利の背中を見つめながら、華はとりあえず、安堵の息をついた。

 そして……クレヨンを使って、無心で絵を書いている彼に話しかける。

(たまき)君は、さっきから何を描いているの?」

「……猫」

 環と呼ばれた少年は、顔を上げずにボソリと呟いた後……再び無言で、紫のクレヨンを使って絵の続きを始めた。

「なるほど……カッコイ猫ね」

 随分前衛的な色使いだと思いながら、華がその場を涼子に任せて全体を見渡していると……親の呼び出しを終えた桂樹が、部屋に戻ってくる。

「おぉ桂ちゃん、お帰りなさい」

「……戻りました」

 華にバインダーを手渡した桂樹は、どこか疲れた表情でため息をついた。流石にこんな格好で大勢の人の前に出るのは気が引ける。実際、割と恥ずかしかった。迷子を助けるという大義名分がなければ、絶対に無理だったと思う。


 名杙家では、こんな扱いを受けることなどない。

 隣に立つ彼女の考えていることが、桂樹はよく分からない。


「華さんは……」

 桂樹は隣に立つ彼女をチラリと見やり……気になっていたことを問いかける。

「華さんは……どうしてこのサークルに入ったんですか?」

「私? 私は……そうねぇ、元々姉弟がいない(・・・)から、小さな子どもと触れ合いたいっていうのもあるし……私が人脈を作っておけば、いずれ役に立つかもしれないなって」

「いずれ、役に立つ……」

「ちょっと、親類で親に放っておかれてる子がいるの。虐待に関してはグレーだから、児相も積極的に介入出来ないし、桂ちゃんは知ってると思うけど、あの家、そういうの大嫌いでしょ?」

 華はこう言って、どこか自嘲気味に呟いた。

「私があの子をどこかへ連れて行ってあげられればいいんだけど……流石に、そんなことまで出来ないから。だから、このサークルで知識と人脈を作って、いずれ、あの家から逃してあげられればいいな……ってね」

 こう言って華は口元に人差し指を立てると、ウインクをして小声で呟く。

「今の話は……誰にも言わないでね。桂ちゃんは名波の事情を多少知ってるから、つい喋りすぎちゃった」

「……分かりました」

 言われるがままに頷いた時、迷子センターに駆け込んでくる、一組の両親がいた。


「良かったね、勝利君。君はもう猫の王国を卒業だにゃー」

 こう言って彼の頭から猫耳を外した華は、自分を見上げる勝利へと、名札を入れているケースから名札と同じサイズのシールを取り出し、勝利に手渡した。

 そのシールは、彼が先程好きだと言った、新幹線の絵柄。

「このシールをもらった子は、お父さんとお母さんから離れちゃ駄目なんだぞ。お約束、守れるかな?」

「うん、守れる!! 絶対守るよ!! ありがとうはにゃさん」

「よしっ!! じゃあ……お祭り、楽しんでね」

 華と涼子、他のスタッフに見送られた勝利は……両親と手をつないで、無事に、見たかったステージを見ることが出来たのだった。



「……島田先輩、その頃から無鉄砲だったんですか?」

 話を聞いて更にジト目になる心愛に、勝利は慌てて釈明する。

「い、今はもうちょっと考えて行動してるつもりだよ!?」

「はぁ……でも良かったですね、そうやって保護してもらえる場所があって」

「そうなんだよ。だから僕も、困っている子には優しく手を差し伸べてくれる人になりたいんだ」

 そう言って目を輝かせる勝利に、心愛は相変わらずだなぁと思いつつ……彼が『はにゃ』と呼んだ人物が、いつかどこかで勝利と再び出会えればいいな、なんて……そんなことを考えていた。

 その時の『関係縁』が切れていなければ……またどこかで、会えるかもしれないから。

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