2018年伊達先生生誕祭小話・BMW(2)
2018年の伊達先生の誕生日も、BMWです。好きなのでシリーズ化です。(笑)
エンコ本編第4幕で登場した茂庭万吏との会話を、マイペースに文字化しております。井戸端会議の室内版だと思ってください。
缶コーヒーを片手に、今年の2人はどんな話をするのでしょうか……?
■主な登場キャラクター:聖人、万吏
7月最後の平日、時刻は間もなく16時になろうかというところ。
利府に構えた室内で1人、ダイニングテーブルに資料を広げ、情報のまとめと考察をしていた伊達聖人は……ふと、遠くから聞こえた重く響くエンジン音に作業の手を止め、一度、ため息をついた。
「……来ると思ってたけどね」
聞き覚えのある音に来客の確信を抱いた彼は、手元の書類や資料をまとめると、近くの茶封筒にまとめて入れておく。更にその上から分厚い本を数冊重ねて、とりあえずテーブルの隅に置いた。
空調のきいた室内で、半袖Tシャツとジャージの上から着慣れた白衣を羽織り、足元は素足に健康サンダルという出で立ちの聖人は、テーブルから立ち上がってキッチンの方へ向かった。
冷蔵庫を明けて中から冷やしていた缶コーヒーを2本取り出すと、いま来た道を戻る。
来客を告げるインターフォンが鳴り響いたのは、聖人がテーブルにコーヒーを並べたのと、同じタイミングだった。
「いやー伊達ちゃん、今日も暑いね」
半袖の白いワイシャツにグレーのズボンという出で立ちの茂庭万吏が、足早に室内へと足を踏み入れて……リビングで待ち構えていた涼しい風の恩恵を一身に受ける。
流石に車からここまでの移動では、目立って汗をかいている様子はないけれど……普段はポーカーフェイスの彼も流石にゲンナリした表情になっており、外との気温差が相当あることが伺えた。
「生き返る……疲れた体に冷気が染み渡るぜ……!!」
「万ちゃん、お疲れ様。でも、疲れてるなら早く帰った方がいいんじゃないかな」
「いやいや伊達ちゃん、そんな悲しいこと言わないでよ。仙台での慣れない仕事と経営者の愚痴に疲れた万ちゃんは、石巻まで車で帰る前に心身の休憩が必要なのだよ」
「自分のこの部屋は無料休憩所じゃないんだけどね」
「まぁまぁそう固いこと言うなって。だって俺達……ズッ友だろ?」
こう言ってニヤリと口角を上げる彼を、聖人はハイハイと笑顔で受け流した後……先程まで座っていた椅子に腰を下ろす。
万吏もまた、テーブルを挟んで聖人と向かい側の椅子に腰を下ろした後、手元にある缶コーヒーに手を伸ばした。
2人が互いの隙間時間に顔を合わせて、雑談をする。
こんな関係を続けて、何年経過しただろうか。
冷たく冷え切った缶を指先で固定して、プルタブをあける。中身を喉に流し込むと、夏の暑さに火照った体内を冷たいコーヒーが移動していく感覚があった。
万吏は一気に半分ほどを飲み干した後、缶から口を離して脇に置いた。そして長く息を吐いて、上半身の力を抜く。
その様子を見ている聖人もまた、静かに缶コーヒーを開くと、中身を一口流し込んだ。そして一息ついた後、彼に向けて微笑みかける。
「その様子だと……問題が解決して、安心してるってことでいいのかな?」
聖人の言葉に彼へ視線を向けた万吏は、「まぁね」と首肯した後、テーブルに頬杖をついて目を細めた。
「伊達ちゃんも聞いてると思うけど、ミズに関するトラブルが一段落したからさ。いやーもう本当にどうなるかと思ったけど……政宗君は流石だね。組織の大きさもあるけど、機動力が名杙の比じゃないわ」
彼の義理の妹――妻の妹にあたる支倉瑞希に、本人も感知出来ないような異変が発生して。それを1人で抱え込み、沈んでしまっていた。
それに気付いた万吏の妻・涼子から相談を受けた彼が、この話を政宗の元へ持っていった。そして政宗を中心とした『東日本良縁協会仙台支局』のメンバーが動き、最初の相談からわずか2週間足らずで、事態は良い方向へと向かっている。
正直、こんなに短期間である程度の決着がつくとは思っていなかったので、万吏は政宗を中心とした『仙台支局』を、とても高く評価していた。
そして……。
「伊達ちゃんも気にかけてくれてたんでしょ? ありがとさん」
チラリと目の前の親友に目線を向けると、聖人はしたり顔で首をかしげる。
「何のことかな。自分は何もしていないよ」
「まぁ、今回は直接関わってないかもしれないけど……ミズの体に何かあった時、すぐにどこかの病院が受け入れてくれるように、最低限の用意はしてくれてたんじゃないかなってさ。伊達ちゃん、そういう人だし」
万吏の指摘に聖人は何も言わず、コーヒーを一口すすった。
そんな彼の反応を見ながら、万吏も缶コーヒーを手繰り寄せて……ポツリと呟く。
「……俺、ようやくケッカちゃんに会えたんだけどさ」
「そうだね。念願のケッカちゃん、どうだったのかな?」
聖人の問いかけに万吏は視線を伏せた後……どこか自嘲気味に言葉を続けた。
「俺、はっきり言って舐めてたわ。政宗君がケッカちゃんを会わせてくれないのは、彼自身が恥ずかしいからだって思ってた。勿論それもあるとは思うけど……でも、それだけじゃないなって思ったんだよね」
「おや、それはどうして?」
含みのある言葉に聖人が目を細めると、万吏は万吏で言葉を選びながら……彼の前でだけ出せる本音を紡ぐ。
「何というか、ケッカちゃんの肝の据わり方がおかしいんだよ。確かに色々な修羅場をくぐり抜けて来たんだとは思うけど、それ以上にプロ意識がずば抜けて高い。そしてそれを政宗君は理解して、信頼してる。彼が信頼してるのは統治君だけかと思ってたけど、そうじゃなかった」
万吏もある程度、ユカの事情は知っているつもりだった。
『縁故』という特殊な境遇が原因で、年齢と体の成長が一致していない女性。
政宗や統治とは彼らが学生時代の研修で知り合って、切磋琢磨してきた。
そして、4月に発生した統治の事件をキッカケに、福岡からやって来て……そのまま、仙台で仕事を続けている。
最初は、政宗が困っているから気心の知れた彼女を呼んで、学生サークルの延長のような感覚で楽しく仕事をしている、そう思っていたけれど。
現場で出会った彼女は、最初から最後まで職業人だった。
政宗や統治に臆することなく意見を伝え、その場における最善を選択する。今回の件では万吏の妻・涼子もユカとは直接話をしたが、その落ち着きっぷりにとても驚いたと、帰宅した彼に話をしてくれた。
「今日、ミズちゃんのことで、山本さんと初めてお話をさせてもらったんだけど……凄く冷静で、柳井君にテキパキ指示をしていて……驚いちゃったの。山本さんのご病気、早く治るといいね」
そう言って笑顔を向ける彼女に上着を渡しながら、「そうだね」と返答したのは、つい先日のこと。
万吏自身も冷静に考察・対処するユカの姿は目撃しているので、涼子と見解の相違はない。ただ……。
「何というか……あの2人、いや、統治君を含めたあの3人のチームワークと信頼感に圧倒されたのかな。あの3人は間違いなく、今後の名杙を揺るがすよ。むしろ統治君は名杙を離れてでも彼らにつくべきだと思う」
「確かに、彼らは名杙に対抗するだけの勢力になりそうだね」
「俺個人の意見だけどね。仁義は仁義で色々あったけど、結局仙台で何とかやっていくみたいだし……ミズと関係あった森君、だっけ。彼も政宗くんのところでしょ? ミズもあの中で守ってもらえたら、義理のお兄様としても安心かな」
万吏のところにも、瑞希が今の仕事から『仙台支局』へ転職するらしいという噂が届いていた。
今の会社へも、4月に入社したばかり。そこから短期間での転職には、彼女の両親も首を傾げたと聞いているが……最終的には名倉家の口添えもあって、同意を得ることが出来たらしい。
もっともつい先程、今の会社の社長からは……万吏に対して若干の愚痴があったけれども。
「いやぁ、万ちゃんがそこまで評価するなんて相当だね。まぁ……自分も概ね同じなんだけど」
「おや、伊達ちゃんがそこまで他人を評価するなんて、相当だね。どうして?」
彼に言われた言葉をそのまま返した万吏は、聖人にその理由を口に出すように促した。
「自分が名杙に取り入ることが出来たのも、彼らのおかげだからね。そりゃあ評価も高いよ」
「あれ、そうだっけ? 伊達ちゃんが名杙に取り入ったのって、『わたる』が……」
友人の名を口にした万吏は、急にハッとしたような表情になって……一度、聖人の表情を確認した。
そして、聖人に変化がないことを確認してから、躊躇いがちに口を開く。
「……そういえば、渉から俺に連絡があった」
「そう」
久しぶりに聞いた旧友の名前。
『色々あった』けれど、今はもう、彼に対する要望は1つだ。
「一度、伊達ちゃんと……『聖人』と話がしたいって言ってる。どうする?」
少し辛そうな表情で彼の意思を問う万吏に、聖人は表情を変えることなく、淡々と返答した。
「返事は決まってるよ。『今はまだ会えない』、そう伝えてくれるかな」
『今はまだ会えない』、この『今はまだ』が外れるようになるには……まだ、成果が伴わない。
この成果を出すまで、彼はここから動くわけにはいかないのだ。
「分かった」
万吏は理由を聞かずに頷いた後、缶コーヒーを一口すすった。
そして、聖人の脇にある本と、その下にある封筒に視線を向けて……恐る恐る問いかける。
「あのさ、伊達ちゃん、俺は『縁故』も『縁由』も分からない素人だから、単なる思いすごしだと思って聞いて欲しいんだけど……ケッカちゃんと政宗くんって、『わたる』と彩衣ちゃんと同じってことは、ないの?」
「……」
彼の問いかけに、聖人はしばし思案した後……苦笑いで首を横に振った。
「それが……正直なところ、まだ分からないんだよね。最初は自分もそうだと思ってたし、実際にそう思える要素もある。けど……何というか、今の政宗君を見ていると、どうにも同じだとは思えなくてねぇ……」
この言葉に万吏は目を丸くした後……苦笑いで肩をすくめた。
「……まぁ、確かにな。今の政宗君は『違う』か」
「でも、万ちゃんがそう思うくらいだから……どちらかに『兆候』が出てるんだろうね。自分としても、これ以上問題がこじれないうちに、何とかしてあげたいけど……」
聖人はここで言葉を切ると、缶コーヒーを一口すすって……頬杖をついた。
そして、ヤレヤレと言わんばかりの表情でため息をつくと、万吏と同じ表情で彼を見つめる。
「政宗君……ヘタレ過ぎるんだよねぇ……」
「あぁ……すっげー分かるわ、それな」
2人して同じ表情で――親戚の男の子の初恋を心配するような兄貴分の顔で――苦笑いを交換して、それぞれに残ってた缶コーヒーを飲み干した。
この時の聖人は、「これ以上問題がこじれないうちに」なんて……悠長なことを言っていたけれど。
この会話から数日後、問題は急速かつ複雑に、絡まり始める。
聖人が彼から連絡を受けたのは、8月に入り、仙台の街が年に一度の七夕まつりに向けて盛り上がり始める……そんな夏の日の、昼前のことだった。
自宅のある大和町から利府に向かっていた聖人は、車のダッシュボードに置いたスマートフォンが、連続して振動していることに気が付いた。
非常勤とはいえ医師として働いている彼の元へは、非番であっても緊急で電話がかかってくることも少なくない。とりあえず車を路肩によせて駐車した後、振動が収まったスマートフォンを手に取って、電話の相手を確認した。
「……政宗君?」
電話をかけてきたのは、佐藤政宗。彼を含む『仙台支局』のメンバーとは特に約束をしていないので、聖人は首を傾げながらコールバックすることにした。
蓮に関することで何かあったとすれば、統治や他の名杙の人間が連絡をしてくるはず。予想できない用事に首を傾げつつ、相手が出るのを待っていると……3コール目の途中で政宗が応答し、通話が始まる。
「こんにちは政宗君、伊達先生です」
「だ、伊達先生……お忙しいところ、本当にスイマセン……」
聖人の軽妙な口調に反して、電話の向こうにいる彼の声は、痛々しいほど動揺していた。
「政宗君、何かあったのかな? 話せそうなら、簡単に教えて欲しいんだけど……」
彼がここまで動揺を顕にするのは珍しい。ただごとではないことを悟った聖人が気持ちを切り替えて耳を傾けると、電話の向こうにいる彼は、今にも泣き出しそうな声で……驚くべき事実を口にした。
「ケッカに……6月の『ユカ』のことが、知られてしまいました。彼女から説明を求められているんですが……俺1人では、どうしようもなくて……」
予想していたよりもずっと早い事実の露呈に、聖人は軽く息を呑んだ。
しかし、電話の向こうにいる彼を、自分の態度で動揺させたくはない。瞬時に口元を引き締めて、気持ちを切り替える。
いずれ知られることだとは思っていたし、彼女は知っておいたほうが良いとも思っていた。
彼らへの説明は、この10年間、彼自身が取り組んできたことの中間発表のようなものかもしれない。『あの時』は何も分からず、流されるままに守れなかったけれど……でも、今は前より少しだけ、理論武装が上手くなったから。
話す時は、口角を上げて。
口調は、出来るだけ軽妙かつ小気味よく。
それが――伊達聖人。自分で作り上げてきた人格だ。
「政宗君、自分は今、利府の手前にいるんだ。今から何か昼食を食べようと思っていたんだけど……自分の分のお昼ご飯を用意してくれるなら、すぐにそちらへ向かえるよ?」
政宗がその条件に同意したことを確認して、聖人は電話を切ると……シートに一度体を預けて、長く、息を吐いた。
時間は待ってくれない。
終わりは――必ず訪れる。
だからこそ――同じ轍は、二度と踏まない。
この場から『仙台支局』へ向かう最短ルートを脳内でシュミレーションした聖人は、明確な決意と共に、再び車を走らせるのだった。
なんだかもう意味深な会話ばかりでスイマセン!! 完全に霧原が楽しんで書きました!!
本当ならばとっくに第5幕も公開が終わっていて、「あぁ、この会話はあの時のことね」っていう答え合わせにしたかったんですけど、特にそんなことがないという!! 申し訳ないですもうちょっと待っててください……。
この2人に関しては、何も気負わずに書けるんですよね。ビジネスパートナーでもない、純粋な友達なので。万吏も普段は年長者として政宗達をからかっていますが、内心ではちゃんと認めているところを書けて楽しかったです。来年(2019年)のBMWでは、この話の答え合わせが出来るように本編を頑張ります!!
伊達先生、お誕生日おめでとうございますー!! これからの1年で色々と明かしていきますので、引き続き、宜しくお願いしますー!!




