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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
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2018年勝利生誕祭小話:全ては未来のために

 勝利の誕生日と倫子の誕生日は、生徒会の今後について考えてみたいと思います。

 1年生のいない現生徒会。彼らはこの問題にどんな解決策を見出すのでしょうか……?


登場キャラクター:勝利、倫子、心愛、環、政宗


 盆も明けた8月下旬、間もなく夏休みも終わるという日の午後。秀麗中学の生徒会が使っている、北棟3階の空き教室にて。

 指定制服の夏服を着用している島田勝利は、長机の上に広がった書類を片付けながら……同じく向かい側にある長机の上を片付ける生徒会長・阿部倫子に声をかけた。

「ねぇ、阿部会長……生徒会って僕達がいなくなったら、どうなるんだろうね」

 勝利の言葉に倫子は作業の手を止めて顔をあげると、前に落ちてきた髪を耳にかけながら、苦笑いを浮かべる。

「そろそろ、本当に考えていかないといけないわね」

 倫子自身も先送りにしている自覚はあった。しかし、自分たちの力だけではどうしようもないこともまた事実であり、現実なのだ。

 秀麗中学は、県内でもスポーツが強い私立中学校だ。そのため、全国から部活目当てで人が集まる。私立ということで設備も充実しており、同系列の付属高校は甲子園やインカレの常連校だ。中学から切磋琢磨をして高校で更に才能を開花させる生徒も多い。

 要するに、放課後を部活に打ち込みたい生徒が多いため、生徒会を含む学校運営の活動には、どうしても人が集まらなかった。内申点が上がると言っても、部活で良い成績を残したほうが目に見えて分かりやすい。

 文系は文系で、吹奏楽はコンクールの常連、書道や美術も個人で良い成績をおさめているため、やはり生徒会に人は集まりにくい。現に今の所、生徒会に1年生はいないのだから。

 今年に入って、2年生になった名杙心愛を引き入れる事ができたが、これも倫子が担当教諭に相談して、心愛を紹介してもらったのだ。勉強も運動も人並み以上に優秀な彼女が部活に入っていなかった理由が分からなかった倫子だが、その理由は5月の一件で察した。彼女は、あまりにも特殊だったから。

 そして、もう1人。勝利のクラスメイトでもあるっパソコン部の部長・飯田昴輝の執り成しで何となく手伝ってくれるようになった森環もまた、心愛と同じ特殊な才能を持っていることが分かり、放課後が更に忙しくなってしまった。

 現にこの2人は、つい数十分前までは勝利や倫子と一緒に、秋の文化祭に向けた用意を始めていた。しかし、本日は『仙台支局』での研修ということで、一足先にこの場を後にしていたのだ。そのため、今は2人で後片付けをしているのである。

 机上のプリントを全てまとめた勝利は机の上でトントンと揃えつつ、何か出来ることはないかと考えを巡らせているものの……当然ながらクラスメイトは全員受験生。ならばと思って下の学年の子を紹介してもらおうとしても、そのほとんどが部活に入っていたり、興味がなさそうに苦笑いで断られたり。

 教師もこの現状に危機感を抱いて、心愛と同様に2年生にまで範囲を広げて探してくれているが、やはり2年ともなると部活に入っているが、受験期を見据えて塾通いに力を入れている生徒が多い。要するに誰も来ない。

 勝利はまとめたプリントを倫子に渡すと、腕を組んで顔をしかめた。

「名杙さんも森君も忙しそうだから、僕達が何とかするしかないよね。今の時期に入ってもらえば、文化祭を1年生から経験出来るんだけどなぁ……文化祭、忙しいけど楽しいんだよね」

「そうね、文化祭はやりがいも感じられると思うわ。タイミングとしては9月中旬がリミットだとは思うけれど……そう簡単にいくかしら」

 そう言ってため息をつく倫子に、勝利は珍しく、苦笑いを浮かべることしか出来ない。

 勝利たちの学年は、他にも複数名、一緒に活動をしていた仲間がいたのだが……進路を意識して勉強が忙しくなる2年時後半から、我先にと相次いで活動を辞めてしまったのだ。そして、昨年の3年生が卒業する頃には……2人きりになってしまっていて。

 その時も途方にくれたけれど、何とか心愛が入り、環も助っ人になってくれて、首の皮が1枚繋がった感じがある。とはいえ……崖っぷちなことに変わりはないから。

 勝利も倫子も系列高校の特進科という進路の希望は決まったからと言って、合格が確約されているわけではない。編入試験を突破しなければ、希望のコースに進むことは出来ないのだから。


 色々なことが、なかなか上手くいかない。

 楽しいだけでは、どうしても、限界がある世の中だから。


 例えば――政宗だったら、このピンチをどうするんだろう。


 彼もまた仙台に新しく組織を立ち上げて、その運営で忙しいはずだ。勝利と会っている時には決してそんな表情も姿も見せないけれど、心愛や環に話を聞くと、人数不足や己の仕事の特殊性から、目に見えない苦労を相当抱えてこんでいる、らしい。

 しかし、彼が運営する組織は軌道に乗っており、つい先日、新規の職員を採用したと聞いた。


 彼の周囲には、人が集まってくる。

 それは――単純に、彼の人徳が為せる技だろう。現に自分も、そんな彼に憧れ、集まってきた人物の1人なのだから。

 こんな時、彼だったら……。

「政宗さんなら……どうするのかな」

「島田くん……」

 無意識のうちに呟いた勝利は、倫子の呟きでハッと我に返った。そして、自分に苦笑いを向ける倫子に向けて、慌てて言い訳を構築する。

「い、いや、ほら!! 政宗さんも少人数の組織を束ねる人だからね!! 最初から上手く行ったわけじゃないみたいだから、どうしてたんだろうって!!」

 どれだけ言い訳をしても、倫子の笑顔は変わらない。そして、気恥ずかしさを誤魔化すために笑う勝利へ、こんな提案をするのだ。

「じゃあ……相談に乗ってもらえないかしら」

「そ、相談?」

 倫子が何を言い出したのか理解出来ず、勝利は首をかしげる。

 そんな彼へ倫子はプリントを両手に持ったまま、柔らかい口調で説明を続けた。

「そう。お忙しいとは思うけれど、佐藤さんに一度学校に来てもらうか、私達4人が佐藤さんのところへ行って、問題点を洗い出してもらうの」

「問題点……」

「今の私達に足りないものは、必ず何かあるはずだわ。でも、私達では気付けないのだから……ここは優秀な先輩の力を借りたらどうかしら」

 こう言って勝利の意思を問う倫子に、勝利はしばし、考え込んで――

「……そうだね。一度、話を聞いてもらおう!!」

 そう言って顔を上げた勝利に、倫子は満足そうな表情で頷いた。


 そして、数日後の午後。統治の仲介もあり、政宗は秀麗中学に足を踏み入れていた。

 仙台支局には秘匿性の高い資料も多く、あまり長い時間、仕事と関係ない会議をすることは出来ない。そのため、他のメンバーが全て揃っているこの日を選び、政宗が外へ出ることにしたのだ。

 残暑が厳しい今日も日差しは容赦なく降り注ぎ、シャツの内側にじわりと汗を染み込ませる。セミの輪唱をBGMに、彼は首から入館許可証をぶら下げた。

 半袖のワイシャツはクールビズのためノーネクタイ、薄いブルーのズボンにスリッパを着用して、人気のない校内に足を踏み入れた政宗は……かつて自分も通った校内に、歩いた廊下に、目を細める。

 政宗もまた、この中学校に入学する直前に育ての親を不慮の事故で亡くし、それがキッカケの事故で『縁故』の能力を手に入れた。

 そして、領司に出会い、統治と出会い……ユカと出会って。

 どうしようもない挫折から奮起して、あらゆるものと戦い続けて……今、ここに立っている。

 そういえば、彼が『佐藤政宗』という名前を自分につけたのも中学生の頃だ。自分の原点とも言える時間を過ごしたこの場所で、今、後輩たちが困っているらしい。

「……俺に出来ること、あればいいけどな」

 階段を見据えて呼吸を整え、政宗は後輩が待っている3階へと足を踏み出した。


 政宗が3階の空き教室に『久しぶりに』足を踏み入れると、既にその場に集合していた4人が顔を上げる。

 今日は政宗の指示で机は用意されず、4人はそれぞれバインダーと筆記具を手に持ち、椅子を持ち寄って部屋の中央に輪を作っていた。そして、勝利と環の間の椅子が1つあいている。

「政宗さん!! お疲れ様です!!」

 椅子を蹴って立ち上がった勝利が、自分の隣を猛アピールした。そんな彼の前に座っている心愛が呆れ顔でジト目を向ける中、政宗は案内された椅子に腰を下ろす。そして、全員の顔を見つめた後、この場を取り仕切るであろう倫子に視線を向けた。

 彼女は静かに頷いた後、居住まいを正し、政宗へと頭を下げる。

「今日はお忙しいところ、わざわざありがとうございました。『かつて生徒会長だった』佐藤さんに来ていただけて、嬉しいです」

「えぇっ!? 政宗さんが!?」

 倫子が何の脈絡もなく語った事実に、勝利は思わず大きな声を出して隣に座る『先輩』を見つめる。心愛や環も知らなかったようで、それぞれに驚いたり、特にそうでもないような表情で政宗を見つめた。

 全員の注目を浴びいた政宗は、気恥ずかしそうに倫子を見つめる。

「……よく知ってたね。記録とか特にないはずなんだけど……」

 この頃の政宗は、名字は佐藤、下の名前は本名を名乗っていた。今は異なる通名を使い続けていることもあり、中学の頃の記録は、名杙から学校に頼んで、本当に必要なもの以外は廃棄してもらっている。

 そのため、政宗が生徒会で中心となって活動した事実は、ほとんど残されていないはずだった。

 どこか気恥ずかしそうに倫子へ言葉をかけると、倫子は笑顔で情報源を口にする。

「名杙先生に伺いました。名杙先生が副会長だったそうですね」

「そうだね、大体俺が統治を巻き込んでるんだけど……」

 そう言って苦笑いを浮かべる政宗は、「まぁ、俺の話はさておき……」と、本題を切り出す。

「何となくは聞いてるんだけど、どうすれば生徒会に人が集まるのかを考えているんだよね」

 その問いかけに、全員が銘々に頷いた。政宗は4人を見渡して、足を組替える。そして、勝利と倫子へ視線を向けると、彼らのことを尋ねた。

「阿部さんと勝利君は、1年生の頃から生徒会に携わっていたのかな」

 政宗の問いかけに2人は顔を見合わせた後、倫子が質問に答える。

「はい。2人とも、1年生の5月頃から」

「その時は何人くらいいたの?」

「えっと⋯⋯3年生3人、2年生は1人、1年生は4人です」

 初めて聞く話に、心愛と環は目を丸くした。そんな中、勝利は懐かし気に、当時のことを思い返す。

「僕も何となく入った生徒会だったけど……先輩たちのおかげで楽しかったな」

 するとここで、心愛が思い切って気になっていることを尋ねた。

「あの……島田先輩は、どうして生徒会に入ったんですか? 誰かに勧められたんですか?」

「え? 僕? 僕は……」

 心愛に尋ねられた勝利は、ふと……自分が入学した当時のことを思い返す。


 それは、勝利が『縁故』としての能力を『捨てた』後のこと。

 自分の話を親身になって聞いてくれて、その悩みを解決してくれた人物に――政宗に、憧れた。

 彼のような大人になりたくて、自分に出来ることを精一杯頑張ってみようと思い立ち、周囲には無理だとれていた私立中学の受験も、パスすることが出来た。

 努力をすれば報われることを知った。

 そして、生徒会に入ったのは……。


「僕が生徒会に入ったのは……入学直後のオリエンテーションで迷っていた僕を、生徒会の人が助けてくれたからなんだ」


 入学直後、特に親しい友人もおらず、右も左も分からなかった彼を、オリエンテーションの会場まで案内してくれた先輩がいた。

 そしてその後、校門での挨拶運動で勝利を見かけるたびに、気にかけてくれるようになって。

 そんな人物に憧れて、彼は、生徒会への扉を叩いた。


「僕は……政宗さんや、先輩や、素敵な人への憧れが力になるタイプだからさ。色々失敗することもあったけど、何とかここまでやってこれたよ。僕が素敵な先輩になれているかどうかは……わからないけどね」

 こう言って心愛に苦笑いを向けて、自分のことを思い返す。

 自分は……誰かの憧れになるような、そんな存在になれているだろうか。

 政宗に、誰かに憧れて、その背中を追いかけてきたけれど……自分は、誰かに追いかけてもらえるような、そんな存在になれているだろうか。


 今、生徒会には自主的に入ってきた後輩がいない。

 その現実が、彼の疑問の答えであるような気がした。


 勝利の言葉に、政宗は軽く思案した後……4人を見て、改めて問いかける。

「勝利君の言葉にヒントがあったけど、生徒会は目に見える実績がないというか……例えばコンクールで優勝するとか、そういう活動ではないから、もっとみんなの姿を見せていくべきだと思うんだ」

「僕たちの……姿を」

 彼の言葉を反すうすると、政宗が勝利を見て、首を縦に動かす。

「そう。例えばだけど……生徒会の主な活動は、行事や日常の裏方だよね。それにもっと誇りをもって、堂々とやってみればいいんじゃないかな。慣れてくると事務的になっちゃうこともあるだろうから、一つ一つを見直して、胸を張って堂々と。朝の挨拶運動とか……ちょっとおざなりになってない?」

 政宗のこの言葉に、4人は何か思うことがあったのか……互いに目をそらして考え込む。

 その反応に改善の余地があることを察した政宗は、4人へ笑顔でこう言った。

「俺も困ったり迷ったりしたら、自分の行動が雑になっていないかを振り返るんだ。たまに統治に聞いてみたりして、問題点を指摘してもらうこともあるよ」

 その言葉に、心愛が軽く目を丸くする。二人の間でこんな努力をしていたなんて、聞いたことがなかったから。

 政宗は一度息を吐いてから、どこか戸惑いが残る後輩にエールを送る。

「ここにいる4人それぞれに、得手不得手はあると思うから、それぞれが得意な分野でもう少し頑張ってみればいいと思うよ。きっとその姿を見てくれている人はいるはずだから」

 彼は自信をもってこう言ってくれるが、4人にその根拠がないので……どうしても不安になってしまうのだ。

 今までだって、誰からも見向きをされなかったのに。

 自分たちのことを――勝利のことを見てくれる人は、いるのだろうか。

「本当に……僕を見てくれている人は、いるんでしょうか」

 ポツリとつぶやいた一言に、政宗は力強く返答する。

「いるよ。だって……勝利君もみんなも、今がとても楽しそうだから。その雰囲気をもっと外に広げていくと、その空気に惹かれる人は絶対にいるよ」

「政宗さん……」

 彼は時に、こうして、根拠のないことを平然と言ってのけるのに。

 その言葉を信じたくなるような、魔法のような説得力がある。


 だからあの時、彼の言葉を信じた。そこに努力も積み重ねて、今の自分がある。

 そう、始まりは……信じて、やってみることから。


 勝利は両手を強く握ったのち、全員を見つめて力強くこう言った。

「……みんなで、頑張ってみよう!! きっと僕たちの頑張りは誰かに届くよ!!」

「島田君……」

 倫子の声に、勝利は一度、力強くうなづいて見せる。

 そう、これが……こうやって率先して雰囲気を作っていくことが、彼の得意なことなのだから。

「だって僕は、政宗さんが言ってくれたように、今の生徒会がすっごく楽しいから!! だからもっと多くの人に知ってほしいんだ!!」

 こう語る勝利に、環が手を挙げて問いかける。

「でもそれで、誰も来てくれなかったら……どうするんすか?」

 その質問に、勝利は堂々とこう言った。

「その時は名杙さんと森君が来年頑張ってね!!」

「なんすかそれ」

「だって僕たちは卒業するからね。だから……それまでに必ず、何か結果を残してみせるよ」

 そう言って倫子を見ると、彼女もまた、腹をくくった強い眼差しで、力強く頷いた。

「そうね。新しいことを始めることも悪くはないけれど……まずは、一つ一つの精度を上げていきましょう。その上で変えるべきところは変えていけばいいと思うわ」

「と、いうわけで森君!! これからは笑顔で頑張ってね!!」

「いやー無理っすわ」

「諦めるの早いからね!?」

 相変わらずの環に突っ込みを入れながら、勝利は政宗の方を見ようとして……一度、踏みとどまった。

 今はまだ、その時ではないと思ったから。

 憧れるだけじゃなくて、誰かに、憧れてもらう人になるために。


 勝利の力は憧れだよなぁ、という思いから、こんな短編が生まれました。憧れは次の憧れを呼ぶ、と、某アニメで歌っていたので、政宗や先輩への憧れを、次の世代へ引き継げるような……そんな背中を見せてほしいですね。いつまでも憧れるだけじゃダメなんです。そんな二人の努力を10月の倫子誕生日でも追いかけてみたいと思います。

 勝利、誕生日おめでとう!! 今年はもっと素敵な先輩を目指して頑張ろうぜー!!

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