17周年記念・統治と櫻子の小話/2人の初めての共同作業
妹に負けないで統治お兄様!! と、いうわけで統治と櫻子の小話です。
この2人を『新米熟年夫婦(付き合ってない)』と呼んでいる霧原がこの2人をどう表現したのか、のんびりとお楽しみくださいませ。
登場キャラクター:統治、櫻子、ユカ、政宗、一誠
「お願いします名杙さん、私と一緒に料理をしてください!!」
透名櫻子の唐突なお願いから、今回の物語は始まる。
その前日譚は、とある平日の就業後、時刻は18時30分。イヤホンを外してパソコンをシャットダウンしながら、今日の仕事の内容について思い返していると……マウスの脇においているスマートフォンの右上、メッセージの通知を知らせるランプが点滅していることに気がつく。
母親が「帰りに醤油買ってきてくれ」というメッセージでも送ってきたのかと思い、ロックを解除して内容を確認し……顔をしかめる。
「……は?」
統治がスマートフォンを見つめて顔をしかめていると、コピー機から書類を持ってきた政宗が彼の斜め後ろに立ち、首を傾げた。
「統治、コピー終わってたぞ。これ、どうすればいい?」
「あ、あぁ……すまない」
統治は慌ててスマートフォンを机上に起き、椅子ごと身体を45度ほど動かしてから書類を受け取った。
そんな彼に紙の束を手渡しつつ、彼の顔を覗き込み、政宗が再び問いかける。
「統治、どうかしたのか? なんというか……とても腑に落ちない顔してるぞ」
「何だそれは……まぁ、その通りなんだが……」
統治は親友の指摘に舌を巻きつつ、肩をすくめた。
付き合いが長い分、彼に対して隠し事は出来ない。それに……少し、協力して欲しいこともあるのだ。
「実は先程、透名さんからメッセージが届いた」
その言葉に、政宗がジト目を向ける。
「……何だよ、惚気か? 俺に対するあてつけか?」
「期待に添えられず申し訳ないが、両方とも違う。実は……彼女から料理を教えて欲しいという相談を受けたんだ」
「料理っ!?」
と、反応したのは、統治の向かい側の席で残務整理をしているユカ。華蓮は既に定時(18時)に退社しているが、「明日、私が来るまでに出しておいてくださいね」という冷静な伝言を残しているため、ユカはヒーヒー言いながらパソコンで報告書を作成していたのだ。
しかし、料理と聞いては黙っていられない。だって……。
「何何? 統治と櫻子さんが料理を作るってことは、それをあたしが食べていいってことやろ?」
「山本、気が早いな……」
既に脳内で何かのフルコースを妄想してよだれを垂らしそうなユカを、統治が呆れた横目で見つめる。
そんな統治に、政宗が意外そうな表情で言葉を続けた。
「透名さん、料理出来ないのか? その辺の花嫁修業は終わってると思ってたんだが……意外だな」
「俺もそこが腑に落ちないんだが……」
統治は息を吐きながら、スマートフォンの画面に明かりをつけて、彼女からの依頼文を政宗に提示する。
画面の中央に表示されたのは、小学生でも簡単に読める、簡素な一文。
りょうり おしえろ
「……いいか統治、絶対クックパッドは教えるなよ」
政宗からのアドバイスに、統治は無言で頷くのだった。
自宅に帰った統治が、電話で櫻子に事情を尋ねてみたところ……今度、親戚が集まる宴席があり、そこでいくつか料理を出す必要がある。そこにいる一人が牛乳と小麦粉、そして化学調味料にアレルギーがあり、食べられるものが限られているそうだ。化学調味料が駄目なので、出来合いのものも食べられない。
櫻子も和食・洋食など、一通りの料理は出来るが、アレルギーの除去食、ましてや化学調味料に頼らないものとなると、あまり自信がなかった。
そこで統治の助言が欲しい、出来るならば統治と一緒にメニューを開発したい、という頼み事だったのだ。
事情は分かった。ただ、統治の中には1つの疑問が残る。
「化学調味料を使わない除去食、か……それであれば、病院に勤めている君のほうが詳しいと思うんだが」
「ええ、そうなんです。そのため、手元にレシピはあるんですけど……初めてのことなので、客観的な味のアドバイスが欲しいんです。ユカちゃんだったら正直に言ってくれそうだなって……」
「なるほどな。確かに、味見役としては適任だと思う」
「それに、レシピ通りに作ってひと味足りない時、名杙さんからアドバイスを頂きたいと思っています」
「君は俺の実力を買いかぶりすぎているような気がするんだが……」
統治が電話の前でため息をつくと、電話の向こうの櫻子が「そ、そんなことありません!!」と慌てて否定する。
「無関係のことでご迷惑をおかけすることは、重々承知しています。でも……お願いします名杙さん、私と一緒に料理をしてください!!」
かくして、互いのスケジュールが合致した金曜日の午後、櫻子が仙台まで顔を出し、政宗の部屋のキッチンを借りて、二人して料理をすることになったのである。
ちなみに金曜日の午後は、いつもであれば18時まで仕事なのだが……。
「今日はプレミアムフライデーだからな。統治、今日は15時にあがっていいぞー」
「わーい!! 夕ご飯は統治と櫻子さんが作ったご馳走だー!!」
「それまでに仕事が終わるといいな、ケッカ」
喜ぶユカの隣で政宗が意地悪な目線を向ける。「だ、大丈夫やけんね!!」と反論する姿を横目に机周りを片付けた統治は、改めて、協力してくれる2人に軽く頭を下げた。
「2人とも、俺の事情に付き合わせて……申し訳ない」
「おいおい統治、それは違うぜ。むしろ感謝しないといけないな。家に帰ると酒のツマミと夕食が用意されてるなんて天国じゃないか」
そう言って笑っていた政宗が、「そういえば」と何かを思い出したように統治へこんなことを伝える。
「そういえば今日、外壁の改修工事の関係で、来客用の駐車場は工事車両が停車しているから使えないそうだ。透名さんが車で来るんだったら、駅近くのコインパーキングを案内してくれないか?」
「分かった、彼女に伝えておく。あと……部屋は俺が事前に片付けておくからな」
「……申し訳ありませんがよろしくお願いします」
逆に頭を下げる政宗に、今度はユカがニヤニヤした眼差しを向けて。
そんな2人に見送られながら、統治は『仙台支局』をあとにしたのだった。
その後、一度政宗の部屋に行って部屋を片付けた統治は、約束の時間である17時30分、JR仙石線の小鶴新田駅で櫻子と落ち合った。
落ち着いたピンクのワンピーズに、足元は同系色のパンプスという出で立ちの彼女が、彼を見つけて軽く会釈をする。
「名杙さん、今日は本当にありがとうございます」
統治もまた彼女の前に立って軽く頭を下げると、櫻子の移動手段の確認をすることにした。
「無事に車は駐められたのか?」
駐車場の件は事前に伝えてあるので、彼女の性格上、路上駐車や近隣スーパーの駐車場に駐めたままにはしないはずだ。
「はい。近くのコインパーキングに止めてます」
「ありがとう。とりあえず買い物から始めようと思う。歩きでの移動になってしまうが……構わいだろうか」
「勿論です。よろしくお願いします……!!」
一人で両手を握りしめて気合を入れる櫻子に、統治は一度息をついてから……駅近くのスーパーへ向けて連れ立って歩き出す。
そしてスーパーでは、メインとなる鶏のモモ肉を4人分と、化学調味料を使っていない調味料や出汁が取れそうな食材など、今回必要な一通り買い込むことにした。
「……あ。」
そして会計の際、統治がうっかりした声を出した。隣に立つ櫻子が何事かと身構えるが、統治はレジ係の女性に向けてこんな声をかける。
「スイマセン、レジ袋1枚お願いします」
普段であればマイバックを持ち歩いているのだが、今日に限って鞄の中に入っていなかったのだ。
かくして、買い込んだ食材は有料のレジ袋1つに収まった。それを右手に持った統治は、櫻子と並んで自動ドアから店の外に出る。
そして通り沿いの歩道まで出てきて、統治が政宗の部屋がある方角を確認していると……櫻子が不意に、統治が持っているレジ袋の持ち手の1つを掴んだ。
「……何をしているんだ?」
「何を、って……荷物持ちですよ、名杙さん」
「いや、これくらい俺一人で十分だ」
「え?」
「え?」
櫻子がキョトンとした顔で統治を見つめ、統治もまた、顔をしかめて彼女を見つめる。
2人の意思疎通が完全に出来ていない状態の中、櫻子がとても当たり前に、こんなことを言ってのけた。
「名杙さんは、誰かとスーパーへ買い物に行ったら……こうやって、2人で片方ずつ持ったりしませんか?」
「申し訳ないが、一度もやったことがない」
「本当ですか? これまでの人生で、一度も?」
「あぁ。なんだったら山本や佐藤にも聞いてみて欲しい。恐らく俺と同じ答えが帰ってくるはずだ」
真顔で冷静に告げる統治に、櫻子は自分の感覚が一般的でないことを悟って……みるみるうちに白い頬を赤く染めた。
そして我に返ってレジ袋の持ち手から手を離し、彼に向けて何度も頭を下げる。バランスを崩したレジ袋は、統治が慌てて持ち直した。
「す、スイマセン!! 幼いころに兄と買い物に行った時の癖というか、習慣というか、その……本当に失礼しましたっ……!!」
そう言って両手で頬を包み、気恥ずかしそうに統治から視線をそらす櫻子。そんな彼女を見ていると、何だか自分の反応がとても淡白で、とても冷たいように感じられてしまって。
統治は一度、無言で、右手に持った袋を見下ろして……。
「……その話を、歩きながら聞かせてもらえるだろうか」
「え……?」
刹那、櫻子が意外そうな表情で統治を見つめた。子ども時代の何でもない日常の思い出に、統治が更なる興味を持ってくれるとは思わなかったのだ。
いいんですか、と、表情で語る櫻子に、統治は一度無言で頷く。
「俺ももう少し、君のことを知るべきだと思ったんだが……迷惑だろうか」
こう言ってどこか心配そうな表情になる統治に、櫻子は慌てて首を横に振った。
「い、いいえっ!! むしろ私からこの奇行の説明をしないといけませんよね……とりあえず歩きながらお話しますので、道案内をお願いします」
2人並んで歩道を歩きながら、櫻子がポツポツと、自分自身の思い出を語りだす。
「ご存知のように、私の実家は病院ですから……親は忙しくて、日曜日のお昼なんかは、食事のお金だけ置いてあることもあって。よく、兄と2人で近所のスーパーまで買い物に行っていたんです」
「そうか……」
相槌を打ちながら、統治は櫻子の兄のことを思い返していた。
櫻子の兄・透名健は、櫻子と10歳以上年齢の離れた兄妹だ。そのため、親が忙しい時は、幼い彼女の面倒を見ていたのだろう。
統治と心愛もまた、櫻子達と同じくらい年齢が離れているものの……幼いころ、2人だけで買い物に出かけた思い出は、ない。
あの時の自分は――福岡の研修に行くまでの自分は、傲慢で、でも、小心者だから死にかけた妹に向き合えなくて。
あらゆることからずっと……逃げていたから。
あの頃を思い出して、統治の横顔にどこか淋しげな表情が浮かぶ。
それに気付いた櫻子は彼から視線をそらすと、前を向いて、思い出の続きを口にした。
「その時、お弁当とかお菓子とか買って、2人でスーパーの袋を半分ずつ持って帰っていたんです。今考えると歩き辛かったはずなんですけど、あの頃はそれすら楽しくて、兄と買い物に行ける時間が大好きでした」
「なるほど、それで当時の癖が……」
「男性と2人でスーパーで買い物をするなんて、本当に久しぶりで……大変失礼しました。忘れてください……」
「忘れたいところだが……とりあえず、山本や佐藤には黙っておく」
「お願いします……」
苦笑いの櫻子が隣を歩く統治を見上げたところで突き当たりとなり、信号待ちのため2人は足を止めた。ここで大通りが終わり、本格的に住宅街に入る。政宗の部屋があるマンションまではここから更に住宅街を進むのだが、統治はあえて七北田川の方へ直進して、土手の上にある歩道へ続く階段をのぼった。他よりも高い位置にある歩道からは、夕日で赤く染まる景色を見ることが出来る。
吹き抜ける風に髪をなびかせながら、櫻子が目を細めてボソリと呟た。
「夕焼け、綺麗ですね……」
「ああ、今日も綺麗だ」
統治も同意して、一日を終えようとしている町並みを見つめた。
ここは、統治がよく一人で散歩をする場所でもあった。政宗の部屋へ向かう途中、その帰り道、何となくこの川沿いの歩道を歩いて……一人、考える。
仕事のこと、名杙のこと、そして――彼女とのこと。
加えてユカが仙台にやってきてから、川沿いを一人で歩いていると……あのときのことを思い出すこともあった。
10年前の、あの夏。
彼らはいつの間にか、一緒にいる時間が増えた。
最初は2人から始まり、時間の経過と共に……もう1人が加わるようになって。
そして――最初から3人でいるようになるまで、あまり時間はかからなかった。
「あれ、政宗……統治知らん?」
とある日曜日のお昼前、2階にあてがわれた部屋で荷物の整理をしていた政宗は、部屋を訪ねてきたユカからの問いかけに「1階じゃないのか?」と問いかける。
質問を質問で返され、ユカの機嫌が露骨に悪くなった。
「1階におらんけん聞きにきたと。瑠璃子さんが昼食のの準備を始めようとしとるけんが、手伝わんといかんなぁって……」
「もうそんな時間か。統治なら多分、あそこだと思うけどなぁ……」
「あそこ……?」
どうやら政宗には心当たりがあるらしい。立ち上がって部屋を出る政宗についていくユカは、彼と共に1階へ降りた。そして、丁度庭の草取りから戻ってきた一誠を見つけると、汗だくの彼を見上げて行き先を告げる。
「ちょっと統治を呼んできます。ケッカも一緒でいいですか?」
「ああ、分かった。気をつけてな」
どうやらこの2人は、過去に何度か同じやり取りをしているらしい。二つ返事で了承した一誠が2人の間を通り抜け、水分を求めてリビングに入っていく。
政宗と共に靴を履き、外に出たユカは――むせ返るような蒸し暑い空気に襲われ、思わず顔をしかめた。
博多湾に流れる室見川。
その河川敷に座っている統治は、1人、音楽を聞きながら……福岡ドームやシーホーク、福岡タワーといった、福岡のランドマークをぼんやり眺めていた。
彼は麻里子達に許可を取り、たまに1人で考える時間を作っている。
自分が今後、宮城に戻って……どうなっていきたいのか。そんなことを考えたいから。
合宿所ではどうしても、他の人の目が気になってしまうし、彼自身も周囲が気になってしまうから。
特に……最初は格下だと思っていた政宗が、この合宿を境に、メキメキと頭角を現しているのがはっきり分かる。
自分の父親が政宗をやたら気にかけている理由を、統治は詳しく知らないけれど……政宗の才能や可能性を早くから見抜いていた可能性は否定出来ない。
いつか自分は、名杙という大きな家を背負うことになる。そのことに大きな不満はないけれど……不安なら、ある。
外に出てみてわかった。
あの家は恐ろしく歪んでいて――中央で立ち続ける両親が、いつ折れてしまってもおかしくない。
少しでも早く、彼らの助けになりたい。
でも、そのためには……どうすれば良いんだろうか。
統治は無意識のうちに、口元を引き締めた。
そして、聞いていた曲が終わり、次の曲へ入れ替わる瞬間――
「――あ、本当におった!!」
イヤホン越しに聞き慣れた声が届いたような気がして、統治は反射的に、プレイヤーの一時停止ボタンを押した。
そして肩越しに振り向くと、ユカが土手を駆け下りて、コチラへ近づいてくるのが分かる。
「統治、こげなところで何しようと?」
「考え事だ。何か用か?」
真顔で返答する統治に、ユカがため息混じりで理由を説明した。
「もうお昼ごはんの時間やけん呼びに来たと。ほら、帰ろうよ」
言われた統治が促されるままに立ち上がると……土手の上にいる政宗が、大きな声で2人を呼んだ。
「2人ともー、行くぞー」
「分かっとるー。ほら統治、行こう」
クルリと背を向けて再び土手を登るユカの背中を追いかけて、統治は土手の脇にある階段を登った。
「統治、1人で何を考えとると?」
土手の上の細い道を歩きながら、ユカが斜め後ろを歩く統治に問いかける。
「何でもいいだろう。山本には関係ない」
「むー。そうかもしれんけどさー」
教えてもらえずむくれるユカに、先頭を歩く政宗がニヤニヤした表情と共に振り向いた。
「ケッカ、男には知られたくないことがあるんだよ。あんまり詮索するのは可哀想だろう? やめてあげてくれ」
「……その言い方には言いたいこともあるが……まぁいい。本当に関係ないことだ」
統治はそう言って、耳につけていたイヤホンを外すと、それを手に持つ。
刹那、川からの風が吹き抜けて、3人の髪の毛や洋服を巻き上げていった。
突風に顔をしかめたユカは……わざとらしく政宗の背中の真後ろについた。そして彼を盾にして、その歩みを再開する。
「ケッカ……俺、盾なの?」
「よかやんね。年長者なんやけん、年下の女の子くらい守ってあげんといかんよー」
「ハイハイ。じゃあ、しっかり隠れててくれよ。でないと守れないからな」
そう言って笑う政宗に、ユカが笑顔で首肯する。
そんな2人の様子を見ていると……自然と、統治の口元が緩んだ。
実家ではしばらく、こんな表情をした覚えがないのに。
ここではどうしてこんなに……気軽に、笑えるようになったんだろうか。
前を歩く2人を、改めて見つめる。
すると答えは、すぐに分かった。
そうか。
この2人と一緒に……3人で、いるからだ。
あれからユカのことがあって、3人はバラバラになって。
10年という長い歳月をかけて、それぞれの居場所で成長を続けた結果……年齢も立場も変わった今、この杜の都で共に過ごすことが出来る。
統治にとってその日常は、思っている以上にかけがえのないものだ。
そして同時に、この3人の中に新しく入ってきて、さり気なくも寄り添ってくれる、そんな櫻子とも、同じ時間を過ごしていきたいと思い始めている。
この感情が何なのか、まだ、明確に告げる勇気も確信もないけれど。
でも、まずは少しずつ――同じ経験を、共通の思い出を、増やしていこう。
そうすればきっと、いつか――
統治は周囲に誰もいないことを確認してから……隣にいる彼女に声をかける。
「ここから夕焼けの町並みを見ていると、心が落ち着く。とても……好きな景色なんだ」
「そうなんですね。確かにここは静かですし……綺麗だと思います。素敵な景色のお裾分け、ありがとうございました」
櫻子が口元に手をあてて、どこか嬉しそうに微笑んだ。
統治かそんな彼女を見つめて、一度呼吸を整えてから……いつもよりどこかぎこちなく、こんなことを尋ねる。
「俺にも、その思い出を分けてもらうことは……可能だろうか」
「名杙さん……?」
櫻子は彼が何を言っているのか分からなかったが、統治がレジ袋を握っていた右手から、持ち手の片方を手放したことで、彼の思惑を察する。
そして……世界を照らす茜色よりも優しい彼に、満面の笑みで返答した。
「はい、勿論です!!」
櫻子の胸にずっと残っていた、幼いころの、大切な思い出。
この瞬間から――統治と共通の思い出になった。
今回は、この挿絵で終了にしたかったんです。2人がどうしてこんな顔で歩いているのかを妄想したら、同じ感情を抱いて歩いているんだろうなって思いました。この2人ならではの空気感を出せているといいなぁ……。
そして10年前のエピソードには、動画のイラストも使わせていただきました。統治は川でぼんやり考えるのが好きなのかな……忘れないようにしよう。おがちゃん、ありがとうございましたー!!




