17周年記念・猫化サイヨウ④/統治×とーにゃさん
猫化は連鎖しかしない!! 今日の犠牲者は遂に、『縁故』でない一般人!?
なんだかまったりした雰囲気の話になった気がします。のんびりお楽しみくださいにゃ。
登場キャラクター:統治、櫻子
「透名、さん……!?」
「……?」
とある日の仙台支局、仕事で仙台圏までやってきた櫻子が、おやつを持ってフラリと仙台支局に遊びにやってきたのが騒動の始まりだった。
現在、ユカと政宗は『遺痕』対策で不在。留守番をしていた統治のところには「終わった」という連絡が入っているので、間もなく戻ってくるだろう。
櫻子も既に自分の仕事を終え、時間に余裕があるということで、今は仙台支局のソファに座って待っているのだが……統治が彼女のところにお茶を持っていくと、櫻子がソファにだらしなく体を預けて、虚空を見つめ、ぼーっとしている状況に遭遇したのだ。
普段の彼女からは考えられないほど、だらしない状態。そして、その眼差しに――覇気は、ない。
「透名、さん……!?」
「……?」
統治の呼びかけに反応した櫻子が、目線だけを彼の方へ向けた。
そして、その口元に子どものような笑みを浮かべて……少し高い声で、鳴く。
「にゃんっ」
「にゃ……!?」
予想外の鳴き声に統治は持っていたお茶をぶちまけそうになった。すんでのところで踏みとどまり、お茶の入ったカップをとりあえずテーブルの上に置いて……テーブルを挟んだ向かい側、ソファでくつろいだまま自分を見上げる彼女を凝視する。
「まさか……!?」
最近、『仙台支局』周辺では……とある現象が頻発している。
統治はとある可能性に思い当り、統治は慌ててまばたきをして世界の視え方を切り替えた。そして、櫻子の『因縁』に目を細めて――違和感に、気がつく。
「動物痕か……!!」
統治の目の前で漂う櫻子の『因縁』は2本。普段はそれぞれ青い一本線なのだが……今はそのうちの片方、その一部に、黒に近い赤の『関係縁』が絡みついているのが分かる。
これは、動物痕に取り憑かれた時のベーシックな状態だ。
対処法としては、櫻子の『因縁』に絡みついている最初の接点を見つけて、その接点における『関係縁』側だけを切ればいい。人間の『因縁』とまとめて切ってしまうと、最悪、動物痕の『関係縁』の消滅に引きずられて、人格崩壊を招きかねないのだ。冷静にポイントを見極めてから刃を入れる必要がある。
統治も何度か対処したことがるので、現時点で既に、自分が切るべきポイントは把握していた。ただ、それをするためには……当然だがもっと彼女と物理的に近づく必要がある。
今のように、テーブルを挟んだ状態で向かい合っていても……何も変えられない。
「……急がないとな」
統治の迷いが更なる悲劇を生む可能性がある。統治は改めて気を引き締めてから、櫻子の方へ恐る恐る近づいた。
彼女に取り付いているのは、恐らく猫の動物痕だ。その特性上、急に近づいて逃げられるのは困る。現に統治が近づくと野良猫は大抵逃げてしまうので、慎重に近づく必要があるだろう。
しかし、そんな統治の心配は杞憂だったようで……彼が近づいても、彼女が逃げる気配はない。むしろ自分から統治に近づいてきて、じぃっと彼を見上げている。
「……にゃん?」
何でしょうか、と言わんばかりに首を傾げる櫻子を観察し、統治はとりあえず、一度息をついた。
顔色、目の動きなどに異常はない。そして何より……まだ、鳴き声だけだ。
「言葉はまだ発していない、か……」
もしも彼女が人間の言語を話し始めたら、それは、動物痕との同化が進み始めている証拠だ。
とはいえ、早くケリを付けなければならないこともまた事実。統治は改めて彼女を見据え、ポケットに忍ばせたペーパーナイフを右手で掴む。
刹那、櫻子がその場に立ち上がった。動物痕が取り付いても二足歩行出来るのかと統治が新たな発見をしていると、櫻子は彼の様子を伺いながらスススと近づいてきて、どこか遠慮がちに体を寄せた。そして、彼のふわふわ揺れるくせ毛に興味をいだいたのか、指を丸めたその手を統治の顔に向けて伸ばしてきた。
「ちょっ……やめてくれ」
「にゃぁ……」
統治からの明確な拒絶に、櫻子の表情が曇る。そしてスッと彼から距離を取った。
自分が側にいるのが嫌なのか、と、シュンと肩をすくめていなくなりそうな気配だったので、統治は慌てて彼女を見つめ、とりあえず弁明する。
「いや、その……髪の毛を引っ張ろうとするのをやめて欲しいだけだ」
「にゃぁ……?」
統治の言葉に、櫻子が目を丸くして首を傾げる。
しかし、その瞳から不安の色が消えたようには思えない。統治は彼女が自分から離れなように、必死に言葉を探し出した。
「だから、その……近づかれるのが不快なわけじゃない。むしろ……今は離れないで欲しい」
「にゃぁ……!!」
その意味を理解した櫻子が笑顔になり、再び彼に体を寄せてきた。
あまりにも近すぎて処理がやり辛くなることに一瞬顔をしかめる統治だったが、この状況はむしろ好都合だ。あとは自分で距離感を調整して、問題の『関係縁』を……。
「……とーじさん」
「っ!?」
次の瞬間、櫻子が自分を見上げて人語らしき声を発したことに、統治は目を見開いた。
別に可愛らしく下の名前を呼ばれて恥ずかしがったわけではない。前述の通り、人語を操るようになるということは、彼女と動物痕の同化が進んでいるという証拠なのだ。
彼女は『縁故』ではないので、もう少し時間に猶予があると思っていた思考を切り替える。要するに時間がない。早く何とかしなければ……。
「とーじさん……」
「……」
じぃっと上目遣いで見つめられた統治は、反射的に左手を彼女の頭に添えてしまった。普段であれば絶対にこんなことをするはずがないのだが……今だけはこうしなきゃいけない気がしたのだ。特に深い理由はない。
「……」
そうだ、相手は猫だ。懐いてきたから頭を撫でたって……何の問題もない。断じて問題のすり替えではない、今の櫻子は猫なのだから、猫のように扱わなければ。
「……」
しかし、猫を飼ったことがないのでこれでよいかどうかも分からない。とりあえず逃げられないからこのままで大丈夫だろうと判断しつつ、統治は冷静に、右手に握ったペーパーナイフの感触を確認する。
「……」
統治の手の重さと温もりを感じた櫻子が、ピクリと体を震わせて顔を弛緩させた。そのまま更に体を擦り寄せる櫻子にどうしたものかと思案する――こともなく。
統治はペーパーナイフを持った右手を彼女の背後から頭上に移動させ、問題のポイントを迷うこと無く断ち切った。
刹那、櫻子が意識を失って崩れ落ちる。すんでのところで彼女を支えた統治は、そのままゆっくり座り込んで……櫻子の『因縁』の状態をチェックし、問題ないことにとりあえず安堵する。
とりあえず、最悪の事態を回避することは出来た。
しかし……統治の表情は晴れない。
「……『仙台支局』内で、何か起こっているのか?」
ここは『東日本良縁協会仙台支局』、いつもは『親痕』である分町ママ以外の『痕』や『遺痕』は入れないようになっている。
そんな『仙台支局』ではここ最近、猫の動物痕による介入が多発していた。蓮に始まり、政宗、ユカ、そして櫻子……この短期間で多すぎる。
統治は名杙直系なのでまず大丈夫だと思うが、それでも油断しないほうが身のためだ。相手はこの『仙台支局』に人知れず入り込めるような『動物痕』なのだから。
そもそも、この空間に何か違和感があれば分町ママも気づくはずなのだが、彼女からそんな話は聞いていない。彼女が伝え忘れている可能性もあるが、これだけの騒動が発生していて、忘れているとも考えにくい。
しかし……やはりこの数は異常だとも思う。名杙親痕である分町ママでさえ気付けないようなレベルの異常が発生しているのかもしれない。何か最近、イレギュラーなことはなかっただろうか。
統治はここ1ヶ月程度の出来事を回想しながら……あることを思い出した。
「そういえば……」
先日、『縁由』持ちの阿部倫子が、同じく『縁由』持ちの名波蓮(片倉華蓮)と遭遇し、ちょっとした騒ぎになった。統治もその場に居合わせていたが、あれもまた、異常な光景だったと思う。
そういえば……名波蓮は猫を引きつけやすい、と、聖人が言っていたそうだ。もしも先日のあの件がトリガーになり、今回の異常事態を引き起こしているのだとすれば……。
「……一度、全てを見直す必要があるかもしれないな」
全ては憶測、何の根拠もない空想だ。
統治は一旦考えるのをやめて、改めて政宗や分町ママとセキュリティ関係の話をすることを念頭に置きつつ……腕の中で気を失っている櫻子に視線を落とす。
「……」
そして、もう一度、彼女の頭をそっと撫でてから……髪の毛の癖が少なくていいなという感想を抱くのだった。
統治が回想していたのは、このエピソードです。(https://ncode.syosetu.com/n9925dq/19/)
猫化は地味に続きます。とりあえずエピソードとしては次で終わりですが、猫に関する話は来年(2018年に更新する本編)にもつながっていきますので、なんとなく覚えていてくださいませ。




