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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
22/121

17周年記念・猫化サイヨウ②/政宗×にゃまもと

 猫化は連鎖する!! さて、今回の犠牲者は……!?

 挿絵が特に秀逸な回です。この顔を見た霧原は「コイツ本当にユカコンだな」と嘲笑したらしいですよ。


 登場キャラクター:ユカ、政宗、統治

「……け、ケッカ? あ、あのー……」

 蓮の猫化に対処した週末も終わり、新しい1週間が始まった月曜日の15時過ぎ。場所はお馴染み、東日本良縁協会仙台支局。

 出先から返ってきた佐藤政宗に、支局内で1人留守番をしていた山本結果が飛びかかってきたのが、全ての始まりだった。

「ケッカ!?」

 突然のことだったが、とりあえず持っていた荷物から手を離して彼女を受け止める。体格的に有利なこともあり、何とかバランスを崩さずに受け止めることは出来たものの……嬉しそうに体を擦り寄せるユカを、極限まで見開いた目で見下ろすことしか出来ない。

 顔が赤くなっていくのが嫌でも分かる。一瞬、自分に都合の良い夢でも見ているのかと思った。それくらい予想外の事態に、脳の理解が追いつかないまま硬直することしか出来ない。


 一体、何が起こっている?


「……け、ケッカ? 一体どうしたんだ……?」

 統治は別件で外に出ているため、事務所内には2人きり。政宗のスーツにしがみついた状態で顔を上げたユカは……どこか焦点のあっていない瞳で彼を見据え、可愛い声と笑顔でこう言った。

「……にゃぁ」

「にゃ、にゃあ……!?」

 政宗の好みどストライクの笑顔と鳴き声で彼を更に狼狽させるユカなのだが……政宗は抱きしめて頭を撫で回したいという欲望を必死で抑えながら、意識を仕事モードに切り替える。


 眼の前にいる彼女は、明らかにおかしい。

 ユカが正常な状態であれば、何の理由もないのに政宗を喜ばせるようなことなど……絶対に、何があっても、するはずがないのだから。


「……」

 作者の容赦ない描写に若干凹みつつ、政宗は軽く目を閉じて、世界の視え方を切り替える。

 そして、ユカの頭上からこっそり帽子を取り外し……すぐさま目の前で漂う『原因』に気が付き、思いっきり顔をしかめた。

 そこにあったのは、数日前にも感じた違和感。

 まさか、こんなに早く再会することになろうとは。

「マジか……っていうか、この帽子被ってるのに猫の動物痕に侵入されたのかよ……!!」

 政宗の目の前で漂うユカの『因縁』は2本。普段はそれぞれ青い一本線なのだが……今はそのうちの片方、その一部に、黒に近い赤の『関係縁』が絡みついているのが分かる。

 これは、動物痕に取り憑かれた時のベーシックな状態だ。

 対処法としては、ユカの『因縁』に絡みついている最初の接点を見つけて、その接点における『関係縁』側だけを切ればいい。人間の『因縁』とまとめて切ってしまうと、最悪、動物痕の『関係縁』の消滅に引きずられて、人格崩壊を招きかねないのだ。

 そのため、冷静にポイントを見極めてから刃を入れる必要がある。そもそも……。

「俺のハサミ、鞄の中だった……」

 普段はすぐに取り出せるよう、スーツの内ポケットに入れているのだが、今日は日差しが強くて移動中や出先でジャケットを脱いだこともあり、相棒のクラフトバサミをカバンの外側のポケットにいれていた。そのカバンは先程ユカが抱きついてきたことで、ちょっと離れた場所に放り投げてしまっている。

 一瞬、以前のユカのように指で対処することも考えたが……慣れないことをして失敗する方が怖い。とりあえず、あのカバンの近くに行くことが出来ればいいのだ。まずはそのための作戦を実行しよう。

 政宗は手に持った帽子を、一旦、ユカの頭に戻した。

 そして、自分を見上げる彼女の両肩を掴み、ゆっくり引き剥がず。決してここから遠くにはいかないから、と、視線で念を押しながら。

「と、とりあえず離れてくれ、な……大丈夫、遠くにはいかないから」

「にゃぁ……」

 どこか寂しそうな声で素直に引き剥がされたユカに後ろ髪を引かれつつ、政宗はカバンの近くまで移動して、そこからハサミを取るために床に座り込む。

 次の瞬間――


「にゃぁっ!!」

「うわっ!?」


 改めて遊んでくれるのだと勘違いしたユカが、笑顔で飛びかかってきた。

 そして、慌てて彼女を受け止める政宗の膝に、ユカがちょこんと座り込んで……目を細め、「やれやれようやく落ち着けるにゃ」と言わんばかりの、それはもうとても幸せそうな表情で居座ってしまう。

「け、ケッカ!?」

「にゃぁ……」

 嬉しそうに(多分)喉を鳴らして、頭や体をすり寄せてくれるユカに……この、生粋のユカコンの顔が緩まないはずがない。


挿絵(By みてみん)


 政宗はそれはもう弛緩しきった表情で――そう、まさにあなたが見ているイラストのような顔で――ユカを見つめ、一度、息をついた。

「……ユカ?」

 勇気を出して恐る恐る呼びかけると、彼女が政宗を上目遣いで見やり、魅力的な笑顔と共に返答する。

「にゃはは……ましゃむにぇー、あそぼー」

「遊ぶって何して……って……!?」

 普通に笑顔で受け流そうとしたが、政宗は表情を強張らせ、我に返った。


 ユカは今、人間の言葉を話した。


 普段ならば当たり前すぎて気にすることもないのだが、今のユカには猫の動物痕がまとわりついている。先程まで鳴き声だけだったのに、人語まで話すようになるなんて……。

「マズいな、同化が進み始めてる……!!」

 猫の状態で人間に近づく、それは、ユカの人格が猫側に侵蝕され始めたということだ。

 このまま放置すれば、ユカは、消えてしまう。

 政宗は少し焦った表情で、自分の膝に座っているユカを見下ろした。

 先程『因縁』を確認して、切るポイントは分かっている。でも――

「ましゃむにぇー、一緒に遊ぼー」

 彼の一番近くで無邪気に笑ってくれる、そんな彼女をもう少しだけ見ていたい……そんな欲望が、少しだけ大きくなってしまった。

 自分だけに向けてくれる笑顔が、嬉しい。

「ユカ……」

 帽子の上から頭を撫でると、彼女はより安心した表情になって政宗に体重を預ける。

 その表情は、今の彼にとっては麻薬のような中毒性があり……思わず、もっと見ていたいという衝動に駆られた。


 そして――嫌でも思い出してしまう。

 こんなことが、少し前にもあったことを。

 大切な人が無邪気に寄り添って、幸せそうな表情で笑ってくれた、それを一番近くで見ることが出来た……そんな時間。


 今とは状況も彼女の姿も違うけれど……でも、とても幸せな時間だったことに変わりはない。


 ――でも、その時間は『もう』終わってしまった。

 『彼女(ユカ)』は本来の場所に『戻って』しまった。政宗の前から姿を消したのだから。

 そして、今、目の前にいる『彼女(ケッカ)』は、その時のことを覚えていないのだから。


 頭を撫でてもらって大人しくしていたユカだったが、不意に頭を振って彼の手を振り払い、彼の膝の上から一度飛び退いた。そして座り込んだまま困惑している彼の両肩に自分の手を添えて、顔を近づけ、無邪気に笑う。

「ましゃむにぇー、遊ぼー!! ねぇねぇ、遊ぼーよー!!」

「……」

 彼女の笑顔を、一番近くで見たいと思っていた。

 それがもう一度叶って、先程は嬉しかった。正直、とても可愛いと思ってしまったことも否定できない。出来ることなら一緒に遊ぶという願いを叶えてあげたいとも思う。



 けれど、これは『違う』。

 これは――彼が望んだ結果ではない。



「さすが……頼りになるなぁ……そういうとこ、大好きだよ……」

 『彼女』の言葉を思い出す。

 自分を頼ってくれた、今もきっと自分を信頼して待ち続けてくれているはずの『彼女(ユカ)』の姿を。


「でも、今、走って苦しくて……雨が冷たくて……政宗の手も、ずっと温かくて。なんか、嬉しかった。変だね、あたしは、ちゃんと……ここにいるのにね……」

 『彼女』の言葉を思い出す。

 己の生に不安を抱き、珍しく弱音を呟いていた……自分を頼ってくれた『彼女(ケッカ)』の姿を。


 結果を未来へ繋げるために、政宗がこんなところで――『彼女』を危険に晒すわけにはいかないのだ。



 政宗は興奮状態で自分に詰め寄るユカの両肩に手を添えて、少しずつ力を入れながらゆっくり床に座らせた。そして、左手で再びユカの頭をなでながら、右手をカバンに忍ばぜ、クラフトバサミを取り出す。

 次に左手でユカの帽子を再び取り外すと、違和感に上を見上げる彼女の目線を下にするため、その帽子を座っているユカの隣に置いた。


 彼女の目線が、帽子の方へ――下方へうつる。


 政宗はそのすきに右手に持ったクラフトバサミを彼女の頭上にもってきて、彼女に巣食う違和感の根源を迷いなく断ち切った。


「――ご愁傷様でした。どうか、安らかに」

 命の価値は皆等しい。だから、掛ける言葉も変わらない。


 次の瞬間――意識を失ったユカが、小さな体を大きく揺らした。政宗は慌てて左腕一本で彼女を支えつつ……右手に持ったハサミを床においてから、真っ先に彼女の『縁』の状態を確認した。そして何も問題がないことに安堵の息を吐き、帽子を元の位置に戻す。

「とりあえず終わった、けど……コイツ、一体どこから入り込んできたんだ……?」

 『仙台支局』内は、分町ママ以外の『痕』や『遺痕』は存在できないようになっているはずだ。その包囲網を突破してきたのか、それとも包囲網そのものがヘタレているのか、これから原因を追求しなければならない。やはり……先日の蓮の件とも、何か関連があるのだろうか。

 ユカは『縁故』なので、仕事中に連れてきてしまった可能性もあるが……いずれにせよ、今はまだ何もわからないのが正直なところだ。

 ただ1つ分かっているのは、ユカをちゃんと、政宗の手で助けることが出来たこと。

「……良かった」

 とりあえず、最悪の事態は避けることが出来た。

 彼女の顔色や呼吸の状態を確認して、改めて胸をなでおろす政宗。

 腕の中にいる彼女は、どこか満足そうな表情で目を閉じている。先日の蓮のことを考えても、あと10分程度は目を覚まさない……だろう、多分きっと。

「……」

 さすがに無抵抗の彼女を襲うような趣味も度胸もない。ただ、少しだけ……今、この瞬間だけで構わないから、彼女の存在を一番近くで実感してもいいだろうか。

 政宗は恐る恐るユカを両腕で抱きしめると、ガクリと落ちそうになる彼女の頭を慌てて左手で支え、ユカの意識が戻っていないことを確認し、安堵の息をついた。

「……何やってるんだろうな、俺は」

 己の行動に苦笑いを浮かべることしか出来ないけれど、今はもう少しだけ、2人きりで過ごしたい。

 政宗は改めて周囲に誰もいないことを確認してから、腕の中にいるユカを更に強く抱きしめて――



「――佐藤、山本、いるか。少し気になることがあるんだ……が……」



 刹那、目の前の扉が開き、出先から戻ってきた統治が顔を出す。

 そして、傍から見ると無抵抗のユカに抱きついているただのゲス野郎に成り下がってしまった政宗に気が付き、真顔になった。

「……佐藤……お前、何してるんだ?」

「い、いや、これには、その、本当にリアルに色々と事情があってだな……!!」

 必死で言い訳を組み立てる政宗を、扉を閉めた統治が蔑むような視線で見下ろす。

「佐藤、いくら山本の気を引けないからといって、無抵抗の状態で襲いかかるのはゲスの極みだと思うぞ」

「そんなことしてねぇよ!! 頼むから俺の話を聞いてくれって!!」

 政宗の悲痛な叫びが部屋中に響き……腕の中のユカが、少し迷惑そうに顔をしかめたのだった。

 猫化で可愛くなったユカと、緩みきってどうしようもない政宗を見てほしかったんです。

 ここで彼女飼いたいって思ったら、彼は絶対アウトだなって思ったので書きませんでしたよ!! 良かったね政宗!!(良かったのだろうか)

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