2017年もりたま生誕祭小話・『縁』が視える少年
第2幕終盤(http://ncode.syosetu.com/n2377dz/24/)の続きです。そういえばちっとも書いていなかったのでね……。
もりたま君、彼はどうして『縁』が視えるようになったのか、謎が謎を呼ぶエピソードです。(笑)
登場キャラクター:統治、環、心愛、倫子、勝利、昴輝
名杙統治が週に一度、秀麗中学校に出入りすることになったその初日。
早速校内で迷った彼は……衝撃的な出会いをすることとなった。
その日、来客用の玄関から、事務室に軽く挨拶をした統治は……スリッパに履き替えて、まずは校長室を尋ね、改めて挨拶をしておく。その後は職員室にいる教頭に挨拶を済ませてから、いざ、倫子と心愛がいる『生徒会室』へ向かおうとした。
が……。
「……ない」
先程教頭からもらった校内の案内図を見ているのだが、『生徒会室』という教室は見当たらない。
特別教室として存在すると思っていたので、思わぬ誤算になってしまった。
職員室の前で、1人、地図とにらめっこをする統治。生徒が訝しげに彼を見ながら通り過ぎていく中……そんな統治の姿を見つめる視線があった。
「……ん?」
先程から自分を見つめる視線に気が付き、キョロキョロと首を動かすと……校舎を繋ぐ渡り廊下からコチラへ向かってくる男子生徒が、顔をしかめながら統治を見つめているのだ。
学校指定のジャージに身を包み、短い髪の毛と凛々しい顔つきなのだが……普段はちょっと鋭い彼の目線も、今は統治を見るので精一杯。
統治はジャージの胸元に記載されている彼の名前を確認してから、一度目を軽く閉じて、世界の見え方を切り替えた。そして、目を開いてから改めて彼を見つめ――
「君は……」
「……お兄さん、随分濃い『紐』を持ってるんすね」
彼――森環と同時に口を開き、早々に『縁』が見える学生と出会ってしまったことを悟る。
「森くん、君は……」
「え? どうして俺の名前知ってるんすか?」
「いや、そこに書いてあるから……」
統治は困惑しつつ、彼のジャージを指差す。それで「あぁ」と察した環は、無言でとある方向を指差した。
「生徒会への用事だったら、この建物の3階へどうぞ。空き教室にいるはずっすね」
「あ、ありがとう……」
思わず流されそうになった統治は、違う違うそうじゃないと慌てて思考を切り替えた、が。
「じゃあ俺、部活あるんで」
環はそう言ってくるりと踵を返すと、スタスタと歩き始める。統治もすぐに追いかけようとしたのだが……彼は慣れた様子で生徒同士の合間をすり抜けて、統治からどんどん遠ざかっていく。彼が小柄なこともあり、あっという間に見失ってしまった。
「……何だったんだ」
考えれば考えるほど不思議な少年だという結論に至る。普通は『縁』が視えることをひた隠しにするものだが、まさか、自分から話しかけてくるなんて。
「彼は……一体……」
ここでどれだけ考えても埒が明かないし、そろそろ廊下にいる中学生から不審者のような目で見られるのも心苦しくなってきた。
あのジャージの色は心愛と同じだったので、恐らく彼は2年生だろう。
とりあえず一度、3階にいるという生徒会メンバーと合流しよう。
統治は1人でそう決意すると、環が消えた方をもう一度確認して……階段へ向けて歩き始めた。
そしてたどり着いた3階の空き教室、統治の姿を最初に見つけた島田勝利が、首を傾げながら近づいてきた。
「あれ、名杙さんのお兄さんじゃないですか。どうしたんですか?」
「島田君、心愛はいるか?」
「ええいますよ。とりあえずどうぞどうぞ!!」
勝利に招き入れられて室内に入ると、机の上にあるプリントを仕分けていた妹の心愛と、生徒会長の阿部倫子がいた。2人は事前に統治のことを知っていたので、特に驚くこともなく会釈する。
「え!? 知らなかったの僕だけ!?」
そんな勝利をとりあえず無視して、統治は真顔で心愛に彼のことを尋ねた。
「心愛、森環という少年を知っているか?」
「え? 森くん?」
唐突な問いかけに、心愛は倫子と顔を見合わせてから……。
「今日は確か陸上部だから、ここにはこないと思うけど……」
「ここにはこない……彼は生徒会にも所属しているのか?」
「所属っていうか、助っ人として助けてくれるの。えぇっと、陸上部とパソコン部は正式な部員なんだっけ……?」
「彼はどれだけ掛け持ちしているんだ……!?」
統治にしてみれば、部活は1つに絞ってそれに打ち込むものだと思っていたので、掛け持ちのみならず生徒会にまで顔を出している彼のフットワークの軽さが理解出来なかった。
とはいえ、彼はパソコン部にも所属しているらしい。ということは、いずれ必ず、統治とも接点が生まれることになる。
「お兄様……森くんがどうかしたの」
突然兄の口から飛び出したクラスメートの名前に、顔に疑問符を浮かべた心愛が統治のスーツの袖を引っ張った。
「心愛、彼に『縁故』の素質があることは知っているか?」
「えぇっ!? 嘘でしょう!?」
刹那、心愛が部屋中に響く大声と共に目を見開き、隣の倫子が「あらまぁ」と呟いて統治を見つめる。
そして勝利はまず話の輪に入ろうと、「要するに」と話をまとめ始めた。
「要するに……森くんも、過去の僕みたいに、糸がうじゃーってして、ぐわーってなってる世界が見えてるってことですか?」
勝利の説明に一瞬顔をしかめた統治だったが、「あぁ」と首肯してため息をついた。
「彼から俺に話しかけてきて、俺の『紐』が濃いと言っていた。恐らく……視えていると思う。誰か、そんな話を聞いたことはないか?」
統治の問いかけに3人は顔を見合わせ、それぞれ首を横にふる。
「心愛、森くんと同じクラスだけど……一度もそんなこと言われたことないよ。信じられない……」
「そうか……」
3人の反応からこれ以上の情報を引き出せそうにないことを悟った統治は、どうしたものかと1人で思案する。
『縁』が視える状態を放置しておくのは、あまり良いことではない。ましてや真っ先に統治が持つ名杙の因縁に反応したのも気になる。
彼は一体、いつからこの状態に?
「お兄様……?」
心配そうに自分を覗き込む心愛に、統治は一度頷いてから……3人に協力を仰いだ。
「俺はこれから、パソコン部に顔を出してくる。もしも……もしも彼がこの部屋に来たら、俺が戻るまでなんとか引き留めて欲しい」
「分かりました!!」
誰よりも元気よく返事をした勝利に一抹の不安を抱きつつ……統治は一度この部屋を出て、パソコン室へ行こうと踵を……。
「……すまない。誰か、パソコン部が活動している場所を教えてくれないだろうか」
脳内に校内地図がないことを思い出し、心なしか引きつった顔で助けを求めるのだった。
その後、勝利の案内でパソコン部が活動しているパソコン室に到着した統治は……室内に入り、勝利のとりなしで、ある生徒と対面していた。
40台ほどのパソコンが10台ごと4列並んでいる室内、他の部員は7~8名程度といったところ。
活動内容は、パソコンを使って学校紹介の動画を作成したり、簡単なプログラミングに挑戦したり、応用で簡単なゲームを作ったり、息抜きでゲームをしたり……と、インターネットにとどまならない実践的な活動をしている様子。
「初めまして。パソコン部部長、飯田昴輝です」
眼の前にいる少年――昴輝が、眼鏡の奥の瞳に若干の戸惑いを宿しながら頭を下げる。
癖のない髪とアクのない顔立ち、秀麗中学の制服をきっちり着ている彼は、見るからに真面目そうな印象を受けた。
「名杙統治です。週に一度ですが、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。名杙先生は、パソコンに詳しいと思っていいんですよね?」
自分を試すような瞳で見つめる昴輝に、統治は一瞬考えて……肩の力を抜いた。
そして、口調をいつも通りに戻しつつ、昴輝へ実体験を語る。
「詳しいというか……好きなことを突き詰めたら、いつの間にか詳しくなっていたという方が正しいな」
「好きなことを……」
昴輝にも重なるところがあったらしい。自分の言葉を繰り返す昴輝を見つめた統治は、顔を上げて、おっかなびっくりコチラを見ている他の部員を見渡しながら、言葉を続けた。
「俺はもともと教員ではないから、君たちに何か教えるつもりはない。何か困った事があったときに力になれるような、そんな存在だと思って欲しい。微力ながら力になりたいと思っている。よろしく頼む」
「……」
そう言った統治をしばし見つめていた昴輝は……どこか言いにくそうに、ある1台を指差す。
「早速で申し訳ないんですが、1台、調子が悪いやつがあって……」
「分かった。ちょっと見てみよう。島田君、ここまで案内してくれてありがとう。そっちはよろしく頼む」
「了解です名杙先生!! じゃ、飯田君、またねー」
ビシっと敬礼した勝利が生徒会室へ戻るのを見送ることもなく……統治は昴輝に案内され、早速、調子が悪いパソコンの原因を探る作業に取り掛かるのだった。
「そういえば……パソコン部に、森環という生徒はいるか?」
とりあえずパソコン内部のリカバリを再度試みている間、統治は、隣のパソコンで別の作業をしている昴輝に話しかける。
統治の言葉に彼は画面から視線をそらすと、首を一度縦に動かした。
「2年の森くんですか? いますけど……彼が何か?」
「その、彼は陸上部や生徒会と掛け持ちをしていると聞いたんだ。彼はそんなに積極的な生徒なのか?」
「どうでしょうね……必要事項しか話さない印象ですけど、決していい加減じゃないんですよ。パソコンも好きで陸上も好き、生徒会は……分かりませんけど、とにかく、興味が有ることに片っ端から足を突っ込んでいる印象ですね」
「そうか……」
「今日は確か陸上部の日ですけど……もしかしたら、少し顔をだすかもしれませんね」
昴輝の言葉に統治は益環に対して々謎を深めつつ……とりあえず今は、目の前のパソコンのトラブルシュートに専念するのだった。
その後、1時間ほど時間をかけて修復とトラブルシュートを完遂し、昴輝を含む部員全員から羨望の眼差しを向けられた時……扉が開き、数時間前に統治とすれ違った少年が顔を出す。
「お疲れ様で……」
そして、全員の輪の中にいる部外者――統治を見つけて、軽く目を見開いた。
「お兄さん……パソコン部の助っ人だったんすか」
「助っ人……」
それだけではないが……と、口に出しそうになり、統治は慌てて気持ちを切り替えた。
ここで彼に流されると、きっと、何も聞けなくなってしまうから。
制服姿に着替えている環が室内に入ってくると、統治は彼の前に立ち、改めて自己紹介をした。
「今日から週に一度、パソコン部の外部講師として出入りすることになった、名杙統治です」
統治の名字を聞いた環が、ピクリと眉を動かした。
「名杙……もしかして、妹とかいますか?」
「ああ。名杙心愛は俺の妹だ。確か……君と同じクラスだったと聞いているが」
「……よく知ってるっすね」
どこか疑うような眼差しで統治を見つめる環に、統治もまた、同じように懐疑的な視線を向ける。そして。
「森くん、君もパソコン部ということだが、陸上部と兼部していると聞いている。どういう曜日間隔で顔を出しているのか知っておきたいから、終わってから少し話をしてもいいだろうか」
統治の提案に、環は左手をパーにして、統治に向けて掲げた。
「……5分でいいっすか」
時刻は18時15分。
今日の活動を終えたパソコン部は解散。統治は昴輝に断って、環と2人、パソコン室に残った。
手近な椅子を持ってきて向かい合って座り、無言でしばし見つめ合う。
勿論統治は視え方を切り替えて、環の『縁』を確認している。確かに彼の『因縁』は少し変質しており、つい最近、『縁故』としての能力が引き出されてしまったことが想像出来た。
とりあえずは、当たり障りのないところから聞いていこう。統治は脳内で質問を組み立てると、彼へのインタビューを開始する。
「森君はどうして、陸上部とパソコン部の掛け持ちを?」
「両方とも興味があるんで」
断言する環の瞳に迷いはない。本当にそれ以外の理由はないらしい。
「生徒会も同じ理由?」
「えぇまぁ。パソコン部の部長と生徒会長が同じクラスで、前は部長もちょっと手伝ってたみたいっすけど、勉強が忙しくなったら無理になったって愚痴ってたんで」
統治は内心、「彼は困っている人を放っておけないお人好しなのか?」とも思ったが、多分違うと直感で判断して、その考えを忘れることにする。
そして……統治は環と繋がっている『関係縁』を掴むと、核心を問いかけた。
「……ずっと、この『紐』が視えているのか?」
この問いかけに、環は何のためらいもなく首肯する。
「えぇまあ。視えてますね」
「それは、いつ頃から?」
「んー、5月の連休前くらいっすね。部活中に100メートル走ってたら、サッカー部のボールが頭にぶつかって、そこから」
「それについて、誰かに話をしたことは?」
「ないっすね。そもそも信じてもらえないっすわ」
あっけらかんと言い放つ環に、統治は更に踏み込んでいく。
「妹の心愛も俺と同じ能力を持っていることには気付いているのか?」
「まぁ、何となく。ただ、名杙よりも先生の方が強くて怖そうだったんですぐに気付きました」
「視えるようになってから、具合がわるいことが続いたり、調子が狂ったりしたことは?」
「いや、いつも通りっす」
彼の顔色や言動から、嘘をついているようには思えない。
しかし、本来は視えないものが視えるというのは、あまり良い状態ではない。
かつて……伊達聖人が、一般人でも一時的に『縁』が視えるようになる眼鏡を開発した際、苦笑いでこんな感想を漏らしていた。
「自分もこの眼鏡をかけてみて感じたんだけど……『縁故』の能力って、常に脳や感覚がマックスで動いてる状態に近いんじゃないのかな。統治君は慣れたものかもしれないけど……いやぁコレ、地味にキツイねー。改良の余地があるなー……」
勿論彼は『無理やり』視えるようにしているので、覚醒している環とは状況が異なる。
しかし彼は、『縁故』としての能力に無自覚で影響を及ぼしてしまう心愛とも接点が多いのだ。今後、学校生活を続ける中でどんなことになるのか予測出来ない。
とりあえず、今は……視覚的な刺激を抑えることで、彼の脳や感覚の高ぶりを抑える必要があるだろう。
「森君、今の君は、本来視えないはずものが視えてしまっている、異質な状態だ」
「はぁ……でも、別に困ってないっすよ?」
「今は困っていないかもしれないが、そのうち不都合が生じるかもしれない。今日は持参しなかったんだが、視え方を抑える眼鏡があるんだ。明日、それを持ってもう一度――」
統治がそう言った瞬間、環が無言で立ち上がった。
「も、森君……?」
ポカンとしている統治を一瞥して、環は足元に置いていたカバンを持ち上げる。
「5分たったんで、失礼します」
「いや、まだ話は終わっていな――」
「――あと、俺、視力は悪くないんで。眼鏡とか本当にいらないです」
「いや、そういうことじゃないんだが……ちょっと!?」
統治が慌てて立ち上がって追いかけようとするが、環は既にスタスタと扉の方へ向けて歩きだしている。その背中には「もう話しかけられても何も答えません」という、強固な意志すら感じられた。
呆然とその場で立ち尽くす統治に、扉を開いた環が振り返ってペコリと会釈する。
「じゃあ、お疲れ様でした、名杙先生」
「気をつけて……」
これ以上追いかけても、今の彼は何も喋ってくれないだろう。
遠ざかっていく足音を聞きながら、統治は1人、椅子に座り直して――天井を仰いだ。
何なんだ。
彼は一体……何を考えている?
「まさか、『縁』が視えるようになって混濁しているのか……!?」
人間の『縁』に干渉する『縁故』は、そのストレスがマックスになると、普段よりも感情の起伏が激しくなったり、思わぬ行動をとったりすることがある。
まさか彼は、既にその症状が出始めていて、あんな一部意味不明な言動を――!?
「……いや、違うな」
考えすぎてしまった思考を慌てて切り替える。そして不意に……自分をここまで連れてきてくれた、島田勝利を思い出した。
彼も以前、『縁故』として中途覚醒しており……政宗が対処をしている。
優しすぎる彼は、人の好き嫌いが偽り無く視える『縁故』の世界に疲れてしまい、自ら、この世界との決別を選んだ。
確かに、この年頃にもなると……本音と建前を使い分ける人間が出てくる。普段は言動で何となく予測するしかないのだが、『縁故』の能力はそれを可視化して、相手が自分を好きなのか嫌いなのか、はっきり視せてくれるのだ。
それを善しとして利用するのか、見たくないと目を閉じるのか……環がどちらを選ぶのかは分からない。ただ……このまま放置しておくわけにはいかない。
「……まずは明日、眼鏡を渡してみるか」
環が無理をしているのであれば、少しでも力になりたいから。
統治は『縁』を不可視状態にする伊達眼鏡が『仙台支局』にあったかどうか思い出しながら……立ち上がり、パソコンの電源が全て切れていることを確認する。
そして、前方にある教卓の上に置かれた鍵を手に取ると、そのまま扉の方へ移動して、扉の脇にある部屋の明かりを消した。
本来は、倫子の経過観察のためにここに来たはずなのに、予想外の問題と遭遇してしまった。
森環、彼は一体――何を考えているのだろう。
「厄介なことにならなければいいが……な」
既に諦めたような口調で呟きつつ、パソコン室を施錠して、鍵を職員室へ返すために歩き始めた。
どこか薄暗い廊下が、先行き不透明な現状を暗示しているようで……統治の足取りは更に重くなる。
案の定――
「いや、だから俺、眼鏡はいらないんで」
翌日、再び中学校を訪れた統治は、生徒会メンバーと一緒にいた環へ伊達眼鏡を押し付けようとしたのだが……けんもほろろに突き返されたのだった。
このエピソードの続きが、このボイスドラマです。(https://mqube.net/play/20171018664343)
どうして環は眼鏡を拒むのか、そして、彼が何を選ぶのか……なんとなく明かしてますので、お時間がある時にでもお楽しみくださいませ。
しかし掴みどころがないな!! 作者も手探りだよもりたま君!!
来年はもっと君のことを知りたいなー。またお祝い出来るように頑張ります。環、お誕生日おめでとう!!




