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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
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【2022.10.1】始まり【仙台支局開設記念日】

 10月1日は、作中で『仙台支局』が開局した日、ということになっています。

 そして、今年は2022年なので……以前、ブログに書いた短編を再掲&加筆してみました。

 なぜ10月1日なのか、どうして2022年に加筆したのか、そのへんの事情は、後書きを御覧ください。

挿絵(By みてみん)


■主な登場人物:政宗、ユカ、統治

■イラスト使用:狛原ひのさん/おが茶さん

 10月1日、時刻は18時30分を過ぎたところ。

 ユカと政宗、統治の3人は、仙台駅のホームで横並びになっていた。

 衣替えの初日、政宗と統治は黒いスーツに身を包んでいる。ユカもまた誕生日にもらった秋物のキャスケットを被り、膝丈のサロペットを着用している。

 先程、階段を降りてきた3人の目の前で電車が発車してしまったこともあり、ホームは少しだけ閑散としていた。

挿絵(By みてみん)

 2人の間に立っていたユカは、左側に立つ統治を見やり、これからの予定を確認する。

「統治、このまま名杙家に行けばよかと?」

「ああ。『年次報告会』という名称ではあるが、あまり堅苦しく考えないでくれ」

 スマートフォンを確認しながら首肯する統治に、ユカは「了解」と返答しつつ……反対側にいる政宗を見上げ、口を曲げた。

 年次報告――仙台支局が開設した10月1日は、この日は名杙家当主の前で、1年の成果を簡単に報告することになっていた。

 予算なども含めたちゃんとした報告は、6月に開催される名杙全体の会議でなされている。今回は経営的なことというよりも、『縁故』として働き続けるためのアドバイスや心配点など、まだ若い2人の話を名杙当主が聞く、という構図になっていた。

 要するに飲み会である。

 政宗の横顔は近い未来への期待に満ち溢れており、好きなものを与えられることが確定してワクワクが止まらない、そんな少年のようにも見えた。とてもではないけれど、『支局長』とは呼べない。呼びたくない。

 そんなユカの視線に気付いた政宗は、口角を緩めたままこう言った。

「なんだよケッカ、俺が今から飲み会にでも行くと思ってるのか?」

「まさにその通りなんやけど……報告会ってどうせ飲み会やろ?」

「失礼なこと言うなよ。ちゃんと30分くらいは仕事するからな!!」

「たった30分!? あたし、終わりが21時って聞いとるっちゃけど!?」

 ユカのツッコミから盛大に目をそらしつつ……政宗はそのまま顔をあげると、目線を遠くに向けた。


 ビルの隙間から見える秋空に、白い薄雲が流れていく。

 あの時見た空と、似ている気がした。


 あの日――自分たちの事務所を構えた日のことは、忘れられない。


 初めて扉をくぐった瞬間の高揚感、電話をとった時の緊張感。統治と2人で仕事を始められたことを実感したら、思わず嬉しくなって……机上に置いた名刺を何度となく見てしまい、2人して苦笑いを交換して、どこかフワフワした気分のまま、1日が終わったこと。

 どれも全て、忘れられない。


 勿論、そこから全てがうまく進んだわけではないけれど。

 でも、その始まりがなければ、今の自分達はここに立っていなかった。


 彼女の隣には――いられなかった。


「なぁ統治、ケッカ、2人はこれから『仙台支局』をどうしていきたいと思う?」

 政宗の言葉に、2人は互いの顔を見合わせた後……唐突にこんなことを尋ねけてきた彼を見やる。

「政宗は、何かあると?」

 代表してユカが問いかけると、政宗は目にひときわ強い光を宿した後、2人を見つめて迷いなくこう言った。


「俺は……今、俺と一緒に働いてくれている人や、関わってくれている人との縁を繋ぎ続けられる、そんな場所にしていきたい」


 ――いつか、3人で働きたい。

 あの時そう言ってくれた彼女の願いが、全ての始まり。

 『仙台支局』という場所は出来た。次は……この地により深く根を下ろして、縁を強固にしていくこと。

 それが、次の段階だと思っている。


 理想を語る彼はいつも強くて、目が離せなくて。

 何の根拠もない絵空事を目の前においても、才能を努力で磨き上げて実現してきた……そんな人だから。


 ユカと統治は、もう一度2人で顔を見合わせて……肩をすくめた。

 彼の理想は出会った頃から変わっていない。だったら――

「いきなりそげなこと聞かれてスラスラ答えられるわけないやん、バカ政宗」

「そうだな、少し考えさせてくれ」

「何だよ!! 少しくらい一緒に考えてくれてもいいだろ!?」

 ノリが悪いとジト目を向ける政宗から目をそらし、ユカは前を、統治は手元のスマホを見つめた。


 政宗が守りたいこの場所を、一緒に守っていく。

 守って、広げて、強くして……ずっと一緒にいられる場所にする。

 それがいつだって、ユカと統治が目指す『仙台支局』のあり方なのだから。


 一見すると、共通点がない……バラバラの3人だけど。

 思いはいつも、同じ方向を向いている。



 そして、開局10年目を迎えたその日の朝も、いつもどおりの時間に家を出た。

 10月1日、10年前は始まりの日だった。延長線上にある今日は、明日へ繋げるための大切な1日。

 今日は土曜日なので本来は出勤ではないのだが……10年目という区切りもあって、挨拶をしたいという人が多くいる。だから、午前中だけ臨時的に対応をすることになっていた。

 カバンを持ち、玄関先に置いてある鏡で、服装や寝癖の有無等、身だしなみを確認した。そこに映っているのは……あの頃よりも少しだけ落ち着いた、そう思いたい、自分の姿。


 10年前と変わったことがいくつかある。

 まず、人数が増えたこと。

 次に、仕事の幅が広がったこと。

 そして、何よりも。


「――行ってきます」


 大切な人に、行ってきます、と、言えるようになったこと。


「行ってらっしゃい」


 その声に笑顔で手を振って、彼らは今日も、前に進む。

 文字通りの『短編』で終わって良かった。10年後を5000文字加筆しなくてよかった。そんな気持ちです。

 4月ではなく10月1日を開設記念日にした理由は、いくつかありまして。

・『仙台支局』は政宗と統治が大学在学中に話をつけて動き出していたが、卒業直後の『支局長』は周囲に対する説得力がない。少なくとも卒業から半年は自身のスキルアップも含めて何かしていたと思うから。

・スキルアップに1年かけるほど、若い彼らに余裕があると思えなかったから。

・年度後半の始まりが10月だから。

・音声企画で政宗役をお願いしている須田さんの誕生日だから。


 そして、作中ではあまり明言しなくなったのですが、『エンコサイヨウ』本編は2014年をベースにしています。第1幕の時点で、『仙台支局』は開設して約1年半くらいという認識でした。

 要するに、開設したのは2012年10月1日。作中でも時間が過ぎた場合、2022年10月1日は、開設10年目の大きな節目にあたるのです。


 ……だから10年後を5000文字書きたかった……!!

 しかし、本編の今後のネタバレしかないから書けるわけがなかった……!!


 悪あがきで、最後、「これは……誰だ?」と思ってもらえるような、曖昧な書き方にしております。

 この事実に気付いたのが、こまひのさんからのイラストを見せて頂いた時のことでした。

「あ、今日、開設記念日だった。(忘れてた。)2022年10月1日……待てよ、2022年……!?」と、私しか知らない事実を慌てて思い出して、折角なので今日が終わる前に記録しておこうと思った次第です。

 要するに10年後も『仙台支局』は健在なので、そこに至るまでの物語を、自分なりに書いていければいいなぁと思うのでした。

 『仙台支局』が今後も、彼らにとって、私にとって、読んでくださっている皆様にとって、ワクワク出来る場所でありますように。『仙台支局』、そして須田さん、誕生日おめでとうございます!!

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