2022年誕生日短編②:恋のレッスン・レベル1(×10)【政宗・仁義・櫻子】
2022年誕生日短編、続いては3月と4月生まれのキャラクターです。
平和に終わりそうなメンバーですが、名軍師・櫻子の提案が、ヘタレ支局長・政宗に試練を与える……!? イケメン筆頭・仁義との残酷な対比をお楽しみください。
■主な登場人物:政宗、仁義、櫻子
物事には全て、タイミングがある。
例えば、出かけようと外へ出た瞬間に、雨が止んだり。
例えば、普段と違う道を歩いてみたら、会いたい人に会えたり。
例えば――
「透名さん、今日はわざわざありがとうございます」
とある10月中旬の平日、時刻は間もなく17時30分。
仙台支局内にある応接用のソファ。そこに座っている透名櫻子へ、この部屋の主である佐藤政宗が、どこか苦々しい表情で軽く頭を下げる。
そんな彼の対応を受け、櫻子は穏やかな表情で首を横に振った。
「気にしないでください。私の希望ですから」
「恐縮です」
彼女の言葉を受けた政宗は、安心したように肩の力を抜く。
櫻子は10月上旬に突如発生した福岡行きの際、後発となった統治の航空券と宿泊先を手配に協力してくれたのみならず、その代金を立て替えてくれていた。今日ここに来てもらったのは、そのお金の受け渡しと、確かに受け取ったという彼女の署名をもらうためだ。
口座振込&書類の郵送も出来ると提案したのだが、櫻子自身がここに来たいという希望を口にしたため、今、こうして出迎えているのである。
今のところ、『仙台支局』には珍しく二人きり。統治とユカは『遺痕』対策のために外出しており、まだ戻っていない。地下鉄の電気系統でトラブルが発生したらしく、バスに切り替えて戻るという連絡が入ったばかりだ。事務担当の瑞希は郵便局までお使い、アルバイトの華蓮はテスト勉強のため希望休を出して休みである。
高額な金銭の受け渡しと謝辞は政宗の仕事なので、彼さえいれば問題ない。とはいえ、彼女と二人きりになる機会は少なく、かつ、その数少ない機会でも、政宗は彼女に勝ったことがないのだ。
ある時は、自分の好み――オフショルダーが好きなことを迷いなく指摘され。
またある時は、ユカや統治と4人で出かけた先で、彼女の段取りの良さに舌を巻いたり。
彼女は彼の親友の恋人だが、ちゃんと交流を始めたのは今年の5月からだ。出会って数ヶ月でよくもまぁ、こんなに自分たちと馴染んでくれたものだと思う。
この、異質な世界の中で……本当に。
そんなことを思いながら、政宗は机を挟んだ向かい側に腰を下ろした。同時に、利き手に持っていたクリアファイルから、茶封筒とA4サイズの書類を取り出し、櫻子の前に並べる。
「では、この封筒の中身を確認して、書面の金額と相違がなければ、ここに署名をお願いします」
そう言いながらスーツのポケットにあるボールペンを取り出すと、櫻子は「失礼します」と断った後、封筒に手を伸ばした。
そして、中に入っている金額を確認した後、きれいな文字で書類に名前を書いて……ペンを置く。
「確認しました。金額にも間違いありません。ありがとうございます」
「いえ、お礼を言うのはこちらです。本当に……本当に、ありがとうございました」
政宗はそう言って、改めて深く頭を下げた。
彼女の助けがなければ、統治は一緒に行動をすることが出来なかった。もしも、あの時統治がいなければ……3人は再び、仙台に揃えなかったかもしれない。そう思うと、彼女の存在と後押しは殊更に重要で、ありがたいものだったのだ。
顔を上げた政宗に櫻子は「お役に立てて良かったです」と微笑んだ後、封筒を持ってきたハンドバックの中へ片付ける。そして……少しぎこちない動きで政宗を見ると、なんだろうと首を傾げる彼へ向けて、こんなことを言った。
「あ、あの……お邪魔にならないようにしますので、もう少し、ここにいても大丈夫でしょうか……?」
「へ? あ、ああ、それは勿論!! ケッカも会いたがってましたし、統治も顔を見たら安心すると思います」
「そ、そうですか……?」
頷きながらも、どこか申し訳無さそうな櫻子。自分は部外者だという意識があるのはしょうがないと思う。けれど、政宗にしてみれば……櫻子は立派な関係者だ。それに、わざわざここまで来てもらったのに、用事が終わったらすぐにお帰りいただくというのも味気ない。
「そうだ、福岡で買ってきた八女茶の抹茶ラテがあるんですけど、よろしければ――」
政宗がそう言った次の瞬間、来客を告げるインターフォンが響く。
誰かが帰ってきたのだろうとあたりをつけた政宗は、櫻子に断って自席に戻り、受話器越しに相手を確認した。
「はい、どちらさまで……ああ、仁義君。ちょっと待っててね」
声ですぐに相手を確認した政宗は、受話器をおいて扉へ戻る。そして、解錠して扉を開き、相手を室内へ招き入れた。
「政宗さん、お疲れ様です。あ……」
中に入ってペコリとお辞儀をした柳井仁義は、ソファーに座っている櫻子に気付き、彼女へも軽く会釈をする。
「お忙しいところすいません。書類を持ってきただけなので、僕はすぐに……」
「ああ、大丈夫だよ。こっちの用事は終わってるから。そうだ、仁義君もここで一服していかない? 福岡土産があるんだ」
「え? 僕もいいんですか?」
仁義が少し戸惑いつつ尋ねると、政宗は「勿論」と頷いて。
「透名さん、いいですか?」
「はい。是非、ご一緒させてください」
そう言って楽しそうに笑う櫻子を見ると、流石の仁義も断ることなど出来ず。
ひとまず仁義から書類を受け取った政宗は、「とりあえずそこに座ってて」と、櫻子の前の席を顎でしゃくった。
そして、自身は書類を机に置く&飲み物とお茶菓子を用意するために、足早に衝立の向こう側へ消える。
思わぬタイミングとはいえ、珍しいメンバーが揃ったものだ……なんて、思いながら。
数分後、3人分のカップと小さなカゴに入った個包装のお菓子を持ってきた政宗が、二人の前にそれぞれカップを置いた。
「熱いので気をつけてくださいね」
仁義の隣、櫻子の斜め前の位置に腰を下ろした政宗は、自分のカップを手に取ると、中身を冷ますために息を吹きかけた。そして、チラリと隣を見やり……。
「やっぱ、眼鏡って曇るよね」
「そうですね。こればっかりは、もう……」
政宗と同じように息を吹きかけ、熱い湯気で眼鏡を曇らせた仁義が、苦笑いで肩をすくめる。櫻子はカップを口から離すと、驚いたように目を丸くして、湯気の中にある緑色の飲み物へ視線を落とした。
「お茶の風味が豊かで、美味しいですね。専用のお茶をいれて、牛乳と混ぜたんですか?」
「あ、いいえ。スティック状のインスタントです。福岡の瑠璃子さんが、美味しいから仕事中に飲んでるって聞いて」
「そうだったんですね。確かに美味しくて、飲みすぎてしまいそうです」
抹茶ならではの香りを楽しんだ後、口に広がるのは苦味を抑えた抹茶ラテ。和菓子との相性も良さそうだと思ってテーブルを見ると、カゴの中には博多通りもんや二〇加煎餅といった、オーソドックスな福岡の銘菓が食べられる順番を待っていた。政宗は率先してその中からひよ子サブレーをつまみ上げると、苦笑いで肩をすくめた。
「お菓子も遠慮しないで食べてくださいね。これだけ残っていると、秋だからとか言ってケッカが全部食べようとするんです」
政宗の言葉にその光景を想像した櫻子が、ニコニコと笑いながら袋を手に取った。
「ユカちゃんには食欲の秋ですね」
「ケッカは年中同じ気がしますけどね。あ、そうだ……仁義君も、この間は本当にありがとう。おかげで3人で福岡から帰ってくることが出来たよ」
福岡から戻ってきてから、仁義とこうやってゆっくり話をするのは久しぶりだった。政宗からの謝辞に、仁義はどこか照れくさそうな表情になる。
「僕は正直、これといったことはしていないんですけど……協力者の一人になれて、嬉しかったです。里穂もすごく張り切っていましたし」
「そういえば、結局、統治をどうやって説得したのか教えてくれない? あと、みんな、いつの間に結託してたの? 俺、本当に何も聞いてなかったから、福岡空港で驚きすぎたんだけど」
政宗の言葉に、仁義は「結託というか……」と、言葉を選びつつ、
「本当にいつの間にか、人が集まっていた印象です。伊達先生と茂庭さんが主導してくれたので、僕は言われた日時にここへ来ただけというか……透名さんはどうだったんですか?」
「私ですか? 私は……伊達先生を通じて茂庭さんから連絡があったんです。統治さんの交通手段と宿泊先の手配に、実家も利用している医療者向けの福利厚生を使ってほしいと頼まれました。あの日取りは連休だったこともあって、直前にまとめて予約を取ることが難しかったそうで……」
櫻子から裏話を聞いた政宗が「そういうことだったんですか!!」と驚いた声を上げた。統治に関する手配が聖人や万吏ではなく、櫻子になっていたことにも、正当な理由があったとは。
「そういう方法があるんですね……でも、それを統治でも利用出来るなんて、とても利用者の幅が広いんですね」
刹那、櫻子はピクリと両肩を震わせた後、ちょっとぎこちない笑みを顔に貼り付ける。
「そ、そうですね。だから、決済が全て私の名義になってしまったんですけど……お役に立ててよかったです」
素直に感嘆する政宗へ、「統治を婚約者にして身内も同然という理論を成立させて強制的にねじ込んだ」とは言えず……櫻子は静かにカップの中身をすすった。
すると、口の中の菓子を飲み込んだ仁義が「あの……」と口を開く。
「その……山本さんはこれからも、仙台で勤務が出来るようになったんですよね?」
「え? ああ。それは勿論。ちょっと色々と手違いやトラブルがあって、心配させちゃったけど……もう大丈夫だよ」
「それは良かったです。里穂に伝えてもいいですか?」
「勿論。自信を持って伝えてくれていいからね」
こう言って政宗が胸を張ると、仁義が安心した様子で「分かりました」と頷いた。すると、櫻子が「そうだ、佐藤さん」と何かを思い出したように口を開く。
「ユカちゃんのサイズに丁度いい冬服が出てきたので、ご迷惑でなければ改めてお持ちしたいのですけど……佐藤さん、ご都合はいかがでしょうか?」
「え? あ……俺の都合ですか? えーっと……」
ユカではなく、あえて政宗の都合を確認する櫻子に、彼女がコチラ側の事情を――ユカの引っ越しが近いことを把握していることを悟り、思わず目を泳がせてしまった。当然、まだ何も知らない仁義は、櫻子がどうして政宗に尋ねるのか分からないので、眼鏡の奥に疑問符を浮かべつつ、自分がどこまで踏み込んでいいのかも分からないので、何も言えずにいる。
この人は……櫻子の思惑を悟った政宗は、観念したように肩をすくめ、隣で困惑する仁義へと向き直った。
「仁義君、これも別に隠すことじゃないから誰に言ってくれてもいいんだけど……月末、その、俺の、部屋に……ケッカが、引っ越してくることに、なりまして……」
改めて第三者の前で口に出すと、何となく気恥ずかしくなって……語尾が弱々しくなり、視線が泳ぎまくっているけれど。
この場で、政宗の口から事実を言わせるため、櫻子はあえて回りくどい尋ね方をしたのだ。里穂のようにグイグイ尋ねない仁義を、蔑ろにしないようにするために。
そんな政宗からの告白を受けた仁義は、緑色の瞳を見開いて何度となく頷いた後……。
「そ、そうなん、ですね……お、おめでとう、ございます?」
「あ、ありがとう……ございます……あ、あの、スイマセン透名さん、その話、どこから……」
「ユカちゃんからお聞きしました。統治さんじゃないですよ?」
「そ、そうですか……」
ユカ本人から聞いたのであれば、もう、腹をくくるしか無い。政宗はカップに残っていた抹茶ラテを飲み干すと、大きくため息をついた。そして。
「俺はこれから……どんな心境で生きていけばいいのかと……」
両手で顔を覆って肩を落とす政宗に、仁義が苦笑いでフォローを入れる。
「政宗さん、そんな大げさな……」
刹那、顔を上げた政宗が、仁義へ盛大に八つ当たりをし始めた。
「いやだって、俺の片思いその他諸々を全て知った上でケッカは転がり込んでくるんだよ!? しかもまだ絶賛片思い中だよ!? そんな相手とひとつ屋根の下でどうしろと!? 俺にどんな心持ちで生きていけと!? そうだ仁義君、どうすればいいと思う!?」
「へっ!? どう、って……特別に何もしなくていいのでは……? 普通に接するのが一番だと思いますけど……」
「それが出来れば苦労しないんだよ……!!」
「出来ないんですか……」
再び顔を覆ってしまった政宗に、仁義がちょっと呆れた様子で顔を引きつらせていると、櫻子が「まぁまぁ」と慌てて割って入る。
「ユカちゃんからお電話を頂いてお話を伺った時は、私も少し驚いてしまったんですけど……ユカちゃん、こう言っていたんです。『こんな自分なんかを好きになってくれた人のことを、ちゃんと知りたいんだ』って」
「え……?」
櫻子の言葉を聞いた政宗が、顔を覆っていた両手を静かにずらした。そして、恐る恐る櫻子を見やる。櫻子はそんな政宗に頷いて、右手の人差し指を立てた。
「ユカちゃんは今の佐藤さんのことを了承した上で、決めたんです。じゃあ、佐藤さんがやることはたった1つ、そうですよね柳井さん?」
「へっ!?」
刹那、仁義はビクリと肩を震わせた後、とりあえずこの流れを崩さないように同意するしかない。
「そー……そう、ですね。やることは1つです。です」
ぶっちゃけ何なのか分からないけれど、頷くことが正解だということは分かった。そんな仁義の反応を見た政宗が、すがるような思いで櫻子に教えを請う。
「た、たった1つですか!? 教えてください、俺は何を――!!」
「そんなの決まってますっ!! ユカちゃんに正々堂々とアプローチして、両思いになるんですっ!!」
政宗さんはそれが出来ないから10年間くすぶっているのでは。
優しい仁義は言いかけた言葉を抹茶オレと一緒に飲み込みながら、櫻子の言葉にとりあえず頷いた。
一方の政宗は、
「そ、それが出来ないから10年間くすぶっているんですが……」
とても正直に自分の現状を口に出す。自分で言っちゃダメですよ政宗さんというツッコミは、ひよこサブレと一緒に噛み砕いた。
要するに余計な口を挟まず、事の成り行きを見守る仁義。そんな彼の隣に座っている櫻子は、正面で自信を喪失している政宗へ向けて、朗々と言葉を続ける。
「少なくとも今のユカちゃんは、佐藤さんに対してマイナスのイメージではないと思うんです。それに、ユカちゃん自身の言葉からも、彼女自身に対する自信のなさというか……自尊心の弱さのようなものを感じました。まずは、そこを攻めましょう」
「と、いいますと?」
食い入るように櫻子の話へ耳を傾ける政宗の姿を横目に見ながら……仁義もまた、櫻子のアドバイスになるほどと頷いてしまう。職業柄なのか天性の才能なのか、はたまたその両方なのか。櫻子の言葉には、不思議と耳を傾けてしまう説得力があった。
そう、今の彼らが始めるべきこと、それは――
そんなこんなで仁義が『仙台支局』を後にしたのは、18時を10分ほど過ぎた頃だった。学校帰りや仕事終わりでごった返す仙台駅構内をすり抜けて、駅の東口を目指す。そして。
「――あ、ジン!! こっちっすー!!」
仙台駅東口にある某大型電器店の入り口で待っていた制服姿の名倉里穂が、仁義の姿に気付いて片手を上げた。今日はこれから、仁義が使う電子辞書を一緒に見繕う約束をしていたのだ。彼は小走りで彼女に近づくと、いつもの調子で里穂を見下ろす。里穂もまた、視線を合わせるために彼を見上げて……。
「……ジン、何か楽しいことでもあったっすか? 顔がニヤニヤしてるっすよ?」
「え!? か、隠してたつもりだったんだけど……里穂、相変わらず鋭いね」
「それくらい分かるっすよ。で、何があったっすか?」
楽しいことを独り占めするな、と、言外で訴える彼女に、仁義はしばし思案した後……。
「里穂に……やっと会えたから、嬉しくって」
仁義はこう言って、照れくさそうに笑う。里穂は一瞬、面食らったように軽く目を見開くと……すぐに満面の笑みになり。
「それは私も同じっすよ。ジンに会えるーって思って、嬉しくて、部活が終わってから急いで来たっす」
「里穂……」
「でも……それだけじゃないっすよね?」
それはそれ、これはこれ。
私は誤魔化されないという強い意志に、仁義は苦笑いで両手を上げるしか無い。
「だから鋭いんだって……後でちゃんと話すよ。ほら、とりあえず買い物付き合って」
「了解っす」
それでいい、と言わんばかりに笑顔で頷く里穂に、仁義は破顔して肩をすくめた後、自身の左手を出した。その手を迷いなく握る里穂は、満足そうな表情を浮かべている。
一瞬……政宗は成功しただろうか、そもそも実行出来ただろうかと彼のことを案じつつ……頭を振って、店の中へと足を踏み入れた。
今は、2人の時間を楽しもう。
一方その頃。
仕事終わりの統治は、櫻子が運転する車の助手席に乗っていた。出先からユカと共に戻ったところで『仙台支局』へ顔を出していた櫻子や仁義と鉢合わせになり、今日は仕事も終わりだから櫻子に送ってもらえばいいという政宗の提案を受けた結果である。
わざわざ送ってもらうなんて申し訳ないからと固辞しようとした統治だが、ユカ以外の3人から謎の圧を感じ……気付いたときには頷いていた。この場からさっさと出て行けということなのだろう、多分きっと。
仙台市内は帰宅ラッシュで混み合っており、信号ごとに止まっている。運転中にどこまで話しかけていいのか分からず、カーラジオへ耳を傾けていた統治へ、櫻子がサイドブレーキを引きながら話しかけた。
「統治さんはお引越しの日、お手伝いなさるんですか?」
「引っ越し……ああ、山本のことか? その日は丁度、実家の用事があって手伝うことが出来ないんだ」
「そうだったんですね。やっぱり……気になりますか?」
チラリと彼の横顔を見ると、統治は前方を見つめたまま、「ああ」と静かに頷く。
「気になることは気になるが……山本も佐藤と何とかすると言っていたから、問題ないとは思う。あの2人も子どもじゃないんだ。きっと……引っ越しのゴミは分別して規定日に出すだろう。あの部屋がすぐに足の踏み場もなくなる、ということにはならないと信じたい」
「統治さん、お気持ちは分かりますけどそこじゃないです……」
苦笑いを浮かべた櫻子は、今日、政宗や仁義と話をしたことを軽く説明して。
「……と、いうことを佐藤さんにお伝えしたんです。まずはレベル1ということで」
「それは……」
櫻子の話を聞いた統治は、真顔で前方を向いたまま……正直な感想を口にする。
「それは……佐藤にとって、レベル10ぐらいだと思うんだが……」
「え……?」
刹那、信号が青になり、車列が動き始めた。
同じくその頃。
統治と櫻子、仁義を見送った政宗とユカは、戻ってきた瑞希と事務所内の片付け・施錠をして、仙台駅へ向かった。そして、電車に乗ると、同じ最寄り駅で降りる。
「おなかすいたー……」
先に改札を抜けたユカは、独り言ちって家の中の冷蔵庫を思い返し……あることを思い出した。そして、後に続く政宗を見やり。
「あのさ政宗、時間がある時でいいけんが、ちょっと今の部屋に来てくれん? ポストの暗証番号をリセットせんといかんっちゃけど、説明書の入っとるファイル一式が高いところにあって……」
「分かった。じゃあ……今からでもいいか?」
「本当? 助かるー」
こう言って安心したように笑う彼女と連れ立って、普段とは反対方向へ一緒に歩く。
日が落ちて薄暗い歩道を、街灯と、周囲の家の明かりが、ぼんやりと映し出していた。
「そういえば政宗、櫻子さんにお金とか渡せた?」
「ああ。ちゃんと精算出来た。これで福岡行きも一段落、ってところだな」
「そうやね。お仕事お疲れ様でした、佐藤支局長。疲れとるのにこっちまで付き合ってくれて、ありがとね」
見上げる彼女が少しだけわざとらしい口調と共に、口元へいたずらっぽい笑みを浮かべる。政宗はそんな彼女を見下ろした後……櫻子からの言葉を思い出し、口元を引き締めた。
物事には全て、タイミングがある。
そして今がそのタイミングだと思う。
分かっている、そんなことは分かっているけれど……。
「政宗?」
思っていた反応ではなかったので、今度はユカが訝しげに首を傾げる。
あの時、櫻子はこう言った。
「今のユカちゃんだから一緒にいたいこと、今、一緒にいられる時間が楽しいことを……まずはちゃんと、ユカちゃん本人に伝えてあげてください。あまり饒舌になってしまうと要点がボケてしまうので、シンプルに伝えてみてくださいね」
まずは。
まずはここから。
まずは……一緒にいたいと、シンプルに伝えることから始める。
一緒にいたいと、シンプルに。
……レベルが、高くないか?
すっかりうっかり言葉を見失って無言になる政宗へ、ユカはますます目を細めて。
「政宗、さっきからどげんしたと? 眉間のシワがすごいっちゃけど……」
「へぁっ!? あー……いや、まぁ……」
うろたえる政宗の態度が、ユカを益々疑わせてしまう。
「言いたいことがあるならちゃんと言わんね。隠し事はせんって言ったやろ?」
「それは……」
さぁ、と、視線で訴えるユカに、政宗は視線を大空へ泳がせつつ……息を吐いて、言葉を続けた。
「……だ、ダンボール、買ったほうがいいのか、買うならどのサイズなのか、そういえばケッカの部屋で空箱をみたような、気がする、けど……ど、どうしたもの、かと……考えてて、さ……ほら、あんまり増えるとゴミ出しとか……大変だろ? ちゃんと片付けないと、統治に白い目で見られそうだし……」
「あぁ確かに。今回、自分たちで用意せんといかんもんね。確か、福岡からの荷物を運んだ時に使ったやつが、まだ……」
そう言ってユカは視線をそらすと、自身の部屋に残るダンボールの数を思い出し始める。
政宗はそんな彼女の帽子を見下ろしながら……自分のレベルの低さを痛感し、乾いた笑いを浮かべるのだった。
櫻子はそろそろ、政宗の恋愛偏差値が底辺であることを察してあげてほしいなぁと思いました。
こんな面倒な大人に挟まれても立ち回れる柳井君本当にありがとう。君をイケメンにすることが私の生きがいです。
そして佐藤支局長。君は……部屋の片付けから頑張ろう!! ヘタレはしょうがないからせめて部屋は清潔にしておこう!!
こんな感じで……今後も面倒な大人たちを仁義と一緒に見守っていただければ幸いです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。政宗、仁義、櫻子、誕生日おめでとー!!
そしてリアルタイムだと心愛と佐倉さん、お誕生日おめでとう!! めでたいな!!




