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エンコサイヨウ・外伝集  作者: 霧原菜穂
10/121

ユカ政短編集:くらす/言いまつがい/あなたとの今、そして未来

 ブログや知人に渡したものなどの小ネタを集めました。

 カップリング要素強めですが、恋愛色は薄いです。なんてこった。


 登場キャラクター:ユカ・政宗・統治・華蓮

【くらす】


「まーさーむーねー!!」

 とある月始めの昼下がり、顔面に心からの怒りを貼り付けたユカが、ドスドスと響く大きな足音を従えて、自席でスマホをいじっている政宗の元へ怒鳴り込んできた。

 イヤホンをつけて作業していた統治も片耳を外し、何事かとことのなりゆきを見守る。

 スマホから顔を上げた政宗は、ゆでタコのようになっているユカを、キョトンとした表情で見上げた。

「どうしたんだケッカ、そんな怖い顔して」

「どうしたんだ、じゃなかよ!! ちょっと、今日は給料日やろ!? どうしてあたしの口座にお金が振り込まれとらんと!?」

 刹那、政宗は「ハハッ」とバカにしたような笑いを浮かべると、閉じていたノートパソコンを起動させた。

「全く何かと思えば……一体何を言っているのかね山本くん。俺は仕事が出来る支局長なんだぜ、部下への給料処理なんて基礎的なこと、忘れるわけがな…………あ。」


 操作をしていた政宗の手が止まる。

 そして……満面の笑みでユカを見やり、


「……支局長の電子決済忘れてた。テヘペロ★」


「テヘペロ★……じゃなか!! お金は!? あたしが働いた対価はどげんなっとると!?」

「ちょ、ちょっと待ってくれよケッカ、今、今すぐこの場で作業するから……!!」

 慌ててパソコンを操作する政宗。ちなみに統治は別に気にならないらしく、イヤホンを耳に戻して作業を再開している。

「よし、これで……っと。終わったぞ。明日には振り込まれてる。いやー申し訳ない、金が必要なら貸すぞ? 大丈夫か?」

 そう言ってユカを見上げると、彼女はブンブンと首を横に振った。

「べっ、別にお金には困っとらんけどっ!! ったく……政宗はたまにこういうありえんミスをやらかすっちゃけん……今度同じことがあったら、『くらす』けんね!!」


 刹那、ユカを見つめる政宗が、目を大きく見開く。


「ケッカ……今、なんて言った?」

「はぁ? だから、今度同じことがあったら『くらす』って言いよるやんね」

 釈然としない表情のユカに、政宗は恐る恐る……その真意を問いただす。

「いやだから、暮らすって……まさか俺と一緒にってことか!?」

 政宗から超頑張って尋ねた次の瞬間、ユカが顔を真赤にして更に声を張り上げた。

「はぁっ!? なんば訳わからんことばいいよっとね、って……あああなるほど、そういうことか……」

 次の瞬間、現状を理解したユカが大きな溜息をひとつ。そして……その可愛い顔に満面の笑みを浮かべ、1人でドキドキしている支局長に真実を告げる。

「あのね政宗、『くらす』っていうのは福岡地方の方言で、『げんこつでぶん殴る』っていう意味なんよ」

「え?」

 ちなみに『ぼてくりこかす』になると、『ボコボコに殴って倒す』という意味になる。コッチを使わなかったのは、ユカなりの優しさだ。

 

「だから、次に同じことがあったら……くらすぞコラっ☆」


 口調は可愛く、でも、右手拳を握りしめ、目がちっとも笑っていないユカに……政宗は一言、「ゴメンナサイ……」と謝罪することしか出来なかった。


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【言いまつがい】


「あ、そういえば政宗『様』は……」


 ユカがスマートフォンを見ながら何気なく呟いた一言に、夕暮れ時の『東日本良縁協会仙台支局』にいた他3名――政宗、統治、華蓮――が、何事かと身構えた。

「――っ!?」

 そして、口に出した本人も、自分が何を言ってしまったのか気がついた瞬間……目を見開き、耳まで赤くして必死の言い訳を始める。

「うわぁぁぁ間違えた!! ちがっ……違うと!! 違うと!! 今、ほんの今までレナとメールしよって、麻里子様(福岡の女帝)の話になったけんが、それでっ……!!」

 刹那、隣に座っている華蓮が、眼鏡越しの横目で冷めた眼差しを向けた。

「山本さん、何を変なことを言っているんですか。今はご友人とのメールじゃなくて仕事してください」

「しっ、仕事してるし!! 情報共有も大事な仕事の1つで……ってちょっと統治!! ノートパソコンの画面で顔隠しても、肩が震えとるけん笑っとるのバレバレやけんね!!」

 彼女の正面の席で、珍しく笑いの海に撃沈していた統治が、何とか顔をあげると……緩みきった頬と上がりきった口角を何とかいつもの場所に戻しつつ、ユカをフォローする。

「大丈夫だ山本、俺はいつも心愛から『お兄様』と呼ばれているぞ」

「ちょっと何言ってるか分からんよ!? とりあえずフォローありがとう実際全然フォローになっとらんけど!!」

 ユカがお礼だかそうじゃないんだか分からない言葉を投げやりに言い放った次の瞬間……うっかり、視界の端に、『彼』の姿を捉えてしまった。


 自分の席に座ったまま、それはもう嬉しそうな、欲しかった玩具を好きなだけ買ってもらえた子どものような表情をした政宗が、腕組みをしてユカを見つめている姿を。


「ま、まま政宗、さっきのは言い間違いやけんね!! かっ、勘違いせんでよ、普段からそげん思っとるわけないし、麻里子様の癖でついついうっかり言い間違えただけで――!!」

「安心してくれ、ケッカ。俺もそこまで思い上がっていないさ」

「政宗……政宗?」

 彼の言葉に一瞬安堵しかけたユカだったが、彼が一切表情を変えないことに、不安しか募らない。

 政宗は満面の笑みで、こう、言葉を続けた。

「仮にも就業中にやるべきことを放っておいて直属の上司を言い間違えるほど友達とのメールに勤しんでいたことを咎めるつもりはない、その代わりケッカには余裕があるのだと判断して、書類の締め切りを1時間短縮、あと15分後にしておくからな。あと、さっきのネタで今後一ヶ月はいじり倒すから、覚悟しておけよー♪」

「うわぁぁ政宗の鬼ー!! 悪魔ー!! なまはげー!!」

「だったら、ここにいる政宗『様』にお願いしてみたらどうだー?」

「ぐぬぬ……!!」

 悔しがるユカの横で、華蓮は1人溜息をつき、政宗を睨んだ。

 ユカのスケジュールが前倒しになるということは、その書類を受け取って誤字脱字のチェックをしたり、関係書類と一緒に名杙本家へ提出する様式の作成(全て華蓮の仕事)も、前倒しされるということなのだから。

「……私の仕事まで、勝手に前倒しにしないでもらえますか? 政宗『様』」


 結局、前倒しになった分の仕事は、政宗が請け負うということで話がつき……華蓮は定時でバイトをあがり、いつも通りの時間に家路へつくのだった。

 今日のことは後で、聖人への報告書に記載しておこう……と、胸に秘めて。


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【あなたとの今、そして未来】

※このエピソードは、時間軸としては第1幕エピローグ(http://ncode.syosetu.com/n7211cv/47/)の続きとなっております。



 その日――『東日本良縁協会仙台支局』の関係者全員でお花見をしている土曜日の夕方――ライトアップされた明かりが目立ち始める、桜満開お花見客全開の榴岡公園内で、ユカは……。

「……あれ」

 トイレから、元いた場所まで戻れなくなっていた。

 元々ココは初めて訪れた公園だし、花見の場所へ行くときは政宗や心愛と一緒だった。それに、最初よりも人が増えている公園内はごった返しており、ユカの小さな体では、酒臭い大人の間をすり抜けるのがやっとである。

 そんな思いで人混みを抜け出してみれば……あら、ここはどこかしら。

「携帯電話……ダメだ、置いてきとる……」

 トイレに落としたら大変だと思って、荷物と一緒に置いてきてしまったのだ。

 とりあえず周囲を見渡して……人の流れから少し離れた場所に、ちょっとした空間を見つけた。とりあえずそこまで移動して大きく溜息をつく。桜の木を背景にしたこの場所は、見上げると満開の桜が視界一杯に広がった。近くに大きなゴミ箱などがあることも影響して、ここでお花見をする人はいない。春とはいえ夜に近づくと空気は冷たくなり、先程まで騒がしかった分だけ……寒さが、改めて身にしみてきた。

 さて……どうするべ。

「とりあえずは公園の出入り口まで戻ってから、来た時のことをもう一度思い出して……」

 自分で言いかけた言葉を飲み込み、ユカは再度、大きな溜息をつく。

「……あたし、ちゃんと思い出せるやか。そもそも出入り口ってどっちなんやろ……無理やん、コレ、絶対無理やん……」

 あーあ、と、独り言ちってから……改めて、頭上に広がる桜の花を見上げた。

 福岡は桜の開花が早いため、ユカは今年2度目の花見だった。品種としては同じ花を見ているはずなのに、どこか印象が違うのは、きっと――


「――ケッカ?」


 後ろから唐突に呼ばれて振り返ると、人混みをかき分けてきた政宗がユカに近づいてきて……。

「あ。」

「ぐわっ!?」

 刹那、アルコール成分のおかげで千鳥足だった政宗の足が絡まり、ただの重たい肉塊となって、ユカに容赦なく降り注ぐ。

 慌ててユカが後方に回避&政宗も咄嗟に手をついたので顔面強打をすることもなく、結果としては転んだ彼を見下ろす幼女の図が出来上がっただけなのだが……。

「ま、政宗……? 大丈夫……?」

「……」

 彼は腕立て伏せのような体勢のまま、顔も上げず、起き上がる様子もない。異常を察したユカが、恐る恐る彼に近づいて……。

「――ハッハッハ驚いたか!!」

「ふはっ!?」

 次の瞬間、腕の力だけで豪快に体を起こし、大地を踏みしめた政宗が、心配して手を差し伸べたユカをドヤ顔で見下ろした。

「ん? どうしたんだケッカ、驚きが少ないぞ?」

 そして、ジト目で自分を見上げる彼女に、真顔で首をかしげる。

 ユカは当然ながら悟っていた。今、目の前にいる彼は……お酒の力で、全てを愉快で楽しく感じる人種に成り下がっていることに。

「な、何というか……もう、言葉が見つからんっていうか、あーもこいつせからしかーっていうか……」

「せからし? 背が高くなりたいのか?」

「違うけど……ってそうじゃなか、政宗は、こげなところで何しよると?」

「トイレに行った帰り道を見失ったんだ」

「……」

 自分と同じ境遇だったことに、最早脱力する力さえない。

「政宗、携帯電話は持っとらんと?」

「携帯? あるぞーあるに決まってるだろー、支局長様の必須アイテムだぞーん……」

 そう言って上着やズボンのポケットをまさぐった彼は……蔑んだ目で見上げるユカに、精一杯の声でこう言った。

「テヘペロ☆」

「それはあたしの専売特許やけんね!!」

 これだけは譲れないと声高に叫ぶユカを、政宗がフッと、いつもより優しい眼差しで見下ろして。

「……ま、結果的に良かったよ。ケッカと2人になれたんだから」

「全然良くなかよ……あたしはこの状況に不安しかないっちゃけど……」

「安心してくれ、ここだって公園内だ。流れに逆らわずにぐるぐる回っていればいつか戻れるだろうな。多分きっと」

「対処法が雑すぎてやっぱり不安しかないんやけど……って政宗、人の話聞いとる!?」

 注意力散漫な政宗は、既にユカの話など聞いちゃいない。いつの間にかユカの隣をすり抜けて、目の前にある桜の木を見上げていた。

「ちょっと、政宗ってば!!」

「桜を見てると、春になったーって気分になるよなー」

 そう言う彼の瞳が、『あの頃』のようにキラキラと輝いていたから。

 何となくユカも隣に並び立ち、改めて、その木を見上げた。

 時折吹く、春特有の強風。その風に煽られ、枝から離れた花弁が……ひらひらと舞い散っていく、どこか儚くて、幻想的な景色。

「なあ、ケッカ」

「ん?」

「お前……やっぱ凄いな」

「は?」

 彼の方を向いて、間の抜けた声を出した瞬間……数日前の出来事が、鮮明にフラッシュバックした。

 確か、このやり取り……福岡の居酒屋でもやらなかったか?

 危機感を抱くユカを隣に放置して、桜の木を見上げたまま、政宗は言葉を続ける。

「俺や名杙家が2週間かけても、解決の糸口だって掴めなかった問題だったのに……ケッカが来てからスピード解決だろ。やっぱ凄いよ、うん」

「あのー、その話は福岡でも聞いたっちゃけど……また聞かないかんと?」

 前回はこの話が終わるまでに、1時間以上かかってしまった。今回は煽る人種(前回の場合は、麻里子を筆頭とする『福岡支局』の面子)がいないにせよ、酔っぱらいの独り言は長い。今の政宗はいい感じに酔いが回っている気配なので、このまま独壇場にしてしまうと、厄介なことになるだろう。

 危機感を抱いて思わず身構えるユカだったが、それから数分が経過しても、話の続きは始まらない。

 隙間風が、2人の間をすり抜けていく。

「……政宗?」

 恐る恐る上を見上げようとしたユカの頭に、政宗が、自分の右手をのせた。


挿絵(By みてみん)


 普段ならば軽く触れる程度なのかもしれないが……酔っ払って力加減がバカになっているため、いつもより力が強い。帽子を上から押さえつけられているような状態になり、咄嗟に、ユカが顔をしかめる。

「ちょっ……いきなりなんばすっとね!!」

「いや、風で帽子が飛ばないようにと思ってだな」

「今日は大丈夫やけんが……って言いよるとに何で離してくれんと!?」

「いや、ケッカってやっぱちっちゃいな―と思ってだな」

「大きなお世話だー!!」

 地団駄を踏むユカの頭からようやく手を離した政宗は、一度息をついて……帽子をつばを上げて自分を見上げる彼女に、目を細めた。

「ま、これからも宜しく頼むよ。俺は、これからもケッカや統治が認めてくれれば……それで十分だから」

 そう言ってユカを見下ろす彼が、普段よりずっと、子どもみたいに見えたから。

 ユカは少しズレた帽子を調整し、肩の力を抜いて、こう、返答する。

「……うん。これからも一緒に頑張ろうね」

 そう言ったユカの頭上で、桜が大きく風になびき……無数の花弁が、笑顔の2人を包み込んだ。

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