4話 トラックの給油口の有効的な使い方
「お兄ちゃん、おしっこしたくなってきた」
「ええっ!?」
異世界に飛ばされ小一時間が経過した。
おれの知っているなろう小説では、一時間もすればイベントの一つや二つは起きているもの。
でもおれと真穂ちゃんはずっと雑談をしているだけ。
何も起きない。
後ろの大型トラックも、ドアが開かないのでは寝床にさえならないただの鉄くずだ。
蹴りでも入れてやろうか?
食料はもうないし、水も限られている。
まだ日はあるのに酷く冷えるので、夜になったらもっと寒くなるだろう。
このまま助けを待つだけではダメだ。と思い、ダメ元で人里を探しに行こう!
と思ったのだが、そのタイミングで真穂ちゃんがおしっこしたいと言い出した。
「ええ……我慢できない?」
「できないです。おしっこの我慢はよくないです。膀胱炎になる危険性があります」
「今は膀胱炎以上に心配すべきことが沢山あるけどね!」
異世界に飛ばされ、何も起きず時間だけが過ぎていく恐怖。
真穂ちゃんという陽気な話し相手がいなかったら今頃おれは発狂していたかもしれない。
「お兄ちゃん……おしっこ。おしっこ漏れる」
「トイレはないし、どうしよう……」
野しょんべんさせるか? 幼女に? 女の子に!?
もしそんなことしたら、おれは幼女を誘拐してパンツを下ろさせ、放尿を強制した変態になってしまう! いや、違うけどね! 全然違うけどね! でも結果を見るとそうなっちゃうのが悲しい世の中なんだよ!
「も、もう無理……漏れそう」
「我慢! 解決策考えるからもう少し我慢して!」
「お兄ちゃんの苗字だけに『がまん』ってことですか?」
「確かにおれの苗字は『我満』だけども! って真穂ちゃんこんな冗談言える程度には、まだおしっこまでの猶予あるんだね!?」
「ないです……マジでダムが決壊します」
「決壊とかそういう表現を小学生がすると、妙なアバンジュールを感じるよ!」
いや、よく考えたら全然感じないよ!
「お兄ちゃんになら……飲まれても、いいよ?」
「何言ってるの!?」
「さっきお茶くれたじゃないですか。そのお返しです」
「自分で何言ってるか分かってるの真穂ちゃん!?」
「資源は大切にですよ」
「その原理だと、もしうんこだったら――って、なに言わせんだ!」
やべぇ。おれも相当パニクっているようだ。
どうしよう……携帯トイレなんて持ってないし、おむつも同様に持ってない。
何か手はないものか……。
おれは悩み、ふっと――後ろの大型トラックに目をやった。
そしてぐるりと一周する。
「あった……」
「何が……あったんですか……?」
そろそろ本当に限界なようで、内股で顔色も青い真穂ちゃんが訪ねる。
おれが探していたのはガソリンの給油口だった。
パコ――と外れ、中からほんのりガソリンの匂いが漂う。
今この場にある穴と言えば、これしかない。
「お、お兄ちゃん……ま、まさか……」
「そのまさかだよ……真穂ちゃん」
「……背に腹は代えられませんね」
……。
…………。
「あっ……出るっ! 出ちゃうっ!」
じょろじょろじょろじょろ。
その日真穂ちゃんは、小学校の同級生より一足早く大人の階段を登った――