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1話を これ小説家になろうで飽きるほど読んだわ

 コンビニの自動ドアをくぐると、11月という季節の刺すような北風に煽られる。

 学校帰り、小腹が空いたのでコンビニで軽い飯を買い、食べながら家に帰ろうと思った。

 月末で軽くなった財布をカバンにしまい、温かいビニール袋を下げながら家に帰る。


 下校途中であろう小学生を眺めながら、コンビニで買った肉まんを食べる。

 小学生は女の子も男の子も可愛いから、見ていて和む。

 でも近年、小学生の犯罪意識は向上しているため、声でもかけようものなら防犯ブザーを鳴らされお巡りさんのお世話になってしまうだろう。

 それにおれロリコンじゃないし。もちろんショタコンでもない。

 17歳で前科持ちになる訳にはいかないので、眺めるだけである。


 眺めるだけ……。


 おれも小学生の頃は、「怪しい人がいるかもしれないので、出来るだけお友達と一緒に帰るようにしましょうね」と先生に言われたが、友達のいないおれはいつも一人で帰ってたよ……。


 友達というのは、コミュ力のあるやつはいくらでも作れるのだが、コミュ力のないやつはどんなに頑張っても出来ない。そしておれは後者である。

 この世に生を受けてもう17年になるが、友達と呼べる者は未だツイッターにしかいない。

 故におれは、今日も今日とて、「小学生眺めながら肉まんなう」と呟くのだ。


 肉まんを食べ終わり、今度はあんまんを食べようと、ビニール袋に手を入れようとしたその時――


「っ!?」


 ――女の子がいきなり車道に飛び出した!


 しかも、運悪く車道には大型トラックが法定速度ギリギリの速さで少女に向かって突っ込んできた。距離は20メートルほど。トラックは減速する素振りを見せない。


「危ないって……!」


 おれは気付くと、反射的に体を動かしていた。いや、動いていた。

 車道に飛び込み、小さな少女の背中を押す。

 その瞬間、おれはトラックに轢かれた――



 ――はずなのだが……。


「ん、おれ……生きてるぞ」


 目を開けると、そこは天国ではなかった。

 荒野にいた。

 コンクリートジャングルで育ったおれにとって、見渡す限り何もない荒野は新鮮だった。


 何より、さっきトラックに轢かれたのに生きているのが疑問だ。

 混乱する。

 一度落ち着くため、深呼吸。

 胸に手を当てると、心臓の鼓動を感じ取れる。生きている。

 着ている物を確かめると、2年以上着続けた高校の学ラン。

 背中には、手提げバックをリュックサックのように背負った通学カバン。

 そして左手にはさっきコンビニで買ったビニール袋。


 何だよ、女の子が死にそうっていうのにちゃっかりコンビニの袋は離さなかったのな……。


「で、ここどこ?」


 トラックに轢かれた瞬間、別の場所に飛ばされた。

 考えられる可能性は一つ。


 異世界転移である。

 今最も熱い小説投稿サイト、『小説家になろう』で見たことある!

 これ進研ゼミで見た! ってやつだ。

 そんな既視感に襲われる。


 トラックに轢かれそうな少女を助けて死んだ主人公が異世界へ行き、チート能力で無双したり、モテモテになってハーレムを築いたりするあれだ。

 ということは、ここは異世界ということになるな。


 そうと決まれば、早速おれもチーレムするぜ!

 チーレムとは、チート能力とハーレム展開を合体し略したもの。


「まずは手始めに魔法を使ってみるか」


 おれは小説で読んだ内容を思いだし、右手を前に突き出す。


「でろ! ファイヤーボール!」


 ……。

 …………。

 ……………………。


 何もでない。

 よかった、周りに誰もいなくて。

 もし誰かいたら羞恥で死んでいた。

 何がファイヤーボールだよ、恥ずかしい。


「ねぇ、お兄ちゃん何してるの?」


 その時、学ランの袖をくいくい、と引かれた。

 下を見ると、そこには小学生くらいの幼女がいて、可哀想なものを見るような目をされた。


 ……見られたぁ。くっ、殺せ!

 誰もいないと思ってたのにぃ!


「えっと、君は……?」


 恥ずかしくて死んでしまいそうだったが、大丈夫、この子はまだ子供。

 幼女と言っても差し支えないレベルだ。

 だからおれが「ファイヤーボール!」と叫んでいても何のことか分からないだろう。多分。


 そしてこの幼女、どこかで見た気がする。

 思い出した。おれがさっき助けた小学生だ。

 ここにおれと一緒にいる、ということはつまり……。


「お兄ちゃん……ここ、どこ?」


 幼女と一緒に異世界に飛んでしまったおれ。

 つまり幼女もトラックに轢かれて一度死んでしまったという訳だ。

 小説の主人公のように車に轢かれそうな幼女を助ける、なんて恰好いい真似は、おれには出来なかったようで……。

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