表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆行する星々【外伝(3)】  作者: イプシロン
第2章 暴動の中で――得るもの、失うもの
16/51

第16話 接舷――ドッキング

 <ケイローン>号と<アイレース>号のあいだを飛びかった電波は、険悪になることもあったが、ようやく同意という波長にたどり着こうとしていた。<ケイローン>の船長にしても、エヴシンにしても、抜き差しならない理由があることを知っていた。緊急事態における生存。それを考えれば、出てくる答えは必然的でもあったのだ。

「そろそろモニターの送信範囲だ。アチエーツ、ケイローンとの交信を開いてくれ」

「かしこまりました。同型艦モードにて各回線接続。――接続確認しました」

「本当に君とフェデリコの二人だけでなんとかなるのかい?」

「やってみせますよ。それに俺たち二人じゃありませんよ。アチエーツっていう頼もしい存在がいますぜ」

 操舵席に座ったオズウェルは、船長席にいるエヴシンに親指を立てて見せた。

 セラフィーナとエヴシンは、こわばった笑顔を互いの表情の中で読みあっていた。

「こちらケイローン、通信担当のフェデリコだ。聞えるか? モニターはどうだ?」

 艦橋前部にあるスクリーンを覆っているノイズが薄らいで、懐かしい顔が見えてきた。

「おいおい、ちょっとばかり太ったんじゃないか? リコ」

「ばかを言うな、こちとら肩身の狭い思いをしていたんだ。ぬかすなよ」

 屈託のないやりとりが、ここしばらく船内に漂い続けていた、灰色の靄を吹き飛ばすような笑いがおきた。

「おれの可愛いリンジーの姿が見えないのは気のせいか?」

「何を言ってやがる。彼女は誰のものでもないぜ」

「まあそういうな、少しくらいカッコをつけさせてくれよ。ケイローンの連中はいい奴らだが、冗談が通じねえんだ」

 <ケイローン>号の艦橋を捉えているスクリーンに映る人びとが、笑っていた。

「そうでもなさそうじゃないか。有意義な休暇だったように見えるが」

「さあな。だが土産話はあるぞ。けどそいつはドッキングをすませてからだ」

 姉妹艦<ケイローン>号の後方から、<アイレース>号がゆっくりと近づいていた。

「あのお、そろそろ準備をして頂きたいのですが」

 アチエーツが割ってはいった。

「了解だ」

 音波と電波になった二人の声が同時に聞こえた。

「こっちはひたすら軌道を変えずに周回軌道を描く。やることは単純だ。ミスはしない」

 先にランデブーモードに戻ったのはフェデリコだった。

「けど今回は半マニュアルだ。こっちがミスったら少しはサポできそうか?」

「厳しいな。月の引力の影響があるからな。下手に動くと衝突しかねない。できればサポなしで願いたい」

「了解だ」

 <アイレース>号は時折りプラズマエンジンを発火して、姉妹艦との距離をつめていた。

 アチエーツの寡黙な操作だった。

「V軸接近を開始する」

 オズウェルはそう言うと、スロットルを開けた。

「短時間ですませる。一気にいくからな」

 床が振動して、<アイレース>号が猛然と加速していることが足元から伝わってきた。

「臨界相対速度まで、あと10秒」

 アチエーツの声が続く。

「8秒、7秒、6秒――」

「減速にうつる!」

 オズウェルが開いたスロットルを絞り、逆噴射の位置へと動かした。

 それまで続いていたものとは違う種類の振動が、足元から這い上がってくる。

「相対速度減少。50、30、20、10――」

「逆噴射解除」

 オズウェルの額に玉のように汗が噴き出している。

「8、5、3、1、――」

 アチエーツが相対速度を読む声はしだいに間隔が長くなっていった。

「V軸接近さえ間違わなければ、あとは古典的な操作だけだ」

 額の汗を袖口で拭きながら、オズウェルが言った。

「0.1、0.05――」

「ドッキング機構、一番、二番、三番とも伸長。両性具有(アストロジナス)モードに変更。与圧開始10秒前。そっちはどうだ、リコ?」

「問題ない。与圧結合アダプタはこっちもアストロジナスに入れてある。すべて順調だ」

「0.01、0.005――」

「アチエーツ、R軸接近に移れそうか?」

「相対速度がマイナスになりしだいどうぞ。少しばかり姿勢の変更が必要ですが、それはこちらでやります」

「了解だ」

 間断のない秒読みが続く。

「0、-0.003、-0.005。姿勢制御エンジン点火します」

 一秒にも満たない時間、<アイレース>号の各部で、プラズマエンジンが透明な火を噴いた。

「相対速度、固定完了!」

 緊張しきった艦橋の氷のような空気が、少しだけ溶け出すのがわかった。

 <ケイローン>号と<アイレース>号は並んで航行していた。その下方には流れ去ってゆく月面が見えた。

「これよりR軸接近を開始する。ドッキング機構、軸合わせ開始」

「了解。――だめだな。もう少し高度を下げないと無理そうだ」

 と、フェデリコ。

「少々ミスったんだ。加速がきつすぎて、つんのめったらしい。アチエーツここは任せるよ。やってくれ」

「かしこまりました」

 <アイレース>号の上部にあるプラズマエンジンが瞬いた。

「ようし、いいぞ。さすがは人格コンピューターだ。ばっちりだ。ドッキング機構、軸合わせオーケーだ」

「ちったあ俺のことも褒めろよ。あれだけの加速でほぼドンピシャなんて奇跡みたいなもんだぞ」

「ああ、わかってる。だがそれは後だ、ハグはドッキングしてからの楽しみにしておけ」

「それじゃ、R軸接近、はじめるぞ。アチエーツ、舷側ノズル角度を確認してくれ」

「かしこまりました。――とくに異状はありません。いけますよ」

 ふたたび、オズウェルの額に汗が滲みはじめた。

「それじゃーいく。左舷ノズル噴射。今回も一気にいくぞ!」

 オズウェルはスロットルとは別のレバーを操作して、すぐに元の位置に戻した。

 数秒間、<アイレース>号の側面から炎が噴き出し、姉妹艦の間隔が急速に狭まっていく。

「相対距離減少、100、80、60、40――」

「右舷ノズル噴射!」

 ふたたびオズウェルの手が素早く動く。

「30、25、20、15――」

「ロボットアーム展開。――まずいな、間に合うか!?」

 ドッキング機構にある折りたたまれたアームがくの字になり、やがて一直線になっていく。

「ギリギリだな。なんとか間に合いそうだ」

「アチエーツ、最後の修正は任せるぞ」

「かしこまりました」

 プラズマの見えない火が船体の各部で炸裂し、接舷のためにきめ細かい姿勢制御が行われた。

 アチエーツはケイローン号のドッキング機構が放っているレーザーをキャッチして、正確に軸線を合わせてゆく。

 ほとんど慣性航行に移っている艦内には、何の振動も揺れもなかった。六つのアストロジナスドッキング機構の間隔がゆっくり狭まり、ロボットアームが動き、手と手を取りあったかとおもうと、ドッキング機構が次々に接触した。

 軽快な揺れが床から伝わってきたが、それに不安を抱いたものは一人もいなかった。

「ドッキング完了です。蒸気循環システム起動しました。各部システム連結を確認。ドッキングベイ開放します」

 アチエーツの声が万事上手くいったことを伝えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ