第13話 それぞれの航海
月の周回軌道上を、二隻の宇宙船が航行していた。十四人の乗員は地球や月からの、また出所不明の電波を選別し、状況を判断する仕事に忙殺されていた。とはいえ、そうした混乱から離れた場所にいる乗員もいた。リンジーによって救出された少年と少女がそうだった。
「どちらにしても、一度ケイローンと接舷する必要があるだろう」
エヴシンの顔は、不眠不休のために、落葉のように黄ばんでいた。
「リンはあの子たちにまだ付きっきりかい?」
「ええそうよ。仕方ないわ。あたしが彼女の立場なら、同じことをしているはずよ。確かに治療は母さんにしかできないような難しさだから、彼女がいて何かに役立つのかというあなたの考えは理解できるわ。でも、これは気持ちの問題なのよ」
「ああ、わかってる、わかってる。そう噛みつかないでくれ。頭に響くんだ」
と、エヴシンはいくつも抱え込んだ頭痛とその痛みがあることを訴えた。
「月基地の暴動はUNFEの介入でどうにか鎮圧されたようだが、セレーネはまだ予断を許しそうもない。そう焦る必要もないでしょう」
と、レックス。
「問題はケイローンへ、データ交換にいったままのフェデリコをどうするかだろ。どちらにしろ乗員が揃わなければ、アイレースは何もできないに等しいからな」
「レックスの言うことはもっともだ。けどその余裕がないって現状が船長の顔色を悪くしてるってことじゃないか? 人格コンピューターの問題ってことだろ?」
と言ったあと、オズウェルは状況を噛みしめるようにして先を続けた。
「環境学術型のマーチは、二人の子供の治療でてんてこまい。調査技術型の父さんは、今のところお手すきだが、一応は航法を制御してくれている。ところが、ドッキングには二台のコンピューターがどうしたって必要だ。だから今すぐってわけにはいかない。現状はそんなところでしょ、船長?」
「オジー、もう少し彼らを人間的に扱えないの? 堅苦しく呼ぶことないじゃない。マーチ、アチエーツ、そう呼べないものなの?」
「すまん、すまん。そういうつもりはなかったんだ。俺の脳みそはどうも機械的でね。技術屋気質が抜けないんだ。悪気はない。勘弁してくれ」
「ならいいんだけど」
アイレース号に乗船以来、オズウェルだけがマーチとアチエーツを人間的に扱わないことを、セラフィーナは不愉快に思っていた。
「それはそうと、こういうのはどう? マーチがいそがしいなら、わたしたちが彼女の代わりをすればいいんじゃない?」
「半分マニュアル操作でドッキングするってことかい?」
レックスが面白がっている表情でセラフィーナへと顔を向けた。
「俺は賛成に一票だ」
「オジー、相変らず決断が早いのね。あたしはもちろん賛成。レックは賛成っぽいけど――」
と彼女が視線をあわせると、レックスは肯いてみせた。
「エヴ、あなたの意見は?」
「ここまで賛成派に囲まれて、無鉄砲なことを言うつもりはないよ。どちらにしても、ドッキングはしなきゃならないことだしね。あの子供たちの問題もある」
「そのこと、リンジーにはもう――」
「いや、まだだ。どうにも話しづらくてね」
エヴシンは胃をしめあげられるような痛みを感じていた。充血した眼の濁りが強まったように見えた。
「エヴ、あなたは少し休んだほうがいいわ」
「俺もそう思うよ、船長。ドッキングの件は大丈夫だ。技術屋の意地にかけたってやってみせますよ」
「リンジーにも少し休んでもらったほうがいいわね」
セラフィーナは、エヴシンの表情を伺いながら言った。
「そっちは僕がやろう。といってもマーチ任せで、傍にいることしかできないだろうけどね」
「助かるわ、レック。――で、いいの? なにか他にある?」
「いや、大丈夫だ。君らに任せるよ。すこし休ませてもらう。ドッキングはあす以降、少なくとも二十四時間以降としよう。今決められるのはそこまでかな」
それからの丸一日、乗員はそれぞれ自分らしさの波をけたてて航海した。<ケイローン>号も<アイレース>号もそうであり。病室で横になった少年と少女もまたそうであった。




